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『闘神、海に吼える 』
ガイ=ファング3818)&(登場しない)


 緑色の霧が、船上に立ちこめている。
 眠りの静寂をもたらす、魔法の霧。その中では、静かに殺戮と略奪が行われる。
 眠りに落ちた者たちを殺し尽くし、積荷を奪う。それだけのはず、であった。
 静寂の中で、いつも通りの海賊稼業が行われる。そのはずであった。
 だが今日は違う。静寂をもたらす緑の霧の中、あってはならない喧噪が生じている。
 戦いの、喧噪。
 一見、何の変哲もない貨物船であった。
 その乗組員たちが、しかし眠りの霧を物ともせず、反撃を繰り出して来たのだ。
「と、頭領! 魔法が効いていませんぜ、一体どうなってんですかい、ぐはあっ!」
 髑髏の仮面を着けた男が、また1人、倒れた。
 眠りの魔法を無効化する、髑髏の仮面。これを着用している限り、魔法の霧の中でも自由に動き回って殺戮と略奪を行う事が出来る。
 それを被った海賊たちが、被っていない貨物船員たちの反撃を受け、次々と甲板上に倒れ伏してゆく。
「ば、馬鹿な……これは一体……」
 頭領と呼ばれた男が、後退りをした。
 魔力で、海賊団1つを統率している男である。
 緑色の魔法の霧で標的を眠らせ、静寂のうちに殺戮と略奪を行う「緑の海賊団」。この海域では、知らぬ者のいない名前である。
 今日もまた、そこそこの荷を積んでいると思われる貨物船を標的に緑の霧を発生させ、接舷し、眠っているはずの乗組員を片っ端から始末しようとしたところだった。
 その乗組員たちが1人も眠っておらず、剣を振るい、槍を突き込み、弓を引き、苛烈極まる反撃を仕掛けて来たのだ。
「……だ、だが! 私の魔法は、眠りの霧だけではないぞ」
 頭領は両手を掲げ、この世の言語ではないものを呟いた。
 いくつもの火の玉が、空中に生じた。
「無駄だぜ」
 それを恐れもせず、悠然と歩み寄って来る1人の男。
 筋肉の塊、としか表現しようのない巨漢である。この貨物船の、用心棒か何かであろう。
「退魔の波動……俺の持ち技の1つでな、おめえさんの魔法程度だったら充分に防げる。前もって、この船全体に仕掛けといたのさ」
「何を、わけのわからぬ事を……!」
 頭領の激昂に合わせ、火の玉が一斉に発射された。
「貴様のような、魔法の心得を欠片ほども持たぬ蛮人が! 私の魔法を防ぐなどと!」
「まあ確かに俺、魔法の類は全然だけどよ」
 火の玉が全て、巨漢の体表面で砕け散り、火の粉と化す。
 その火の粉を、分厚い素手で払い落としながら、男はニヤリと不敵に微笑んだ。
「気功の方に……ちょいとばかり、心得があってな」
「気功……気功だと……」
 頭領は呻いた。
「魔力を持たぬ輩の、その場しのぎの手段でしかない力で……私の魔法を、無効化するなど……」
 会話は、そこで終わりだった。
 貨物船全体が一瞬、揺れた。
 巨漢が、甲板を蹴って跳躍したのだ。
 筋肉の塊が、巨大な槍の如く飛んで来る。飛び蹴りだった。
 髑髏の仮面を被った海賊たちが、頭領を護衛すべく剣や戦斧を振るいながら、巨大な左足に蹴散らされ吹っ飛んで行く。
 頭領が見た最後のもの。それは視界を埋め尽くす、左足だった。


