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『夏も恋する乙女ですし 』
フィオナ・アルマイヤーja9370


1.
 右よし。左よし。もう一度右よし。
 見知った顔がいないことを確認し、隠れていた建物の陰から一直線に目指す扉に駆け込む。もしかしたら、鬼道忍軍でも通じるかもという速さで素早く移動終了。目的地に辿り着いた。
 ここは久遠ヶ原学園を離れた某都市にある、女の子に人気のブランドショップがたくさん入ったビルである。
 フィオナ・アルマイヤー(ja9370)はホッと一息つくと、ようやくいつもの冷静さを取り戻す。
「買い物に来ただけ‥‥買い物に来ただけです」
 呪文のようにそう呟いて、フィオナは颯爽と歩き出す。
 今日の目的は『買い物』。しかし、ただの買い物ではなく『デート用の勝負服を買う』ことが目的である。
 家柄のせいか、はたまたフィオナの真面目な性格のせいか。今まで真っ当なデートなどの経験などなく、デートの服など思いもつかない。。
 久遠ヶ原の商店街で友人に見立ててもらう‥‥ということも頭をよぎったが『相手は?』などと訊かれたら答えられない。否、恥ずかしすぎて口に出せない!
 ‥‥という感じで悩んだ結果、斡旋所の待合に置いてあった女性向け雑誌や学友が読んでいた雑誌をこそっと研究してこのビルに来るに至ったのである。
 まさに乙女の執念である。

 さて、そんなファッションブランドのたくさん入ったビルの中は当然たくさんの女性でにぎわう。しかしながら女性の隣に男性が‥‥というカップルも多数いる。
 そんなカップルの女性の姿をじーっとフィオナは見つめる。
 ふんわりお嬢系、パンク系、カジュアル系‥‥皆それぞれにバラバラのスタイルではあるが、隣の男性とのバランスを見るとなるほどと思わせるコーディネートをしている。
 となると‥‥フィオナは脳裏に彼を思い浮かべる。
 スーツというか執事服というのかしら? 黒っぽいすらりとした姿で、清潔な感じで、にこやかで、それでいて情熱的な‥‥。
 そこまで思い出して、フィオナは顔を赤くして立ち止まる。
 ダメ、今はそれを思い出している場合じゃない。彼の隣に相応しい服を考える時なの!
 そうは思っても一度頭に浮かんでしまったことは、早々振り払えるものではない。
 私を呼ぶ低い声も、私に触れた細い指も、柔らかな唇も‥‥。
「か、買い物に来ただけです!」
 煩悩退散! 冷静になるのよ、フィオナ!
 呪文を唱えて息を整えると、フィオナは改めてビルの中を歩き始めた。


2.
 夏物のバーゲンと秋の新作が入り混じる店頭を見て回る。
 チェック柄の夏らしいブラウスや、空色のニットカーディガン。ディスプレイに飾られたそれらを眺めると「こういうのもありなのですね」と勉強になる。
 しかし、どうもデートの勝負服という自らの課題の及第点に及ばない。
「何が足りないのでしょうか?」
 悩むフィオナの後ろから「キャー!」と黄色い声が上がった。振り向くと、若い女の子2人が何やら服を眺めながらガールズトークに花を咲かせている。聞く気がなくても、その声は店の中いっぱいに響くような声で話している為自然と聞こえてしまった。
「見て、これスゴクない!? 今からでもプールに誘うのアリ? 色気で悩殺ってヤツ!?」
「プールだけじゃダメッしょ。ミニスカートとノースリーブのコンボで健康的お色気もプラスで行こう」
「小麦色の肌と水着の日焼け跡‥‥おぬし、なかなかのワルよのぅ!」
 きゃはっと笑う女の子たちは、お会計へと2人仲良く歩いて行った。
「‥‥?」
 ちらっと横目で女の子たちを見送って、そそっと女の子たちのいたコーナーへと移動する。
「水着‥‥」
 カラフルで可愛い物からシンプルで大人っぽい物まで幅広いラインナップだ。ひとつ青い水着を何気なく手に取る。
 水着全体が『V』の字のようなそれを見たフィオナはまじまじとそれを眺めた後で「っ!!!」声にならない声と共にそれを元の場所に戻す。
「アレを‥‥着る人がいるの?」
 色んなところが見えそうなその水着を自分が着たと仮定して想像する。
 ‥‥無理だ。ムリムリムリムリ!
 ぶんぶんと首を横に振る。長い髪ごと青いリボンも揺れる。急いで他の可愛らしい水着を手に取ってみる。こっちの方がいい。絶対いい。
「‥‥」
 でも、さっきの女の子たちが言っていたことがふと頭に甦る。

『色気で悩殺』
 こ、これぐらいはもしかして普通なのだろうか?
 今どきの女の子は、これぐらいやらないとダメだろうか?
 いやいや、もしかして誘ってると思われたり‥‥それはちょっと嫌かもしれない。
 けど、まったく色気がないというのもおかしな話だし、女の子としての身だしなみをしていないと思われるのも‥‥!?

