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『俺たちの夏はいつだってこれから 』
矢野 古代jb1679)&矢野 胡桃ja2617)&RehniNamja5283)&ジェラルド&ブラックパレードja9284)&華桜りりかjb6883)&ゼロ=シュバイツァーjb7501


 夏も終わりに――近づいているはずなのに、暑い。
 蝉の寿命は短いからこそ尊いのではないのか、いつまで鳴いているつもりだ。そろそろ儚む気も失せてきた。
「あーついー…… あついの苦手ー……」
「根本的な解決が必要だな……」
 久遠ヶ原の片隅で、溶ける直前の親子が一組。
 娘は矢野 胡桃、父は矢野 古代。
 半分溶けかかっている娘の頬へ、冷えたジュースの缶を押し当ててやりながら古代は思案する。
 自分はともかく、娘の一大事だ。
 盛夏を過ぎたというのに、この暑さじゃあ……。
(撃退士達の2014年最後の夏遊び―― 最後になってくれよ、頼むぜ神様)

「あー、俺だ。俺俺。詐欺じゃねえよ。夏だし、山に行こうと思ってな。……そう、何人かでワイワイ。折角の機会、夏も終わるし残暑の内に……どうだ?」

 気心の知れた友人たちへ連絡をする、打って響くは友情かな。5分と経たずに全員から快諾の旨が揃い、古代は笑った。
「モモ。涼みに、遠出しようか。弁当作って持ち寄って…… 山で川遊びをすれば涼しい筈だ」
 淡い桃色の髪をくしゃりと撫でて、父は娘へ微笑んだ。




 翌朝。かくして集った勇者たちは、気温が上がる前に山登りを始める。
 ハイキングコースとして親しまれている山だ。――撃退士向けに。
 時おり木々の影を小動物が駆け抜けてゆく。長閑な山道だ。
「いやぁ、まだまだ暑いねぇ☆ 女の子が薄着なのはいいんだけど♪」
 チャラいノリで言いながら、ジェラルド&ブラックパレードは新鮮な空気を吸い込む。
 なんて健康的な朝か。
「でもゼロぽんと歩いてると、ホストの慰安旅行と間違われそうだねぇ……。あ、や、ヤノぽんもね☆」
「えらい健康的な慰安旅行だけどな」
 ジェラルドの言葉に、古代が肩を揺らす。
「可愛いオンナノコも一緒だし、行った先でもいろいろ楽しめそうだ☆」
「んぅ……?」
 悪戯っぽく顔を覗きこまれると華桜りりかは顔を赤らめ、かつぎで照れ隠し。
「へぇ……?」
「ターゲットは一名である、と」
 ポニーテールの銀髪青年の後ろへ、感情を殺した表情の胡桃とRehni Namが腕を組んで立ち並んだ。
「……様式美やなー。りんりん、危ないから下がっとこーか」
 ゼロ=シュバイツァーは、さりげなくりりかを庇い、血の粛清(比喩)を頷きながら見守った。
「もし熊が出れば、狩ってその場で熊鍋やクマカレーも良いですよね……」
「熊が出れば、ボクは狩られずに済むのかな? ……レフにゃん、ぎぶぎぶ!!」
「はっはっは、山は始まったばかりだぞー」
 仲の良い一行を止めるでなく鷹揚に笑った古代が――視線を前に向け、目を疑った。

