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『colorful summer 』
月居 愁也ja6837)&加倉 一臣ja5823)&夜来野 遥久ja6843)&小野友真ja6901

 みずみずしき碧。
 燦然と輝く太陽。

 海。山。砂浜。

 今年も、夏がやってきた。

「やっぱり今年も! みんなで! 夏旅行!」

 張り切った調子で両の拳を空へと突き上げるのは、月居愁也。
「いえーい、今年もいっぱい遊ぶでー!」
 同じく拳を突き上げぴょんぴょんはしゃぐ小野友真の隣では、夜来野遥久が微笑んでいる。
「今年も西橋殿と共に、というのは嬉しいですね」
「うん、僕もみんなと来られて嬉しいよ」
 そう返す西橋旅人はいつもより浮き浮きしているのがはた目にも分かる。そんな旅人に今回は普通の服で来るようにと念を押した加倉一臣が、笑いながら。
「さーて、今年もめいっぱい楽しみますか!」
 夏の陽差しは、不思議なほどに心躍らせる。

 訪れたのはとある南の、小さな島。
 あまり人に知られていないその島は、人工物がほとんど無い変わりに穏やかでゆったりとした時間を満喫できる。
「おお、綺麗なところだな……!」
 船から見える海岸の美しさに、一臣は目を細めた。
 真っ白なビーチに寄せる波は穏やかで、深度に従い翡翠から紺碧へと変化してゆくさまが、ここからでもはっきりとわかる。
 海岸の先には鬱蒼とした森が広がっており、愁也の話によれば小さいながらもキャンプ場が設置されているらしい。
 船着き場に着いたメンバーは、島に降り立つと同時即点呼開始。

「まずは旅人さん!」
「マーキングOK!」

 愁也と友真が最重要項目を抑え、遥久と一臣は地図を手に荷物を運ぶ。
 船から下りた旅人の肩から黒鷹が舞う。見上げる五人の先には、清々しいほどの青空。
「――いい天気だ」
 呟く遥久はあまりの眩さに目を細め。
 雲一つ無い蒼天を、漆黒の翼が横切っていった。



 持参した荷物を借りたコテージへ運んだ五人は、早速海へと繰り出した。
「よし、せっかくだから釣り対決しようぜー!」
「お、いいね。受けて立つぜ!」
 一臣を始め全員一致で賛成。既に水着姿の愁也はモリを片手にやる気満々で宣言する。
「今から二時間の間にどれだけこの島で獲物を捕れるか勝負な!」
 わくわく顔の愁也に旅人がふと。
「そう言えばここ、大物もいるらしいとか……」
「まじで!?」
「あ、でも」
「よっしゃーー早いもの勝ちいいいい」
 止める間もなく愁也は海へと飛び込んでいく。
「……とりあえずあいつは放っておこう」
 遥久の言葉に一臣も苦笑しながら頷きつつ。
「じゃあ俺たちも始めるか。浜で釣るのもいいけど、さっきの船着き場も悪くないな。友真、どっちがいい?」
「船着き場ー! やっぱ堤防とかああいう場所って釣りっぽい感じするし!」
 遥久と旅人も同意したため、四人は揃って船着き場まで移動。
 沖に向けて長く延びたコンクリートには、上からのぞくとオレンジやピンクの色鮮やかなイソギンチャクが張り付いているのが見える。その周辺には多くの魚が泳いでいるのが見え。
「わー魚一杯おるー! ……でも餌付けはよろしくなっ」
 うねうねと蠢くゴカイに友真は昨年の惨事を思い出し、ぶるりと身体を震わせる。
「ん……あれは……?」
 竿の準備をしていた遥久は、海面に妙なものが浮いているのに気が付く。
「……どこかで見たような」
 赤っぽい布の切れ端。何て言うか、去年のデジャヴ。
 そう、あの生地は確か……。

