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『まつり屋台の暴れんぼう 』
影山・狐雀jb2742)&焔・楓ja7214


 夏の夜。
 どこからともなく聞こえる祭囃子に人々のざわめき。
「はい、かき氷いかが? イチゴにメロンにブルーハワイ。色も綺麗だよっ」
「寄っといで寄っといで。とうもろこしが焼けたよ〜」
「はい、一等賞おめでとー」
 通りの両側に並んだ屋台から呼び込みの声。
「お母さん、あれほしい〜」
「あら、お隣さんこんばんは」
「バナナ美味しかった〜」
「これこれ。皮を捨ててはいけません」
 浴衣を着て回遊したり輪になって話したりする人々。袋雀に結んだ帯に髪を纏め上げうなじをさらした浴衣女性。からころ下駄を鳴らしては心地良さそうに歩き小粋に団扇を扇ぐ甚平男性。
 そんな夏祭りの中に、紺色の浴衣を着た銀狐耳と天使の翼、ふわふわ尻尾の後ろ姿があった。
「わふ、お祭り楽しいですー。たい焼きもいっぱいありますしー」
 楽しそうにきょろと周りを見た横顔は、影山・狐雀(jb2742)。たい焼きの袋を抱えて満足そうだ。
 現在、撃退士として夏祭りの警……。
「ねー、楽しいよね」
 元気いっぱいの少女がたたたと狐雀の横に寄ってくる。短い黒髪に赤い大きな瞳の少女は、焔・楓(ja7214)。こちらは水色の浴衣が瑞々しい。
 やっぱり彼女も撃退士として夏祭りの警備……。
「あれを見るのだ。あのたい焼き屋台、なんか変わってるのだ!」
 楓、警備そっちのけで屋台を指差している。
「たい焼きはもういっぱい……はう?」
 狐雀、もういいですーな感じだったが変わってるという言葉に反応し楓の指差すほうを見る。
「……わふ、たい焼き握り……」
「ねー。変わってるのだー」
 何と、屋台では焼きたてのたい焼きを刺身包丁で斜めに薄くさばいて、一口大の酢飯と一緒に握って出しているではないか!
「おっちゃん、サビ抜きで」
「はいよ!」
 しかも客とのやり取りを聞くとワサビも入ってるとか。
 まじまじと狐雀が見ていると楓が聞いてきた。
「あれって、たい焼きに対するぼーとくなのだ?」
「わふ……」
「はわっ。釣られて引き寄せられてるのだっ!」
 狐雀がふらふらと屋台の方に行くのを止める楓。
 結局。
「美味しいですー」
「美味しいのだー」
 二人ともベンチに並んで座ってたい焼き握りをほお張っていたり。あんこの甘さを抑え気味にしているらしく、それなりに味は整えているらしい。
「それにしても、今回は遊びながら依頼料入るから楽しいのだ♪」
「楽しいのですー」
 笑顔の楓。狐雀もすっかりご機嫌。リラックスしまくってこんなだが、撃退士としての使命は忘れてないらしい。ほっぺにあんこと酢飯の粒がついているが、それはそれ。
 その時だった。