「おおおおい!? 山から岩が転がってきてるぞ!」
「あっはは。古代さん、そのギャグは古いでー?」
「ゼ、ゼロさん、うしろうしろ……」

 ――一瞬にして、轟音と風が一人の鴉を巻き込んだ。

「岩なんて私が吹き飛ばします!」
 レフニーが、下へと転がり落ちてゆく岩に向け超電磁誘導砲を放つ――鴉もろとも。

「ゼロぽぉおおおおん!!(笑)」
「お前の死は無駄にはしない…… さぁ、進むぞ少女たち!(笑)」
「生きとる、生きとる(笑顔)」
 翼を広げて追いついたゼロが、ジェラルドと古代の肩をガッと掴む。
「今のは油断しただけや。自然のトラップ? そんなもの物質透過があれば大体大丈夫!」
 いやあ、悪魔でよかった。
 額の汗をぬぐうゼロへ、巻き込んでしまったとレフニーが治癒術を施しつつ。
 再び連続で襲って来た岩は、今度こそ直前でレフニーが打ち砕いた。
 いったい誰が何処でこんなことを。
「あら…… こんなところに阻霊符が」
「陛下ァアアア!?」
「アクシデントは公平じゃないと。ね、右腕?」
 古代の傍らで胡桃がスルリと阻霊符を取り出せば、ゼロが青ざめる。
「んぅ、山で遊ぶのはたいへんなの……」
 やりとりをみて、りりかが笑った。
 胡桃やレフニーといった女性陣とは、もっと親睦を深めたいと思っていて。
 開始早々のにぎやかさに、人見知りも少しだけ和らぐ……
「! カオウさん!」
「ここ、猿まで出るの!?」
「え? ……はぅ」
 次に狙われたのは――りりか、の肌身離さず纏っているかつぎ。
 木々の合間から猿の小さな腕が伸び、攫おうとする直前でレフニーの斧槍がペチリと叩いては追い払い、胡桃が身を盾にしてりりかを庇う。
「あ……ありがとうございます、です」
「ケガはありませんか? どこか、引っかかれたり……」
 案じるレフニーへ、りりかは『大丈夫』とこくこく頷きを返した。
「さすが、久遠ヶ原御用達の山……ということでいいのかしら」
 ねえ、父さん―― 胡桃が呼びかけた先に、古代の姿は無かった。

「落とし穴の下に竹槍は、人為的にも程があると思わないか…… 一体どうなってんだ!」

 長い両足を引っ掛けて何とか穴の途中で留まった古代が、震える声で呟いた。




 吊り橋の、板が一枚だけ踏み抜き仕様になっていたり、
 木々から一斉にカエルが降り注いできたり、
「……。強化訓練をオプションに入れたつもりはないんだが」
 もう少しで到着地点と定めている川原へ出る。眩暈を覚えながら古代がぼやく――その横を、黒い影が追い抜いた。
「猿…… じゃない!」
「人間か!」
「覚悟はできてるってことよね」
 レフニー、ゼロの言葉に続き、冷静な眼差しで胡桃が銃を取り出した。

 ――静かな山の中。銃声がふたつ、みっつ、響く。鳥の群れが飛び立った。

 倒れたのは、謎のニンジャ軍団。古代から奪った荷物が傍らに崩れていた。
「あーあ…… こりゃ、弁当も崩れたな」
「!!」
「何が目的かは知らな―― モモ!?」
「父さんのお弁当を崩すだなんて…… 覚悟はできてるってことよね」
「「落ち着いて落ち着いて」」
 あからさまに目つきの変わった少女を、全員が取り押さえて事なきを得た。
 よくみれば、ニンジャは腕章を付けている。
「撃退士ハイキングにスパイスを―― 要らんわ!!」
 岩を転がしたり落とし穴を作ったり…… 久遠ヶ原の有志が、休日を使って無差別に起こしているイベントだそうだ。
 聞きだしたゼロがニンジャの一人を放り出す。
「怖いわー。久遠ヶ原、ほんと怖いわー……」
 背中を見遣り、ゼロが呟いた。

 
 その後も負けじと繰り出される各種トラップを潜り抜け、一行が川辺へ辿りついた頃には汗だくになっていた。
「さすが、久遠ヶ原御用達の山……ということでいいのかしら、矢野さん」
「あの」
「せっかくのお弁当……引っくり返ってしまって残念ね、矢野さん」
「あの」
 他人行儀な胡桃の口ぶりに、古代が意味の違う汗を流す。
「折角だし、屋外で料理なんかを作るのもいいね☆」
 バーのマスターであるジェラルドが、荷物を降ろしながら周囲をグルリ見渡す。
 時折、魚の銀色が川面に跳ねた。
 なかなか活きのいい材料が手に入れられそう。
「食べ物持参って聞いてたから、俺はこんな感じで持って来てたけど…… まだ凍っとるな」
「え、ゼロぽん…… 果物そのまま? 冷凍?」
 みかんにパイナップルが、カッチカチやでー
「背中とかに入れると涼しいかもな。登ってる最中に気づいたらよかったわ」
「……今からでも遅くないのよ?」
「遠慮いたします」
 胡桃の笑顔が差し向けられ、ゼロが笑顔で返す。
「……まさかとは思うが」
 顎の無精ひげを撫で、古代がそちらを見遣る。
「スイカ割り用の、スイカは」
「カッチカチやで?」
 凍らせたスイカを取り出し、得意げにゼロ。
「どうやって割るんだ!!!?」
「スイカ割りって、あれでしょ? それぞれの獲物で、狙撃」
 胡桃の言葉へ、お気に入りのビスクドールを抱いて、りりかがこくりと頷いた。
 どうみてもオーバーキルですありがとうございます。
「間違って同士討ちになっても、痛いの痛いの飛んでいけーがありますからね」
 にっこり。飯盒炊飯の準備をしていたレフニーが、愛らしい笑顔へ恐ろしい一言を添えてフラグを立てた。




