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『泡沫の夢、或いは―― 』
浅茅 いばらjb8764


「ねえねえ、デート? これってデートだよねっ?」
「あー、まあ……せやな、そんなもん……かもしれへん、多分、一応?」
 歯切れの悪い答え。
 瞳をキラキラと輝かせて覗き込んで来るリコ・ロゼ(jz0318)に対し、浅茅 いばら(jb8764)はぷいっと顔を背ける。
 日曜日の遊園地で女の子と二人きりなんて、どう考えてもデートのシチュエーションだ。
 それにただの友達と遊びに来ただけなら、わざわざ遊園地の券売機前で待ち合わせたりしない。
 ご近所なのだから、家まで迎えに行けば良いのだ――昔、小学校の低学年くらいまではそうしていた様に。
 それをしなかった……いや、出来なかったのは、ご近所さんに見られるのが恥ずかしかったからで、それはつまり、これがデートである為で――
「じゃ、腕組んでも良いよねっ」
 リコがするりと腕を絡みつけて来る。
 良いなんて言ってない。言ってないけど……別に、駄目なわけでもない、かな。
 何だろう、何だかお尻の辺りがモゾモゾと落ち着かない。
 照れくさい様な、居心地が悪い様な、でもやっぱり嬉しい様な。
 だって、そうだろう。
 リコとはお互いにハイハイの頃からの付き合いで、保育園も幼稚園も、小学校も一緒。今だって同じ中学に通っている。
 気心の知れた幼馴染み、腐れ縁と言っても良い。
 そんなリコを、女の子として意識し始めたのはいつごろからだったろう。
「ぽや〜んとしてないで、ほら、行こ?」
 のんびりしていたら閉園までに回りきれないと、リコが腕をぐいぐい引っ張る。
「え、まさかリコ、乗り物全制覇する気ぃや……」
「する! だって、せっかくフリーパス買ったんだよ?」
 金額分は楽しまなきゃ、勿体ないじゃない。
 そう言ったリコの金銭感覚は、流石に女の子と言うべきか。
「どこから回ろっか? いばらん、どれが良い?」
「うちはリコの好きなとこでええわ」
「えー、デートのエスコートって、ふつー男の子がするんだよ?」
 そんなこと言われても。
「しょーがないなー、じゃあ今日は特別に、リコがエスコートしてあげるね!」
 案内図を片手に、リコはさっさと歩き出した。
 どこに行くのかわからないが、いばらは引っ張られるままに足を動かす。
「そのかわり、お食事は全部いばらんのおごりー!」
「そこは最初からそのつもりやろ?」
「えへへー、わかっちゃった?」
「当たり前や」
 長い付き合いなのだから。
 

「まず、ぜっきょー系は外せないよね!」
 ぐいぐい引っ張られて辿り着いたのは、世界最大級の落差とGを誇るジェットコースター。
 その次は立ち乗りコースターに、宙ぶらりんコースター、フリーフォール、大回転ブランコ――
「楽しいね、来て良かったね!」
「……せ、せやな……」
 うぇっぷ。
「あれ、どしたのいばらん? 顔、なんか青い……てゆーか真っ白?」
 そりゃそうだよ、上がったと思ったら落とされて、ブン回されて、シェイクされて……これで平気な顔してるリコの方がおかしい。
 いや、乗ってる最中は耳元で鳴る風の音さえかき消す程の絶叫ノンストップだったのに、降りると何事もなかった様にケロッとしてるなんて。
 一方のいばらは、膝はガクガク足はブルブル、大事なものはキュッと上がったきり降りて来る気配もない。
「リコは怖くないんか?」
「こわいよ! でもたのしー!」
 女の子ってすごい。勝てる気がしない。

「じゃ、次はお化け屋敷ね!」
 系統は違うけれど、また叫ぶ系か。
 しかし男子たるもの、お化けごときを怖がる訳にはいかない……と言うか、そういった非現実的なものは怖くない。
 よし、今度はちゃんと頼りになる所を見せてやr――
「うわあぁぁぁっ!」
「きゃーーーーっ!」
 スタッフの皆さん、流石に脅かすツボを心得ていらっしゃる。
 二人で声を限りに叫びまくって、遠慮なく互いにギュウギュウ抱き付いて、意外に育っていた胸の感触にドッキリしてみたり。

