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『Seaside Rhapsody. 』
緋月jb6091)&小田切ルビィja0841)&綾羅・T・エルゼリオjb7475

「すみません、買い物に付き合わせてしまって……」
「別に、用事もなかったからな。さすがにこれ、1人で持つには多いぜ」

 賑やかな商店街の目抜き通りを、並んで歩きながら申し訳なさそうに謝る緋月(jb6091)に、そう笑ったのは小田切ルビィ(ja0841)だった。これ、と言いながら持ち上げたのは、パンパンに膨れ上がった買い物袋。
 撃退士としての任務はひっきりなしにもたらされているとはいえ、久遠ヶ原学園においても夏休みというのが学生にとって喜ばしく、楽しい時期だというのは変わりない。例え夏休み明けには年に1度の進級試験が待っていると言っても――だ。
 ゆえに商店街を歩く人々の中には、開放的な明るい顔をしているものも多い。意味もなく人ごみの中を歩くのも、休みの日には楽しいものだ。
 とはいっても、ルビィがその商店街に足を向けたのは、まったくの気まぐれだった。何か買いたいものがあったとか、人と会う用事があるとかですらない――ただの、純然たる気まぐれ。
 だから。

『……あら? えぇと、小田切さん……?』

 同じく商店街に買い物に来ていた緋月に、ひどく驚いたようにそう声をかけられて。これから色々と買い物をする予定なのだと言った彼女につき合うと申し出て、こうして荷物持ちがてら、ぶらぶらと歩き回っている。
 だからむしろ、暇潰しにつき合ってもらっているのはルビィの方と言っても過言ではないのだと、言ったら緋月は今度は、ありがとうございますとはにかんだ。そうして次はこのお店ですと、入った先でまた色々と買い物をした緋月が支払いを済ませると、どこか微笑ましそうな眼差しのレジのおばさんが、はいこれ、と何かの券を渡してくれる。

「くじ引き券、あと100円だったから1枚おまけしといてあげようね」
「くじ引き……ですか?」

 その券を受け取って、緋月はきょとん、と目を瞬かせながら首を傾げた。そういえば、これまでの買い物でもこんな券を一緒に渡された気がするけれども、あまりよく憶えていない。
 そんな緋月におばさんは、おや、と目を丸くした。

「お嬢ちゃん、やった事ないのかい? 商店街で買い物をしてくれたら買った金額の分だけ券がもらえるからね、15枚集めたらくじ引き会場に行って」
「まぁ、大抵は末賞のティッシュとかお菓子とかだけどな。当たればそれなりに、豪華な賞品もあるぜ」
「へぇ……なんだか面白そうですね」

 そうしておばさんとルビィがしてくれた説明は、よく解らないけれどもどこか、興味を引かれる。ならせっかくだからやってみましょうと、改めてお財布からこれまでに貰っていた券を探し出してみたら、残念ながらあと少し足りない。
 あらら、と緋月はがっくり肩を落とした。どこか飼い主にすがる子犬を思わせるような眼差しで、傍らのルビィをじっと見上げる。

「小田切さん……足りませんでした……」
「仕方ねぇな……緋月、あとはどっか買い物する予定ないのか?」
「えぇと……」
「――あら、じゃあこれあげるわ。もう引いてきたんだけど、1枚余っちゃったのよ」

 そんな2人のやり取りに、通りがかった主婦らしき女性がはい、と1枚渡してくれた。良いんですか? と緋月が目を瞬かせているうちに、じゃあこれも上げるわ、私のも、と次々余り券を譲ってくれて。
 あっという間に緋月の手元には、15枚のくじ引き券が集まった。じゃあ早速引いてみようと、くじ引き会場を教えてもらって受付のおじさんに券を渡し、やり方をルビィに教えてもらいながら、がらがらとハンドルを回してみる。
 思いのほか重いハンドルが、グルンと一周して小さな口から、ポトン、と玉が1つ転がり出た。色は――金色。
 金色は何等だろうと、揃って景品一覧の紙を見上げた緋月とルビィは、そこに書かれていた内容を読んで驚きに顔を見合わせた。

「お、小田切さん……! 1等が当たりましたよ!?」
「あ、ああ……」

 そこに書いてあったのは、『1等(金色) 豪華リゾートホテル・ペアご招待券』の文字。もちろん商品として存在している以上、誰かには当たるはずなのだけれども、まさかそれが自分の目の前で本当に起こると想像する人は、そうは居ない。
 ゆえに、しばし金色の玉を呆然と見下ろしていたのは緋月とルビィだけではなく、それを確認した受付のおじさんも同様だった。だが一拍おいて、己の職能に立ち返ったおじさんがまるでやけくそのように、手にしたベルをカランカランカランと激しく鳴らしまくる。
 それにすっかり嬉しくなった緋月は、受付のおじさんの震える手からペアチケットをしっかり受け取ると、満面の笑顔で――そして内心はちょっとドキドキしながら、ルビィにこう提案した。

