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『向こう岸の打ち上げ花火 』
小野友真ja6901


「一番星、どれだかわからんなー」
 気づけば満天の星空だった。そんなに遅くなってしまったかと、小野友真は見上げて呟いた。
 依頼の調整、通常授業。
 久遠ヶ原生徒の、日常は忙しい。
 どこぞから響く犬の遠吠えを聞くとはなしに聞きながら、一人で家路を辿る――歩き慣れた、角を曲がり。

 くらり

 眩暈に襲われ、体のバランスを失った。
(……あ、れ?)
 ――そういえば水分補給いつしたっけ
(コーラ飲みたい)
 コーラがあれば生き返る、そんな気分だが生憎、手荷物の中にエネルギー源は無い。
 涼しくなってきたからと調子に乗っただろうか……車で迎えに来てもらおうか……
 制服のポケットからスマホを取り出す間も、くるくる回る視界と思考。
 街路灯が、ジジジと音をたてた。




 いつの間に、目を閉じていたのだろう。
 路傍に座り込んでいたらしく、痛む節々に顔をしかめながら友真は顔を上げ――
「……ッ!!」
 息を呑む。目を見開く。心臓が10秒くらい止まる。
 ぼんやりとした街路灯の下に、顔色の悪い痩身の男が立っている。
 柔らかな黒髪、白い肌、少しくたびれた黒いスーツ。紫の瞳だけが、唯一の色彩として浮かんでいた。
「ろ  ろくがつぶりですね」
「どうした? 声が震えているぞ?」
「……夜道に溶け込み過ぎやろ、米倉さん……」
 確信犯的な薄笑みを浮かべ、照らし出された男は、米倉創平は腰を抜かしたままの友真を見下ろした。
『帰り、遅くなる』
 手短にメールを送信。ゆっくりと友真は立ち上がる。
 震えは、驚きから緊張へと意味を少しだけ変えていた。
「えと……時期ちょい外れた、社畜的お盆休暇です……?」
「どちらかというと、『そちら』が近づいてくる頃合いだろうな」

 暑さも寒さも――まで。
 9月も半ばを過ぎ、『向こう岸』を想う季節。
 犬の遠吠えに紛れ、虫の音が響く。

「……近づいて、お話しても、ええですか?」
「否と言ったところで、するのだろう」
「公園に行きましょっか、座ってのんびり…… あ、コーラ買ってこ。米倉さんは、何にします?」
「……忙しないな、相変わらず。ブラック、無糖で」
「疲れた体にマックスコーヒーなんかオススメなんですけd」
「無糖で」
「はい」




 プルタブを起こす音も、夜空に届くような静かな公園。
 日中は子供たちが遊んでいるし、夜は体力づくりに走る人を見かける。
 『誰も居ない』だなんて、滅多にないことだった。
 思い当たる節は友真にもあるが、敢えて深くは考えない。
 炭酸で喉を潤し一息ついてから、少し距離を置いて座るその人を見上げた。
「俺、夏が誕生日なんもあって夏大好きなんです。米倉さんは…… ……夏、苦手そうなイメージありますね」
「……そうか?」
 まじまじと見つめられても動じず、米倉は長い脚を組んで開けないままの缶コーヒーへ視線を落とす。
 ――夏。彼が、さいごを迎えた季節。
 どう、感じているのだろう。
「京都を任されて、代将が派遣された秋が一番厳しかったと言ったら…… 怒られるだろうな」
「……ああ」
 京都を制圧した時は――それはそうそうたる軍勢であった。
 が、集った使徒や天使たちは各々の目的の為に散り散りとなり、主君もまた戦線を離れ。代わりに送られた将は人間を『原住民』と評する――評していた――
「京都・秋の陣」
「雨降って、地固まったともいうがな」
 敗戦を経て、少年代将も、こちらへ耳を傾けるようになった。
 ――それまでが、大変だったのだと米倉は言う。
「それなら。『人間』の頃は、どないです? 楽しい事沢山で、夏祭りも花火も色々楽しくてー。ロマンスだったりアドベンチャーだったり!」
「…………」
 沈黙。
 悪いことを聞いたろうかと、不安になって身をかがめて横顔を覗けば、真剣に思い出している風だ。
「コンペを控えた夏祭り……に、食中毒で倒れた女子社員の代わりに いや、それは楽しくはないな。ロマンス……大学の……あれは違うな。アドベンチャーと言えば冬の残業中に停電が起きて閉じ込めらr」
「すみませんでした」
 女子社員の代わりに何をしたのか、
 大学時代のロマンスとはなんぞ、
 食いつこうとしたところでアドベンチャー編で『アカンやつ』と本能が働いた。
「高校の夏は、楽しかったな。小野は…… ……高校生、か?」
「はい! えっと、この夏に19になってんけど、久遠ヶ原の進級進学は9月なんで!」
「俺は推薦で第一志望の大学が決まったから、図書館の本を片端から読み倒していた……。充実していたな」
「すみませんでした」
 高校三年生として、なんとなく。
(はっ、これは……もしや、勉強を教えてもらえるフラグ!?)
 教師:米倉 そんなフレーズが脳裏に浮かぶ。