「遥久ああああああ」

 つんざくような悲鳴。それが愁也のものであることは明らかで、全員が声をした方へと視線を向ける。
「え、あれ愁也さん?」
 唖然とする友真の視線先には、砂浜に打ち上げられている人影が。旅人や一臣も慌てて駆け寄り。
「愁也君!」
 見れば水着の至るところが破けてぼろぼろになっている。先ほど遥久が見たのは、この切れ端。
「この歯形なんなん!?」
 半ケツ状態のお尻に大きな歯形がついている。よくみると肩や脇腹にも似たようなものが刻まれていて。
 遥久が半ば答えを予想しつつ問う。
「お前また海中で何と遭遇したんだ」
「遥久……俺、忘れてた。この世には知らない方がいいこともあったと言う事に……!」
 ゆらゆらと揺らめく青の世界。
 そこに現れたのは白くて大きい……。

 そこで愁也の意識は途切れた。

 ※※

 とりあえず見なかった事にしたメンバーは、再び船着き場で釣りを開始。
 遥久のライトヒール(物理)で意識を取り戻した愁也は、前後の記憶が抜け落ちている気がしたがたぶん大丈夫だ問題無い。
(何故か準備していた)予備の水着にとパーカー着替え、竿を構えて沖を見据える。
「よーし、一番遠くに飛ばしてやるぜ、せーの!」
 勢いよく振った拍子に、針がどこかにひっかかったのか前へと飛ばない。それを見た一臣が苦笑しながら後ろを振り返る。
「大きく振りすぎだろ愁也……って」

「あ」

 全員一瞬固まる。
 愁也の竿の遙か先。海上を飛行する瑠璃の瞳が、こちらを見つめている。
「お前達なんでここに……」
「バルシーク公じゃないですかー!」
 唖然とする大天使に向けて、愁也が驚嘆の声をあげる。南の島にはやや不似合いな群青の外套に、白銀の鎧。雷霆と呼ばれし騎士の姿がそこにあった。
「おっちゃん……なんで引っかかったん。マーメイドなん……?」
「いやいや友真、マーメイドは無理ありすぎるしな……?」
「マーメイドってマーライオンの親戚みたいだよね」
 突然の遭遇に謎の会話をする友真、一臣、旅人の隣で遥久は至極冷静に。
「これはいくらなんでも大物過ぎないか、愁也」
 そう言いつつ大天使へと向き合うと、微笑を浮かべる。
「お久しぶりです。こんなところで奇遇ですね」
「まったくだ」
 聞けばこの島にある古い遺跡を見に寄った帰りなのだという。
「成程……では折角ですし、バルシーク公も私どもと御一緒にいかがです?」
「え? いや、私は……」
「あ、いいよね。一緒に釣り対決やりましょうよ!」
 遥久と愁也の提案に、一臣や友真も賛同。
「ここで会ったのも何かのご縁」
「やらな損やで!」
 聞いた大天使は面食らった表情をしていたものの。やがてわずかに苦笑しつつ、船着き場に降り立つと頷いてみせた。
「では、そうするとしよう」
 