 川の水は、外の暑さに反してひんやり気持ちいい。
 全身を沈め、それから顔を出して胡桃は首を振る。
「生き返るー……!」
「川の水が冷たくて気持ち良いの」
 りりかは流れにある小岩に腰掛け、足元をぱしゃぱしゃさせて。
 水着は勇気を出してビキニ。その上に猫耳パーカーを羽織り、強い日差しを避けていた。
「故郷の山野を駆け巡っていた頃を思い出しますねー」
「んぅ……。故郷……、ですか?」
 川魚を仕留めていたレフニーの独り言に、りりかが小首を傾げる。
 親しくなり始めたばかりで、まだ互いに互いの事を、詳しくは知らない。
 言いにくいようなことじゃなくても良い、何が好きとか、どんなことが得意とか……
 知りたい。話したい。
 言外に少女の瞳は輝いていたらしく、同じ気持ちを抱いていたレフニーがにこりと笑いを返した。
「そうですねぇ……」
 ここからの話は、ここだけの話。
 女の子同士の秘密の話。


「いやあ…… 眼福、眼福☆」
「何故だろうな、俺たちが犯罪者集団に見えるのは」
「そいつは気のせいやで、古代さん。あ、ジェラやんカクテルおかわりもろてええ?」
 川遊びにはしゃぐ少女たち、屋外調理の準備を進める男たち。
「ヤノぽんはお弁当作ってきてくれたんでしょう? こっちはボクたちでやっておくからモモたちのところへ行ってらっしゃい♪」
「だが……」
 夜に仕込み、朝に仕上げた手の込んだ五段の重箱。胡桃も、別途に作っているようだった。中身は『ナイショ!』とのことだったが。
「ついでに、お魚たくさん獲ってきて☆」
「……自分が一番楽しまずして一体他の奴らを楽しませることが出来るのか! いや、出来る筈がない!(反語)」
 ジェラルドに背を押され、古代は揚々と川へと走って行った。
「あ、ゼロぽん、おかわりだったね☆ 仕上げは、せっかくだからゼロぽんの持ってきた凍らせパイナップルで―― あっ」
「あっ」
 ジェラルドの手が滑り、凶器とも呼べる冷凍パイナップルが古代の頭部へバックアタック炸裂した。
 何か怒鳴っているようだが聞こえない聞こえない。
「賑やかで涼やかで、いいねぇーえ♪」
「平和やなー」




 真剣な表情で、少女たちが取り囲むは一つのスイカ。
 天魔でもV兵器でもない、ごく普通のスイカ。凍ってはいるが、ごく普通のスイカである。
「へーか、そこから右へ45度であります。ああ、行き過ぎ行き過ぎ。左へ20度、調整を。銃口は――」
「わかりにくいわ右腕」
「何をさりげなく俺に照準を合わせてるんだ」
「!!?」
「嘘やで、そんなんするわけないでしょう! 古代さーん!!!」
 胡桃を誘導するのはゼロ、そこへ古代がまぜっかえしの言葉を挟む。

「初めてのスイカわり、こんな感じで良い……です?
「うんうん、その調子りりかさん♪ よーし、そこで撃ってみようか☆」
「はい、じぇらるどさん」
(しばらくお待ちください)
「ご、ごめんなさい、ゼロさん! そ、そんなつもりはなくって……」
「痛くないでー、だいじょうぶやでー。りんりんは何っも悪くないでー」
「いやぁ、お見事お見事♪」
「ジェラやん、あとで校舎裏な?」
 手を叩く悪友の胸倉をつかんだろうかと思ったのも一瞬だけ。
 りりかはスイカ割りに必要なだけしか力を込めていなかったし、胡桃に追い回されるゼロを仕留めるだけの誘導・攻撃の連携はなかなかのものだ。
 
