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『見据えた道の先に向けて 』
ルーフィン・ルクセンベール(eb5668)&所所楽 柳(eb2918)

●夏のひととき

「おとーさんおかーさん! 玲央! 水がうごいてる! おいかけてくるよ!」
 ワンピース水着のフリルと、父譲りの白い髪をなびかせて。小さな女の子が波打ち際をちゃぷちゃぷと駆ける。
「瑠那、海ははじめてじゃないだろう?」
 サーフパンツに上着を羽織った父親が、くすりと笑って呼び止める。
「船の上からだったりしたものね、やっぱり近いと怖いかな?」
 自分と同じ黒髪の男の子を腕に抱いた母親も同じようにくすりと笑う。過ごす時間が長くなるにつれ、笑い方も夫婦で似てきていた。
「ちがうの、玲央におしえてあげてるの!」
「ねーちゃ♪」
 海に到着するまで楽しみにして、ずっと抑えていた感情を笑顔と一緒に弾けるように振り撒く娘。両親であるルーフィン・ルクセンベール(eb5668)と所所楽 柳(eb2918)も笑顔と一緒に、少しばかりのからかいを返した。柳の腕に抱かれた息子も姉に手を伸ばして嬉しそうに笑う。
「ほらっ、玲央もあそびたいって!」
 遊んできてもいい? 首をかしげて見上げる娘にルーフィンがわざと間をもたせた。
「その前にみんなでやることがあるだろう?」
 その言葉に、首をかしげてうーんと唸る娘。
「準備運動しようねってお話ししたよね?」
 荷物を置いた柳がしゃがみこんで息子を下ろす。視線を合わせれば、そうだった! と娘は両手を叩いた。さっそく弟の手を引いて、玲央ものびのびしようねーと手伝い始める。
 面倒見の良い姉と、姉が大好きな弟。二人とも可愛らしく、いい子に育っていた。

 空気がたっぷり入った玩具を海水に浮かべれば、泳げなくても波をゆらゆら楽しめる。
 歩き始めたばかりの玲央が乗るのは流石に少し難しく、柳が抱え上げたまま、ゆらゆらぷかりと波を楽しむ。瑠奈はルーフィンのサポートを受けながらも、自分で玩具に抱き付き、揺れる水面、その不規則な動きを楽しんでいた。
「とつぜんだったり、ゆっくりだったり。おもしろーい♪」
 ずっと同じ音がしないから、波はたくさん考えてるのねと言う娘に、確かにそうだねと頷く。
「おかーさんの楽器みたいに、いつも同じ音じゃないの」
「瑠奈は耳がいいね、お母さんに似たのかな?」
「おべんきょうもちゃんとしてるのよ!」
 ルーフィンのからかいに、むきになるのは父親が好きだから。いつか行商についていくのだと、頑張っていることを伝えたくなったのだろう。普段から両親がともに冒険者をしていた時の話を聞いているから、憧れているらしい。離れて暮らすときがあっても、一緒に居る時はいつも幸せそうにしている両親だからこそ。
「いちにんまえになったら、おかーさんのかわりについていってあげるの!」
 玲央はまだ小さいから、おとーさん一人だと寂しいでしょう?
「ちっちゃ、やー!」
 僕だって大きくなるんだから、とまだ少ない語彙で玲央が抗議。小さな二人が可愛くて、ぎゅっと抱きしめる柳だった。

●見守ること

 ずっと水に浸かっていた体を休めながら、砂浜で遊ぶ子供達を眺めるルーフィンと柳。小さな玲央一人だけならずっと付きっきりにもなるべきだけれど。姉弟で遊ぶことに慣れた面倒見の良い瑠奈はずっと玲央の相手をしていて、少しばかり離れた場所にいても安心して任せられる。行商の仕事で家を空けることが多いルーフィンのかわりにと、柳を助けようと小さいながらに思って過ごしているからかもしれない。
 今は玲央と一緒に砂山を作って、拾った貝殻を飾って遊んでいる。
「しっかりした子ですね?」
 お母さんの教育がいいのかな、とルーフィンがわざと他人行儀な、結婚するより前の口調で話す。
「でもちゃんと、お父さんが好きな子になっているだろう?」
 柳もルーフィンのお遊びに付き合って、昔の口調に戻る。今は互いに親としての口調も様になっていて、それが当たり前になっているのだけれど。偶に、こうして昔のように言葉遊びをするように、二人だけの掛け合いをするのは子供達に内緒の楽しみだった。どちらが始めたのかは覚えていないけれど、当たり前のように、こうして二人の世界を作るときは自然にスイッチが切り替わる。
「そういうところもヤナに似て可愛いですよね」
「‥‥っ!」
 ルーフィンが笑顔でさらりと言うのは昔からずっと同じだ。そして柳も何時も照れてしまうのはどうしても変わらない。だからずっと仲がよくて、子供もそれを当たり前に受け入れているほどになっているのだけれど。
 日焼けではなく真っ赤になった柳の肩を抱き寄せるルーフィン。
「その水着も素敵です」
 和風の花模様があしらわれたタンキニが柳の肢体を彩っている。二度の出産を経て、以前より丸みを帯びた体。かつては鍛えることが優先でほっそりとしていた柳だけれど、時を経るにつれて更に女性の魅力が増している、そう思うルーフィンである。
「瑠奈も玲央も勿論可愛い私達の子供ですが、私の一番は柳ですよ」
 今も胸がざわめきます。そう言って柳の手を自分の胸に誘い鼓動を確かめさせる。
「わかってる‥‥から、今はその、ルーっ!?」
 白旗をあげる代わりに、柳は子供達の様子を見てくるからと夫の元を慌てて離れた。今は外で、子供達も近くに居るから。口早にそう言って駆けていく。
「もう少しだったんですけど、ね」
 雰囲気に飲まれてくれたおかげで、唇が触れ合うまであと少しだった。照れる様子がいつまでも初々しい妻の様子が楽しくてついつい迫ってしまうけれど。それだけ彼女が愛おしいからだ。いつだって、愛妻を見る視線は愛情に溢れているし、隠すつもりだってないルーフィンである。

