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『ひまわり 』
大狗 のとうja3056

 ただ何となく――
 そう全てはなんとなく……だ。

 行動原理も理由も明確である必要なんかない。そう、思った。

「―― ……」
 京都へと続く電車のボックス席。大狗 のとうは一人、窓の桟に肘を乗せその先に顎を預けて、ただぼんやりと後ろへ後ろへと流れていく景色を見つめていた。
 市内から離れていくと、景色はどんどん単調なものへと変わっていく。
「……っと」
 がたんっ。
 賑わった町を通り過ぎた頃、のとうは窓をほんの少しあけ風が頬を撫で髪を弄んでいくのに目を細めた。地形の関係からこの辺りの風は独特の熱気を含んでいるように思う。夏の……香りがする。

『――で、いつ帰ってくるの』
『あー……』
 数日前を思い出す。
 懐かしくも感じる声、それは弟のものだ。
 学園に入学し、撃退士になってから特に連絡を取っていなかった。別にそうしようと意識していた訳ではない。強いて言うなら、何となくだ。
 だが、それを説明する言葉は見つからない。受話器の向こうから、連絡くらいとか、たまには……とか、重ねられる言葉に見合った返事が出来るでもなく、のとうは意味をなさない返事を繰り返した。
 帰りたくないとか、嫌な記憶がなど明確なものがのとうを故郷から遠ざけていたわけではない。かといって、どうしても帰らなくてはいけないと急きたてるものもなかった。

 だから、今こうして電車に揺られているのも……何となく、だ――。


 京都の端の田舎町。そこで電車は止まった。
 駅を後にしたのとうは、長く電車に揺られ凝り固まった筋肉を解すように両腕を空へ突き上げる。
 ホームに降り立ってすぐ蝉の大合唱に迎えられた。アスファルトから上がってくる熱に、じわりと汗が滲む。
「さて……と」
 ゆっくりと辺りを見回す。あっついにゃー……と零れそうになった台詞を飲み込み、のとうは手の甲で額を拭うと
「とりあえず、歩くか」
 生まれ故郷に戻ったとはいえ、のとうのその足は家へとは向かわない。踏み出した一歩、二歩……。
 目にする景色は変わらない。見覚えのある場所。そう……懐郷の情が特に浮かぶ訳ではない自分に寂しいとまでは思わないが……曖昧に頬を緩めのんびりと足を進める。

「おや……のとうちゃんかい?」
 ただ通り過ぎるだけのつもりの駄菓子屋の前で、お店のおばちゃん――もう、おばあちゃんかもしれない――に声をかけられた。
 のとうは弾かれるように、ぱっと笑顔を作り
「こんにちはなのだ!」
 明るく答える。
 よく寄り道したレトロという言葉がしっくりと馴染む佇まいの駄菓子屋。
 交わした会話も当たり障りのないもの。おばちゃんの笑顔も……うん。見覚えがちゃんとある。
 わぁっとみんなで駆け寄って、色とりどりの小さなお菓子をきらきらした瞳で見つめた。そんな情景が浮かんで消える。
 一緒に居たのは、弟だったか、友達だったか、それとも――

 小さな駄菓子を幾つか買って、その中の一つ飴玉を口に含む。
「変わらないな――」
 何に対してそう思ったのか、自分でも少し不思議だ。
 顔を上げた先にある山。よく遊んだ。駆け回った。それこそ日が暮れるまで……そして、日が暮れるまでに、いつも迎えにきてくれたのは――
 のとうは脳裏に浮かんだ人物を思い頬を緩める。
 どの場所でも一緒に居た。眉間にいつも刻まれていた皺は気難しそうに見えていたかもしれないが、いつでも後ろをついて回った自分を振り返ると、手を差し伸べてくれた。厳格さの中に潜む優しさは繋いだ手から伝わっていた。
 思考の海に沈みそうになった瞬間。
「っ! すっぱ!!」
 かりっと口の中で噛んでしまった飴の中には梅エキスが入っていた。一息に広がっていく特有の酸っぱさにのとうは、うはーっと顔をしかめた後……一人小さく笑った。


