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『カードは配された 』
クランクハイト=XIIIka2091)&シャガ=VIIka2292)&クリスティーナ=VIka2328

 誰も知らない『いつの日か』。

 それはとある秘密結社の幹部グループ『大アルカナ』に、シャガ=VII(ka2292)が『VII.戦車』として正式に任命された日の出来事である。
 血腥い秘密結社に相応しく、歓迎会や晴れやかな就任式などありはしない。どちらかと言えば、『目の上のタンコブ』だとか『道ばたの雑草』へに近い視線が祝福の代わりである。

 であるが、同じく大アルカナ『XIII.死神』クランクハイト=XIII(ka2091)に限っては例外であった。

「月も見えない良き夜ですね」
 クランクハイトが訪れたのは屋上、新月に支配された真っ暗い夜の中、屋根に寝そべっていたシャガが「お前か」と視線だけをクランクハイトに向ける。その目は露骨に嫌そうだった。というのも、二人は旧知の仲なのである。
「戦車(チャリオット)へ無事に就任なさったそうで」
「……まあな」
「チャリオット……わんこのチャリオットさん、チャリわんこ……あ、チャリンコなんてどうです、渾名?」
 穏やかな笑みに反して、随分なご挨拶である。これにはシャガも跳ね起きるや、
「意味分かんねェ渾名付けんなッ! チャリオットだッつの!!」
 久々に会ってそれかよ、と牙を剥き出し吠える様はわんこそのもの。
 それにクランクハイトは「はは」と薄く笑う。見た目だけでは判別つかぬが、クランクハイトはシャガよりウンと年上であるが故に、まるで孫をあやすような雰囲気だ。
 一方のシャガはそれが気に食わない、今にも噛みつきそうな勢いでクランクハイトを睨みつける。
「胡散臭いオッサンめ、くだらねぇ冷やかしならとっとと帰りやがれ!」
「あまりチリンチリン鳴らないでください、耳障りですので」
「誰がチャリンコだぁあ」
「では三輪車」
「結局チャリンコじゃねーか寧ろ退化してんじゃねーか!」
「我儘な子ですねぇ……では一体、君は何ンコならば納得するのです?」
「先ずはチャリンコから離れろ!」
「はい喜んで!」
 無駄に素早い身のこなしでシャガから全力で離れるクランクハイト。
「そういう意味じゃねーよ! つか俺をチャリンコ扱いすんじゃねーよ!」
「冗句ですよ、多分」
「多分ておま……」
 シャガは早くもツッコミ疲れてきた。悪びれないで元の距離に戻ったクランクハイトに息も絶え絶え何か言ってやろうとするが――その瞬間。

「やぁ愛しの恋人(ハニー)達、俺を差し置いてにゃんにゃんするたぁつれねぇじゃないの……寂しかったのかな?」

 いつの間にかシャガとクランクハイトの間に現れた男、大アルカナの一角『VI.恋人達』クリスティーナ=VI(ka2328)がエロティックなウィスパーボイスと共に二人の腰を抱き寄せる。ついでにお尻もさわさわする。
 この時ばかりはシャガとクランクハイトの気持ちが一つになった。
「……ッ!? テメッ、気持ち悪ィ事すんじゃねェよ此のクソジジィーッ!!」
「貴方の恋人になったつもりは毛頭ありませんから。若い子に発散してもらって下さいな」
 シャガが容赦なくクリスティーナの股間の紳士を蹴り上げて、宙に浮かせた所へクランクハイトが回し蹴りを顔面に叩き込む。慈悲はない。死が救済。クリスティーナはビタンドシャンズザーッと地面を転がって倒れ込む。土煙。
「やったか!?」
 シャガが全力でフラグを立てる。「それはこの場で最も言ってはいけない言葉ですよ」とクランクハイトが指摘するその前に、お約束通り土煙の中から現れる人影。当然クリスティーナだ。その顔には恋人に向けるような愛に溢れた微笑みが。
 クリスティーナもまた、二人とは古くからの知り合いであり――愛する人、恋人なのである。(と、クリスティーナが勝手に思っている)
 そのままクランクハイトに微笑みかけた彼は、そっと彼の顎を指先で持ち上げつつ、
「なあ……久しぶりによ、今夜一緒に、あっ、い、いたっ、痛い! 目が! 目があー!」
 にこやかな顔のままクランクハイトが繰り出した目潰しがザックリズップリ。しかしクリスティーナは「いきなり二本もぬっぷり刺すなんて」と無駄に際どい発言で頬を染めている。
 それにはシャガもドン引きだ。若干血の気の引いた顔で眺めていると、クリスティーナと目が合ってしまう。
「げっ……こっち見んなオッサン、ウゼェ」
「良いじゃねぇか減るもんじゃなし……これから肩並べるんだ、先輩後輩同士、仲良くしようぜ」
「尻を触るな!」
「そうですよクリスティーナ、彼のサドルは繊細なんです」
「チャリ扱いすんな!」
 クリスティーナを蹴り飛ばし、クランクハイトに言葉で噛みつき、早くもシャガのHPは0に近い。
 クランクハイトはそれを「パンクしたチャリ」と形容しつつも、彼を歓迎する宴の準備を進めていた。とはいえ適当なツマミに酒とグラス、その程度のささやかなものではあるが。
「折角の祝い日です。乾杯でもしましょう。喋ってばかりでは喉も乾きますし、ね」
「お! 気が効くな、流石はクランクハイト俺の嫁」
 すかさずクランクハイトを抱き締めようとしたクリスティーナであったが、ボトルでどつかれあえなく轟沈。
 やれやれ、と何をされても嬉しそうなクリスティーナにシャガは肩を竦めた。
「オッサンほんっと昔っから変わんねーのな」
「お前への愛もな」
「キメェ」

