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『楽しい修羅場カフェ! 』
秋野=桜蓮・紫苑jb8416)&百目鬼 揺籠jb8361)&ファウストjb8866


 針の筵とは、この事か。
 楽しげなBGMが流れるカフェの片隅で、百目鬼 揺籠(jb8361)は身体を硬くしていた。
 テーブルは四人がけ。隣では紫苑(jb8416)が鼻歌交じりにメニューを眺めている。
 斜め前ではファウスト(jb8866)が、目つきも鋭くこちらを見ていた。普段の三割増しで白目の面積が広くなっている気がする。
 そして目の前には……熊がいた。
 その身体の大きさ故、ただでさえ物理的な威圧感が半端ない所にもってきて、この全身から漂う圧倒的なオーラは何だ。
 怒りか。怒っているのか。
 だが揺籠には、彼――ダルドフ(jz0264)に怒られる様な事をした覚えはない、筈だ、多分、きっと。
 重苦しい沈黙が四人にのしかかる。
 いや、紫苑だけは別だった。
「パフェー! おれパッフェたべてぇでさ!!」
 これがいい、と指差したのはバケツパフェ。
「ちょ、紫苑サンこれは……」
 脇から覗き込んだ揺籠が難色を示す。
 写真だけでは大きさの見当が付かないが、お値段は普通のパフェの30倍。
 ぼったくりでもなければ、大きさも30倍と見て良いだろう。
「いくら何でも大きすぎまさ、腹ァ壊しますよ? 第一食べきれねぇでしょ」
「だいじょーぶでさ、これくらいよゆーですぜ!」
 紫苑にとっては思いがけずに降って湧いた、大好きな人達とのお出かけの機会だ。
 どうめきのにーさんと、ファウのじーちゃ、それにおとーさんまで一緒となれば、舞い上がるなと言うのが無理な注文だろう。
 ただのお出かけにしては空気が妙な感じがするけれど、子供は大人の事情に首を突っ込んではいけないのだ。
 その原因を作ったのは他ならぬ紫苑自身なのだが――そんなの知らないし気付かないし関係ない。
(どーせまた、すげーかんたんなことを、わざわざむずかしくかんがえてグルグルしてるんでさ)
 まったく、これだから大人って。
 紫苑は今、そんな面倒くさい大人達に付き合ってやっているのだ。ならば少しくらいの我侭を言っても許される筈、いや我侭を言って困らせるのが子供の特権、寧ろ義務。
「やだやだやだ、おれはいまどーしても、これがたべたいんでさ! ほかのじゃ、このおれのかわいたこころはみたされねぇんでさ!」
 何処かで覚えた台詞を意味もわからず真似しながら、足をばたばたさせてみる。
「どこが乾いてンですかぃ、ぴっちぴちの六歳児が……」
 揺籠が溜息を吐いた途端、正面から圧倒的なオーラが押し寄せて来た。
「百の字」
 静かだが腹に堪える太い声が響く。
「娘の頼みが聞けぬと申すか」
「ひゃくの……え、俺ですかぃ!?」
 まさか自分に矛先が向けられるとは思っていなかった揺籠は、びしっと背筋を伸ばして座り直した。
 いや、まあ……矛先と言うか偃月刀の穂先は、さっきからぴたりと向けられているのだが――テーブルの下で。
「娘を嫁に欲しいと言うなら、甲斐性を見せてみぃ!」
「や、言ってませんて!」

 何故こんな事になったのかと言えば……


 時を遡ること暫し。
「ファウのじーちゃ! これ! これみてくだせぇ!」
 ファウストの元を訪ねた紫苑が自慢げに見せたのは、綺麗な台紙に貼られた大判の写真だった。
 そこには可愛らしいドレスを着て、満面の笑みを浮かべた紫苑の姿が写っている――鼻の下を伸ばした優男(じーじ目線フィルタで加工済)と共に。
「どーめきのにーさんと、いっしょにとってもらったんでさ! おれ、はなよめになったんですぜ!」
「何と……!」
 ファウストは目からビームが出そうな勢いで、写真をまじまじと見つめる。
 その鋭い眼光に焼かれ、写真に文字が浮かび上がった。
 華やかな飾り罫と共にカラフルな文字で、「私達、結婚しました」と。 ※幻覚です
「そうか、二人とも良い笑顔だ。良く撮れているな」
 表面は平静を装い、孫も同然の娘の幸福を祝しつつも、内心では驚愕に打ち震えていた。
(この年でもう結婚……だと……?)
 自分が知らないうちに、人間社会はここまで変貌を遂げてしまったのか。
 年の差婚にも程があるだろう、と言うかこれは犯罪ではないのか。
 そう、ロリコンという――いや、幼女を好む事それ自体は個人の趣味嗜好の範疇であり、何ら犯罪と関わるものではない。
 しかし幼女と婚姻関係を結ぶというのは、倫理的に許される事なのだろうか。
 よしんばそうであったとしても、六歳の花嫁は若すぎる。この若さで、きちんとした家庭を築く事が出来るのか。
 夫の収入は安定しているのか、新居はもう決まっているのか、親戚縁者は何と言っているのか――
 そもそも、紫苑の父親はそれに同意したのか。
(いや、あのダルドフがそう簡単に娘を手放す筈はあるまい)
 だとすると、まさか駆け落ち――!?
「紫苑、この事はダルドフには……」
「おとーさんには、ないしょでさ」
 ニカっと笑い、紫苑は大切そうに写真を仕舞い込んだ。
「ないしょにしといて、おどかしてやるんでさ。おとーさん、しごとしごとって、しごとばっかしで。ちっともうちにかえってこねぇんですから」
 こんな可愛い娘に留守番ばかりさせて、と紫苑はぷぅっと頬を膨らませる。
「そうか」
 ファウストは神妙な顔で頷く。
 ならば、どうにかして知らせねばなるまい。
 今後の為にも、ここは話と筋を通しておくべきだ。
(如何なる障害があろうとも想いを貫く覚悟が二人にあると言うのなら……我輩も援助を惜しまぬ)
 かくしてファウストは老婆心ならぬ老翁心によりダルドフにご注進、若い二人を呼び出し、現在に至る――という訳だ。