 外套と鎧を格納したバルシークは、遥久から釣り対決の説明を受ける。
「釣りをおやりになったことは?」
「いや、無いな」
「無いんかー。バルさん、休みの時なにしてるんです?」
 友真の問いにほんの少し考えつつ。
「あまり休みなど無いからな……任務の合間にゴライアスの酒に付き合ったり、古い遺跡を見に行ったり……とする程度だ」
「リネリアさんとデートするんじゃないんですか?」
 もの凄い単刀直入な愁也の質問に言葉に詰まる。
「む……まあ……そういう時も……」
 釣りのレクチャーをしながらそんなたわいのない話をしていると、ふいに一臣の竿が大きく引き始める。
「お、なんかかかったな」
「オミー君一番乗りだね……ってうわっ僕のも引き始めた!」
 一臣と旅人は二人してリールを巻いていく。
「こいつは結構大物だぜ……!」
 勢いよく獲物を上げようとした瞬間、一臣は海中で何かの影を見た。
 直後、ふいに竿が軽くなる。
「しまった、獲物ごと取られたか」
 釣り糸が途中からぷっつりと切れている。さっき見た影はなんだったのかと思考する間もなく、旅人が無事魚を引き揚げていて。
「お、タビットやったな。シマアジだぜ高級魚!」
「やったな旅人さん!って、うわー俺のも引き始めたー!」
 今度は友真の竿が大きくしなる。
「おお、結構大きそうだぜ……?」
「まじで? 絶対引き揚げたるんや……いくで……せーの!」
 海面から何かが飛び上がる。それは大きく宙を舞い――友真の顔に張り付いた。
「!?」
 ぐにゃりとした感触。
 明らかに魚じゃないそれの正体を、彼は本能で察知する。

 巨大ウミウシだった。

「●※↑@▼↓%☆!!!!!!」
 
 50センチはあろうかという軟体生物。ひらひらの体躯でしっかりと友真の顔を覆ったそれは、艶めかしい感触を肌に伝えてくれる。
「おいいい友真しっかりしろ!」
 気絶した友真を慌てて介抱する一臣の隣では、遥久が至極冷静に獲物を揚げるのに成功していた。
「ちょ、遥久なんでそんな珍種引き当ててんの」
 平べったい独特の体型、何とも言えぬ愛嬌のあるその姿。

 マンボウだった。

「まあ、食べられるしいいだろう」
「もうちょっと驚こうよ!な?」
 現時点で普通の魚を釣ったのは旅人のみ。次々に揚がる珍種にだめな予感しかなかったが、大体予想ついていたので問題ない。
 引き続いて竿が引き始めたのは愁也とバルシーク。
「うわ、俺のやばいくらい引いてる!」
 愁也は渾身の力でリールを巻いていく。バルシークは首を傾げながら。
「とりあえずこれを巻けばいいんだな?」
 見よう見まねで釣り上げたのは、アンコウ。
「おっさんまた随分と高級かつ珍種を……」
「あれじゃないかな、じっと海底に針を沈めてたからとか……」
 一臣と旅人がまじめに議論する中、愁也が奮闘の末ついに獲物を引っ張り上げた。
「来たーーーーっってあるぇええええ」
 愁也の水着(二着目)のお尻部分に噛みついているのは――

 ア オ ザ メ★

「やべえええこのままじゃ尻が喰われる!」
 その鋭い歯で見事なまでに愁也に水着を咥えて離さない。
 無理矢理引き剥がすと見事に水着が破れ、再び半ケツ状態。
「お前……なんでそんなハンター型ばかり当てるんだ」
「ため息ついてないで助けろよ遥久!!」
 愁也が顔を覆う中、一臣がはっとなり。
「やべえ俺だけまだ何も釣ってない。※ よし、今度こそ釣り上げてみせるぜえ……!」※愁也の惨事はスルーされているようだ。
 遥久のライトヒール(物理)で意識を取り戻した友真も、真剣な表情で。
「さっきの不幸な事故は忘れた……忘れた……(自己暗示)。俺だってまだやれる! だって、ヒーローやからな!」

 ※その後の阿鼻叫喚をお楽しみください※

「よっしゃーこれ美味しいやつ! メバルや!」
「おっと、俺のも引いたと思ったらかなり重いな……せーの、よっと!(べちゃ)」
「うわあ、加倉さんタコ墨顔面からかぶってるよ……」
「痛い痛い吸盤が顔に張り付いて痛い色んな意味で心が痛い」
「お前本当にタコが好きだな、加倉」
「というか遥久はなんでアワビとかトラフグとか高いもんばっか獲ってんだよ!」
「ダイオウイカが釣れたんだけど……」
「旅人さんでけえええええ」
「……これは食べられるのだろうか」
「バルさんヒトデは無理な、それ海に戻さなあかんやつ!」
「ぎゃあああつり上げた魚に巻き付かれたああああ」
「それはウツボだ、愁也」
「そういう遥久はウミヘビ釣ってんじゃねえええ」
「すげえ、エイが釣れた!」
「エイ! エイ! 加倉さん尻尾持って見せてよ!」
「こうか……?(ぐさ)って毒針いいいいい」
「なんか黄色くて小さいタコが釣れたんだけど……」
「タビットそれ噛まれたら死ぬやつ! すぐ逃がしなさい! めっ!」

