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『夜更けの星の温もりを、共に。 』
カルマ=A=ノア(ib9961)&ジャミール・ライル(ic0451)

 それは、とある夏の朝のことである。
 夏の太陽は早くから活動を始め、人々が起き出す頃にはじっとりと汗ばむ陽気になっていることも、決して珍しくはない。けれどもカルマ=A=ノア(ib9961)が寝起きしている部屋は、夏の太陽の光を遮ってあるからさほど気温も上がらず、涼しいままだ。
 常ならその涼しさの中で、そもそも朝が弱いせいもあって、微睡みながら過ごしているカルマである。けれどもその日、なぜかいつもよりも早く目覚めたカルマは、何か違和感を感じてしばしばと目を瞬かせた。
 違和感――自分の体温とも夏の暑さとも違う、温もりのようなもの。一体なんだろう、とまだ目覚め切っては居ない頭で考えながら眼差しを巡らせて、すぐ側に居た人影に再び、目を瞬かせる。
 そこに居たのは、決して見知らぬ相手ではない。といって親しいかと言われると、せいぜい開拓者としての依頼で会ったことのある知人、という程度の相手。
 ジャミール・ライル(ic0451)。気安く話せる相手だと思ってはいるが、そもそもそれ以前の問題として。

(どうしてこいつが此処に居る‥‥?)

 ガシガシと頭を掻いて、眠さ故にただでさえ悪く見える目つきをさらに剣呑に細めながら、カルマはしばしの間、すやすやと気持ち良さそうに眠るジャミールを見下ろした。そうして、そもそも事の始まりであろう昨夜のことを思い出そうと、眉間にしわを寄せた。





 ジャミールがその屋敷の前に来たのは、どこからどこまでも偶然だった。
 その日の仕事も無事に終わって、けれども取り立てて好みの客も居なくって。なら仕方ねぇから帰るか、と空に輝く星を見上げながら、ジャミールはふらふらと歩いていたのだ。
 帰る、といってもどこか特定の家があるわけではないジャミールだから、どちらかと言えば一晩過ごせる場所を探しに出かけた、という方が正しかった。星が綺麗だなぁと思ったり、どっか良いとこねぇかなぁと思ったりして、ふらり、ふらりと気の向くまま、足の向くままに歩いていたジャミールは、あれ、と不意に足を止める。

「めずらし」

 それはいかにも大きくて金持ちそうな、ジルベリア風のお屋敷だった。しかもお誂え向きに、どうぞ鳴らして下さいとばかりに呼び鈴まで目の前にある。
 もちろん、目の前に呼び鈴があったのは単なる偶然なのだけれども、あるなら取りあえず鳴らしてみるのが良いだろう。そんな気分でちりん、と一度鳴らしてみたけれども、屋敷の中からは誰かが出てくるどころか、誰何の声すら聞こえない。
 それならとジャミールは張り切って、チリンチリンチリンチリンチリン、数度激しく呼び鈴を鳴らした。ついでにちょっと面白くなったので、もう何回か鳴らしてみたりして。
 けれども――

「誰も出ねぇし‥‥」

 いっこうに反応のないお屋敷に、ジャミールはがっかりしてぺたん、とその場に座り込んだ。そうして門柱にもたれ掛かると今度は、こんなところに呼び鈴を付けときながら出てきてくれないなんて、とふてくされた気分になってくる。
 適当にその辺に生えていた草をぶちぶちとちぎりながら、このまま此処で寝てやろうか、何て考えていたジャミールの姿に、遠くから気付いたカルマがひょい、と眉を寄せた。否、正確にはまだ距離もあり、まして暗いこともあってジャミールだと解ったわけではないのだが、仕事を終えて間借りした屋敷に帰ってきたと思ったら、門前で座り込んでいる人影が居たらたいてい、同じ反応になるだろう。
 不審者だったら蹴り飛ばして追い払おうなどと考えていたカルマは、けれどもその人影の正体が顔見知りだと解るとますます、眉間のしわを深くした。ぺったりと座り込み、せっせと草むしりに勤しむ相手はまだ、カルマに気付いた様子はない。
 はぁ、と呆れたような深い、深いため息を吐く。

