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『真夏の夜の夢、幼い憧れとサムシング 』
秋野=桜蓮・紫苑jb8416)&冲方 久秀jb5761)&キョウカjb8351)&百目鬼 揺籠jb8361)&蘇芳 陽向jb8428)&天駆 翔jb8432)&ファウストjb8866


―――――― ※ ――――――

 夢か、現か。
 虚ろか、実か。

 喜劇か、悲劇か。
 幸福か、悪夢か。

 相反する言葉も実は紙一重。
 事象は観測点の違いにより異なる表情を魅せるのだから。
 世界に相反するものなどない。全てはコインの表と裏。

 この物語は、在る夢の物語。
 夏の夢。騒がしい一夜の物語。

 さて夢を観ましょう。夢に魅せられましょう。
 夜の帳の向こう側。短夜の現に揺らぐ此の夢がどう映るか?

 ――それは《観客(アナタ)》次第です。


―――――― ※ ――――――


●夢のはじまり
 気が付けば学校のグラウンドのような場所に居た。
 遠くから微かに聞こえるラジオの音がノスタルジックな感情を擽る。
 何処にでもあるような夏休みの校庭。しかし、其処に広がっていた光景は違和感の塊でしかなかった。

「で、何なんだ。この状況は」
 ファウストは頭痛が痛かった。二重表現になるけれど、それでも足りないくらいに額に手をあてていた。
 その視線の先には傘でチャンバラごっこをしている者。セミの抜け殻を見付け喜んでいる者。彼らの推定外見年齢おおよそ高校生。
 皆、一様に何処かで見たことがあるような顔ぶれだった。というか、いつもつるんでるがきんちょ達。
「お前ら、なんか変なもんでも食っちまったんですかぃ?」
 ファウストと同じく戸惑いの表情を浮かべているのは百目鬼 揺籠。手に持ったキセルが驚きの余り手からぽろりと落としてしまった。
 彼らは、確か小学校低学年ほどの子どもだったはず。大人になっているように見えるのですが、これは錯覚なのでしょうか?
 揺籠の問いにワンテンポ遅れて、ウサギのぬいぐるみを抱いた少女がきょとりと首を傾げる。
「変なもの……? チョコレートとドーナツとプリンならいっぱい食べたの。いつも、いっぱいおやつ食べると怒られるから」
「お前は、キョウカですかぃ?」
 揺籠の言葉に、こくんと頷く少女。どうして、そんなことを訊ねるのと言いたげな表情を浮かべている。
 するとキョウカとの揺籠の間に割り込むように入ってきたのは二人の青年。
 察するに蘇芳 陽向と天駆 翔であろう。翔の方は黒髪青眼の好青年だが、纏っている雰囲気はまぁ、いつも通り。
「それよりも、見てくれよ! おれのせみの抜け殻でっけーだろ!」
「違うよー! 僕の方が大きいし!」
 自慢げ。ドヤ顔。
 そういえば小学生って無駄にせみの抜け殻とか好きだよなぁと揺籠は思い出し溜息を吐きたくなる。
「セミの抜け殻は別にいいんでさ。二人とも没収。で、何なんですかぃ? この状況は」
「あ、返せー!」
「ドウメキのにーちゃんのいじわるー」
 揺籠は二人を軽く無視しながら周囲を見渡し問う。元気よく答えたのは紫髪のグラマー美女・紫苑。
「夢でさー!」
「くっくっく……夢か、くっくっく」
「沖方サンなんでそんなに平然としているんです?」
 即座にツッコミを入れる揺籠。知人のおっさんはいつも通り胡散臭く笑っていた。
 沖方 久秀。実にマイペースに生きる男であった。
「そう、夢なら仕方無いよねー」
「うん、夢なら楽しもうぜ」
 陽向と翔のペアも絶賛ノリノリ。
 未だ目の前の現象を受け入れづらそうにしているファウストは相変わらず額に手を宛てていた。
「夢でも、受け入れられる夢とそうでない夢がある……」
 その思考は音になっていた。ファウストに対してニヤニヤと問い訊ねたのは紫苑。
「じゃあ、受け入れられる夢ってのもあるんでさ? ファウのじーちゃん」
 ふと、ファウストの脳裏を過ぎったのは輝く穂のように美しい金色の髪を持った少女の姿だった。けれど、そんなこと口に出せたりしない。
 ファウストはふいと紫苑から視線を逸らして、空を仰いだ。
 夢の中でも、どうやら夏空は青いらしい。