 その間にも3人の透明なグラスに真っ赤なワインが注ぎ込まれた。血の様な葡萄酒。月も雲もない、ただ星だけが青白く散らばっている黒い空を映す。
 芳しい香りが風に載る。臙脂の水面がゆらりと揺れれば、浮かぶ星もまた赤い波に攫われた。

「新たなる『戦車』に」

 チン、と交わされるグラス。また揺れる赤。
 シャガは獲物の血を啜る狼の如く、ワインを一息に飲み干した。美味いとも不味いとも言えない。年若いシャガが酒の旨みを語るにはまだ時間がかかるらしい。
「……チッ」
 それがシャガには酷く煩わしい。巡るアルコールの気配。自分が未熟だと、まだまだガキだと嘲笑われている様な心地すらして、もう一杯をクランクハイトに強請った。
「酒とはゆっくり語らい合いながら楽しむものですよ」
「っせぇなー、俺には俺のペースがあるんだ」
 注がれるやまた流し込むように呑む。そんなシャガとは対照的に、クランクハイトとクリスティーナはゆっくりと酒を味わっていた。
「うん、美味い。それにいい香りだ。――まるでお前みたいに……」
 クリスティーナのブレないイケメンボイスである。君の瞳に乾杯、なんて常套句を吐きながら二人にウインクしてみせるも、クランクハイトから鋭い貫手を食らって危うくワインを逆流しかける羽目になった。
 げっほげっほ。噎せて、「全く、悪戯な子猫ちゃんめ」と笑いながら、クリスティーナは口唇に着いたワインを指先で拭った。なんとなくその指先に目をやれば、ワインの赤。赤……。
「そういやぁ、よ」
 相好は崩さぬまま、何とはなしにクリスティーナはシャガへと言葉を紡ぐ。
「お前さんのお師匠さん……先代『戦車』は?」
「あー、俺先代殺したから」
 ツマミのチーズを飲み込みながら、シャガは目も合わせずにあっけらかんと言い放った。
 そうか、と。先輩達から返される言葉。それもまた何気ない物言いだった。
 先代を殺す事こそが『戦車』を継承する唯一の手段。『大アルカナ』では伝統的な周知の事実だ。だから悲観的になる方がおかしい、それは星が巡るのと同じぐらい自然な事なのだから――たとえ、新たな戦車に殺された先代が、シャガにとって親であり師であった存在であろうとも。
「なんか問題でも?」
「ん? なに、いつもの事じゃねぇか。今更、気にしねぇさ」
 一度きり、少し困ったように笑ったクリスティーナは酒をくいと咽に流す。
 先代『戦車』はクリスティーナの同期であった。哀しくないと言えば嘘になる、が――別にそれは今でなくともいい。喪に服すのは一人の時でいい。
「それにしても本当、物騒だよなぁ……」
 仕方がないとはいえ、ここは殺し殺されの代替わりが多すぎる……バレない程度に溜息を吐いた。『恋人達』の先代は天寿を全うした故に、代替わりも平和だった。
「う〜ん酔っちまったかな〜困ったな〜介抱してくれよクランクハイトぉ」
 そんな回想もあったが後は普段通り。クランクハイトを抱き寄せウザ絡みを緩行するが、一秒後には空いた酒瓶でぶん殴られた。
「あァッーー!」
「僕なりのありのままの介抱じゃないですか」
「少しも痛くないわ……っ」
「……こいつのこれ何とかならねぇの?」
 呆れたシャガがクランクハイトを見やる。
「残念ながら、手遅れです」
「愛故に」
 静かに首を振ったクランクハイトの横で、クリスティーナはキラッとウインク。
 なんだよそれ、とツッコミの筋肉痛になりそうなシャガはもう項垂れる他になかった。
(……貴方が残した後釜は面白そうな子ですね。それに……)
 心の中で先代『戦車』へ哀悼を捧げ、クランクハイトは空を仰ぐ。夜が水面の赤い杯を口に注ぐ。
 いつか必ず己も同じ場所へ逝くのだろう。『救われる』のだろう。
 果たしてそれがいつになるかは、皮肉な事に『死神』ですら分からないけれど――。


『了』


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【PC名(整理番号)】
クランクハイト=XIII(ka2091)
シャガ=VII(ka2292)
クリスティーナ=VI(ka2328)

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 発注ありがとうございました!
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2014年09月12日

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