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『魅惑の夜風 』
ブルノ・ロレンソka1124)&テオドール・ロチェスka0138)&エジヴァ・カラウィンka0260)& トライフ・A・アルヴァインka0657)&アルマンド・セラーノka1293)&オイレ・ミッターナハトka1796)&キール・スケルツォka1798


 海に面した窓は大きく開け放たれていた。
 昼間なら青くどこまでも広がる海が見えるだろうが、今は窓の彼方は空も海も分からない程の漆黒に塗りつぶされていた。
 熱気を残した潮風が頬を撫で、テーブルの上のキャンドルが居住いを正すように瞬く。
 風に煽られ、形を崩しながら少しずつ消えてゆく紫煙が、突然大きく揺れる。ブルノ・ロレンソが軽く指で煙草を弾き、灰を落としたのだ。
 夜に溶けるような佇まいでありながら、不思議な存在感を感じさせる男である。
「良い夜だ。そう思わないかい?」
 グラスを傾け、オイレ・ミッターナハトがブルノを見るともなく言った。
「ああ、良い夜だ。今ん所、連中が大人しくしてるからな」
 ブルノは横目で少し離れたテーブル席を見遣る。

 ゆらりと煙を吐きながら、トライフ・A・アルヴァインがぼやいた。
「どうせなら夜の部にも綺麗どころ揃えろよ。気が利かねえなあ」
 愛用の香草煙草の甘い香りが、潮の香りに混じって漂う。
 襟を開いたシャツの胸元のボタンをもう一つはずし、風を送り込むようにつまみ上げて煽いだ。
「昼間たっぷり水着姿を拝んだんだろう。ランク付けしてたのは誰だっけ?」
 アルマンド・セラーノが小さく笑って、長い指でグラスを弄ぶ。
 穏やかな声、そして笑うと目につく目元の小さな泣きぼくろが、彼の表情を柔らかく見せていた。
「みんな可愛かったよねー。でも昼間ずっと外だと、ちょっと疲れたわ。なんか日光って身体に悪いと思うんだけど」
 テーブルに肘をついていたテオドール・ロチェスが、ふと振り向く。
 ブルノの視線に気付いて席を立つと、満面の笑みで近付いた。

「おっさん、飲んでるー? 昼間はありがとにゃん♪」
 テオドールがブルノの肩を揉み始める。
「昼間?」
「うんー、お店の女の子たち、すっごい喜んでた。オーナーによろしくってさ」
「ああ。おい、礼のつもりならもう少し力入れろ」
「んー、これ以上は無理かも」
 何かを言いかけたブルノだったが、背後から近付く気配に口をつぐむ。
「だーれd……」
 能天気な声を上げたキール・スケルツォが、目隠し寸前の体勢のまま彫像のように固まる。ブルノがさり気なく振り向けた鋭いナイフの切っ先が、顎に迫っていたのだ。
「軽い冗談だろ……? マジになるなよな」
 じりじりと後退するキールを、ブルノは鼻で笑った。
 そこに香水の香りと、耳をくすぐる柔らかな声。
「新しいお酒は如何かしら? 地元の醸造所で作られた珍しいものだそうですわよ」
 エジヴァ・カラウィンが瓶を手に微笑んでいた。


 とある歓楽街の一隅に『魅惑の微笑み通り(Charm Smile Load)』と呼ばれる小さな通りがあった。
 そこには一帯を仕切るオーナーの元、様々な愉しみを提供する店が立ち並ぶ。夜毎、日が暮れるのを待ちかねたように華やかな灯が店先を彩り、賑やかな嬌声と楽の音がそこかしこから響き渡る。一夜の夢も、一夜の恋も、相応の代金を支払いさえすれば望むままだ。
 そのオーナーがブルノであった。
 ブルノは働き者にはそれ相応に報いるべきだと考えている。なので、店を任せている者やそこで働く従業員達の日ごろの頑張りに報いるべく、海辺のバカンスへと繰り出したのだ。