●夢・どりーむ・夢!
 きゅいきゅいと鳴くカモメ。青い空。青い海。
 紛う事なき海だった。
「……え、キョーカが大きくなってるの」
「今頃気付いたんですかぃ?」
 揺籠の言葉にキョウカはこくんと頷いた。水面を覗き込んだキョウカの瞳に映るのは大人になった自分の姿だった。
 学校のグラウンドらしき場所から一歩出れば、其処は海。
「キョウカは美人さんだねぃ、流石俺の嫁……」
「キョーカはしーたのお嫁さん?」
 キョウカは再びきょとんと首を傾げ訊ねる。紫苑は自信満々に頷き。
「海辺のチャペルで結婚式でさー!」
「じゃあ、白いお馬さんに乗れるの?」
「いくらでも乗せるでさ!」
 紫苑の快諾。キョウカの心は更に浮き足立って行く。
「じゃあ、夜にプリン食べても怒られないのね」
「勿論でさー!」
「すてきなの」
「どどーんと任せるですさー!」
 何やらきゃっきゃと盛り上がる紫苑とキョウカ。とても、楽しそうだ。

「育ってもガキはガキですね……」
 揺籠ははぁ、と息を吐く。慣れない状況に些か疲れは感じるものの、姿が変わっても変わらない彼らに何処か安堵感を覚えていたのは否定が出来ない。
 それは、ファウストや久秀も同じようだった。
「まぁ、見た目が変わっても同じということか」
「くっくっく……微笑ましくていいことだな」
「ところで、いつまで笑っているんだ」
 見守る大人達は、決して不審者では御座いません。ファウストに答えることも誤魔化して笑う久秀。
「……くっくっく。くっ?!」
 しかし、何やら尻辺りに物凄い衝撃があった。久秀が振り返ると(でもまだ笑ってる)、其処には陽向の姿。
 木の棒を手に、目には目隠し。
「ちぇー、外したー」
「ぜんぜん、違うとこに行ってるよー?」
 やや離れたところには翔とスイカの姿。
「……貴様らは一体何をやっているのだ」
「夏はスイカ割りだぜー! スイカ割ろうぜ、真っ二つ! というわけで――」
 気合を入れ直し、棒を握り直す。
「おれが割るぜー! 見よ、大人パワー!」
 格好良くスイカを割りたいお年頃なのです。何をどうやったのか陽向は目隠しをしたままなのに、スイカに向かって一直線に走る。
 そして、勢いよく振り上げた木の棒を下ろすといい音を立てて、スイカが割れた。しかも、断面が叩き割ったようには見えない程に綺麗。
 ちょっとご都合主義気味だって何だって、夢の中なんだから格好いいことするのだって自由自在なんです。


「くっくっくっくっく……見事割れたようだな」
「しかし、周囲の状況を確認せずスイカ割りというのも危ないな……大丈夫か?」
 遠目で眺めていたファウストは久秀に尋ねた。しかし。
「くっくっく……偶には尻を叩かれるというのも悪い経験ではない」
「危ないぞ。その発言も、色々と」
「今、五七五になっていたな。くっくっく……」
 彼は笑っている。何度も繰り返しますが、不審者ではありません。

「おー。綺麗に割れたの」
「真っ赤で美味しそうなんですさ!」
 しゃがみ込んだキョウカと紫苑。
「好きなの選んでいいぜ」
 誇らしげに言う陽向に促されて。そして、キョウカはそのスイカを揺籠に差し出す。
「おめめのにーたも、スイカどーぞ」
「おぉ、ありがとうございますさキョウカさん。ところで、塩ありませんかねェ」
「お塩なの?」
 きょとりと首を傾げるキョウカ。
「塩、かけて食べるんでさ」
「スイカにお塩……あまり、想像出来ないの」
「塩辛さが逆に甘さを引き立てるんでさ」
 そう言っていると、いつのまにか紫苑が瓶の塩を持ってくる。
「塩ならここにありますぜ! 食塩!」
「ありがとうございますねェ。キョウカさんや紫苑サンも少しかけてみます?」
 揺籠のそんな誘い。二人はじゃあ、ちょっとだけと恐る恐る自分のスイカを差し出した。
「ん、意外とおいしいの」
「思った程、甘くはない……これはこれでいいんですさ」
 新しく見付けたスイカにお塩の味。キョウカと紫苑は堪能した。