 寺の石柱を潜り見上げた石段を一つ一つ上る。
 両端に大きく延びた木々が陰を落とし、まるで蝉の声に合わせるように木漏れ日がキラキラ輝いていた。
 途中通り過ぎた実家、意図的に素通りした訳じゃない。弟や家族と仲が悪いわけではなく、気がつけば自然と足がこちらへと向かっていた。ただ、それだけ、
「……到着、だな」
 敷居を跨ぎ境内へと入る。
 じゃりじゃりと玉砂利が心地よい涼しげな音を立てた。
「こんにちは」
 鐘撞堂の側でさで掻きを使い掃除をする住職に声をかけられたのとうは、僅かな間立ち話に興じる。
 深く立ち入ることのない、世間話。住職は穏やかに日常を語り、相づちを打つのとうに微笑んだ。これまでのことこれからのこと、今のこと……そんな話をする気分でないことを察しているような会話に、のとうは胸を撫で下ろす。
 何となくの理由なんて……説明に困る。

「引き留めて悪かったね。貴女が詣でるのを心待ちにしているかもしれない」
 そんな住職に見送られ、裏手にある見晴らしの良い墓所へと向かった。
 手入れの行き届いた古い墓前には、まだ真新しい花が生けてある。きちんと守られていることにほっとする。きっと今でも目を閉じれば瞼に浮かぶ、あの気難しそうな表情を浮かべて……座していることだろう。
「じいちゃん……」
 膝を折り手を合わせ、目を閉じた。
 俺、撃退士になったよ。剣を持って戦ったんだ、戦ってるんだ……。それを自分は伝えたかったのだろうか? 大切な祖父に……握った手から暖かさをくれた祖父に……。
 のとうは、静かに息を吐ききった。
 そして、顔を上げ墓碑を見つめ
『元気にしてるよ』
 これだけしか、出てこなかった。これだけで十分だと思った……何でだろうな。
 告げると同時に自然と顔が綻んだ。
 おじいちゃん子で、後ろをよく着いて回った自分。まだ小さかったからか、じいちゃんはとても大きく見えた。言葉は少なかったけど、時々振り返って、俺がちゃんと着いてきているか確認してくれて……遅れると立ち止まり手を伸ばしてくれた。
 その手が大好きで……だから……だから、俺は――
「元気にしてるよ」
 重ねて、にかりと笑った。
 きっとじいちゃんも笑ってくれるハズだ。その気難しそうな顔に深い深い皺を刻んで……。

 鳴いている蝉がひぐらしに変わった。
 夕暮れが近い……帰ろう。そう思い立ち上がったのとうの背を押すように一陣の風が吹き抜けていく。
 木々がざわめく、飾られていた黄色の花が揺れる。
『のとう』
 呼ばれた気がした。けれど、のとうは振り返らない。山の向こうから色を変えていく空を見上げて、口角を引き上げた。
 これで良い。一人頷いて来た道を戻っていく。


 ガタン……ゴトン……
 帰りの電車、規則正しい揺れを心地よく感じ揺られながら、のとうは来たときと同じように車窓をぼんやりと眺める。
 同じように窓をあけ、故郷に吹く風を感じる。

 あの先に畑がある。俺はその道を歩いた……――
 昔と変わらず広がっているひまわり畑が風に揺れ、間にある細い畦道をちらちらと隠しては見せ、見せては隠し……隠してはまた……その姿をのとうに見せた。

 西日を浴びて、オレンジ色に輝くひまわり。
 ザァァァ……と風に煽られて波立つ。
 その景色をただ……ただ、じっと眺めた。
 その目に何かを焼き付けるように……何かを思い出すように……。

『じいちゃん!』
 幼い自分の声が響いた気がして、のとうは着いた肘の先に頭を預け瞳を細めた。

 俺はあの道を歩いた。じいちゃんに手を引かれて――

 ひまわり畑を越えて――


【ひまわり:了】





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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja3056 / 大狗 のとう / 女 / 20 / ルインズブレイド】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 ご依頼ありがとうございました。サラサです。
 人は色々な面を持つもの、のとうさんの持つその一面を上手く描けていれば嬉しいなと思います。
 漫ろ歩いた夏の一幕、ご希望に近づけることが出来ていれば幸いです。

 それでは、重ねましてご依頼ありがとうございました。
アクアPCパーティノベル -
汐井サラサ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2014年09月22日

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