「きゃーーーーっ!」
 どこからともなく絹を裂くような女性の悲鳴が響いてきた。
「はえ? 何か悲鳴が…事件でしょうかー!?」
 立ち上がり狐耳をぴくりとさせる狐雀。
「あや、確かに何か聞こえたのだ!」
 楓も立ち上がり悲鳴のしたほうを見る。
 が、二人とも背が低い。
 ぴょんぴょん跳ねるが人ごみで何があったのかまったく見えない。
「行ってみるのですー」
「行ってみるのだ!」
 二人向き合って頷き合うとざわめく方へと走った。
 そこでは。
「はははは、お前のパンツは我ら『浴衣に下着ダメ、ゼッタイ!』団が頂いたっ!」
 そこには、「伝統」と書かれた白い覆面を被った男が鷲掴みにした赤いショーツを高々と掲げているではないか。地面には膝を崩してよよよと泣き崩れる浴衣女性。どうやら覆面男の持っている赤いショーツはこの娘がはいていたらしい。
「って、何か変な人がいるのだー」
「な……楽しいお祭りにあんな変態さんが!?」
 流石に愕然と立ち尽くす楓と狐雀。いくらなんでも非常識なのだーとか非常識ですーとか言わんばかり。
 愕然とする二人の目の前で惨劇はさらに進む!
「他に下着を着けてる浴衣女性はいねが〜」
 すぐさま次の獲物を探す『浴衣に下着ダメ、ゼッタイ!』団の男。なぜかややなまはげ風。
 それはそれとして、なぜ誰も捕まえようとはしないのだろう?
「ちょっと、アンタ男でしょ? あの変態を捕まえなさいよ」
「無理だって。あの早業は人間業じゃねーよ。人間だったら撃退士でないと……」
 そんなことを言うカップルがいる。結局逃げるが。
「ひいい、やっつけて〜」
「無茶言うな。下手にかかわってあの下着を俺の懐に入れられてみろ。同罪扱いされて逮捕されるわぁ」
 こちらのカップルではそんな会話。男の危機管理意識は素晴らしいがそれはそれ。こちらも逃げる。
 つまり、かかわらないほうがいいのだ!
「それより、一人なのに何で団を名乗ってるんだろう?」
「つーより、下着ダメなだけなら剥ぎ取った下着を大切に懐にしまう必要ないんじゃないか? あれじゃただの下着マニアじゃないか」
 とかいう野次馬からの突っ込みもある。とりあえず、男性は傍観できる状況のようで。
 しかし、かかわらなくてはいけない者がいる。傍観できない者がいる。
「うー、許さないですよ!」
「許さないのだー」
 これが使命だ、狐雀と楓。
 小さな体で人波をすり抜け回りこみ、覆面男の前に敢然と立ち塞がった!
 が、覆面男は覆面の下で何かに怒っているぞ?
 びしり、と二人を指差している。
「おい、お前ら。浴衣着て下着のラインは出てないだろうな? ちょっと後ろ向いてみろ!」
「わふ?」
 狐雀、妙に素直なところがある。
 変態に言われたとおり振り向き、隣の楓も同じく素直に振り向いた。パンツのラインがくっきり浮き出てないか上体を捻ってお尻を突き出し確認しようとしてたり。
 それがまたふりふりと色っぽいのだが……。
 刹那!
「ほらみろ、お前らもパンツのラインが浴衣越しに見えてるじゃないか! けしから〜んっ!」
「わひゃ!?」
 楓、前のめりに倒れた。
 背後では変態が白にわんこプリントのパンツを高々と掲げている。楓のはいていたパンツだ。
「しかもお前はミニスカ浴衣でこんなパンツをっ! まったくけしから〜ん!」
 とかいいつつ懐に収める覆面男。
「わひゃ!? うー、何をするのだ! 僕のパンツ返すのだー!」
 すぐに起き上がって爪先立ちしてぷんすかする楓。すーすーするのでミニスカ浴衣の裾を押さえ真っ赤になっている。
「彼女の場合…見えてる時もあるからそうやって取ってしまう方がけしからんですよ……」
 これを見た狐雀、余計なことを言った。確かにさっきまでもミニスカ浴衣の裾がひらひらしてプリントわんこがこんにちはしてて気付いた男の視線を釘付けにしていたが今はそれどころではないっ。
「ええいお前もっ!」
「とにかく許さないですよ……わふ!?」
 くるん、すぽ〜ん。
 ああ、狐雀。
 こちらも前のめりにすってんしてしまった。背後では覆面男が黄色い女性ものっぽいパンツを掲げ勝ち誇っている。
「どうだ、我ら『浴衣に下着ダメ、ゼッタイ!』団の正義の技はっ!」
 まさか、その後にあのような展開が待っているとも知らずにッ!