 一方、騒がしいのは小学生男子達だ。
「スイカの種飛ばし競争しようよ!」
「よっしゃー! 負けねー!! ぶぶぶぶ!!」
「フライングー! まけないー!」
 熱中する翔と陽向。はぁと溜息をつくファウスト。
「別に種飛ばしを叱るつもりはないが、ちゃんと片付けるんだぞ貴様ら……」
 散らばるスイカの種。来年、此処からスイカが生えてきたらどうしよう。

 ※※※

 海岸を出れば、其処はテーマパーク。
「遊園地に、縁日か?」
 ファウストは目の前に広がる光景をそのまま言葉にしてしまた。
 目の前に広がるのは、色とりどりのアトラクションと――それと、縁日。
「確かに子どもが喜びそうなものだが……」
「イエーイおまつりだー」
 ファウストの呟きが零れ落ちるよりも早く鉄砲玉のように飛んでいったのは
「翔サン、団体行動を乱すのは感心しませんがねェ」
 そんな揺籠も背中の後方。ずーっと遠く。金魚すくいの屋台。
 つくと早く早くと促すから少し呆れ中がらも一同は翔の後を追い掛けた。
「あの、でっかいカメとるよ!」
「おお……というか、なんで金魚すくいの中ってカメがいるんだろーな」
 翔が指差したのは金魚すくいの水槽の中のカメだった。
 赤や黒。時々金の金魚たちに混じって一匹だけカメが居る。
「やろーよ!」
「おう、負けないぜー!」
 翔と陽向はノリノリでポイを握り、水につけたがすぐに破れてしまった。
「不器用ですねェ――こうするんでさ」
 水につけたポイをひょいっと素早く上げる。ひっかけるように水から弾き出された赤い和金がもう片手で持つお椀の中へと入って行った。
「おお、ドウメキのにーちゃん上手だね。金魚の救世主?」
「そのすくうとはまた違いますがねェ。大切なのは素早く丁寧に」
 何度かポイを駄目にしつつも翔は諦めなかった。ポイの残骸を山にして何とかカメを取った。
「よく粘りましたねェ」
「えへへー。とったー。名前はカメタローにする!」
 揺籠に頭を撫でられて翔はご機嫌です。
(くっくっく。百目鬼殿も良い保護者であるな)
 少し離れた場所で観察していたのはこの男。子ども達だけではなく振り回される揺籠やファウストを眺めているのも楽しかったらしい。
 ある意味、一番状況を愉しんでいるのはこの男だったんではないだろうか?

 ※※※

「見た目は年頃の女だ。余りくっつくのは感心しないがな」
「どうして?」
「こうした方が迷子にならないんですさ」
 一方、出店を一頻り見たファウストとキョウカと紫苑はアトラクションの周辺を歩いていた。
 両手に花とでも言えば聞こえはいいのだろうが、ファウストはふたりの女子高生(中身は小学生)に両腕に掴まられる形で歩いていた。
 誰も乗っていないアトラクション。それなのに陽気な音楽をかき鳴らしながら踊るように稼働している。
「慎みを持つというか――それが、大人の嗜みなんだ」
「大人って面倒臭いんですさ」
 紫苑が少し拗ねたようにそういうと、キョウカがふと足を止めた。
「しーたも、ふぁうじーたもいっしょに乗るの」
「何にだ」
 キョウカが指差した先には高い場所を高速で駆ける電車のようなアトラクションがあった。
「ジェットコースター。いつもは身長制限あって乗れないからこういう時に乗るんだよ?」
「びゅーんと走るんですさ。すげー気持ちいいと思うですぜ!」
「ああ、あの高いところへ行き素早く駆けるアトラクションか。羽があるから必要ないと思うのだが」
 別に高いところを行ったり来たりするだけだろう。キョウカに促され軽い気持ちで乗ったジェットコースター。
 しかし、この後、ファウストはある意味地獄を見ることになるのであった。

