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『●こんなご褒美もたまにはいいかもな 』
江戸川 騎士jb5439

 その日、行われているのは小さな小さな神社祭。小さなと言っても、この町の規模としては十分なお祭りだった。
 立ち並ぶ露店、歩く人々――そんな雑踏の中で江戸川 騎士はたたずんでいた。
 鼠色に蝙蝠の染が入った男性用浴衣に身を包み、腕を組んでいる。組んだ腕では指がトントントントン忙しなく動き、見ただけで苛ただしげだとわかる。
 待たせるのも嫌だが、待つのももっと嫌である――が、それでも騎士は待ち続ける。
「ゴメーン、江戸川さん。待ったかな」
「おっせーよ、海」
 全体が水色で白い水紋が入った浴衣。白にピンクのぼかしが入った金魚が描かれているそれを着て、津崎 海は息を切らせてそこにいた。
 いつも一緒の同級生仲良し4人組の1人だが、今日、他の3人はいなかった。
 珍しくというべきなのか、今日は2人だけである――


 ほんの数時間前。
「お祭りに2人で? どうしたの」
 祭りに誘ってみたら、第一声がこれだ。
 いや、自分でも何故だろうというのは、ある。
「んー……」
 顎に手を当て、しばらく思案した後にやっと出てきた言葉が「なんとなく」であった。
 もちろん、なんとなくと言ってもそれなりの事情はある。
「俺もこれからはもう少し、撃退士の仕事を真面目にしようと思っているからな。北海道に遊びで来る確率も減るし。最近はお前、練習も民宿の手伝いも頑張ってるしよ。
 まあ『頑張ったで賞』的なもん? 冬に入ればお前も忙しくなるだろうからな」
「そっかー……これまでは定期的に来れたけど、もうそれもなくなっちゃうしね」
 寂しそうな顔をする海に「まあな」と、平然とした顔で答える騎士。
 だが内心、改めて言われるとざわつくモノがあった。
 しかしそんなものはおくびにも出さない。そうでなければいけないと、自分に言い聞かせ続ける。
「ま、そういうこった。だからよ、行こうぜ」
 こうなったらもう強引である。
 返事も聞かぬまま、持ってきた荷物から浴衣を引っ張り出す騎士。もっとも、海の方も別に嫌という訳ではないので文句を言うわけでもなく、引っ張り出された浴衣を広げてみた。
 男性用の浴衣だけでなく、女性用の浴衣もある。
 最初それを海は自分用かと思ったが、金魚柄のを渡され「それがお前のな」と言われ、改めてもう1つの、白地に蒼薔薇の染が入った大きめの女性用浴衣を引っ張り、両手に持って広げた。
「ふむ、これも悪くないな」
 騎士がそれを手に取り騎士自身にあてがった事で、それが誰用のつもりなのかを理解した海は思わず「女性モンでしょうが!」とつっこんでしまった。
「バッカ、おめー。こういうのは似合うのが一番なんだよ。
 いいからとっとと着替えていくぞ――何なら着付けてやろうか?」
「のーせんきゅー!」


 そんなやり取りがあって、今に至る。
「俺が着付けてやってれば、待たなくてすんだのによぉ」
「乙女としてそれは断じて許されまじ!」
 自分でもよくわかっていないような言い回しでの拒絶だが、それを騎士はあまり気にしない。色々と絡むのだが、なんだかんだと海に甘いのは仕方ない。
 自分の悪魔としての部分を見せないためにも、こうやって応えるしかないのだ。
 ……ただどうしても、無意識のレベルだろう。
 海のほつれ髪を指で弄ってしまったり、頬に付いたクリームを舐めとってしまったりと、そんな事を気がつけばやってしまっている。
 しかし問題は、そんな事をされても当の本人は「髪型、ちょっと変えてみたんだ」とか「あれ、付いてた?」などと、あまり恥じらう様子も見せず、むしろ俺様の方が恥ずかしいと完全に騎士の空回りに終わっている。
 ――でも、それくらいがいいのかもしれない。
(警戒心が薄いってのはまだまだガキって事なんだろうけどよ……俺らにはない純粋さだよな)
 眩しくもあり、羨ましくもあり――そして自分には必要と感じられない部分。
 こういった部分で、やはり根本的に自分は悪魔なのだと思い知らされる。
 そしてふいに魔界時代を思い出して、懐かしむ。今、魔界に戻れば間違いなく処刑される身ではあるが、どうしても自分は人の様に生きる事はできそうにないと最近、薄々感じ始めていた。
 もちろん、将来的に人間界で好きな音楽をやって食っていければという夢に迷いはない。だがそれには……自分は少々、音楽的才能以外の部分が向いていないのではと。
 そんな事を考えていると、自然と無口になってしまう。
 海が心配そうに覗き込んでいる事で、自分の口数が減っているのに気が付き、それを誤魔化す様に海の鼻面を指で弾いた。
「んにゃ?!」
 鼻を押さえる海――こんな小さなやり取りすらも、とても大事で、とても――愛おしい。
(だがま、嘘つきは嘘つきらしく、最後まで嘘を通さねーとな)
 騎士の決意は頑なである。
 けど今は、これでいい。


 小さなお祭りだけあって、それほど歩いたわけでもないのにすぐ、全部を見終ってしまう。
 いや、海と一緒に歩いたからすぐなのか、とも。
 海を家に送り届ける間もあまり口数は多くなかったが、海が矢継ぎ早に話を一方的に繰り広げるのでそれほど困る事はなかった。ただ出てくる話題のうち、半数ほどは学校の、同級生の事だが、もう半分は海自身のみが知る『神様』の話なのが気がかりである。
 だから別れ際に、こう伝えた。
「お前のまわりには相談できるやつが居るんだからよ、あいつらにもっと頼れよ。何なら俺にメールしたっていい。
 俺は、お前がババアになって孫やひ孫に看取られてご臨終って日に立ちあうのが夢だからよ。だからそんな未来のためにも、相談には乗ってやるよ」
 頭をなでれば、騎士の心が安らぐ。なでられている海が、嬉しそうであればあるほど。
 悪魔である自分をこうも容易く受け入れる人間は、今のご時世でもそうはいない。だから護りたい――もちろん海相手にはそれだけではないのだろうが、そう思う事にしよう。

 自分を騙せ。

 海を悲しませるな。

 だから――なるべく会うな。俺。



 心に誓いそっと蓋を閉じる、騎士であった――




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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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PC
【jb5439 / 江戸川 騎士 / 男 / 実年齢・不明 / ナイトウォーカー】

NPC
【jz0210 / 津崎 海 / 女 / 15歳 / 一般人?】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております、お世話になりました、楠原です。少し時間がかかってしまい、申し訳ないです。
月一で1年続いた音律への全参加、ありがとうございました。とはいえ、海の物語はまだまだ続きますのでこれからもどうぞ、海をよろしくお願いします。
アクアPCパーティノベル -
楠原 日野 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2014年09月22日

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