「カラウィンちゃん、今日も綺麗だねー。新しいドレス? 良く似合ってるよー」
 テオドールがすかさずエジヴァを褒める。女性の扱いに長けている点は、先天的な才能と言っていいだろう。
「あら、ありがとうございます。テオはお上手ですわね」
 長い髪に編み込まれた幾つもの青い宝石の煌めきは、さながら満天の星か。
「えー、だって本当のことだし?」
「テオにそう言われて、喜ばない女はいませんわね」
 軽く腰を屈め、テオドールの頬に軽くキスする。そして酒瓶をブルノに見せるように、さりげなく近づいていった。
「私もご一緒してもよろしいかしら?」
 何も言わないブルノの代わりに、オイレが椅子を引いた。
「どうぞ。美女の同席は大歓迎だよ」
 穏やかな笑顔の陰で、オイレはエジヴァを観察する。
 不思議な色合いの瞳に、銀の髪。褐色の胸元は豊かに高く盛り上がり、かろうじてドレスが引っかかっている、という風情だ。
(エジヴァ……確か『胡蝶之夢』の店長だったか)
 情報屋の習いで、無意識のうちにデータを整理している。
 エジヴァはそれを知ってか知らずか、嫣然と微笑みながらテーブルを回り片手をついた。力を入れると身体が傾き、ブルノの顔のすぐ近くに魅惑的な膨らみが近付く。
 だがブルノは全く動じる様子もなく、紫煙を燻らせるだけ。
(そういう方、ですわね)
 綺麗に着飾って来たのは誰の為かも知らぬ振り。だが誘惑に乗って来ない男もまた楽しいものだ。
 エジヴァは微笑みを浮かべたまま、優雅な仕草で席に着いた。



 グラスの中で、氷が音を立てた。
「しかし、おっさんも羽振りのいいことだな」
 トライフが蒸留酒の入ったグラスを軽く掲げ、口に運ぶ。
「ま、儲かってんなら何かのときにゃ当てに出来るしな。結構なことで」
 何だかんだでピンチの時には小金を稼がせてくれる相手だ。こうして一派の集まりに顔を出しておいて損はない。
「ねー、セラ、何かして遊ばねえ?」
 ただ酒を煽るのに飽きたのか、テオドールがアルマンドに催促し始めた。
「遊ぶって……チェスでも借りるのか?」
「よっぱでチェスとか無理っしょ? ポーカーやろ!」
 テオドールの提案にアルマンドが眉間に皺を寄せた。
「あァ、ポーカー? 休暇中くらい仕事忘れさせろよ……」
 アルマンドはカジノを預かっており、ディーラーとして店に出ることもあるのだ。
「いいじゃん。お客相手じゃないし、遊びだし」
「……ま、カード配るくらいはしてやるが」
 指を鳴らし、給仕を呼ぶ。小声で何事か囁くと、暫くしてトレイに乗った新品のカードが届いた。
 アルマンドはカードを皆に見せると、ペーパーナイフを取り出して封を切る。
 芸術的ともいえる手つきでカードをカットした後、手に持ってシャッフル。魔法のようにさっとテーブルに開いたかと思うと、いつのまにかカードはアルマンドの掌に収まっていて、そこから飛び出した数枚がそれぞれの前に綺麗に並んだ。
「当たり前なんだが、実に見事なもんだな」
 テオドールがニヤリと笑いながら、自分の手札を覗き見た。

「で、何を賭けるんだ?」
 何だかんだ言いながら、しっかりディーラーとして場を仕切るアルマンドである。
「俺、お金あんまり持ってないよ」
「じゃあ何でポーカーやろうとか言いだしたんだ」
「なんとなくー?」
 テオドールのゆるい笑顔に、アルマンドが脱力しそうになる。
 トライフも手持ちは寂しかった。だから逆に毟るつもりだったのだが、面子を間違ったとしか言いようがない。
 そこに柔らかな衣擦れの音が近付いてきた。
「賭ける物がありませんの?」
 エジヴァがさも可笑しそうにくすくす笑う。トライフの目の端から、正面のアルマンドの方へ向かって、細いウェストからヒップへ続く見事なカーブが移動していった。
(イイ女だな)
 極上のワインや煙草を値踏みするように、トライフが僅かに目を細める。
 エジヴァは、テオドールの無造作に束ねた茶色の髪を軽く弄ぶように撫でると、肩に手をかけた。
「じゃあ……そうですわね、勝った方がわたくしをお好きにしてくださって構いませんわよ?」
 意味ありげな流し眼が場を見渡す。
「ああ、それは魅力的な賞品だ……よし、乗った。これは頑張らなければね」
 トライフが即座に答えた。居住いを正し、あながち冗談でもない様子だ。
「んじゃ俺が勝ったらカラウィンちゃんにちゅーしてもらおっと」
 手が良かったのか、テオドールがエジヴァに片眼をつぶって見せた。
「おい。カードゲームで賭けるもんじゃないだろう?」
 唯一アルマンドだけが、いかにも呆れたという表情でエジヴァを見た。
「あら。わたくしの為に皆さんが勝負して下さるなんて、女冥利に尽きるというものですわね」
 そう言ってエジヴァはアルマンドの首に絡めるように細い腕を回すと、頬に悪戯っぽくキスした。
「アルマンドは少し真面目すぎますわよ?」
 これは半分は本音である。こういう商売をしている以上、時には割り切りも必要だ。
 それでも、アルマンドの生真面目な気性は好ましい。だからあとほんの少しだけ、肩の力を抜いて生きてくれれば、と思う。
「まあきみがそれでいいなら。じゃあ続きはじめるぞ。ベット分ぐらいの小銭は持ってんだろうな?」
 テーブルの上でアルマンドの指が閃いた。