『……小野、この程度も解けないのか……。君は、授業中に何をしていた?』
 落胆の音声が再生されたところで、スイッチをオフにした。

「あっ、あと夏と言えばあと怪談な! ……怖いんやけど、好奇心でつい見ちゃうんすよね……」
「ほう」
 がっちり、目が合う。確信犯ですか。確信犯ですね。
「さぞかし、先ほどは見ごたえがあったようだな」
「『米倉怪談』として、語り継ごうと思いましたよね」
「それは良い」
「!」
 笑った!
「子供の頃から、噂になったものだ。懐かしい」
「どれくらい、日に焼けないお子さんだったんですか……」




 遠く、尾を引いて火の玉が天へと昇る。音も聞こえないくらいの、打ち上げ花火。
 納涼と称したイベントが、何処かで開かれているようだ。
「おー、すげえ綺麗……」
 それから、幾つも幾つも上がっては咲く、咲く、咲く。
「……米倉さん、光のトラウマとか大丈夫です?」
「はは」
 思わず真顔で問えば、小馬鹿にするような冷笑が返った。
「ダメージを受けたのは、俺ではないからな」
 ――トラウマは、そんな安易なものじゃない
「……?」
 聞きかえそうとしたとき、覚えのある鈍痛が頭の奥に走った。
 花火が輝く、その度に大きくなる。――これは。
「米倉さん」
 この間は、中途半端だったから。
「……次は、ハロウィン?」
 おどけるように小首を傾げ、握手を求める。
「日本は、つくづく『交流』が好きだな」
 鮮やかな光を背に、米倉が眉根を寄せた。困ったような、笑顔。
 ひんやりとした、手の感触。
 
 ――パン

 遠い筈の花火の音が、鮮烈に耳元で響いた。

 ――ねぇ、米倉さん。
 6月に話してくれた、最強の殺し文句。
 きっとちゃんと、伝わってたと思いますよ。
 って俺が言う事やないですね。……けど、きっと幸せやったと思うよ、彼女。




「っっクシュ」
 公園のベンチで横たわっていた友真が、クシャミと共に目を覚ます。
 遠くでは、鮮やかな花火大会。振動まで伝わる。
(この音で、よう寝てたなー……)
 ゆっくりと体を起こすと、ベンチの端には開けられていないブラック缶コーヒーが置いてあった。
「……? ……!」
 ――Happy Birthday
 やたら達筆に走り書きされた、世界でたった一つの缶コーヒー。
 ひとしきり挙動不審な謎の踊りをした後、友真は家路を急ぐ。
(早う、話したい)
 家で待っている人へ。

 仕事が出来て真面目で冷静で、でもちゃんと目線を合わせて話してくれる年上の不思議な友人の事を。




【向こう岸の打ち上げ花火 了】


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja6901/ 小野友真  / 男 /19歳/ 満開の花火の下】
【jz0092/ 米倉創平 / 男 /35歳 / 仄暗い街灯の下】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご依頼、ありがとうございました。
米倉怪談、お届けいたします。いやそれ違う。
お楽しみいただけましたら、幸いです。
アクアPCパーティノベル -
佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2014年09月22日

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