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『―毒アリ退治― 』
藤田・あやこ7061)&鍵屋・智子(NPCA031)

 特命を受け、高高度を飛翔する航空事象艇『クロノサーフ』。コックピットに座するのは工作員の藤田あやこである。
「全く、艦長自らが赴く事になろうとはな。しかしこの件、他の者では……うおっ!?」
 突如、黒煙を吐きながら高度を下げるクロノサーフのコックピットには、エマージェンシーコールが鳴り響く。この高度で飛翔する飛行物体を攻撃できる者は限られて来るが、操縦桿を握るあやこには既に、それが何者なのか見当がついていた。
「やはり邪魔が入ったか。まぁ、此処までは想定の範囲内……兎に角コイツを出来るだけ無害な場所に降ろさねば」
 既にコントロールの殆どを失った航空事象艇を、それでも何とか操って少しでも市街地から離れた場所に降ろさねば……そう呟きながらスラスターを吹かす。コンソールに向かうあやこの表情は、真剣そのものだった。

 さて、処変わって此方は某学園の離れ、所謂クラブハウスと呼ばれる建物……と云えば聞こえは良いが、要するに校舎から離されて造られたボロ小屋である。そこに屯するのは、それぞれ体格も顔立ちも違うが皆が皆同じ表情をした、不気味な男たちの集団。そう、普段はモニターの前で背を丸め、壁に貼られた等身大ポスターを嫁と称する類の人種……そう、ヲタクと呼ばれる類の者である。彼らが群れを成し、その中心にある一段高い台の上に立つ少女をまるで神のように崇めながら乱痴気騒ぎをしているのだ。傍から見た不気味さは計り知れないものがある。
(……おい、誰かこの女を追い出せよ)
(俺は嫌だぞ、睨まれたら何をされるか分かったもんじゃない)
 ……前言撤回。乱痴気騒ぎではなく、壇上の少女……鍵屋智子が『我を讃えよ』という趣旨の宴を、彼らが絶対的カリスマ性を持つ者に逆らえないという習性を利用して毎日のように開いていたのだ。無論、各々の趣味に没頭し、他者の趣味に介入しない事をモットーとする彼らが自然と集って出来たサークルにそのようなカリスマは要らない。つまり、女が何故このサークルに出入りするようになったのか、彼らはそれを計りかねてオロオロしつつも追い出せないでいる……こういう状況であったのだ。
「うふふふふ……この、誰も私に逆らえないこの空間! この中では私が女王なのよ……うふふふふふ……」
 このメンヘラ娘が! と、恐らくそこにいる全員が思った事であろう。しかし、この連中にそこまで言わしめる事は容易らしからざる事を、そこに居る全員が知っていたに違いない。そう、彼女を除いては。

「あーあ、もう飛べないわねコレ。帰りは誰かに迎えに来て貰わなきゃ」
 パンパンと埃を払いながら、墜落した機体から一人の女性が降りて来る。事故機はこれでもかと云うほどボロボロ……と云うか粉微塵に近い状態なのに、乗っていた彼女は何と『無傷』なのであった。流石にエルフの末裔と云ったところだが、例え人外であっても無傷はあり得ないだろう……と云うのが正直なところだ。やはり彼女の頑強さが人並み外れているとしか言いようがない。
「降りた場所が良かったわね、情報ではあの敷地内に『幼生体の女郎蟻を埋め込まれた女』が居る筈。でも、この格好での侵入は流石に……クスッ、無ければ調達すればいいのよね」
 彼女はクロノサーフの墜落によって起こった爆音と煙に驚いて寄って来た野次馬の中に、ターゲットが居ると思われる学校の生徒と思われる女子の集団を発見した。
「!! ちょ、こっちに近付いて来るよ?」
「早く逃げた方が良いんじゃ……」
 女生徒たちは既に逃げる算段を始めていた。然もありなん、相手はあれだけの大事故を起こしていながら無傷で歩いている女だ。怖がるなと云う方が無理である。が、彼女たちが離脱するよりも、怪女……もとい、あやこがその中の一人を捕獲する方が早かった。
「怖がらないで、私は怪しい者じゃないんだから」
「……無理です」
 当然のリアクションだろう。いや、例えそこに居たのが屈強な男性であっても同じ答えを弾き出したに違いない。
「何も難しい事を求めようと云うのではない、その服を脱いで欲しい」
「……ますます無理です」
 得体の知れぬ怪女だけであっても怖いのに、交渉の内容が『服を寄越せ』である。怪女の上に痴女か、と女生徒は更に顔面を蒼白に染めた。が、あやこは尚もにこやかに迫って来る。その無言の迫力に逆らえるほど、その女生徒は強い精神力を持ってはいなかった。
「さて、準備は整った。任務を続行しなくてはね」
 ……何事も無かったかのように、あやこは鍵屋智子の元へと向かって行った。尚、彼女たちの着替えを覗き見る不届きな男性は皆無であった。何故ならあやこがセーラー服と引き換えに自らの衣服を手渡そうとして襟元を緩めた時、一人の男性が生唾を呑み込む音を聞いて、優しい笑顔で微笑んだ次の瞬間……その男の腕がありえない方向に曲がったのを全員が目撃した所為である。