 そしてついに――その時は来た。

「え……一臣さん、なんかこれ変なんやけど……」
 友真の竿が折れそうな程にしなっている。引き揚げようとするにも、リールが全く回らないのだ。
「うわっ……尋常じゃない引きだな。そう言えば、これ俺の最初の獲物を獲ったやつじゃねえかな」
 水中でかなり大きな影を見た。
「これが噂の『ヌシ』じゃね? みんなで引き揚げようぜー!」
 愁也の提案に一臣は何となく嫌な予感を覚え。
「待った愁也、何かヤバイ予感がする。これはリリースすべき……」
「なんでだよ、折角の大物逃がすわけねえじゃん!」
「おい何とかしろ保護者」
 遥久を振り返るも、バルシークと談笑中で話にならない。
「わっ、もうちょっとで上がってきそうだよ……!」
 手伝っていた旅人が海面を指さす。

 ざわ……ざわ……

 海底から影が上がってくる。
 ゆらゆらと揺らめく蒼の中、白くて大きな――


 〜(∈ ^o^)<はぁい久しぶりい♪


 彼らは☆になった。※ただしバルシークと遥久を除く





 釣り対決を終え。
 大体においてひどい状態だったが、釣果自体は珍種、危険種含めてまずまずとなった。
 優勝者は意外にも、二時間のうち5匹を釣り上げた旅人。
「僕が勝つとは思わなかったな……!」
 なお、具体的釣果は末尾資料を参照されたし。
 釣った(食べられる)魚は一臣を筆頭に手分けして調理。シマアジは刺身にし、メバルは煮付け。タコは刺身と天ぷらに分けて調理。ウツボとマンボウは唐揚げにし、アワビは七輪で炙る。
「アンコウはやっぱ鍋だよなあ。夏だけど!」
 というわけで、鍋も準備。残った魚は一夜干しにしつつ、何とも贅沢な食卓である。
「なにこれめっちゃうめえええー!」
 シマアジの刺身を頬張りながら、愁也が感動のあまり思わず叫ぶ。
 釣りたての魚ほど美味しいものはない。身の甘さと食感と。そして鼻に抜ける磯の香りには生臭さ一つ感じられず。
「バルさんコーラと酒とどっちが良いー? 接待しちゃうー」
 友真が差し出した瓶をバルシークは見比べつつ。
「む……では酒をいただこうか。だがその黒い飲み物も面白そうだな」
「コーラ飲んだことないんです? じゃあこれもあげるー!」
「半蔵殿にはこれをどうぞ」
「クェ(かたじけない)」
 いつの間にか帰ってきていた半蔵は、スライスされた魚肉を遥久からもらいぱくぱく。
「昼間はどこへ行かれてたんです?」
「クェクェ(何、その辺をぶらぶら飛んでいただけだ)」
「成程。満喫されたのなら何よりです」
 人と天使(と鳥)と。異文化交流を進めるのはやはり食卓を一緒に囲むことなのかもしれない。