●手を繋いで

 日が傾ききるその前に、荷物を纏めて帰り支度。夕暮れ時とはいえ気温はまだまだ暖かい。まずは宿まで戻ろうと家族四人で歩き出す。娘は二人の真ん中、息子は母の腕の中。
 両手それぞれに父と母が居てご機嫌な瑠奈は、目いっぱい遊んだ後なのにまだまだ元気が余っているようで。お気に入りの曲を鼻歌にしながら、笑顔で道を進んでいく。
 姉の元気がうつっているのか、玲央も合の手を入れるようにきゃっきゃと笑い声をあげていた。
 しかし次第に、姉の歌が子守歌になっているようで、少しずつ瞼を重そうに瞬きを繰り返している。ついには寝ぼけて、柳の水着のリボンの端をもきゅもきゅと食んでいた。
「瑠奈、瑠ー奈ー?」
「なーにー?」
 鼻歌と同じ調子で答える娘に、声量を落としてルーフィンが伝える。
「玲央がね、眠たいってさ。‥‥だから、ちょっとずつ声を小さくしてあげようね?」
「‥‥んにゅ」
 えっ? そう大きく答えかけて、慌てて両手で自分の口を抑える娘。寝言のような声を出した玲央をそうっと見上げてから、小さくわかったと答え、人差し指を口元にあてた。
「起こしてしまっても大丈夫だよ?」
 一度離れた手を瑠奈の頭にぽんと乗せて柳は微笑む。
「まだ夕ご飯もあるからね、その時には一度起こしてあげようと思うから」
 たくさん遊んで、お腹も減ったでしょうと聞けば、勢いよく上下に首を振る。
「献立はなんだろうね?」
 ルーフィンの仕事の手伝いでもない、家族みんなの旅行。好きなだけのんびりできる時間。そんな特別な日の食事はなんだろう?

●いつかのために

「ヤナ‥‥?」
 ぴくりと柳の肩が震えた。
 子供達に気づかれないほどの、小さな、声にもならないような声。楽士として耳を鍛えている柳だからこそ気付く、本当に小さなささやき声。少しくらいの距離では聞き逃すはずもないその声を、ルーフィンは妻の耳元に触れそうで触れない距離にまで唇を近づけて、囁いた。
 子供達は既に疲れて眠っている。海から帰って、旅館に泊まって、その翌日。
 今はもう特別な場所ではなくて、ここは家族が拠点としている京都の自宅。
 だからこそ誰にはばかることもない場所だ。なのにわざと囁く夫の意図に気づいてしまって、ただ名を呼ばれただけの柳の耳朶が赤く染まった。
「まだ、何も言ってませんよ?」
 くすくす、その距離のままルーフィンが笑う。その小さな息遣いもまた、柳の体を熱くする。
「‥‥そういう時の旦那様は、大抵意地悪だと決まっているからね」
 せめてもの意趣返しに普段とは違う呼び方で答える。まだ夫の方を振り向かない。
「そんなことはないだろう?」
 意地を張るというなら、こちらも続けよう。見えないのがわかっているからと微笑んで柳を抱きしめる。
「また、それだもの」
 ほんの小さな息遣いで、微笑っているのはわかっているんだと呟いてルーフィンの顔を見つめる。ほんの少しの差だけれど、上目遣いになる。潤んだような瞳の自分がルーフィンの瞳に映りこんでいるのがわかり、知らず顔の赤みが強まった。
(それもわかっていて、傍に居るのだけど)
 連れ添った時間も長くなって行くにつれて、本当は考えておきたいことが多くある。この後ルーフィンが言うであろう言葉はわかっていて、それにどう答えるか。先の事を想い、少しばかり考え込んでしまうことがあるのだけれど。
(でも、決めることも出来たから‥‥)
 旅行の間に聞いた言葉。それは娘の意図とは別の意味で柳にとって大事な言葉になった。
「ヤナ、また家族を増やしませんか?」
 だから、愛する夫の言葉にも、素直に頷くことにする。いつもなら照れてしまって、そっけない返事をしてしまうけれど。
「そうだね」
 恥ずかしいことには変わりなくて、視線をまっすぐ返すことができない。代わりにルーフィンの首に腕を回した。
「多くてもいい、じゃなくて‥‥たくさん、欲しいな」

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【eb5668 / ルーフィン・ルクセンベール / 男 / 21歳 / ファイター】
【eb2918 / 所所楽 柳 / 女 / 28歳 / 志士】
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2014年10月06日

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