 オイレはブルノと同じテーブルから、カードに興じる一団を面白そうに眺めていた。
 ゲームというのは、想像以上に人となりが現れる物である。
 態々自腹を切ってまで『魅惑の微笑み通り』のバカンスに便乗したのは、それなりに理由があってのことだ。情報屋という稼業では、こういう裏街の事情に精通した知り合いが欠かせない。
 無論見返りも要求されるし、こちらとしても必要以上に仲良くなるつもりもないが、いざという時の伝手はあって損はないのだ。
 その筆頭たるブルノが、新しい酒を注文した。
 すぐに無色透明な液体で満たされた瓶が運ばれてくる。中には長い香草が入っていた。
「暑さが吹っ飛ぶぞ」
「これはどうも」
 酒は良く冷えているらしく、見る間に瓶が曇って行く。
 小さなグラスを鼻先に運ぶと、かなり強い酒であることが分かる。恐らく火をつければ燃えるぐらいだろう。

 キールは同じテーブルで、ブルノの余裕綽綽の横顔を忌々しい気持ちで睨んでいた。
 全く癪に障る相手だ。
 早くあの世へ行けだの、機会があれば俺が送りこんでやるだのと、顔を見れば悪態をついているのだが、ブルノには全く相手にされていない。それどころかさっきのように軽くあしらわれてしまう。
(クソッ、ムカつくジジイだぜ……!)
 だが今のキールは、あらゆる意味で劣っている。それが理解できるだけに、余計にムカつくのだ。
 そこでムカつく対象は、ブルノ本人から彼に尻尾を振る連中に移っていく。
 とりあえずエジヴァは女だからまあ良いとして、飼い犬同然の体でブルノの言うことにホイホイ従う男どもが大いに気に入らない。
 そりゃまあ、キール自身も偶にはこうして、ブルノにくっついてくることはあるのだが。それは生きていくための餌をかっさらうためであって、飼われている訳ではない。
 いわばキールは野良犬だった。気に入らない相手には吠えかかり、必要であれば噛みつくことも厭わない。相手が誰であろうと、だ。
 なので、再度吠えてみる事にした。
「おい、その酒、俺にも寄越せ」
 ブルノは好きにしろ、と言わんばかりに顎を僅かに動かした。そして自分のグラスを傾ける。
「クソジジイめ、見せ付けるみてぇに飲みやがって……!!」
 良く判らない対抗心から、キールはグラスではなく、香草の入った瓶をひったくった。
「待て、ちょっとそれは……!」
 思わずオイレが腰を浮かせる。どう見てもこれは、本来ストレートで飲む酒ではない。
「……グ……ゲホッ、ゲホッ……!!!」
 案の定、盛大に咳き込むキールの背中を、オイレがさすってやる。
「調子に乗るからだ」
 ブルノはそれだけ言うと、溜息のように紫煙を吐き出した。