「や、や。俺は別に婿候補とかそう言うんじゃねぇんですがね」
「ならば、これは何だ。候補でなければ既成事実か!」
 証拠物件を突き付けられ、揺籠は狼狽える。
 冷静に考えれば挙動不審になる理由も必要もないのだが、何故か弁明しなければいけない気分になり……そして墓穴を掘った。
 理路整然と懇切丁寧かつ誠実に、疑いを解こうと言葉を重ねれば重ねるほど、何故か逆に不誠実な印象が積み重なって行く不思議。
「そりゃ、結婚はいつかはしたいと思ってますがね」
 今回は寝耳に水と言うか巣穴に熊と言うか。
「好みの女性も二十越えてる位ですし、大体なんで俺がこんなガキと――」
 ぴきっ。
 あれ、今なんか空気に亀裂が入った気が。
「それに、その写真はお遊び感覚で撮影したもので――」
「ひでぇですぜ、にーさん! おれとのことは、あそびだったんですかぃっ!?」
「おい紫苑サン妙な言い回しするのやめなせぇ」
 揺籠はニヤニヤ笑いながら泣き真似をする紫苑の首根っこに腕を回し、その頭をゲンコツでぐりぐり。
 それでも紫苑は、潤んだ瞳で訴えかける様に揺籠を見つめながら言い募る。
「おれ、うれしかったんですぜ? しおんはおれのはなよめだって、いってくれたこと……」
「紫苑サン、そこは正確に言いやしょう?」
 正しくは「花嫁役」だ。
 ジューンブライドのイベントで、衣装を借りる機会があったから――
 しかし訂正の余地さえ与えず、正面からの圧力が120%アップ!
「いや、だから違うんですってばおとーさん!!」
 あ、何か踏んだ。
「ぬおぉぉぉぉぉっ!!」
 椅子を後ろに蹴り倒し、ダルドフは立ち上がった。
 大きく息を吸い込み、ぴたりと止める。股を割り、腰を落として摺り足で進みながら、ぶっとい腕を交互に前に突き出して――ばすーん! どすーん!
 それは相撲のテッポウの型。
 どうやら噴き上げるやり場のない感情を、それで発散させている様だが。
「お客様、困ります! 店内での破壊行為は……!」
「案ずるな、これはエアテッポウぞ!」
 ばすーん、どすーん。
 確かに柱にも壁にも当たってはいない、が。
「貴様の場合、エアでも風圧で被害が出かねんだろうが」
 おもむろに立ち上がったファウストが、フェアリーテイルの魔法書を取り出す。
「お客様、店内での魔法も――」
「心配ない、物理だ」
 ごんっ!
 その角をダルドフの後頭部に打ち下ろした。
「落ち着け、気持ちはわかるが」