 ぷしゅ〜‥‥。
 頭の中のヒューズが飛んだ気がした。
 冷静になろう。そうだ。冷静に。
 フィオナは水着コーナーを一度撤退することにした。


3.
「ノースリーブは‥‥あ、ありました」
 なぜか頭の中は先ほどの女の子の言っていたキーワード『ノースリーブ』になってしまっていた。
 マネキンに着せられた真っ白なノースリーブのワンピースが目に入る。足元に青と白のサンダルも置いてある。
 少々スカート丈が短いような気もするが、これぐらいなら何とか恥ずかしくない‥‥かもしれない。
 試着してみようか。
 そう思って、試着室に入ってみる。服を脱いで、ワンピースに袖を通す。後ろはV字になっていて、白い紐で飾り付けられている。
 着てみると、思ったほど悪くない。‥‥若干足がスースーするけれど。
 試着室の鏡の前でひらひらとスカートのすそを持って回ってみる。軽くなびくスカートも悪くない。
 これを買っていこうか。
 そう思って後姿を鏡で見たフィオナは驚愕した!
「見えてる!?」
 先ほど見たV字部分からフィオナの肌や下着がばっちり見えている。思わずフィオナは座り込む。
 これは、下着を着てはダメな服?! まさかそんな!
 また女の子たちの言葉が甦る。

『小麦色の肌と水着の日焼け跡』
 た、確かにこれなら水着跡もくっきりわかるだろう。
 けれど、背中なのよ? 私から見えないところなのよ?
 ‥‥でも、前にドレス姿ですでに見られているような気も‥‥。
 いやいやいや。アレは非日常的な場面で、そもそもドレスはある程度出すこと前提の服だし。
 わざわざ『見てください!』なんてそんな‥‥大胆なこと‥‥。

 否定と肯定が入り混じる脳内。
 先ほど飛んだヒューズの代わりに、今度はブレーカーまでも落ちそうだ。
「すいませーん。試着室まだですかー?」
 その声でハッと我に返る。どうやら試着室を次の誰かが待っている。
「は、はい! 今出ます!」
 慌てて服を脱ぎ、着替えると次のお客に一礼して試着室を出る。
 どうしよう‥‥どうしよう‥‥。
 冷静にと思えば思う程、思考は訳の分からないドツボにハマって目の前がぐるぐるする。頭の中で交響曲第5番・運命が大音量でなっている気がする。
 どこかを見たら答えがあるだろうか? 誰かに訊けば正解がわかるだろうか?
 違う。私が決めなきゃ。彼の隣に相応しい私でいるために決断しなきゃ。
 どうする? どうするの? フィオナ!


4.
「ありがとうございました〜!」
 フラフラとフィオナは紙袋を持って店の外に出た。
 買ってしまったことに少なからずまだ疑問は残っているが、それでも冷静さが戻ってきて少しだけ生きた心地がした。
「間違ってないです。私の選択は正しかった‥‥」
 ぎゅっと紙袋を抱きしめて、フィオナは歩き出す。夏の暑い風が冷房で冷えた体と脳に休息を与える。
 蝉の声がわっと空気を圧迫するように鳴いている。夏はまだ終わっていない。まだ時間はある。
 彼に会えたら誘ってみよう。いつも誘われてばかりだから、ビックリするだろうか?
 そうだといいな。違う私も見てもらえたらな嬉しいな。
 夏は少しだけ強気になれる季節だから。

 白いノースリーブのワンピースとサンダルで彼と歩く。
 夏の砂浜で青いV字のセクシー水着を着たフィオナを見ることができるのも、そう遠い話ではない‥‥のかもしれない。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 ja9370 / フィオナ・アルマイヤー / 女 / 23 / 阿修羅


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 フィオナ・アルマイヤー 様

 こんにちは、三咲都李です。
 この度はアクアPCノベルご依頼いただきましてありがとうございます。
 思考暴走系、楽しく書かせていただきました!
 少しでもお楽しみいただけたらな幸いです。
アクアPCパーティノベル -
三咲 都李 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2014年08月29日

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