「小田切さん。よろしければ、ご一緒に行きませんか? 小田切さんに買い物に付き合って貰ったおかげで、こうしてくじ引きをすることが出来たんですから……今日のお礼も兼ねて」
「――えッ!? 俺も一緒で本当に良いのか?」

 誰と行くんだろうな―リゾートホテルか良いなーどんなんだか見てみてぇ、と実はこっそり思っていたルビィは、そんな緋月の提案に目を見開いた。確かに行きたいと思ってはいたけれども、お礼と言っても本当に荷物持ち程度のものだし、当てたのは緋月なのだ。
 けれども緋月は真剣な面持ちで、もちろんです、とこっくり頷く。そうなると逆に固辞するのも気が引けるし、何よりルビィも行ってみたいのは本当なのだ。
 だから、ありがとなとぽふり、緋月の頭を撫でた。そうして日程や待ち合わせの詳細を決めて、せっかくだから緋月の家まで荷物持ちを勤めたルビィを見送ると、緋月は早速兄の綾羅・T・エルゼリオ(jb7475)に満面の笑顔で今日あったことを報告する。

「兄様! ホテルのペアチケットが当たったんです!」
「なんと!? さすがは我が妹! では早速、旅行の予定を……」
「ですから以前、お話した小田切さんと行って来ますね」
「何……だと!?」
「今日、買い物に付き合って貰ったのでそのお礼なんです」

 そうして、にこにこと嬉しそうに告げた緋月に、告げられた綾羅はけれども愕然と目を見開いた。せっかく、兄妹で水入らずのひと時を過ごせるチャンスだというのに、綾羅よりも他の相手を優先するなんて――否、それ以前に小田切ルビィと旅行、だと――?
 一瞬の間に嵐のように、綾羅の中をそれらの思考が駆け巡る。そうして「それじゃ、お土産を楽しみにしていて下さいね」と笑顔で部屋を出ていく妹を呆然と見送って、たっぷり30秒は経っただろうか。

「ふ、ふふふふふ……ッ」

 ようやく思考が彼岸から現実へと戻ってきて、綾羅は地を這うような低い声で笑った。あらぬどこかを見つめる眼差しは、妙に座っている。
 可愛い可愛い妹が。愛しくて仕方のない、緋月が。
 よりにもよって男と、嬉し恥ずかし2人旅、だと……ッ!

「男と2人で外泊など、この兄の目が黒い内は許さんぞ、緋月……!!」

 少なくとも500年は早いわッ、と口から炎を吐かんばかりの勢いでそう吠えた。きっと緋月はとんでもなく可愛いくて純粋で愛らしいから、あのにっくきルビィに騙されているに違いない、ああそうに違いない、何という卑劣な男だ小田切ルビィ……ッ!
 半ば以上妄想の中でそう断定して、綾羅は怒りと心配に文字通り身悶えする。だがこうはしていられないと、そそくさと緋月の旅行先を確認するべく、妹の部屋へと足を向けた。
 愛する妹が卑劣な男の毒牙にかかろうとしている(妄想)となれば、綾羅も黙っている訳にはいかない。何としても2人を尾行して、決定的な瞬間は阻止するのが、兄たる自分の役割である。





 豪華リゾートホテルというだけあって、そのホテルはとんでもなく綺麗で、大きくて、何より豪華だった。一歩足を踏み入れただけでもそう思った緋月だけれども、フロントで案内された部屋に辿り着いたらさらに、とんでもなく豪華ですっかりテンションが上がってしまう。
 何しろバルコニーから見下ろした下には大きくて気持ちの良さそうなプールがあって。しかも正面には真っ青に輝く綺麗な海が、視界いっぱいに広がっているのだ。

「ふおぉ……! 凄いです! これが、オーシャンビューってやつですね!」
「おー……泳いだら気持ち良さそうだぜ!」

 はしゃぐ緋月の隣で、同じくバルコニーから外の景色を眺めたルビィのテンションも、知らず知らず上がるというものだ。早速デジカメでパシャパシャと景色や、恐ろしく豪華な部屋の調度のあれこれを撮り始めたルビィを振り返った緋月は、ベッドの上に先ほどはなかったものを見つけ、キョト、と目を瞬かせた。
 清潔に整えられたベッドは、いかにも柔らかくてふかふかしていそうで、子供のように飛び込んだら気持ちが良さそうだ。だが、その真ん中にまるで境界線のように置かれている、重厚そうな布はいったい何だろう?
 近寄ってしげしげと眺め始めた緋月に、あッ、とルビィが慌てた様子で弁明した。