「スイカ……私が斬って見せます!」
 大剣を手に、レフニーが呼吸を整える。
 古代の誘導に従い――包丁一閃!! スイカは切り刻まれた!!
「見事な1cm角ね……レフニーさん」
 細胞を潰すことなく華麗なる切り口。刻み過ぎた感は否めない。
「フルーツポンチにしよっか〜♪ ゼロぽんの果物も使ってゴージャスにしてあげる☆」
 皮の部分も丁寧に切り分けられたスイカを受け取り、ジェラルドが片目を瞑った。




 新鮮獲れたて川魚の塩焼き、お約束のカレー、簡単バーベキューに愛情弁当に舌鼓。
「おにぎりも、こうして網で炙ると幅が出ますね」
 手持ちの調味料で合わせダレを塗りながら、レフニーが即席焼きおにぎりを振舞う。
「ええですねー。カレーにもよく合う味付けで」
 共通の友人が多いものの、ゼロとレフニーの接点は薄い。食事というのは、そんな時の潤滑剤として活躍するのである。
「ラルにぃ。これはあげる。だから、そっちをちょうだい?」
「え、もうデザート? ……最初からデザート?」
「だ、だって、ほら、食事は大人のひとたちのほうが、おなかいっぱいたべたいでしょう?」
「……あの。夏でも溶けない工夫の、手作りチョコをもってきたの、です」
 おずおずと、りりかが手荷物から小さな箱を取り出した。
「夏でも……溶けない?」
 きらり、胡桃の瞳が輝く。
「お口の中では、溶けるの、です」
 こくこく。言葉少なに、りりかが頷く。
「わー! 頂きます……! おいしい、ありがとう華桜さん! ねね、レフニーさんもひとくち。あーん」
「あら、ありがとうございます」
「……モモ、父には?」
「父には、特製お弁当! いっぱい食べてね。はい、あーん!」
 笑顔で振り向く胡桃の手元には『父専用弁当箱』。どうみても他と別格に内容がゴージャスです。愛の壁は高い。
「ほらほらこっち、お肉焼けたよー」
「んぐ、むぐ…… こくん」
「りんりん、無理せんで自分のペースでええから」
 空いた皿へ次々と焼けた肉を置いてゆこうとするジェラルドに、何とか応えようとするりりか。
 案じて、ゼロが小さな背をさする。
「なんだか」
 ゼロの器へおかわりのカレーを盛りつけながら、そんな光景にレフニーが笑う。
「大きな家族みたいですね」


 血縁の有無を問わず、久遠ヶ原にはいろいろな形の『家族』があるものだけど。
 帝国なんてものが在ったりなかったりだけど。
 気心の知れた仲、まだまだ手探りの友情、それらが夏の暑さに溶けるかのように混ざりあう。
 川のせせらぎ、蝉の鳴き声。炎の爆ぜる音。
 真夏の熱は流石に越えて、それでも夏の輪郭は残ったまま。
 季節が深まり、巡り、そうするうちに―― 知り合ったばかりの友のことも、もっともっと好きになる。
 そんな予感の、夏の終わり。
 何かの始まり。



【俺たちの夏はいつだってこれから 了】


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb1679/ 矢野 古代 / 男 /35歳/ インフィルトレイター】
【ja2617/ 矢野 胡桃 / 女 /14歳/ インフィルトレイター】
【ja2617/ Rehni Nam  / 女 /17歳/ アストラルヴァンガード】
【jb6883/ 華桜りりか / 女 /13歳/ 陰陽師】
【ja9284/ジェラルド&ブラックパレード/男/23歳/ 阿修羅】
【jb7501/ゼロ=シュバイツァー/男/29歳/ ナイトウォーカー】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
ご依頼、ありがとうございました。
夏の終わり、仲間たちとのお楽しみ。
満喫していただけましたら、幸いです。
アクアPCパーティノベル -
佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2014年10月07日

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