「貴女……誰よ?」
「誰でも良いじゃない、楽しそうだから混ぜて貰おうと思っただけよ」
 一瞬、ザワッと沸き立つヲタクたち。また厄介なのが増えるのか? と云う懸念と、救世主かも? と藁にも縋るかのような一抹の希望が入り混じった、複雑な気持ち。だが次の瞬間、彼らはとんでもない物を見る事になる。
「帰りなさいよ……此処は私のシモベたちが私に跪く場所! 誰にも邪魔はさせないんだから!!」
 雄叫びと共に、飛び出す蟻の本体。憑代となった智子の体はその外郭に包まれ、すっかり姿を消してしまった。まるでSFX
のワンシーンを見ているかのようであった。
「な、何が起こってるんだ!?」
「し、知らないよ!」
「おーっと、怖がる事は無いよ君達。ここに居るのは只のアリンコだよ、今はね。けど、放っておいたら卵を産んでワンサと増えるよ、だから今のうちにやっつけちゃおうよ!」
 何とも言えない、不思議な魅力であった。その一声だけでヲタクどもは勇気づけられ、全員が一丸となって女郎蟻を取り押さえた。
「ちょ……あ、アンタ達! 私を誰だと……」
「煩い、アリンコ! よくも今まで僕達を!!」
 鰯の群れも数を成して天敵を倒す事がある。今の彼らがまさにその状態だったのだろう。数に圧され、無力化した女郎蟻をあやこが捕えるのに、そう時間は掛からなかった。
「さて、と。悪いけどこの身体からは出て行って貰うよ。憑代ごと吹き飛ばしちゃう訳にいかないからね」
「そうはいくか……ぐああぁぁぁぁぁ!!」
「ほら、中の人も嫌がってるよ? 出てった方が良いと思うけどなぁ」
 智子、まさかの意識回復。普通、身体を乗っ取られている時は目覚めないのが常識だ。が、卓越した彼女の頭脳は人波を遥かに超え、内側から女郎蟻をコントロールしてしまったのである。まさに非常識、信じられない程の自己顕示欲である。かくして女郎蟻は智子の体から分離したところを総がかりで袋叩きにされ、見事粉砕されていた。

「あんなのに取りつかれてたのは不覚だった、けど結局は私の意思でアレを追い出したんだからね!」
「ハイハイ……分かったからもう女王様面するのは止めなさいな。迷惑だって分かったでしょ?」
「クッ……アンタ達なんか、誰かに罵られてるのがお似合いなんだから!」
 智子、精一杯の反撃。だが効果は無いようだった。以来、ヲタクサークルは平和を取り戻し、元通りの不気味さで誰をも近付ける事は無かったという。

<了>
PCシチュエーションノベル(シングル) -
県 裕樹 クリエイターズルームへ
東京怪談
2014年08月29日

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