 南の辺境の、洋上である。
 官憲はいない。捕えた海賊を引き渡して法の裁きに委ねる、という事が出来ない。
 襲って来た海賊は、皆殺しにするしかないという事だ。
 血の汚れがこびりついた甲板に、ガイ・ファングは黙々とモップを擦り付けていた。
 褌一丁の筋骨たくましい半裸身に、容赦なく陽が当たる。
「まあ……派手に暴れた分、後始末はしねえとな」
 モップの柄が折れぬよう力加減をしながら、ガイは苦笑した。
 海賊が襲って来たので応戦した。全く正しい事である、とは思う。
 だが結局、弱い者いじめのような戦いになってしまった。
 これまで数多くの山賊・海賊の類と戦ってきた。ガイなりに1つだけ、わかった事がある。
 弱い者たちは、弱いが故に徒党を組み、より弱い者から奪う。そういう生き方しか出来ないのだ。
 そんな事を思いつつガイは、ひょいと左手を掲げた。飛来した何かを、無造作に掴み取る。
 矢であった。
 ちらりと、海の方を見る。
 凶猛なリバイアサンの旗を掲げた、一目でわかる巨大な海賊船が、鮫の如く近付いて来たところである。
 その甲板上で海賊たちが弓を引き、こちらに向かって矢の雨を降らせている。
 こちらの甲板上では、モップを持った船員たちが悲鳴を上げ、逃げ惑っている。
 豪雨の如く彼らを襲う矢を、ガイは右手のモップと左の素手で、片っ端から叩き落とした。
 その間にも、海賊船は悠々と波を蹴立て、近付いて来る。
 やがて、声が聞こえる距離になった。
「何だオイ、裸の男にゃ用はねーんだよォオ! 女ぁいねーのか女女女女女女!」
「ボロっちい船だぜ。女は期待出来ねえが……案外こーゆうボロ船が、値打ちモンのお宝をこっそり運んでたりすんだよなァー」
 弓を捨てて剣を抜き、こちらへ斬り込もうとしている海賊たちを、ガイは睨み据えた。
「てめえらもか……!」
 弱者であるが故に群れ集まり、より弱い者をよってたかって襲うしかない輩。
 襲って来られれば、戦うしかない。戦えば、1人の命も奪わずに済ませる事など出来ない。
「俺に……弱い者いじめを、させようってのかあ!」
 接舷。
 斬り込んで来られる前に、ガイの方から跳躍していた。これまで様々な敵を蹴り砕いて来た太い両脚は、跳躍力の塊でもある。
 重量級の巨体が、さながら暴風の如く、海賊船に飛び込んでいた。飛び蹴りの、形でだ。
 ガイの巨大な右足が、海賊2、3人をまとめて粉砕した。
「な、何だてめえ……」
 怯みながらも剣を構える海賊たちに対し、ガイはモップを振るった。棒術もどき、とも言える形になった。得物を用いての戦闘は、未経験である。
 剣を叩き落とされた海賊たちが、悲鳴を上げながら尻餅をつく。
「おおっと……掃除道具を、粗末に扱っちゃあいけねえな」
「ガイの旦那、1人じゃ無茶だ!」
 貨物船の船員たちが、続いて乗り込んで来た。
「こいつら、魔法は使わねえ。その分、ガチの戦闘はこの間の奴らより手強いぜ!」
「おお、そうか。じゃ、あんたらにも頑張ってもらわねえとな」
 まるで魔法使いの杖のようにモップを掲げ、ガイは念じた。
 気の力が、白色の光となって溢れ出し、船員たちを包み込む。
 守護の波動。言わば、気の力で作られた即席の鎧である。
 それを身にまとった船員たちが、勇んで海賊たちに挑みかかって行く。
「弱いものいじめ、みてえな戦い……さっさと終わらせてやるぜ」
 ガイの全身に、気の力が漲ってゆく。
 筋骨たくましい半裸身が、白い光をまといながら跳躍した。
「気功……連撃脚!」
 破壊力と跳躍力の塊である巨大な両脚が、左右交互に轟音を立てて弧を描く。
 竜巻にも似た連続の回し蹴りが、海賊たちをことごとく打ち砕いていった。


 海賊団を2つ、壊滅させた。
 その噂が広がったのか、あれから海賊の襲撃はなくなってしまった。
 にもかかわらず今、ガイの乗る貨物船は危機を迎えている。
 海が荒れているわけでもないのに、船は激しく揺らいでいた。
 船体に、何匹もの大蛇が巻き付いている。
 否、蛇ではない。びっしりと無数の吸盤を並べた、巨大な触手である。
「イカかタコかは、わからねえが……」
 揺れる甲板上で、ガイはどうにか平衡を保ち、身構えた。
「弱い者いじめ……じゃねえ戦いが、ようやく出来そうだぜ」
「お、おい……まさか、あんなのと戦おうってのか……」
 船員たちは立っていられず、怯えている。
「無茶だ! いくら、あんたでも」
「無茶でも何でも、やらなきゃ船が沈んじまう」
 大海蛇の如く襲いかかって来た触手の1本を、ガイは両腕で抱え、捕えた。
 凄まじい力が、全身を締め上げる。無数の吸盤が、皮膚に食らい付いて来る。
 痛みが、心地良かった。戦いの痛み。
 海に出て、忘れかけていたものである。
 牙を剥くように、ガイは微笑んだ。
「いいぜ、海ってのは……陸と違って、逃げ場がねえからなあ!」
PCシチュエーションノベル(シングル) -
小湊拓也 クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2014年10月07日

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