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『大輪の華は異界の空に 』
足立 真ka0618)&天羽 凱ka0876



 クリムゾンウェスト。
 紅界と呼ばれるその地の空は、しかし、その名に反して紅くはない。
 昼間に見上げる青さも、夜の暗さも、故郷の空と変わりない様に見えた。

 けれど、ここは故郷とは似て非なる世界。
 夜空に星が瞬く様子は変わらないが、それが描く星座は記憶にあるものとは違っていた。
「もっとも、星にそれほど興味があった訳でもないが」
 街角にひとり佇む足立 真(ka0618)の目下の関心事は、そんな事よりも――
(この格好、おかしくないだろうか)
 浴衣など小学生以来だ。
 どうも気になる。道行く人々が、ちらちらと自分の方を見て笑っている様な気さえしてくる。
 この世界で浴衣を手に入れるのは難しい。だから自分で布地を見繕い、裁縫の得意な兄に仕立てて貰ったのだが――
 なるべく地味な色を選んだつもりでも、仕立ては女性用だ。
 見た目が男前である事は自覚しているので、下手をすれば女装に見えはしないかと不安になる。
 そんな事はないと、兄は言ってくれたけれど――

「よう、馬子にも衣装だぜ?」
 背後から突然かけられた声に、真は思わず飛び上がる。
「凱……!」
 振り向くと、待ち人がそこにいた――真の恋人、天羽 凱(ka0876)だ。
 黒の着流しを粋に着こなした彼は、品定めをする様に真の全身を眺め回した。足の爪先から、頭の天辺まで、ニヤニヤと笑いながら。
 やっぱり何か変だろうかと、真の心拍数は跳ね上がる。
 そればかりか、その視線が止まった場所が唐辛子でも塗られたかの様に熱くなった。
「ん? どうした?」
 わかっているくせに、凱はわざわざ訊ねて来る。
 真にとって人生初の恋人である凱は、故郷では女性にも人気のイケメンボクサーだった。
 自分でも己が美形である事は理解している様で、何と言うか、自分の見せ方というものを心得ている。
 今も襟元を必要以上にはだけた姿が無駄に色っぽく、真はからかわれているのだとわかっていても、ついドキドキしてしまうのだ。
 見られただけでもドキドキなのに、耳元でそっと囁かれたりしたら――
「浴衣…色っぽいな」
「ぅぎゃっ!!」
 叫び声が全くもって色っぽくないのはご愛敬。
 だって仕方ないじゃない、ついこの間まではバリバリ硬派の軍人だったんだから。
「ほら、行くぞ」
 ニヤニヤ笑いを隠そうともせず、凱は先に立って歩き出した。


 今日は花火大会。
 と言っても、慣れ親しんだ故郷のそれとは少し趣が異なる。
 会場付近には移動遊園地やサーカスのテントが並び、沿道に軒を連ねる屋台もホットドッグやハンバーガー、ソフトクリームなど、洋風の軽食を提供するものが多い様だ。
 その屋台を彩る明かりも、ネオンサインの様に派手な光を放っている。
 あちこちから軽快なリズムに乗った賑やかな音楽も聞こえ、まるでカーニバルの様な雰囲気だ。
「まあ、この世界に日本的な情緒を期待するのも無理な話か」
 凱と並んで歩きながら、真は小さく苦笑い。
 でも、これはこれで悪くない。
 悪くはないが……たまに金魚すくいや飴細工を売る店などを見かけると、つい嬉しくなって小走りに駆け寄ってしまう。
 店の主人はどう見ても日本人ではなかったが、屋台の雰囲気は記憶にあるものと変わらない。
 自分達と同じ様に、こちらの世界に転移してきた誰かが広めたのだろうか。
「懐かしいな。あたし、金魚すくいは得意だったんだ」
「やっていくか?」
 凱の言葉に思わず頷きそうになり、真は慌てて首を振った。
「今はちょっと、世話の時間も取れそうにないし」
 家には犬が四頭、それに虎猫までいる。猫と金魚なんて最悪の組み合わせだ。
「なら、店に預ければ良い」
「兄ちゃんの所?」
 真の兄が留守を預かる機械修理工場、足立工務店。
 応接室にちょっとした彩りを加えてみるのも悪くないだろう。
「つまり、兄ちゃんに押し付けろと?」
「そうとも言うな」
 ちょっと悪い笑みを浮かべ、二人は金魚すくいの屋台へ。
「でも、だいぶ長いことやってないからな……」
 浴衣の袖を端折り、真はタライで泳ぐ赤い金魚達に真剣な眼差しを向ける。
 ポイと呼ばれる道具の角度を調整し、狙った金魚をめがけて素早く――
「ていっ!」
 あれ?
 逃げられた。
「今度こそ……っ、えっ!?」
 今度は紙が破れてしまった。
「何だ、口ほどにもない」
 ニヤリと笑って、今度は凱が新しいポイを手に取った。
「こういうのは、相手の動きを読む事が肝心なんだ」
 つまりはボクシングと同じ。
 そして凱は、元プロボクサーだ。
 動きの先読みなら、相手が人間だろうと金魚だろうと――
 ポイポイポイ、たちまち六匹の金魚がすくい上げられる。
「すごい……!」
 真は素直に感心するが、しかし自慢げにニヤリとされたのが、ちょっと悔しくもある。
「よし、次は射的で勝負だ!」
 今度は負けないと息巻くが……さて、これはいつから勝負になったのか。
「はっ!」
 そうだ、今日は折角のデート。
 しかも自分は浴衣姿で、こんな格好で射的に興じる女子なんて、多分きっとドン引きされる――!
 そう思ったら急に、再び不安と心配と恥ずかしさが押し寄せて来た。
 自分は見た目も言動も男っぽく、オシャレとも縁遠いリケジョの元軍人。
 女の子が大好きで、かつ、これまでガールフレンドにも不自由せず、遊び馴れているであろう凱から見れば、女子の範疇に入っているのかどうか、それさえ心配になってくる。
 頭も固く女の子らしくないし、こんな自分で本当に良いのだろうか。
「そんなとことも、可愛いぜ?」
 ぐるぐるしている所に不意打ちの様に囁かれ、真はもう反撃の意思を根こそぎ引っこ抜かれた様子で顔を真っ赤にしている。

