▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『魔法のスノードームは危険物? 』
ファルス・ティレイラ3733)&碧摩・蓮(NPCA009)

「ううっ……。さっ寒いわ」
 ファルス・ティレイラ(3733)はガタガタと震えながら、一見は手のひらサイズの水晶球にしか見えない魔法道具に、雪を発生させる術をかけていく。
「ご苦労さん、ティレイラ。その術を入れ終えたら、休憩に入りなよ」
 作業部屋に入って来た碧摩・蓮(NPCA009)を振り返って見たティレイラは、少しだけ眼を細める。
「……そのチャイナドレスで寒くないんですか?」
「あんたとは鍛え方が違うからねぇ。そっちこそ竜のクセに寒さに弱いとはね」
「雪の術を使っていれば、竜だって寒くなります!」
 叫びながらも手は休まず、木箱いっぱいの水晶球に術をかけ終えた。
 作業部屋を出ると、アンティークショップ・レンの裏口がある。扉を開けて中に入り、休憩室に入って蓮がいれたあたたかい紅茶を飲んで一息つく。
「ふう、あったかい。でも蓮さん、もうクリスマス商品を作り始めるなんて、早くないですか?」
「そうでもないさ。クリスマスまで三ヶ月きっているんだよ? 他の店だって、もうクリスマスに向けて動き出しているさ」
 蓮は肩を竦めながら、ティレイラが座っているソファ椅子の向かいに座る。
「けど本当は、材料を手に入れるのが遅くなっちまったんだよね。配達屋をしているあんたに仕事を頼みたかったんだけど、残念ながらスケジュールが合わなかったしね」
「ああ、そうでした。でも代わりにスノードームの制作を手伝っているんですから、良いじゃないですか」
 先月、蓮からとある材料を運んでほしいと依頼されたのだが、生憎と先約が入っていたので断ったのだ。
 そして今月になり、蓮に新たにクリスマス用のスノードームを制作するのを手伝ってほしいと頼まれた。
 作るスノードームは魔法商品で、本物のモミの木や雪、そして男の子と女の子の小さな人形も魔法の水晶球に術をかけながら入れる。冬にだけかけた術は発動して、スノードームの中では男の子と女の子の人形が動き回り、雪が降る中で遊ぶ光景が見られるのだ。またモミの木はクリスマスツリーになっていて、見るだけでも楽しい気分にさせてくれる。
 そして冬の季節が終わると、動かないただのスノードームになるのだ。クリスマスツリーも、モミの木になる。
「でも蓮さんのお店の裏に、小さいですけど工房があってビックリしました」
「いつもは商品置き場にしているんだけど、今回は製品を作ることになったから片付けたんだよ」
「そしてスノードームを作る為の魔法術も準備しているのが凄いですね……」
「まあそこら辺は抜かりないさ」
 術はどれも簡単なものばかりで、魔法に慣れたティレイラはすぐにコツを掴んで覚えた。
 しかし雪の術は寒く、使うほどティレイラの体温を奪っていったのだ。
「さて、紅茶を飲み終えましたし、次の作業に移りますね」
「真面目だね。もう少し休んでいけば?」
「いえ、大丈夫です。モミの木と雪は全て入れ終えたんですけど、人形を入れる作業はこれからなので。主役を入れて、実際に動いているのを見てみたいんです」
「そうかい。でも人形を入れる術には気をつけて。物体を入れるのと、植物や自然現象を入れるのとでは術の性質が違うからね。うっかり自分自身が入っちゃうこともあるからさ」
「了解しました。では続きをしてきますね」
 ティレイラは再び工房に戻ると、人形を水晶球に入れる術が書かれてある説明書を見る。
「え〜っと。魔法陣が描かれてある紙を二枚、まず床に置いてっと。魔法陣の上に片方は水晶球を、もう片方には人形を置くのね。そして三枚目の魔法陣が描かれたこの紙に、魔力を込めて触れる……っと」
 説明書通りにすると魔法陣が白い光を放ち、次の瞬間には水晶球に人形達が入っていた。
「ふう……。意外と魔力を使うのね。コレは私みたいな魔法使いじゃなきゃできない作業だわ」
 物質転送魔法は対象が人形とはいえ、かなりの集中力を必要とする。
 淡々とした作業が続く中、ティレイラの顔に疲労の色が浮かぶ。暖房をつけていないのに、肌にはうっすらと汗が滲んでいた。
「はあー。ようやく最後の一個ね。疲れたわ」
 ティレイラの仕事はスノードームを作るところまでなので、コレで最後の作業となる。
 少しふらつきながらも水晶球を魔法陣の上に置き、人形も魔法陣の上に置こうとした。
「おっと」
 しかしうっかり女の子の人形が手から落ちてしまい、ティレイラは慌てて空中で掴もうとする。だが片手には転送用の魔法陣が描かれた紙があり、もう片方の手には魔力がこもっており、男の子の人形も握り締めていた。体勢を崩した時に人形を置くべきだった魔法陣を足で踏んでおり、女の子の人形を空中で両手で捕まえた時に術は思いがけずに発動してしまう。

