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『cantarella 』
アラン・カートライトja8773)&百々 清世ja3082

 真夏の果実が弾けたような。
 そんな表現が相応しいと言えるほど、鮮やかで眩しい太陽の光。
 久遠ヶ原にも母国にもないからりとした陽差しに、アラン・カートライトは思わず目を細めた。
「いー天気だねえ」
 傍らで空を見上げる百々清世は、飛行機で熟睡していたせいかやや寝起きの表情をしている。
 地中海の気候は、触れるだけで気分が高揚するから不思議だ。片手で陽差しを軽く遮りながら、アランは清世に向かって微笑する。
「ようやく来られたな、イタリア」
 一年前に立てた旅行の計画は、今年になってようやく実行する事となった。その理由も気が向いたからという程度の前向きさで。
「二人でのデートもすげえ久々だな」
「一年ぶりくらいだっけ?」
 元々ノープランで旅をするのが常のため、今回も暇が合わなければ来る事はなかったのかもしれない。
「でもやっぱ、女の子と一緒のほうが良かったけどねー」
 いつも通りの調子で、清世がのんびりと笑う。
「イタリアに来てラテン美女を口説かねえのは初だが、二人きりのデートだからな。好きなだけ甘やかしてやるよ」
「アランちゃんてば太っ腹ー」
「一年待たせた分、何だってしてやるさ。今回のご要望は”久々に二人でイチャラブ”なんだろ?」
「そーそー間違ってない。感じ?」
 そんなたわいない応酬も、心地よく。
 気心知れた友人との旅は気ままで、気楽で、気負いがないから愉快になれる。
「じゃ、そろそろ行くか」
 アランは煙草の煙が蒼天に吸い込まれるのを見送った後。ゴシックやバロック建築の色合いが今だ強い街並みを、気ままな足取りで歩き出した。





 デートコースは清世のお気に召すままに。
 とは言え本人は観光地には興味がないらしく、入るのはもっぱらファッションブランドの店だったり、色鮮やかなスィーツが並ぶ店だったり。
 適当に目に付いた場所に入っては、思うがままに遊んで食べて時間を謳歌する。
 そんな気易い旅も、男同士だからできるのかもしれない。
「ああ、もうこんな時間か」
 気が付けば陽はすっかり沈み、淡い橙色の光が灯り始めていた。
 湿度が低いせいだろう。陽が落ちた途端、熱がすとんと冷めてゆくのが分かる。
 それはまるで、情熱の中に潜む強かな冷静が顔を見せるかのように。
 触れれば触れる程、落差の興が病みつきになるから不思議だ。
「そろそろ腹減ったよね」
「この先の店でディナー予約してあるぜ。俺のお勧めだ」
「お、アランちゃん相変わらず手際いいー」
 夕食は勿論イタリアンのフルコース。けれど気取りすぎない、ちょうどいい雰囲気の店を選んだ。
 まずはワインで乾杯。フランスのものとはまた違う、独特の風味を堪能する。
「美味しー。結構果実味が強い感じ?」
「ああ、イタリアワインは個性が強いからな。色々試すといいぜ」
「料理も美味いよね。さすがはアランちゃんお勧め」
 満足そうな清世を見て、アランはブルスケッタを口に運びながら笑う。
「この辺は美味い店が多いからな。どこにするか結構迷ったんだぜ」
「そうやって悩むアランちゃんもかわいいよね」
「お前のためなら何だってしてやるって言っただろ?」
 相変わらずな冗談の応酬は、そこにあるわずかな本音も美酒と共に飲み干すのがルール。
「お前は俺の可愛い悪友でペットだからな。わがままや希望は、全て叶えてやりてえ、が」
 グラスに口を付け、深紅の瞳を細める。
「単に与えるだけの都合の良い存在は御免だ。こういうのは等価交換が相場だろ」
「ふーん、アランちゃん何が欲しいの?」
「愛と、癒し。これジョークな」
「えーそれなら一杯あげるのに」
 思いつくままにしゃべり、思いつくままに飲む。
 それが最高の贅沢と知っているから。

 ディナーが終われば、たっぷりと時間をかけてぶらぶらしつつホテルへと向かう。
 最上階のバーで軽く飲んだ後は、部屋に戻って再び飲み直し。
「酔い潰れてから夜は始まるんだよ」
 ルームサービスで片っ端からイタリアワインを頼むアランに、清世は既にふわふわとしながら。
「アランちゃん相手なら酔い潰れても安心だよねー」
 ワインにはすぐ酔ってしまうけれど、気にしない。
「まぁな。眠たくなったらいつでも寝ていいぜ」
「アランちゃんは寝ないの?」
「お前の寝顔を見てからな」
 二人で三本めのボトルを空けたところで、清世がとろんとした表情のままおもむろにシャツを脱ぎ始める。
「ふわふわんなったから寝るー」
「お前寝るとき脱ぐ癖直ってねえんだな」
「だって直す気ないもん」
 シーツにくるまり、アランに向けて手をひらひら。
「おやちゅー」
「ん」
 ごく当たり前のように、清世にお休みのキスをする。いつも通りの習慣で、いつも通りに何となく。
「おやすみー。アランちゃん、めっちゃ好きー」
「ああ、知ってるよ。おやすみ」
 先に寝入る清世を眺めながら、アランは一人で四本目のボトルを空ける。
 窓から見える地中海の景色は、紫紺の闇の中で穏やかな眠りについている。
 朝になれば、再びまばゆい光に街全体が包まれるのだろう。
「……さて、俺も寝るか」
 最後の一杯をアランは時間をかけて飲み干すと、そのまま清世が眠るダブルベッドにもぐりこむ。わずかに反応する様子に、思わず。
「起こしちまったか?」
 返事はない。
 眠っているのだと気付き、安心して瞳を閉じる。
 明日は何しようか。
 どうせ答えを出さない思考をゆらゆらと巡らせる。
 清世の体温を肌に感じながら、アランは緩やかにまどろむのだった。