「‥‥誰かと思ったら‥‥。此処で何してやがんだ?」
「あー‥‥? ‥‥あ、おっさんじゃん! おひさー」


 その言葉にようやくひょいと顔を上げたジャミールは、カルマの姿を見てぱっと人懐こい笑顔を浮かべた。そんなジャミールの姿に、ますますカルマの眉間のしわが深くなった気がしたけれども、まったく気にしない。
 見た目も、ついでに言えば雰囲気とかも何となく怖いけれども、カルマが優しくて良い人だと言うことを、ジャミールはちゃぁんと知っている。だから、もし自分に尻尾でもあればパタパタと全力で振らんばかりの勢いで、ジャミールはカルマのことが大好きなのだ。
 こんな所でおっさんに会えるなんてラッキー、と思っていたジャミールはふと、そもそもなんでおっさんがここに? という根本的な疑問に気がついた。うーん? と首をひねって考えてから、あれ、と気付く。

「もしかしてここ、おっさんの家?」
「まぁ――間借りしてるだけだがな」
「マジで!? じゃ、俺を泊めて?」

 カルマが頷いた瞬間、ガバッと立ち上がったジャミールの、それでもちょっとダメ元で言ってみた精一杯可愛いおねだりに、カルマは軽く目を細めた。間借りしているだけだと言っただろうとか、そもそも面倒くさいとか、色んな思いが一瞬のうちに沸き上がり、躊躇いもせず断りの文句を口にしようとする。
 だがそんな気配を察したのだろうか、ジャミールは「泊めてくれよー」と可愛らしく、と言うよりはどこかだだっ子を思わせる表情になった。何しろもう夜も遅いから、ここでカルマを逃したら多分、ほぼ間違いなく野宿決定だ。
 ゆえにカルマにまとわりつくようにして、ジャミールはせっせとアピールをする。

「俺、めっちゃ楽しいからさ。おっさんが寝るまで寝物語とか出来るし、多分。超頑張るし」
「――ク‥‥ッ」

 そんなジャミールに、ついにカルマは小さく吹き出して、仕方ねぇな、と眉間のしわを緩めた。大人しくしてろよと言い添えて門を開けてやると、ぱぁぁぁぁッ、と実に解りやすくジャミールの顔が明るくなる。
 それにまた小さく笑って、カルマは一緒に屋敷の門をくぐった。――もっとも、浮かべている表情はそれでも、仕方なさそうにも面倒くさそうにも見えたけれども。





 実際に中に入ってみると、そのお屋敷は見た目以上にとても豪華だった。少なくとも、ジャミールの目にはそう映った。

「ふぉぉぉぉぉ‥‥」

 豪華な家は大好きなジャミールは、あちらこちらを見て回りたくて、そこに置かれている調度を色々と触ってみたくて、うずうず、きょろきょろと落ち着かない。すぐにじっとしていられなくなって、好奇心のままに部屋の中を、あちらこちらと探検し始める。
 そんなジャミールをちらりと見て、壊すなよ、と言いながらカルマはくつろいだ服へと着替えた。身体を締め付けない、ゆったりとした襟ぐりの服を纏ったカルマが再び戻ってきた時には、手に酒瓶を持っている。
 それに気付いたジャミールが、パタパタとカルマの前に戻ってきた。

「何おっさん、お酒飲む?」
「あぁ、少し寝酒でも、とな」

 そう言ってひょい、と掲げて見せた酒瓶に貼られたラベルは、あまり聞き覚えはないけれども見るからに豪華そうである。もっとも肝心の中身はあまり残って居ないようだったけれども、寝酒程度にはちょうど良い量なのだろう。
 そっか、と頷いたジャミールは、当然の顔をしてサイドテーブルの片方の椅子にちょこんと座った。