「はっ!」
 そして覆面男、目を見開いていた。
 固まっている。完全に固まっているッ!
 視線の先には「うー」とかいいつつ四つんばい状態から腰を捻ってこちらに向き直った狐雀。
 その、くるんと回った膝と膝の奥にちらっと見えたモノ。
「はっ!」
 ここで楓、我に返った。
「隙あり! 必殺の踵落とし!」
 叫ぶが刹那、軸となる左足のかかとを上げて爪先立ちになると高々と右足のかかとが一直線に上がった。ミニスカ浴衣の裾がひらりと浮き上がるっ。
「おおおおおおっ!」
 周りを取り巻く人々から歓声が上がる。男性の声が多いからきっと楓のムーブメントの美しさや技の威力への期待だ。いや、きっとそうに違いないっ!
――がすっ!
「へぶっ!」
 変態男、右肩口に食らって前のめりに。あまりの威力に、ぽろっとわんこプリントの白パンツが懐からこぼれた。誰のはいていたパンツかは、伏せる!
「……からの、トンファーキックなのだ!」
 くそう、と上体を上げた敵は、トンファーを持った楓。ひゅん、と最大遠心で反動をつけて一直線に前蹴りが飛んでくる。
「がはっ!」
「ゆ、油断……」
 起き上がった狐雀、腰溜めに構えていた緋の太刀を背側がくるよう持ち替えると……。
「していましたが今度はそちらに隙ありですよー!!」
 すぱーん、と太刀の背で覆面男の足元をかっさばいた。
――どし〜ん。
「やったのだ!」
「ほ、捕縛するのですー」
 変態男、すってんして後頭部を打ち悶絶している。この隙に楓が後ろ手に敵を縛った。
「おおお〜」
 お手柄の二人に周囲から惜しみない拍手が送られた。
 これで祭の平和は守られたのだ。
 この時。
「感謝されると照れるのですよー……ぁ、わきゅぅ!?」
 周囲に照れ照れして足を踏み換えようとした狐雀、ぐにり、と何かを踏んだ感触に嫌な予感が走った。
――ずりっ、どって〜ん!
 ああ。
 捨てられたバナナの皮を踏んでしまい尻餅をついてしまう。
「きゃあぁぁぁぁ〜ん!」
 同時に響く歓声。女性の声が多いぞ?
「痛たた……え、どうしました……ぁ、わふーーー!?」
 ぽんっ、と真っ赤になる狐雀。
「あや……可愛い象さんなのだ」
 何かがぱおーんしていたのかもしれないが、ここでは伏せる。
「お母さん、バナナ美味しかった〜」
「これこれ、皮を捨ててはいけません」
 遠くに過ぎ行く家族連れが、そんな会話をしていたとか。
 もちろん、狐雀は浴衣の裾を押さえて座ったまままだ真っ赤。
 その様子はまるで女の子のようで、覆面男が狐雀を女性と間違えたことだけは同情の余地があるようで。

●おまけ
「これ、女性物なのだ?」
「ち、違うですー」
 覆面男の懐から出てきた黄色いパンツを見た楓が振り返るが、ふるふる首を振る狐雀。どうやら女性物ではないらしい。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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jb2742/影山・狐雀/男/11(小等部6年)/陰陽師(天使)
ja7214/焔・楓/女/10(小等部6年)/ルインズブレイド

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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影山・狐雀 様 & 焔・楓 様

 初めまして、OMCライターの瀬川潮です。
 屋台の並ぶ楽しいお祭での警備依頼。たい焼き好きということで、変わったたい焼きも登場させてみました(味の確認はしてないですが・ぁ)。
 二人が互いをどう呼び合っているのかな、とか気になったのでもしも機会がありましたらお教えくださいませ♪

 この度は小さな二人の頑張る姿のご発注、ありがとうございました。
アクアPCパーティノベル -
瀬川潮 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2014年09月08日

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