 と、そこに――
 一瞬、上からライトで照らされたかの様な光を感じ、二人は顔を上げた。
 僅かに遅れて、ドーンという腹に響く音が空気を震わせる。
 間もなく花火大会が始まる合図だ。
「もうこんな時間か」
 屋台の冷やかしに夢中になりすぎたかと、凱は真を促した。
「向こうに見晴らしの良い場所がある。行くぞ」
 流石はエスコート慣れしていると言うべきか、凱は事前に下見を終えて、花火見物に最適な場所の目星も付けておいた様だ。
 人混みを巧みに避けて早足で歩き出した凱の後を、真は慌てて追いかける。
 ところが。
「……どうした?」
 何かいつもと違う気配を感じて、凱が振り返る。
 普段ならすぐ後ろを付いて来る筈の真は、遥か後ろで人混みに飲まれそうになっていた。
 よく見れば、歩き方が少しおかしい。
 どうやら慣れない下駄のせいで、鼻緒擦れを起こしてしまった様だ。
「酷いな」
 戻って来た凱が跪いて誠の足を見る。
 デートの嬉しさと緊張と、気恥ずかしさと……その他、色々な思いで頭も心も一杯で、限界に来るまで痛みを感じる余裕もなかったらしい。
 そんな彼女を、凱は不覚にも本気で可愛いと思ってしまった。
「これくらい平気だ、歩ける」
「馬鹿、大人しくしてろ」
 そう言って歩き出そうとする真の肩を、凱は照れ隠しのつもりか、少し乱暴に押さえ付ける。
「花火なんか、ここからでも見えるだろ」
「でも、せっかく良い場所を見付けてくれたのに――」
 食い下がる真。
 だがそれがただの強がりである事は、眉間に刻まれた皺の深さを見ればわかる。
 かなり痛い筈なのに、頑固な奴め。
「そんな顰めっ面で見られても、花火だって困るだろうが」
 花火は楽しく見るものだと、凱は真の身体を軽々と抱き上げた。
 所謂、お姫様抱っこだ。
「えっ!? ちょ、ちょっと、やめ! やめろ、恥ずかしい! こら!」
「暴れるなよ、このジャジャ馬」
 腕の中でジタバタ暴れるお姫様に、ナイトは甘い言葉を――囁かない。
「金魚が目を回してるぞ」
 言われて気付けば、金魚を入れた袋はヨーヨー風船の様に振り回され、暴れ回っている。
「それに、騒ぐと余計目立つ」
 冷静に指摘され、真はゼンマイの切れた人形の様に大人しくなった。
 緊張でガチガチに身体を強ばらせながら、大人しく運ばれて行く。
 何処へ行くのかと思えば――

「とりあえず、ここで冷やしておけ」
 綺麗な水の流れる、川の畔で降ろされた。
 言われた通りに下駄を脱ぎ、足を浸ける。
 ひんやりと冷たい水は、腫れた足ばかりではなく、火照った顔まで冷やしてくれるような気がした。
「ごめん、あたしのせいで……」
 がっくりと肩を落とした真の首筋に、凱はこっそり冷たい雫を落としてみる。
「ひゃっ!?」
 驚いて飛び上がった拍子に足を滑らせ、あわや水の中に尻餅――という寸前。凱の腕が伸びて、その身体をしっかりと支えた。
「あ、ありがとう……」
「花火大会は毎年ある。また来年、一緒に来れば良いさ」
 耳元で囁く。
 しかし、返って来たのは予想もしない一言だった。
「良いのか?」
 どういう意味だと首を傾げる凱に、真は言葉を重ねる。
「来年も、隣にいて……良いのか?」
「当たり前だろう」
 ふいっと横を向いた凱がどんな表情をしているのか、暗くて良く見えなかった。
 だが、そのシルエットになった横顔に、真はじっと視線を注ぐ。
「何だよ、何か付いてるか?」
「いや、睫長いなぁと思って」
「何だそれ」
 ますますそっぽを向いた凱の目に、空に広がる大輪の花が飛び込んで来た。
 ややあって、遠い太鼓の様な音が追いかけて来る。
 花火大会が始まったのだ。
「ここからでも、案外よく見えるもんだな」
 凱が呟く。
 少し遠いが、お陰で全体が良く見渡せる。
 しかも首が痛くなる心配もなさそうだ。
「ここも良い場所だね」
 真は凱の腕にそっと腕を回す。


 また来年、一緒に見れるといいな。
 いや、もう少し……自信を持っても良いのだろうか。
「また来年、一緒に見ようね」
 遠くの花火にじっと目を据えたまま、凱は小さく頷く。

 来年と言わず、再来年も、その次も。
 そんな甘い返事は、もう少し先までお預けにしておこうか――



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka0618/足立 真/女性/18歳/闘狩人】
【ka0876/天羽 凱/男性/20歳/闘狩人】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 お世話になっております、STANZAです。
 この度はご依頼ありがとうございました。

 台詞その他、イメージと異なる場合は遠慮なく修正をお申し付け下さい。

 では、お楽しみ頂けると幸いです。
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ファナティックブラッド
2014年09月24日

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