「俺も飲むー」
「ちゃんと味わえよ」

 そんなジャミールにまたくつりと喉を鳴らして、カルマは当たり前に彼の前にもグラスを置く。最初から、ジャミールもどうせ飲むだろうとグラスは2つ、用意してあった。
 ほら、とそんなカルマにジャミールは笑顔になる。やっぱり、おっさんはめっちゃ優しい。
 寝酒に乾杯というのもおかしな話だけれども、ジャミールが楽しそうにグラスを掲げて「おっさん、かんぱーい」と笑うから、カルマも一緒に乾杯をした。そうして口を湿らせるような速度で、のんびりと飲む酒の肴は、ジャミールが口にする様々な話題。
 寝物語、という言葉を実践しているわけではないのだろうが、彼は終始楽しそうに酒を飲みながら、最近の仕事の話とか、ちょっと変わった客の話とか、そう言ったことを面白おかしく話して聞かせる。時には身振り手振りも混じるそれを、ゆったりと聞きながら、時にくつくつ笑って飲む酒は自分でも不思議なくらい、いつもよりもずっと美味い。
 楽しい会話が酒を進ませて、気付けば酒瓶の中身はあっと言う間になくなっていた。それでも窓の外へと視線を向ければ、もう十分に夜も更けて、誰も彼もが眠りに沈んでいる頃合い。
 まだもうちょっとばかり話すのも飲むのも足りなさそうな、ジャミールを促してカルマは酒瓶とグラスを片付けた。そうしているうちに、今度は眠くなってきたらしいジャミールを連れていったのは、カルマ自身が寝起きしている部屋に1つしかない寝台だ。
 そもそも人を泊めるための部屋など必要を感じていなかったから、用意などしていなかった。とはいえ、寝台は十分に広くてカルマ1人では持て余すほどだし、大の男が2人寝たところで十分に余裕はある。
 そう思っていたのだが、上衣などを脱いで肌着だけになったジャミールは、もそもそと寝台に潜り込むとそのまま当然のように、カルマにぴとりと引っ付いてきた。薄い布越しに伝わってくる体温が、いつもの夜とは違って少し、眉を寄せる。
 とはいえ、ジャミールを邪険に追い払う気にはなれなかった。もとより男との接触は平気な方だし、何よりそもそも、どこか幼さを感じさせるジャミールのことを、子供のように思い、扱っている部分があるのも事実である。
 ゆえに自由にすれば良いと、何も言わずにぽふりと頭を撫でてやったカルマに、撫でられたジャミールはへへ、と嬉しそうに笑った。拒絶をされないのに甘えて、遠慮なくカルマにしっかりとくっつく。
 チュッ、とお休みのキスをしたら、またぽふりと頭を撫でてくれたから、とってもとっても嬉しくなった。今日の宿がおっさんで、本当に良かったと思う。
 だからジャミールは良い気分で、うっとりとカルマの体温に包まれ眠りに落ちる。伝わってくる人肌の体温が、いつも以上に安心出来るような、気がした。





 なかなか目覚めようとはしない頭で朧気に昨夜の出来事を思い出し、そう言えばそんな事があったっけな、とカルマは大きな欠伸をした。ぶん、と頭を振ってみたものの、どうにも覚醒の気配は訪れない。
 代わりに、しっかりとカルマに抱きついて寝ていたジャミールが、んー、と寝ぼけた声を上げた。

「なに‥‥朝‥‥?」

 そう、寝ぼけた声で言葉を紡ぎはしたものの、一向に目が開く気配はない。カルマに負けず劣らず朝が弱いジャミールは、まだまだ半分以上は夢の中に居る。
 うとうと、すやすやと今にも眠りに落ちそうになりながら、それでも何とか目を開こうとしている気配のジャミールに、カルマは小さく笑った。そのままジャミールを抱き寄せて、その頭に顔を埋めるようにしっかり抱き込む。
 眠気と笑いの混じった声は、不思議と眠気に負けそうなジャミールの耳にもしっかりと響いた。耳元で動いたカルマの唇が、少し触れてくすぐったいような、不思議な心地が気持ち良い。

「‥‥もう少し、寝とけ」
「‥‥ん」

 そう、ジャミールに言ったきりそのまま二度寝に突入したカルマに、ジャミールは微睡みながら頷いた。そうしてカルマの胸に顔を埋め、カルマにしっかりと抱かれながら再び、安らかな眠りへと滑り落ちていったのだった。





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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 /    PC名    / 性別 / 年齢 / 職業  】
 ib9961  / カルマ=A=ノア  / 男  / 46  / シノビ
 ic0451  / ジャミール・ライル / 男  / 24  / ジプシー

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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いつもお世話になっております、蓮華・水無月でございます。
この度はご発注、本当にありがとうございました。
そしてお待たせしてしまいまして、本当に申し訳ございません‥‥(土下座

顔見知り(?)のお2人の、いつもとは違う夜の出来事の物語、如何でしたでしょうか。
色気を目指して進んでいるうちに、なんだか違うイメージになってしまったような気がしなくもなくもありませんすみませんごめんなさい(土下座
何となく、わんこさんと飼い主さんのようなイメージでした‥‥あくまでイメージですが。が。
えぇと、どこかイメージが違うところなどございましたら、ご遠慮なくリテイク頂けましたら幸いです。

お2人のイメージ通りの、どこかくすぐったいような心地よいような空気を紡ぐノベルであれば良いのですけれども。

それでは、これにて失礼致します(深々と
アクアPCパーティノベル -
蓮華・水無月 クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2014年09月29日

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