 それでもキールは凝りなかった。
 氷を浮かべた酒をちびちびやりながら、テーブルから離れようとしない。
「ちょっと酒が強いからって、偉いと思うんじゃねえぞ……!」
 何処か焦点の合っていない目で、ブルノを睨み上げる。
「俺はな……俺はお前の鎖になんか、繋がれてやらねえからな……!」
 ぶつぶつ言いながらキールはテーブルに伏せた。
 ブルノは目線で、オイレに合図を送る。
「じゃあ失礼しようか。実はあっちのカードが気になっていてね」
 オイレがキールの肩を軽く労わるようにゆすり、席を立った。
 その後ろ姿を、酔いに濁った眼でキールが見送る。
「クソッタレ、慣れ合ってりゃいいや……俺は群れなんてごめんだぜ……」
 誰かに頼る程、失った時のダメージは大きくなる。キールはその喪失をずっと抱えて今日まで生きて来た。
 だから群れは嫌いだ。群れようとする連中も……。
 ブルノは無言のままで灰皿の縁で煙草を叩く。一見他人には判らない微かな苛立ちが、その所作に現れていた。
 青臭い愚痴は聞いていると気が滅入る。昔の自分を見ているような気分になるからだ。
 ブルノはキールを見ないまま、低い声を漏らした。
「一生底辺で泥水啜ってたいならそうして愚痴ってろ。そうじゃなきゃ黙って稼いでこい」
 餌を貰う自分が許せないなら、自力で餌を獲ってくればいい。
 裏街で生きるにはそのどちらかしかないのだから。
「といってもまぁ、お前には無理だろうがな」
「……んだとお! 俺はなあ、俺はぁ……」
 どさり。
 起き上がったかと思うとテーブルにひっくり返り、ついにキールは大鼾をかきはじめたのだった。


 カードのテーブルには熱気が満ちていた。
 既に賭けの対象が云々という問題ではない。勝負である以上、勝たねばならないのだ。
「やあ、キリのいい所で俺も混ぜてもらえるかな」
 オイレが穏やかな笑顔で声をかけて来た。アルマンドが顔を上げる。
「俺は構わないが。こいつら納得させるには、それなりの賭け金が必要だよ」
「こんなもんでどうかな」
 躊躇う様子も見せず、オイレはそれなりの金額の硬貨をテーブルに置いた。
 トライフはそれを横目にしながら、敢えて不承不承という表情で余っている席を指さす。
(フッ……カモは大歓迎だ)
 内心は顔に出さない。遊戯の腕前はそれなりにできる程度だが、心理戦に長けるトライフである。あわよくば、ここで癖を掴んで、アルマンドの店での若干の負け(トライフ曰く『預けてやっている金』だが)を取り戻せるかもしれない。
「みったんだー! 一緒にやろー」
 テオドールがふわふわと笑う。こちらはどの道、ゲーム感覚である。勝っても負けても楽しければそれでいいのだ。大前提として経済観念という物が抜け落ちているので、負けた痛手を痛手と思わないのが恐ろしい。
「じゃあ宜しく」
 オイレが加わり、ゲームの難易度が上がる。