「あー楽しかった!」
 叫びまくって喉がカラカラ、お腹も空いたし、そろそろ食事にしようか。
 天気も良いし、外で食べられる軽食系が良さそうだ。
「リコは何にする?」
 店先に貼られた、少し色褪せたメニューの写真を見て、リコが首を捻る。
「あっ、これがいい! 見て、いばらん! らぶらぶセットだって!」
「え……?」
 それは細長〜いパンに様々な具を挟んだサンドイッチと、ハート型のストローが付いたドリンクのセットだ。
 ストローは勿論、二人で一緒に飲む為のカップル仕様。
 サンドイッチの方は、両端から一緒に食べて行って、最後は……わかるね?
「リコ、それはちょっと早いって言うか、うちらまだ中学生やし」
 普通に食べよう、普通に。
「えー、つまんなーい! だってデートだよ?」
「文句があるなら自分で買うたらええわ」
 こういう時は、財布を握っている方に分があるのだ。
 と言うか、せめてこんな時くらいは主導権を握りたい。
「じゃ、デザートにチョコパフェ付けたら許してあげる」
「それはどうも、おおきに」
 交渉成立。

 食後は少しソフトな乗り物系にしておこうね。
 メリーゴーラウンドに、コーヒーカップ……は、あかん。あれは酔う。
 迷路で脱出ミッションをクリアして、そろそろお腹がこなれてきたら再び絶叫マシン。
 疲れを知らずに遊び回っていると、あっという間に時間が過ぎて……

 いつの間にか、辺りには夕闇が迫っていた。
 良い子はそろそろ家に帰る時間だ。
「最後にあれ! あれ乗ろう!」
 リコが指差したのは、闇に沈み始めた空に花火の様に浮かぶ大観覧車。
 デートの締めといったら定番だし、絶対に外せないスポットだ。
 二人を乗せたゴンドラは、ゆっくりと空に上がって行く。
「あっ、ほら! 高いトコだとまだ夕日も見えるよ!」
 西の空を指差して、リコが嬉しそうに笑う。
 反対側の窓の下にはキラキラと輝く遊園地の夜景が見えた。
「楽しかったね」
「うん」
「また来たいね」
「せやね」
「一緒に来ようね」
「……」
 窓の外を熱心に眺めながら、リコは名残を惜しむ様に呟く。
 ふいに向き直ると、にっこりと笑った。
「いばらん、だいすきだよっ」
 頬に軽く唇を触れ、照れ隠しの様に首に腕を回して抱き付く。
 柔らかくて、温かい。
 そっと抱きとめながら、いばらは思った。
 まるで夢みたいだと――





 それは、確かに夢だった。
 儚く淡い、泡沫の夢。
 目覚めればやはり、いばらは撃退士で、ハーフ悪魔で……リコはヴァニタス。
 それが現実だ。
「けど、ええ夢やったな……」
 いばらもリコも共に普通の人間で、ただの中学生で、幼馴染みで、恋人同士で……天魔との戦いもなくて。
 もしかしたら、そんな可能性もあったのかもしれない――どこか別の世界には。
 苦笑いを漏らしながら起き上がる。
 どうやら少し、寝過ごしてしまった様だ。

 と、枕元で携帯が鳴った。
「……リコからや」
 どうしたのだろう。
 種子島で何かあったのだろうか。

 しかし、聞こえて来た声には緊張感の欠片もなく――

『あ、もしもしいばらん? 起こしちゃってごめんね?』
 突然だけど、と前置きをして、リコは言った。


『ねえねえ、遊園地いこ、ゆーえんちっ♪』



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb8764/浅茅 いばら/男性/15歳/彼氏】
【jz0318/リコ ロゼ/女性/14歳/彼女】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 お世話になっております、STANZAです。
 この度はご依頼ありがとうございました。

 遊園地でのらぶらぶデート、いかがでしたでしょうか。
 微笑ましくも初々しいカップル……を、目指してみたのですが!

 イメージの齟齬などありましたら、リテイクはご遠慮なくどうぞ。

 では、お楽しみ頂けると幸いです。
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エリュシオン
2014年10月02日

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