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『Its burden is not felt. 』
ユーリィ・マーガッヅ(ec0860)&マイア・アルバトフ(eb8120)

 エルフ夫婦の朝は早い。

「まぁ好きで始めた仕事なのである」
 まず、素材の入念なチェックから始める。
「やっぱり一番嬉しいのはマイア君からの感謝の言葉なのである。この仕事やっていてよかったなと」
 ちなみに彼は一人で呟いているが、周りに人はいない。
「毎日毎日素材の量と配分が違うのである。こればかりは魔法では出来ない」
 それは最早癖であった。朝早くから薬草を捜し歩き、それらを混ぜ合わせ薬を作る。一人でやらなければいけない仕事は何かと寂しい。そして、それは愛する彼女のためでもあるからやめるわけにもいかない。自然と独り言を呟くようになっていた。

 夏場とはいえ、キエフの朝は少し肌寒い。陽が昇りきれば話は別だが、朝の静謐な空気は肌を刺すようだ。
 まるで空気が停止した教会の中、短く纏められた銀髪の女性が静かに祈りを捧げていた。彼女が祈りを捧げるのは白の聖なる母。黒が主流のキエフにおいて、白の教会とクレリックは珍しい。
「……うっ」
 そんな空気を小さな呻き声が引き裂いた。
「昨日呑み過ぎたわ……ユーリィ君に薬頼んでおいてよかった……」
 白のクレリックは清純の象徴。そんな美しいイメージが音を立てて崩れていく。
「でもあんな美味しいお酒呑むなっていうほうが無理な話よね。ユーリィ君は途中でダウンしちゃったけど」
 祈りを終えた彼女は派手に背伸びをしながら首を鳴らす。色々台無しだった。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇




 時間は冒頭よりもさらに早い時間へと巻き戻る。

 ユーリィ・マーガッヅとマイア・アルバトフ。二人はキエフという大地で出会い、そして結婚した。
 結婚したといっても実はマイアの押しかけ女房だったりするのだが、元々好意を抱いていたユーリィは最初こそ驚きはすれど受け入れること自体にはそこまで時間もかからなかった。そもそも彼女のそんな強引な部分も好きなのだから断りようもない。惚れたほうがなんとやら、である。
 で、そんな新婚もいいところの二人ではあったが、熱い仲もいいところなのかといえば。確かに同じベッドに寝ているのだが、何か様子がおかしい。
「あ、朝……?」
「無理はしないのである」
「そうはいかないのよ……ごめんユーリィ君、何時ものお願い……」
 彼女の口調は深刻だ。マイアの顔色が非常に悪い。吐き気を抑えながらベッドから出ていく奥さんを見送る旦那。しかしそこに新婚夫婦独特の空気はない。その原因をユーリィはよく知っていた。
 つわりであれば新婚さんなのね、で終わるのだが、そんなものでもない。つまり、マイアは単純に酒が好きで、そして何時も呑み過ぎる。結果が毎朝こんな感じだった。酔ったまま祈りを捧げられる母も中々哀れである。
 そんなことはユーリィも知っていたはずなのだが、毎朝これでは流石にちょっと、と思わないこともない。しかし彼は彼女の言葉を忘れない。
 彼女の祈りが終わったらユーリィが用意した朝食を二人揃って食べ、酔い止め薬を飲む。マイアが料理下手というわけでもないのだが、彼のほうが上手なので何時しか料理担当は彼になっていた。マイアはそのことに何も言わないし、彼も特に気にしてはいない。
 そしてそれが終わったら二人はやはり揃って仕事へと出かける。即ちユーリィは薬草採集へ、そしてマイアは教会へ。

 そんなこんなで冒頭に戻る。薬草師を生業としている彼は何時ものように朝から薬草を求め歩く。そこに二日酔いによく薬を調合するという日課が加わった。おかげで最近はそういう類の薬を調合する腕ばかりが上がっている。それは何も悪いことではなく、評判がよくなって注文が増えたと言う嬉しい誤算もあるから彼からすれば喜ぶべきことなのかもしれないが。
 しかしマイアは愛する女性である。何時も薬を作っているとはいえ、心配であることも確か。何より、
「二日酔いで仕事にミスでもあったら大変なのである……」
 彼の心配はご尤もであった。そんな彼の最近の目標は新しい熱中症対策の薬開発である。ミントと砂糖と塩のバランスが大事なのだとか。愛する妻のため男は頑張るのだ。
「マイア君を愛しているから心配なのである」
 昔はとても言えなかったそんな言葉も、最近は自然と言えるようになっていた。人も変われば変わるものである。

「っくしゅん。夏とはいえ朝は肌寒いわね……」
 旦那の思惑を知ってか知らずかマイアは教会で鼻を鳴らしていた。幾ら酒飲みであるとはいえ、彼女も敬虔な白の信徒である。毎朝の仕事を抜かることはない。
 幾らキエフにおいて白の信徒が少ないとはいえ、それでもいることはいる。そんな彼らに教えを説き、迷いを聞き、共に歩むのが彼女である。
 しかし彼女が真面目に仕事をしていると、普段の彼女を知るものたちがからかってくることもある。それだけ普段と教会での彼女にはギャップがあった。嘗て色々教えていた子供達にもそんなことを言われたことがあり、彼女も一応そのことを気にはしていた。
「やるべきところはちゃんとやって、力を抜くところでは抜いてるだけなんだけどなぁ」
 彼女なりの生き方は中々理解されないのであった。自業自得と言ってしまえばそれまでなのだが。しかし、そんな彼女の元には連日信徒が足繁く通う。それは何よりも信頼されている証拠であった。