 やがて運ばれて来た、巨大なパフェ。
 それは綺麗な模様がプリントされた透明な容器に盛り付けられていた。
 だがバケツだ。どう見てもバケツだ。しかも学校の掃除で使う様なサイズの。
 そこに刺さったシャベルかと思う程に大きなスプーンを握り締め、紫苑はパフェの攻略にかかる。
 その傍らで、揺籠は引き続き針の筵にご招待。
(どう説明すりゃ、わかって貰えるンでしょうねぇ)
 揺籠にとって、紫苑は可愛い妹分だ。
 わりと遠慮なくツッコミを入れたり、からかったり、時にはお説教もしてみたり、逆さ吊りにしてブン回してみたり――してないしてない、してませんってば!
(このちんまいガキんちょが、あと十年ちょいで大人になるってぇ言われてもねぇ)
 どうにもピンと来ないのは、長いこと各地を転々として暮らして来た為に、一人の人間の成長を追う機会がなかったせいだろうか。
 目の前に現れる全ては、その瞬間だけを切り取った一枚の絵や写真の様なものだった。
 そこに固定された像は、変わる事も色褪せる事もない。
 けれど……この子は変わって行くのか。
 何がどう変わり、何が変わらずに残るのか、それを見届けるもの悪くないかもしれない。
 だが嫁に貰うとなると飛躍が過ぎて、やはり想像も付かないというのが正直なところだ。
「にーさん、おれのかお……なんかついてやすかぃ?」
 じっと見つめる視線に気付いた紫苑が顔を上げる。
「ええ、付いてますよ」
 クリームやらチョコやらクッキーのカスやら、顔じゅうに。
 揺籠はそれを指で拭って、ぺろりと舐めた。
「にーさん、女ごころがわかってやせんね。そこはちょくせつなめんのがイキってもんですぜ?」
「何をナマ言ってんですかぃ、ガキのくせして」
「おれだって、いつまでもガキじゃねぇでさ。おれがおとなになったとき、にーさんがさびしくひとりみしてたら、よめになってやってもいいですぜっ」
 口の周りをベタベタにした六歳児がドヤ顔で何か言ってます。
 それを聞いたダルドフは、目をぱちくり。
「紫苑、ぬしは今……大人になった時と申したか?」
「そうでさ、どーめきのにーさんはロリコンじゃねぇですぜ? たぶん」
 やっと気付いたんですか、お父さん。
 そうなんですよ、今すぐにどうこうという話ではなくて、ですね……
「しかし、いずれは某の元から娘を奪い去るのであろう!?」
 いや、それもまだ……
「ならば見せぃ! ぬしが娘の婿に相応しいという、その証を!!」
 ちょ、待って、証って何?
 まさか「某の屍を越えて行け」とか、それ系の事ですか!?
「百の字、表へ出ぃ!」
 それ系だった!
「む、無理ですって! 無理無理絶対無理!」
 死んじゃいますから!
 しかし、そこに救いの手が差し伸べられた――いや、本人にそのつもりはないのだろうが。
「どうした紫苑」
 ファウストの声にふと脇を見ると、さっきまで威勢良く食べていた紫苑の様子がおかしい。
 バケツの中身をスプーンでつつき回すだけで、口に入れようとしない。
 まだ一割も食べていないが、どうやらギブアップ……と言うより、飽きたのか。
「食べ物を残すのは感心せんな。ましてや自分で食べたいと言ったのだろう」
「そりゃそーですけど」
 だって食べきれると思ったんだもん。
 でっかいの独り占めしてみたかったんだもん。
「どれ、仕方ないのぅ」
 しょんぼりと肩を落とす娘の様子を見かねたのか、ダルドフが手を伸ばす。
「これに懲りたら、もう無茶は言うでないぞ?」
 こくり、紫苑は素直に頷いた。
「ダルドフ、貴様娘には甘すぎるのではないか?」
「まあそう言うなファウの字、失敗から学ぶ事も大事な経験よ」
 それに、とダルドフは悪戯っぽい目をファウストに向ける。
「ぬしとて紫苑にはべろんべろんに甘いのではないか?」
「何を言うか、我輩はそのような……」
「ファウのじーちゃ、いっつもやさしいですぜ! おれ、だいすきでさ!」
 子供は正直であります。

 しかし、ここでひとつ問題が――

 食べ物を粗末にしてはいけない、それはダルドフとて同感だ。
 だから何とかして、残りのパフェを食べなければと考えたのだが。
「いや、某はその、甘味はどうも苦手でな」
 それを聞いて、揺籠の頭上にぴこーんと電球が灯った。
 あった、あったよ! ダルドフに勝てる事!
「そのパフェ、俺が全部いただきましょう。そうすりゃ認めてもらえますね?」
 あれ、何で婿として認めさせる流れになってるんだろう。
 ノリって言うか勢いって言うか……まあ良いか!

「ところで貴様、歳は?」
 パフェと格闘する揺籠に、ふと思い付いた様にファウストが訊ねた。
 天魔の実年齢は、見た目からでは想像も付かないものだが……
「俺ですかぃ? 七百ちょいですかね?」
 え、待って。
 ダルドフは確か六百歳ほど――



 おとーさん、婿より年下だった。

 年 下 だ っ た !!!



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb8866/ファウスト/男性/実年齢推定800歳/父の友人】
【jb8361/百目鬼 揺籠/男性/実年齢推定700歳/未来の婿】
【jz0264/ダルドフ/男性/実年齢推定600歳/父】
【jb8416/紫苑/女性/実年齢6歳/娘】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 お世話になっております、STANZAです。
 この度はご依頼ありがとうございました。

 この後、きちんと丸く収まっている事を祈ります……!
アクアPCパーティノベル -
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エリュシオン
2014年09月16日

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