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『夏の終わりの図書館で 』
相馬 カズヤjb0924

1.
 ツクツクホウシも聞こえ始めた8月の終わり。
「中島、そこ10の段の繰り上がり忘れてる」
「え!? わわっ!」
 久遠ヶ原学園の図書室の隅っこで、2人の小学生が一生懸命に宿題に向かっていた。
「ありがとう〜。また間違えるところだったよ」
 消しゴムで消しカスの山を作るのは中島 雪哉(jz0080)。小等部5年生。
「中島は繰り上げ忘れるの多いよな。買い物行ったときとか、気をつけろよ」
 漢字の書き取りをしながらの雪哉の計算ミスを指摘したのは相馬 カズヤ(jb0924)。こちらも小等部5年生である。
 夏休みの宿題として出された問題を、この9月も差し迫ってきた時期に一気にやってしまおう! 友達と一緒ならきっとやる気も倍増になるはず!
 ‥‥という考えの元、2人はそろって久遠ヶ原の図書室にやってきたわけである。
 当初、そのもくろみは上手くいった。2人の得意分野を補いつつ、たまに答えそのまま写したり、時にヒントを出し合ったりと。
 しかし、そうはいっても遊びたい盛りの2人である。遊びたくもなるし、ずっと勉強をしていれば飽きてくる。じっとしていられないお年頃。
 そして、どちらからともなくこんな言葉が出るのだ。
「ちょっと、休もう」
 鉛筆を置いてはぁっとため息をつけば、半分以上の宿題が片付いていることに気が付く。時計の針は3時を少し過ぎたあたりだ。
「なぁ、アイスでも食べに行こうぜ」
 時計を見た後でカズヤがそう言うと、何となく時計を見ていた雪哉も頷く。
「丁度3時だし‥‥うん、行こっか!」
 宿題をパタパタと片付けて鞄に放り込むと、カズヤと雪哉は図書室を後にした。


2.
 購買部は夏休みとはいえ、学生の味方である。
 なんやかんやで学校に来る生徒たちのために、日々色々な商品を入荷しては優しくその入り口を開けておいてくれる。
「アイスもいいけど‥‥ジュースもいいね」
 現物を前にすると心が揺れる。雪哉もそんな風にアイスとジュースの間を行ったり来たりしている。
「どうしてもいるなら、どっちも買ったらいいと思うけど。久遠足りる?」
「ら、来月、頑張って依頼に行けば‥‥」
「‥‥そういうの『獲らぬ狸の皮算用』っていうんだぜ」
 カズヤの言葉に雪哉はうなだれて「アイスにします」と呟いた。けれど、そこからまた悩み始める。
「こっちのも美味しそうだけど、こっちは新作で食べてみたかったのだし‥‥」
 女子の買い物って毎回こうなのかな? 前もこんな感じでコイツ悩んでたよな。
 カズヤの買うアイスは既に決まっていたが、それは諦めよう。
「中島。ボクがこっち買うから、中島がそっち買って半分こすればいいじゃん。そしたらどっちも食べられる」
 そう言うと、雪哉の顔がパァッと明るくなった。
「いいの!?」
 その顔見て否定はできない。ルンルンとふたつのアイスを手に取り、カズヤを急かして中島はお会計に向かう。
「会計、別々でお願いします」
「あら、雪哉ちゃん。相馬君。今日はデート?」
 レジのおばちゃんがカズヤと雪哉にそう言うと、2人は全力で否定する。
『違うから!』
「あーもう、否定する台詞まで一緒で仲がいいわね〜」
 クスクスと笑われながら、顔を赤くするカズヤと雪哉におばちゃんがジュースを奢ってくれた。
「仲いいことはいいことよ。これからも仲良くね」
「‥‥‥‥」
 よくわからない激励を受けつつ、購買を後にしてクーラーの効いた談話室へと向かう。
「アイス、溶けないうちに食おうぜ」
「う、うん」
 おばちゃんには何気ない一言だったが、小学生には少々気まずい一言である。雪哉は微妙な顔をしている。
「デートとかないよな。ボクら小学生だもん。おばさん、大学生とかも相手にしてるから、ああいう言い方するんだな」
 なるべく気にしていないそぶりで、カズヤはそう言って笑う。‥‥気にしてないわけじゃないけど、からかわれるのは嫌だ。
「そう‥‥そうだよね。デートじゃないよね! 宿題やってただけだもんね」
 ホッとしたような、ちょっと残念そうな‥‥? ボクがそう見えるだけかな?
「中島は『雪哉ちゃん』って言われてるんだな。さすがアイドルだよな」
 とりあえず、少し話を逸らしてみる。
「あ、それは‥‥お母さんが購買のおばさんに『うちの雪哉をよろしく!』って言ったらしくて‥‥」
 少し俯いて苦笑いの雪哉は、それでもどことなく嬉しそうだった。
「ゆ、雪哉のお母さんはさ、ホントに雪哉のことが大事なんだなって思うよ」
「そうかな? えへへ」
 少し噛んだけど、さりげなく言えた。雪哉も笑っているし、一歩前に進んだ気がした。‥‥何を一歩進んだのかはよくわからないけど。
「そうだ。この間新しいカードゲーム出たんだ。ちょっとだけやってみないか?」
「前のヤツの? うわぁ! やってみたい!」
 カズヤはカバンの中からカードゲームを取り出して、雪哉に渡す。
「前に教えたやつとやり方はほとんど同じだけどさ、この新しいカードが増えたから戦略が‥‥」
「ふむふむ」
 溶けかけのアイスとひんやりしたジュースを飲みながら、談話室でゲームに夢中になっていった。