 さて、夏である。幾ら夏が短いキエフとはいえ、一度陽が昇ってしまえば夏場は暑い。本当に暑い。そして、彼らは普段の仕事着が絶望的に夏場との相性が悪い。
「ありがとう」
 ユーリィの場合、薬草師であるから薬を調合したら今度は売りに出なければならない。商会とのパイプがあるわけでもなく、そうなると自分の足で食い扶持は稼ぐ必要がある。
 商売にはイメージが大切だ。つまり薬草師なら薬草師らしい服装が求められる。幾ら夏場とはいえ、軽薄な服装は認められないのだ。
 そしてそれはマイアも同じ事。クレリックに薄着は許されない。修道着を着ないクレリックに何の意味があると力説する者たちも少なからずいるし、イメージを崩すことは出来ないのだ。
「「暑い……」」
 違う場所で二人同時に呟く。だが脱ぐことは許されない。イメージは大切なのだ。幾ら普段が駄目でも、仕事中はイメージを崩せない。崩せないったら崩せないのだ。
「……暑いから脱げたらどんなに楽か」
「マイア君、それは駄目なのである」
 何かを感じ取ったユーリィが呟いたが、それが妻にも届いたのか。やはり脱ぐことは寸でのところで留まったのだった。

 昼をすぎると、二人の仕事も一段落を迎える。やはり夏場であることが影響し、用事は涼しい朝のうちに済ませてしまおうという人が多く、自然と彼らも昼からは手持ち無沙汰となる。そんなときは大体行動が決まっている。つまり、二人でギルドを覗く。仕事を終えたユーリィが教会へ出向き、彼が作った昼食を二人で摂った後自然と足が向いていた。
「流石に割のいい仕事は少なくなってきたわね」
「しょうがないのである。これからはもっと少なくなるのである」
 既に魔王たちとの決着も終わり、ギルドに並ぶ依頼は以前と比べるまでもなく簡単なものばかりとなっていた。勿論報酬もそれ相応。幾ら何でも屋の冒険者といっても、依頼の稼ぎが少なくなれば自然とそこから離れていく。
 それでも彼らはまだ冒険者をやめていない。まだまだ世の中には困っている人たちがいるし、それを放っておけるほど彼らも薄情ではなかった。とはいえ、
「こっちは畑を荒らす害獣退治、ただし報酬は現物支給……」
「大掃除の依頼もあるのである」
 こんな依頼ばかりでは中々食指も動かない。
「今日は諦めましょうか……」
 二人から自然とため息が漏れた。

 仕事は既に終わっているため、二人はそのまま帰路についた。夕方とはいえまだまだ暑く腕を絡めるようなことはなかったが、その分指を絡めあっていた。
「ユーリィ君、今夜はあたしが作ろっか?」
「えっ?」
 それはとても珍しい提案だった。普段はユーリィが夕食も作っていて、マイアもそれが当たり前のように思っている。今日に限って何故?
「今日お祈りに来ていた人からいいヴォトカを貰っちゃったのよ」
「……いや、やはり自分が作るのである」
 彼は想像した。美味い酒には肴が必要だ。つまり、彼女が作る夕食はそれに引っ張られる。
(また二日酔いになっては困るのである)
 その辺りの栄養管理は彼のお仕事なのだ。
 とはいえ、彼女の酒飲みぶりを抑えられるかどうかはまた別問題だった。

「ユーリィ君、変な顔になってるー」
「マイア君、呑みすぎなのである……うっぷ……」
 呑みすぎる妻に付き合わされる旦那は何時もこんな感じだ。しかし酒を呑んでよく笑うマイアは確かに綺麗で美しく、それが好きだから困ったものだ。
「ねぇー……ユーリィ君……」
 しな垂れかかってくる愛する妻。
「そろそろ子供、欲しいわね……」
 その瞳が潤んでいた。それまでの空気が一気に変わる。そんなことを言われて、黙っていられるほどユーリィもへたれではない。
「ま、マイア君」
 その手が彼女をそっと掴んだとき。
「……すぴー」
 色っぽさが、寝息に変わっていた。一瞬項垂れ、しかし苦笑を浮かべながらも彼は妻へ毛布をかけるのだった。
「うぅん……暑いから脱ぐー……」
「そ、それは駄目なのである!」
 毛布の中でごそごそし始めた彼女と、それを止める彼。
 結婚前と何も変わらない夫婦の間に新しい宝がやってくるのは何時の日か。前途は多難で、そして洋々と広がっている。




<END>




━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ec0860 / ユーリィ・マーガッヅ / 男 / 32 / ウィザード】
【eb8120 / マイア・アルバトフ / 女 / 31 / クレリック】
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2014年10月01日

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