 食後はトランプをしつつ皆で歓談。
 とりとめのない話を酒の肴に、夜はゆっくりとふけていく。
 手にしたトランプを眺めながら、ふと友真は呟いた。
「ミスター……今何してるんやろうなあ」
 旅に出ると別れた悪魔。友真にとって、大事な悪友で親友で恋敵――
(最後は違うな。敵ではないし)
「どうした友真?」
 一臣の問いかけにかぶりを振って「なんでもない」と笑って返す。
「案外さ、ミスターもレックスとトランプやってるかもよ?」
 冗談めいた愁也の言葉に、一臣は真剣な表情で。
「ミスターならポーカーとか得意そうだよな。いや、でも案外神経衰弱が得意だったりして……いやしかし大富豪も捨てがたい……」
「どんだけ真剣に考えてんの、一臣さん」
 生暖かい微笑で突っ込みつつ、友真はクラウンとのあれそれを思い出していた。
「最後まで完全に把握されて遊ばれてたからな……。次は逆に仕掛けたんねん」
 いつか、また。それは必ずあるとごく自然に信じているから。
「はっ! ここは案外ばば抜きかもしれな」
「まだ考えてたんかい!」
 その様子に遥久はバルシークに向けかぶりを振ってみせる。
「少々彼は病気を患っておりまして」
「そ、そうか」
「お前に言われたくねえし遥久!」
「なんのことだ」
「あ、俺の遥久は世界一の男前な」
「愁也さんはもう手遅れやから」
「ちょっと待て、この中に手遅れじゃねえやついんのかよ!」
「あ、このスルメおいしいね」
「旅人さん、マイペース!」

「……あの時なあ」

 ふとそこまで言いかけて、一臣は黙り込む。
「ん、どうしたん? 一臣さん」
「いや、なんでもない」
 先ほどの友真と同じように返しつつ、脳裏には終幕劇の光景が映っていた。
 道化の悪魔にぶつけた想い。
 告げた言葉で浮かべたあの表情は、忘れられそうになくて。
(でも、今は内緒にしておこう)
 思い出にするには、まだ早いから。

 黙って彼らのやりとりを聞いていたバルシークに、突然愁也が切り出す。
「あ、俺バルシーク公とリネリアさんとの馴れ初め知りたい!」
 聞いた大天使の表情が固まる。
「いや、そのような話を聞いても……」
「ああいいですね。私もぜひお聞きしたいです」
 にこにこと微笑を向けてくる遥久に、絶句。
 全員に期待のまなざしを向けられたバルシークは、やがて諦めたのかため息をつき。一旦黙り込んだ後、まるで独り言のように語り出した。
「……最初に出会ったのは、彼女が私の従士になった時だ」
 従士とは騎士見習いであり、騎士天使の元について補佐をしつつ経験を積む存在。
「彼女はとにかく熱心でな……上司である私のために平気で命を投げだすような所があったから、何度も諫めたものだ」
「ああ……確かにそんな感じしたなー……」
 報告書で聞き及んでいるリネリアの性格からすると、容易に想像がつく。友真の言葉に、バルシークは軽く頷き。
「ある時、冥魔との戦闘中私を庇おうとして瀕死の重傷を負ったことがあってな。私のために命を捨てるなと、かなりきつく叱ったのだが……」

 ――私にとってバルシーク様はただの上司じゃないっすよ!

 瞳一杯に涙を浮かべた顔を、今でも覚えている。
「それまで彼女の好意に、気付いていなかったんですか」
 一臣の問いに困ったように。
「薄々勘付いてはいたが……はっきりと知ったのはこの時だ」
 そこでバルシークは苦笑する。
「正直に言えば、迷惑だったのもある」
 自分は騎士で有り、主に命を預けた身だ。家族を持つなど考えた事もないし、いればそれは枷でしかないと思っていたから。
「私はいつ死ぬかわからない。彼女を幸せにしてやる事ができるとも思えなかったしな」
 何度も見てきた仲間の死と残された者。いつか自分もそうなる覚悟をしていたからこそ、彼女の気持ちを受け入れる事ができずに数年が経った。
「……それでも受け入れたのは?」
 遥久の言葉にバルシークは言いよどみつつ。
「根負けしたと言うのが一つ。それと……」
「それと? それと?」
 きらっきらした瞳で見つめてくる愁也にばつが悪そうに。
「彼女を誰よりも死なせたくなくなっている自分に、気付いてしまった」
 迷いつつも伝えたときの彼女は、想像以上に驚いていて。

 ――不意打ちはこっちの仕事っすよ!?