 翌日。
 二人は土産を買いに、近所の市場へと足を向けていた。
「今日もいい天気だねー」
 清世が眩しそうに空を見上げ、瞳を細める。
 朝はたっぷりと寝過ごしたため、ホテルを出る頃にはすっかり陽は高くなっていた。
「お前なに買いたい?」
「友だちにリクエストされてんだよね。えーっとリモンチェッロってお酒」
「ああ、あれは美味いよな」
「うんー。日本でも手に入るけど、やっぱり本場のも飲みたいよねってやつ」
 鮮やかなレモン色の瓶を手に、清世はご機嫌。アランもせっかくだからと一本包んでもらう。
 適当に目についた店に入りながら、清世が問う。
「アランちゃんは何買うの?」
「俺は妹にアクセサリーだな」
 蒼と紅の石がはめこまれたブレスレット。彼女の瞳のように深く美しい色合いのを選んだ。
「そうだ、百々にも記念にピアス買ってやるよ」
 言ってから、ああと思い出す。
「そういや俺たち、そもそもピアスお揃いだったな」
 それは二年前の誕生日にもらったもので、今もお互いに付けている。
「そーそー。でも新しいのくれんの、付けてー」
「嗚呼、つけてやるよ。ほら耳出せ」
 耳にかかる髪をかきあげ、選んだピアスをはめてやる。もちろん揃いのものは外さずに、別のピアスホールに。
「似合うー?」
「当たり前だろ、俺が見立てたんだからな」
 選んだのはラウンドタイプのシンプルなもの。シルバーで縁取りされた中央には太陽の色をも思わせるブラッドオレンジの石がはめ込まれている。
 それはまるで、この国の陽気さと情熱を表しているかのような。

 一通り買い物が済んだ後は、ジェラートの店で一休み。
「どれが美味しいんだっけ?」
 色とりどりに並ぶジェラートを見て、清世がかくりと首を傾げる。
「俺は甘いもん食わねえって言っただろ」
 苦笑するアランに清世は何でも無いと言った様子で。
「えーでも、アランちゃんがお勧めって言ったのが食べたいし。その方がきっと美味そう」
 はいはい、とアランは笑ってみせてから、ショーウィンドウをじっと見つめる。やがて一角を指すと清世の方を振り向いた。
「あれが俺のお勧めだな」
「じゃ、それにするー」
「理由は聞かねえのか?」
「聞いても聞かなくてもそれ食べるし。あ、でも当ててみようか」
 意外な返しにアランが黙っていると、清世はうーんと言った後。
「あれだよね、この店で一番気に入った女の子が食べてたんでしょ」
「正解だ」
 受け取ったジェラートは、鮮やかなオレンジ色。アランは自分用にビターのチョコレイト味を選ぶ。
 こんもりと盛られた氷菓は、口に含めば舌の上でさらりと溶け。
「美味いか?」
「うん、アランちゃんの美味い?」
 アランが返事する間もなく、清世はアランのチョコレイト味をぱくり。
「もっと甘い方がいいけど、これも美味しー」
「甘すぎないのを選んだからな」
「あ、俺のもあげるし一口あーん」
 互いに食べさせ合いっこしながら、アランは通りを歩く人波を見やる。
「……いいな、ここは」
 色々なものを忘れられる。
 オレンジ色のジェラートは、甘酸っぱい夏の味がした。





 二人だけのイタリア旅行は、ゆったりとそれでいてあっという間に過ぎ去ってしまう。
「あーよく遊んだねー」
 帰りの飛行機の中で、清世は軽くのびをしてから、ふわりとした笑みを浮かべる。
「ああ、よく遊んで食って飲んだ。あれだけワイン飲んだのも久しぶりだ」
 毎晩酔い潰れるまでワインを飲んで、共に眠った。
 贅沢で、幸せな時間。
「アランちゃん、楽しかった?」
「お前と一緒だからな。楽しくないわけねえだろ?」
「うんー俺も楽しかった」
 機内でも注文したワインを飲みながら、アランは笑う。
「まぁ、美女を口説けかなかったのは残念だけどな」
 その言葉に清世はちょっとだけおかしそうに。
「また来たらいいじゃん。いつでも来られるし?」
「……ああ、そうだな」
 ふと窓外に目をやると、地中海の鮮やかなコバルトブルーが遠ざかってゆくのが見える。
 
 ――いつでも来られる。

 そんな気易い言葉が、なぜだかアランにはひどく貴重なものに思えた。
「来年も、また来るか」
 口に出す言葉は、いつも通り冗談めいて。
 

 夏の陽差しは、きっとまた鮮やかだろう。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号/PC名/性別/外見年齢/地中海の旅】

【ja8773/アラン・カートライト/男/26/ビターに甘く】
【ja3082/百々 清世/男/23/夏色に甘く】



ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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夏のイタリアデートは眩い太陽の下で。
お世話になっております、この度は発注ありがとうございました。
大変ぎりぎりとなってしまい申し訳なく…!
一年越しで実行された旅行、わくわくしながら書かせていただきました。
楽しんでいただければ幸いです。

アクアPCパーティノベル -
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エリュシオン
2014年09月22日

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