 ※※※

「高々何年かでこんなになっちまうなんて、人間ってェのは難儀ですねェ」
「くっくっく……だが、その成長を見るのも、また楽しい」
 夜の遊園地には子ども達の歓声。月の光を眺めながら、揺籠と久秀は酒を呷っている。
「ですねェ……悪くはない」
 月は子ども達の声とは関係無く静かに揺れている。喉を通り過ぎる日本酒の味は、何処かいつもより柔らかく感じた。
「お、酒でさー!」
「お酒飲んでるの」
「酒だー!」
「お酒だね」
 いつの間にか戻って来た子ども達が身を乗り出してお酒に興味を示すものだから揺籠は、さっと動かし背中に隠した。
「おいガキ、お前らにはまだ早ぇでさ」
 揺籠の言葉は当たり前。しかし
「くっくっくっく……このような夢を見てしまうほど大人に憧れる子ども達にはこれを」
 久秀が差し出したのは、どう見ても瓶ビールにしか見えない代物。
 茶色の光沢する瓶に、ラベル。
「それはビール。沖方サ――」
「くっくっく……そうとしか見えない炭酸飲料だ」
「そんなもんがあるんですねぃ……」
「くっくっくっく……一昔前に流行ったものだが、今でも売っているところには売っているのだよ」
 笑う久秀の傍ら。陽向はその瓶を手に取った。
「じゃあ、おれが注ぐぞ」
 お兄ちゃんのプライドを此処で見せつけなければ。
 何処からか用意したコップ四つ分。注がれる琥珀色の液体と泡は本当にビールのようだ。よく出来た作りに揺籠は感心。
「おいしそうでさ」
「ありがとなのー」
「うわーい。ウマソー」
 それぞれコップを手に取る。乾杯もそこそこに勢いよく翔は子ども用ビールを呷り、ぷはーと一息。
「やっぱり動き回った後のビールは最高なんだよ!」
「まァ、それはタダの炭酸飲料ですがねェ」
 でも、こういうのって気分が大事なんです。

 ※※※

 遠くの空が、少しずつ白く染まってゆく。
 遊園地のスピーカーから流れる音楽は何処か懐かしくも寂しい旋律。
「もう、終わりでさー」
「……もっと、遊びたいの」
 しょんぼりと項垂れる紫苑とキョウカ。
「ゆっくり大人になればいい」
 紫苑の頭を撫でるファウストの表情は、優しさに満ちた――でも、ちょっとだけホッとした安堵が混じった、そんな表情だった。


●おはよう!
 夏の朝はラジオ体操の音と一緒に迎える。チチチと小鳥の囀りが耳に心地良い。
 そういえば、お泊まり会をしているんだった。
 真っ先に起きたのは紫苑。勢いよくカーテンをじゃらんっと開ける。
「みんな、早く起きるでさー!」
「ん……おはよう、なの?」
 目をごしごしと擦りながらキョウカは、きょとりと首を傾げた。
 共に起き出した少年達が何だか上機嫌そうに見えたから。
「しょーたもひなにーたも、ごきげんにみえるんだよ?」
「夢をみたんだぜ。おれ、イケメンだった気がする」
「いや、俺の方がイケメンだったでさ!」
 即座に言い返した紫苑。何故だか陽向と同じ夢を見た気がするから。
「えへへ、僕もたのしいことだったきがするよ」
 ほわりと笑った翔は、するとまたうとうと。そのままこてりと二度寝。
「う……しょーた、ねたらだめなの。ちゃんと起きなきゃだめなんだよ?」
 慌てたキョウカがゆさゆさと翔の体を揺らす。

「……貴様ら、起きているのか?」
 響くノックの音とファウストの声。別室で寝ていた大人達が様子を見にきたのだろう。
「いま、あけるんでさー!」
 ドアに向かう紫苑。

 それぞれの朝を迎える。



―――――― ※ ――――――


 さて、今宵魅せましたのは在る少年少女達の憧れの噺。
 楽しい夢か、悪夢はそれぞれの感じ方次第。


―――――― ※ ――――――




━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 jb8416 / 紫苑 / 女 /ナイトウォーカー 】
【 jb5761 / 沖方 久秀 / 男 / ルインズブレイド  】
【 jb8351 / キョウカ / 女 / アカシックレコーダー:タイプA 】
【 jb8361 / 百目鬼 揺籠 / 男 / 阿修羅 】
【 jb8428 / 蘇芳 陽向 / 男 / ディバインナイト 】
【 jb8432 / 天駆 翔 / 男 / バハムートテイマー 】
【 jb8866 / ファウスト / 男 / ダアト  】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 こんにちは、水綺ゆらです。
 大変お待たせしてしまい申し訳御座いませんでした。
 初めて、多人数のノベルを担当させて頂くことになって凄く緊張していたのですが、いざ書き始めてしまえばあっと言う間。とても楽しく書かせていただきました。
 ドタバタ気味になってしまいましたが、いかがでしたでしょうか?
 少しでも、気に入って頂けましたら幸いです。
アクアPCパーティノベル -
水綺ゆら クリエイターズルームへ
エリュシオン
2014年10月02日

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