「そ、即席だけどなッ、仕切り……ッ! ベッド1つしかないし、その、俺は紳士だからなッ!?」
「……あッ」

 少し頬を染めて照れながら必死にそう言い募る、ルビィの言葉をきょとんと聞いていた緋月もようやくそれに気がついたらしく、みるみる頬を赤く染めた。そうして少し俯いて言葉を探しているらしい彼女に、ルビィもどこかいたたまれなくなる。
 ペアチケット、という所から少し予感はしていたのだけれども、本当に同室で、しかもダブルベッドだとは思わなかった。幸いというべきか、緋月は『大きなベッドですねー』とまったく気にしていないようだったけれども、ルビィの方がさすがに気にする。
 ゆえに目についたカーテンを引っぺがし、ひとまずの境界線を拵えたのだった。とはいえ結局、こうして弁明すると余計に恥ずかしさが募るものらしい。
 とにかく、このいたたまれない空気を何とかするためにも話題を変えなければと、ルビィはカバンの中に突っ込んでいたレンタカーのカギを取り出した。チャラ、と揺らして見せる。

「と、とりあえず。落ち着いたら、車借りて来たからドライブと洒落込もうぜ!」
「ドライブですか? 素敵です!」

 そんなルビィの言葉に、気恥ずかしさをあっさり忘れた緋月は、顔を輝かせて大きく頷いた。早く行きましょうとはしゃぐ彼女に苦笑して、駐車場に止めておいたレンタルのオープンカーにまた目を輝かせる緋月に、微笑ましく目を細める。
 そうして早速、気の向くままに車を走らせて美しい景色を楽しんだ2人は、次から次へと目についたマリンスポーツや、観光客向けのイベントに参加していった。それは何だかいつもよりも、ずっとずっと面白く感じられる。
 或いはいつもと違う服装だから、余計に気持ちがはしゃいでいるのだろうか。何しろ緋月はミニスカートに細身のTシャツ、サンダルといった出で立ちだし、ルビィも海らしくテンガロンハット型麦わら帽子を被り、Vネックシャツにクロップドパンツを合わせて、足元は同じくサンダルである。
 念入りにというべきか、胸元にかけたサングラスを時折ひょいとかけて見せたら、かっこいいですとまた緋月が笑った。サーフィンに一緒にチャレンジした時は、それらしくサーフパンツを履いたルビィと、可愛らしく淡い水色と白のグラデーションビキニにキュロットを履いた緋月で、並んでサーフボードを抱えて記念写真。
 そうして心行くまで遊んで回り、ホテルに戻ったら戻ったでプールでのんびりと楽しんで。ホテルのレストランで美味しい食事を楽しんでいた緋月が、ふと辺りを見回したのにルビィは、どうした? と声をかけた。

「何か気になるのか? さっきからキョロキョロしてるぞ」
「いえ……なんだか、誰かに見られているような気がして」

 そんなルビィに曖昧に首を振りながら、緋月はやはり辺りをきょろきょろと見回している。実のところそれはルビィの言う通り、今ばかりの事ではなかった。
 今日1日、ルビィと楽しく過ごしながらも時折、誰かに見られているような心地が、していて。けれどもどんなに探しても、いったい誰が見ているのか解らなくて。
 やっぱり気のせいでしょうか、と小さな息を吐いた緋月は、けれどもすぐに、新しく運ばれてきた美味しそうな料理に目を奪われた。「どれも美味しいですね、小田切さん!」とにこにこ笑う緋月に、だな、と頷きルビィも如何にも美味しそうな肉に齧り付く。
 ――そんな2人の様子を、確かにじっとりとした眼差しで見つめている人影があったことに、だから彼らは気付かない。

「えぇい、距離が近すぎる……ッ! あと10mは離れて座らんか……ッ!」

 レストランの入り口から覗き込んでいるのは、執拗に愛する妹とそれに纏わりつく害虫ことルビィを追ってきた、綾羅。10mも離れたら隣の席どころか互いの顔を見るのもやっとになりそうだが、その位でちょうど良い、と真剣に念を送っている。
 そんな綾羅の姿に気付いた、ホテルの従業員が「おい!」と声をかけた。

「新入り、プールの清掃は終わったのか?」
「む。だが今は緋月たちは、プールではなくこのレストランに……」
「終わってないんならさっさと戻って。レストランの掃除は、お客様のお食事が終わってからだ」
「しかし、それでは……」