 そう言って、ぽろぽろと涙をこぼして。
 やがて花のように笑うのを見たとき、誓ったのだ。
 この身と命と魂は、剣に捧げた。
 
 ――だから心はお前にあげよう、と。
 
「なんかめっちゃええ話やん……俺もう泣きそうやで……」
 そう言って鼻をかむ友真の頭を、一臣が笑いながらぽんぽんとやる。
「だからあれほどに彼女を……」
 遥久は先日の邂逅を思い出していた。リネリアのために恥を忍んででも、自分たちを戦地に向かわせまいとした。
「まあ、そう言うことだ。夜来野」
 バルシークは苦笑しつつ。
「私の話は以上だ。次の話題に移ってくれ」
「ありがとうございました。話していただけてよかったです」
 礼を述べる遥久に、大天使は軽く頷いてみせる。

「では次は……西橋殿と半蔵殿との出会いを聞いてみたいかと」
「えっ……僕と半蔵との?」
「あ、いいな。俺も聞きたい」
 うんうんと頷く一臣たち向け、旅人はちょっと恥ずかしそうに。
「うーん、そんなに大した話じゃないよ。半蔵はエボシクマタカっていう種類の鷹で、ペットとして輸入されてきたらしいんだけどね……元々の飼い主さんが亡くなってしまって」
「……もしかして天魔の影響で?」
 遥久の問いに軽く目を伏せ。
「僕が担当した依頼で、向かったときにはもう……。半蔵だけが残されたんだけど、飼い主さんの親戚に引き取り手がいなくて」
 当時の半蔵はまだ幼鳥で手がかかる上に、猛禽類の飼育はなかなか難しい。
 頭部にぴょこんと立つ冠羽根を、旅人は軽く撫で。
「このままだと処分されるって聞いて、僕が引き取る事にしたんだ」
「そうやったんかー……」
 神妙な面持ちになる友真を見て、あまり褒められたことじゃないんだけどね、と苦笑する。
「同じような状況で飼い主を失ったのは半蔵だけじゃないから。立場上、本来であれば割り切るべきだったのかもしれない」
 その全てを引き取ることなどできないのも理解している。
「でもどうしても、気になって……」
 故郷を離れ、たった一羽で残された漆黒の鳥。その儚さを昔の自分に重ねたが故の感傷に過ぎないと、分かってはいたのだけれど。
 一臣が、なるほどねと頷き。
「タビットらしいと言うか。でも俺は自分の気持ちに正直でいるのも間違いじゃないって、思うぜ」
「だなー。人間は理屈でできてるわけじゃねえし」
 一臣と愁也の言葉に、旅人はありがとうと笑った後。
「実際育てるのは大変だったけれどね。鷹匠やってる人に教えてもらっているうちに、僕も趣味になっちゃって」
「あれ、かっこええもんなー! 凄いわかる」
「今は西橋殿の大事な家族でもありますしね」
 そう言って微笑む遥久に、旅人は静かに頷いてみせた。