 一同はそれからも暫く静かにカードを繰っていたが、いよいよ勝負も大詰めとなる。
「俺はチェンジなしで」
 オイレが手札を伏せたままでコインを投げる。良し悪しはその穏やかな表情からは全く窺えない。
 ゆるっと参加した風で、実はかなり本気の参戦だった。
 例えゲームでも敗北には納得いかない。やるからには全力を尽くす。……実に大人気ない性格である。
「うー……チェンジ! 2枚!」
 テオドールが唸り、アルマンドがカードを投げて寄越す。それをちらりと覗いて、テオドールは怨みがましい目でアルマンドを見た。
「あー、ひど……! セラ今いかさましたー!」
 ぴくり。アルマンドのこめかみが微かに震えた。
「ん、だと……」
「絶対したよー、トライフちゃんも、みったんも見てたよね、ね?」
 どう見ても負けを逃れる言いがかりである。正直な話、彼に見抜けるようなイカサマの技量では、カジノを任されることはないだろう。
 そしてその場の全員が、テオドールの言が単なる戯れであることは分かっていた。
 分かっていたが、アルマンドは椅子を蹴って立ち上がり、いきなりテオドールの胸倉を掴み上げた。
「おい、いい度胸だな。イカサマだと? 誰に向かってモノ言ってやがる」
 普段の物静かな様子は何処かへ消し飛び、勝負師の鋭い目が射るようにテオドールを睨みつける。
「いい機会だから教えといてやる。俺にとってイカサマは仕事だ。敵を徹底的に叩き潰すための武器だ。てめェら相手のお遊び如きに使うモンじゃねェ」
 そこでいきなり手を離したので、テオドールの身体はバランスを崩し、そのまま椅子にどさりと落ちた。
 アルマンドは軽い溜息をつき、いつも通りの表情を取り戻すと商売道具の指を眺める。
「それで飯食ってるからこそ、譲れない線ってのがあンだよ。覚えとけクソ野郎」
 店内が静まり返る。
 どうなる事かと息を飲む一同の中で、当事者の片割れがふにゃりと笑った。
「ごめんてー。でも冗談に決まってるじゃん?」
「今度ぬかしやがったら、丸坊主にしてやるからな」
 テオドールは思わず豊かな金髪を両手で押さえこんだ。
「で、結局このゲームは継続か?」
 呆れ顔のトライフが煙草の煙を勢いよく吐き出す。
「皆が継続でいいなら」
 アルマンドの声を合図に、一斉に手札をショー・ダウン。
「げ……」
「悪いね。どうやら俺にツキが来ていたみたいだ」
 にっこり笑うオイレの手札はキング2枚にエース3枚のフルハウス。
 積み上げられた小銭はオイレの手元に。
 トライフが天井を仰ぎ、テオドールはキングのワンペアを放り投げた。
「では今宵は貴方の物ということになりますでしょうか?」
 花のような笑みを浮かべて、エジヴァがオイレの手に指を伸ばす。
「そういうこと。今日は最高の花を手に入れたから酒は譲るよ。欲張りすぎるのは良くない」
 オイレは立ち上がるとエジヴァの腰に腕を回し、席を立つ。
 小銭はテーブルに残ったままだった。

 歩きながら、オイレはエジヴァに悪戯っぽい目を向けた。
「ちょっとゲームをしないか?」
「え……?」
 オイレはエジヴァの耳元に何事か囁く。
 そしてブルノのテーブルに戻っていった。
「なかなか楽しかったよ。ブルノも来ればよかったのに」
「おまえが勝ち残るようじゃ、連中の腕もたいしたことはないな」
 小さく笑うブルノの腕に、エジヴァが白い指を滑らせた。
「あら、オイレが強かったのだと思いますわよ」
 甘い声で囁くが、ブルノは指一本、眉一筋動かすことなく、静かな目でエジヴァを見上げた。
 オイレは楽しそうにふたりを観察していた。
 だがゲームはエジヴァの負けである。ブルノがエジヴァの身体に腕を回したなら、後は好きにすると良い、とオイレは提案したのだ。
 エジヴァが目くばせを送る。
(わかっていたことですわ)
 だから、これからもゲームは続く。
 だから、人生は面白い。

「せめて飲んで憂さ晴らしするしかないね」
 余り面白くなさそうに、トライフが溜息をついた。逃した魚は大きかったようだ。
「飲も、飲も〜! お酒追加よろしゅー!」
 既に出来上がりつつあるテオドールが浮かれて両手を振りまくる。
 アルマンドはカードを繰り、ひとり遊びの占いモドキ。
「酔い潰れても俺は世話はご免だからな」
「えー? 皆で雑魚寝したら楽しいじゃん?」
「男と雑魚寝なんて誰が楽しいか!」
 トライフが酒瓶でテオドールを小突いた。

 賑やかな夜はまだまだ終わりそうもない。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka1124 / ブルノ・ロレンソ / 男 / 55 / 『魅惑の微笑み通り』オーナー】
【ka0138 / テオドール・ロチェス / 男 / 24 / 店長その1】
【ka0260 /エジヴァ・カラウィン / 女 / 22 / 店長その2】
【ka0657 /トライフ・A・アルヴァイン / 男 / 23 / 逃した魚は大きい】
【ka1293 /アルマンド・セラーノ / 男 / 24 / カジノ店長】
【ka1796 /オイレ・ミッターナハト / 男 / 34 / 微笑む情報屋】
【ka1798 /キール・スケルツォ / 男 / 37 / 野良犬の矜持】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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微笑み通り御一行様、夜の部です。
逞しく、抜け目なく、誇り高く生きる裏通りの面々のひとときのバカンス。
ちょっと平均年齢が高い分、大人の雰囲気に仕上がっていれば幸いです。
この度のご依頼、誠に有難うございました!
アクアPCパーティノベル -
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2014年09月29日

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