 従業員に尚も言い募ろうとしたものの、良いから早く、と重ねて言われて綾羅は渋々、レストランの入り口から離れる。かくなる上は綾羅の全力でもって、プール清掃とやらを完璧に終わらせ、早々に戻ってくるしかないだろう。
 ――緋月達を尾行しようと追って来たは良いものの、そもそも綾羅には先立つものがまったくなかった。ゆえに苦渋の選択として、近隣の海の家やらホテルの清掃やら、果てはレンタカー整備から夜間警備まで、とにかく日雇いバイトを掛け持ちしまくって、必死で緋月達の行く先々に先回りを試みているのである。
 レストランが終わったら次は土産物屋のバイトだ。夜は何としても2人きりを阻止すべく、部屋の清掃として忍び込むしかないだろう。
 綾羅はそう決意して、モップを手にプール清掃という名の戦場に旅立った。――部屋の清掃は翌朝以降だという事を、今の彼はまだ知らない。





 夕風に吹かれながら立ち寄った土産物屋では、友人達へのお土産を2人で選んだ。美味しそうなお菓子から変わったパッケージのご当地品まで、あれこれと目移りしてはこれは誰の分、そっちは誰の分、と何度も指折り数えて確認する。
 家で緋月の帰りを首を長くして待っているだろう、兄には特に日頃の感謝と、快く送り出してくれたお礼を込めてブレスレットを選んだ。これも貝殻や細工物、綺麗な石を繋いだものなどたくさんあって目移りしてしまったけれども、どうにかこうにかそれらしいものを選ぶことが出来て、ほっと胸を撫で下ろす。
 そうして土産物屋を出て、2人並んで浜辺に降りた。海へと吹いてゆく夕暮れの風が、昼間の暑気を追い払うようでとても、心地良い。
 明日は何をして過ごそうか。レンタカーは1泊2日で借りているから、もう少し遠くまで足を延ばしてみようか。それともまた、サーフィンに挑戦をするか――
 そんな事を楽しげに話すルビィの横顔を、緋月はそっと見上げてきゅっ、と小さく拳を握った。――実はずっと、彼に言いたい事があったのだ。
 言いたい事――否、お願いしたい事。ずっとずっと気にかかっていて、そうしたくて、けれども何だか遠慮してしまったり気恥ずかしかったりで、どうしても今日まで言い出せずにいたこと。
 そんな緋月の決意の気配に、ルビィがふと足を止めた。どうした、と笑いかけてくれる表情は柔らかくて、見守るようにどこか優しい。
 それに勇気づけられるように、緋月はありったけの勇気を振り絞った。

「あ、ああ……あの! 小田切さん!」
「うん?」
「その、えっと……る、ルビィさん……と呼んでも大丈夫でしょうか!?」

 そうして、顔どころか頭から爪先まで全部真っ赤になったんじゃないかと思うくらい、一生懸命に尋ねたのはそんな言葉。――ずっと、彼を名前で呼びたかった、のだ。
 人間界へと堕天使てきた、緋月を助けてくれた人。その時も一目惚れとはいかなくとも、どこか心惹かれる人だと思ってはいたのだけれども、久遠ヶ原学園で彼に再会して、その想いはささやかに、確かに緋月の中で形を取った。
 それを、さらに違う形へと繋げたいとまでの思いはまだ、彼女の中にはない、けれども。ほんのちょっとだけでも特別に、他人行儀ではなくもう少しだけ近しく、呼びたいと思っていたから。

「その……い、今更かも知れませんが……!」
「――何を今更畏まってんだよ。好きに呼べば良いじゃねーか」

 真っ赤な顔のままでもごもごと言い訳めいたことを口にする、緋月を見下ろしてルビィは――優しく笑った。ぽふりと彼女の頭を撫でて、何なら呼び捨てだって良いんだぜ、と涼やかに笑ってみせる。
 出会いが出会いだったせいか、ルビィにとって緋月はどこか、危なっかしくて放っておけない妹の様な存在だった。もちろん、それでもれっきとした1人の女性である以上、たとえば昼間のダブルベッドのようなことがあれば気を使わずには居られないけれども。
 こんな時にはむしろ逆に、何を今さら他人行儀な、と思ってしまう。それはルビィが、自分と彼女の関係はこうしていちいち断らなければならないようなものではないと思っているからで、けれどもそれでもいちいちこうして断って見せるのが、緋月らしいとも思い。
 ぽふぽふぽふと、妹を可愛がるように頭を何度も撫でていたルビィの手がふいに、がしぃッ! と力強く掴まれた。