 こうして、とりとめない話をしながら今年の夏夜もふけてゆく。
 各々の思い出を、紫紺の空に溶け込ませて――



 翌朝。
 目覚めた愁也の瞳には、異様な光景が映っていた。
「え……これ猫の手形?」
 バルコニーに面した窓に、巨大な猫の足跡がつけられている。旅人も窓を指さしながら。
「あれ……一夜干しの魚がなくなってる」
 昨日干しておいた魚が綺麗さっぱり無くなっているのだ。朝からの騒動に、友真と一臣も起き出して。
「ほんまや、いつの間に……」
 唖然となる友真の顔を見て、一臣は目が点。
「お前のおでこに足跡が……」
「いや、一臣さんもやで?」
 見れば右頬に大きな肉球の跡らしきものが残っている。
「っていうかそれ、マーキングじゃね?」
 大笑いする愁也の隣で、遥久はバルシークをちらりと見やり。
「一夜の夢か、悪戯か。公は何がご存じのようですが……?」
「さあ、なんの事だろうか」
 とぼけた様子の大天使に、微笑を返し。
「まあ、楽しき思い出となれば全て良し、ですね」
 そんなどこかわかり合っている二人を見て、愁也は内心でちょっと面白くない。
(でもまあ、遥久がいいならいいか)
 そう思ってしまうのも、新友愛の成せる技。
「あれ、これなんやろ」
 友真はバルコニーの片隅に何か置かれているのに、気付いていた。
「昨日はこんなん無かったよなー……?」
 それは色鮮やかな貝殻と、見たことの無い花びらと。
 花弁の一枚を手にし、一臣はふっと瞳を細める。
「楽しんでるみたいですねえ……」
 見上げた空は、今日も快晴。この世界のどこかで、きっとあの人にも繋がっているから。
「いつかの土産話を、楽しみにしますか」

 帰りの船が出発する前に、バルシークが切り出す。
「では、ここで私は失礼しよう。世話になったな」
「こちらこそ。お付き合いいただき、ありがとうございました」
「こちらも楽しませてもらった。礼を言おう」
 遥久と握手を交わす中、他の面々も別れの挨拶を告げていく。
「恋バナありがとうざいましたー! めっちゃ楽しかったです」
「また会うときはどうぞお手柔らかに」
「遊びと戦いは別やからな! またね」
 次に会うときは戦場かもしれない。それでも、今は一夜の共として和やかに別れる。
 背中の翼を広げ去って行く大天使を、見送りながら。
「あ、タビット」
「うん?」
「これ、同郷の彼へいつか渡してな」
 砂浜で拾った土産の貝殻。手にした旅人はゆっくりと頷いて。
「わかった。ありがとう、オミー君」
 いつかこうやって、笑い合える日がくるといい。
 そんな願いをそっと胸に、再び季節はめぐる。

 来年はどんな思い出が増えているだろう?

 夏はまだまだ、これから。



■末尾参照:

釣りダイス★

1.おいしい近海魚
2.見た目微妙だけど美味しい魚
3.軟体生物
4.逃げられた
5.猛毒・危険生物
6.珍種
7.海藻
8.アレ

釣果(海藻は除く)

愁也:64423 アオザメ トラウツボ コウイカ
遥久:67656 マンボウ アワビ トラフグ エラブウミヘビ
一臣:47352 マダコ アカエイ ウマヅラハギ
友真:32578 巨大ウミウシ メバル オニオコゼ ヌシ
旅人:13526 シマアジ ダイオウイカ ヒョウモンダコ ワラスボ コチ
バル:61354 アンコウ セイゴ オニヒトデ アオブダイ


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【整理番号/PC名/性別/年齢/夏の思い出】

【ja5823/加倉 一臣/男/27/タコ】
【ja6837/月居 愁也/男/23/( ^o^)】
【ja6843/夜来野 遥久/男/27/ライトヒール(物理)】
【ja6901/小野 友真/男/19/気絶】

 参加NPC

【jz0129/西橋旅人/男/28/釣り】
【バルシーク/男/※※/恋バナ】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
いつもお世話になっております。
二年目のキャンプ、発注文からみなぎるカオスオーラは今年も健在でしたw
NPC達もお誘いいただきありがとうございました。
どう書こうかあれこれ悩んでいたら、だいぶお待たせしてしまい申し訳なく…!
二年目の夏も、楽しんでいただければ幸いです。
アクアPCパーティノベル -
久生夕貴 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2014年09月08日

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