3.
「うわぁ、また負けた! ‥‥って、あれ? もう4時半!?」
 すっかりゲームに集中してしまった2人が時計を見たのは図書室の閉館も近い時間だった。
「また相手してやるから、いつでもかかってこいよな」
「次は負けないから!」
 カードゲーム上級者の余裕漂うカズヤと、すっかり負け癖が付いた雪哉。この対決はまだまだ続きそうである。
「宿題どれくらい終わってたっけ?」
 少し冷静になって、カバンの中の宿題を調べる。
「算数ドリルは終わってる‥‥漢字の書き取りも終わってる‥‥日記は家で‥‥あ!?」
 確認をしていた雪哉が焦ったような声を上げた。
「感想文‥‥忘れてた」
「‥‥あ」
 カズヤも自分の宿題の中にその真っ白な原稿を見つけて「うわぁ」と思わず声に出す。
「どうしよう? 今からじゃ無理だよね」
「家でやるしか‥‥でも、読む本だけは何とかしないと」
 2人で悩んで、とりあえず図書室に戻ることにした。本を探すなら図書室だ。
「折角だからさ、お互いの好きな本を交換して感想文書こうぜ」
「そっか。それなら今まで読んだことのない本になるよね」
 時間短縮のため、2人は其々の思う本を探しに行く。影が少しずつ伸びていく中、2人は1冊ずつ本を交換する。
「ボクのおすすめは『十五少年漂流記』。冒険ものだから夏にぴったりだと思う」
「読んだことないやつだなぁ。ありがとう。じゃあボクはこれ『ナイチンゲール』だよ」
「‥‥ナイチンゲールって看護師の?」
「そう。ボク、小っちゃい頃いっぱい読んだんだ。ボクの原点だね。絶対おすすめだよ!」
 ドヤ顔して本を渡した雪哉に、カズヤは雪哉がアストラルヴァンガードである理由が少しだけわかった気がした。

「うまくいくかわからないけれど、お互い頑張ろうな」
 一緒に学校を出る頃には、夕焼けの赤が空を覆い始めていた。
「うん、今日はありがとうね。またゲームやろうね」
「宿題終わったらな。じゃあな、雪哉」
 苦笑いしてカズヤと雪哉は笑って別れた。
 うん、今日は楽しかった。宿題もいっぱい進んだし、あとは家に帰って雪哉のおすすめの本を頑張って読もう。
 夏が終わればまた進級試験もあるし、頑張らないと。
 夏の空気を胸いっぱいに吸い込んで、カズヤはやる気を奮い立たせるのだった。

「‥‥あれ?」
 カズヤの背中が見えなくなったころ、雪哉はふと立ち止まって振り返る。
「カズヤ君、ボクの名前呼んでた?」
 少し考えてみたけれどよくわからなくて、でも、今更改まって訊くのもなんだかおかしな話で‥‥。
 なんだか少しフワフワした気分だったけれど、その気分がなんなのかよくわからない。
 けれど、その気分になんだか雪哉はちょっとだけ顔がゆるんだ。
 
 

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 jb0924 / 相馬 カズヤ / 男性 / 11歳 / バハムートテイマー

 NPC / 中島 雪哉 / 女性 / 11歳 / アストラルヴァンガード

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 相馬 カズヤ様

 こんにちは、三咲都李です。
 アクアPCパーティーノベルへのご依頼ありがとうございます!
 すっかり秋の気配のなかで夏のお話をこそっと‥‥こそっとお贈りいたします!
 少しでも夏の思い出になれば幸いです。
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エリュシオン
2014年10月01日

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