 ピカーッ!

 眩しい光が作業部屋に満ちて、思わずティレイラは眼を閉じる。
 しばらくして、寒さを感じて眼を開けたティレイラは、周囲を見て愕然とした。
『うっそー! ここってスノードームの中なのっ!?』
 物質転送魔法は正常に発動した為、魔法陣の上にいたティレイラまでもスノードームの中に入ってしまったようだ。
 ティレイラの他にスノードームの中では、クリスマスツリーの下で男の子と女の子が楽しそうに遊んでいる。
『とっとにかくここから出ないと……!』
 ティレイラは頭に角、背中には紫色の竜の翼、お尻には尻尾を生やし、飛翔可能な姿になって飛び立つ。しかしスノードームは魔法道具なので、どんなことをしても壊れることはない。
『蓮さん、助けてくださーいっ!』
「ティレイラ、作業は終わったかい? ……ってアレ? いないわね」
 タイミング良く蓮が部屋に入ってきたものの、ティレイラの声は届かないようだ。
「もしかして休憩する為に外に出ているのかねぇ。おや、どうやら作業は全部終わっているみたいだし、とりあえず持っていこうか」
 最後の一個であるティレイラ入りのスノードームを箱に入れて、蓮は歩き出す。
 すると店内で、一人の老人が待っていた。
「お待たせ。どうやら完成したみたいだよ」
「おお、そうですか。ご苦労様でした」
「はいよ」
 蓮は老人から報酬入りの茶封筒を受け取り、老人は蓮からスノードーム入りの箱を受け取る。
 そしてスノードームは老人が経営する魔法道具屋のおもちゃ売り場に置かれることになった。


 ――それから数日後。スノードームの売れ行きを知る為に、蓮は老人の店を訪れる。
「ふむ、なかなか子供や女性相手に評判が良いみたいじゃないか。……うん? アレは……」
 テーブルに並べられたスノードームの一つに、見覚えのある人物が入っているのを発見した蓮は、手で掴んで目線まで上げた。
「やっぱりティレイラじゃないか。何で中に入っているんだい?」
『ううっ……。蓮さん、ようやく助けに来てくれました……』
 少しやつれたティレイラは、数日前に失敗してしまったことを話す。
「おやおや。しょーがない子だねぇ」
 蓮はため息をついた後、老人に話をしてスノードームを引き取った。


「とりあえずあんたの師匠に連絡したから、来たら出してもらいな」
『すみません……』
 蓮は自分の店のレジ近くに、スノードームを置く。
「まっ、師匠が来るまでそこで雪遊びでもしてな。本物だし、冷たいだろう?」
『……じゃあ雪ダルマとか雪ウサギとか作りますね』
 こうしてティレイラは師匠が来るまで、蓮が見ている中、人形の男の子と女の子と共に雪遊びをするのであった。


【終わり】
PCシチュエーションノベル(シングル) -
hosimure クリエイターズルームへ
東京怪談
2014年10月07日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.