「ええい近すぎるッ! 緋月に馴れ馴れしく付きまとうなッ!!」
「……へ?」
「え……兄様……?」

 そうして2人の間に割って入ったのは、土産物屋のエプロンを身につけた綾羅である。険しく鋭い眼差しで憤然とルビィを睨む、顔だけ見ればあたかも姫君を守る騎士のようだったけれども、『おいでませ』と書かれたエプロンが全てを台無しにしていた。
 それに、緋月とルビィが揃ってぽかんとしてしまったのは、無理からぬことだ。何しろここは家から遠く離れた観光地で、綾羅は家で緋月の帰りを待って居るはずで――
 驚きのあまり呆然と兄の顔を見上げながら、緋月は思わず手に持っていた紙袋の中から、ついさっき買ったお土産を取り出した。兄様、と綾羅の前に差し出す。

「どうぞ。お土産です」
「……緋月、それはちょっと違うと思うぞ」
「え!? あ、えっと、そうでしたね、お土産は帰ってからでしたね……!」
「いや、そういう問題じゃ……」

 わたわたと再びお土産の紙袋をしまう緋月に、さらに突っ込むルビィとて、何でこいつがここに居るんだろうという表情をありありと浮かべている。あまりにも予想外な出来事が起きると、混乱するか冷静になるか、どちらかになるらしい。
 そんな事を冷静に頭の片隅で考え始めている、ルビィもしっかり混乱はしている訳で。明日は3人でドライブなのか、あの車2人乗りだぞ、などと思考を彼方に飛ばしている。
 そんな中で、ようやく綾羅の格好に気付く余裕を取り戻した緋月は、きょとんと首を傾げた。エプロンに書かれた『おいでませ』という文字は、つい先ほど兄に渡そうとした土産物の紙袋に印刷されているそれと同じだ。
 一体なぜ兄が、こんなところで、土産物屋のエプロンをつけているのだろう? 今さらながら疑問に思った緋月は、それを素直に口にした。

「――兄様、何をしているんですか?」
「ああ」

 愛する妹の可愛らしい疑問に、綾羅は妙に重々しく頷いて、胸を張りながら清々しい笑みを浮かべる。妹達が土産物屋に居る時は、何とか近付いて邪魔をしようと試みたのだけれども、あいにく客が多すぎてそちらに対応するのに手いっぱいだった。
 それを、思い出す。それから様々な今日の出来事を――海の家で焼きそばを焼きまくったことや、プールサイドのセレブなレディに気に入られて必死に愛想笑いを浮かべていたことや、ホテルの清掃中に宿泊客に道を尋ねられていつもの調子で答えたら散々怒られたことを、走馬灯のように思い出した。
 それは、短くない人生の大半を戦場で過ごしてきた綾羅には、初めての経験。

「……緋月。労働とは厳しい物なのだな」

 ゆえに何かを達観したような、遠い眼差しの笑みを浮かべて、綾羅はしみじみかみしめるように呟いた。実は慣れない接客業に、妹達を尾行するどころではなく疲労困憊になっていたのだった。


 その夜、2人で同じ部屋の中で夜を明かすとは何事か! と緋月とルビィが泊まる部屋の前で吠えた綾羅が、ついにホテルの従業員にしこたま怒られて首になったのだが、それはまた別のお話である。





━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━‥・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 /    PC名     / 性別 / 年齢 /       職業      】
 ja0841  /   小田切ルビィ   / 男  / 19  /    ルインズブレイド
 jb6091  /     緋月     / 女  / 20  / アカシックレコーダー:タイプA
 jb7475  / 綾羅・T・エルゼリオ / 男  / 21  / アカシックレコーダー:タイプB

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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いつもお世話になっております、蓮華・水無月でございます。
この度はご指名とご発注、本当にありがとうございました。
そしてお待たせしてしまいまして、本当に申し訳ございません……(土下座

豪華リゾートホテルで始まる一夏の思い出の物語、如何でしたでしょうか。
何だか色々と暴走しすぎたような気がしないでもありませんが、気のせいであることを心から祈りたい今日この頃です(全力目逸らし
ちなみに蓮華は、くじ引きの類はせいぜい4等くらいまでしか当たったことがありません。
特賞とか1等とかはきっと都市伝説に違いない、と心から信じています……(遠い目←
どこかイメージが違うところなどございましたら、ご遠慮なくリテイク頂けましたら幸いです。

皆様のイメージ通りの、賑やかでどこかユーモラスな夏の太陽輝くノベルであれば良いのですけれども。

それでは、これにて失礼致します(深々と
アクアPCパーティノベル -
蓮華・水無月 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2014年09月29日

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