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『最強のヒヨッコども? 』
月居 愁也ja6837)&小野友真ja6901

●訪問者
 月居 愁也がスマホを覗きながら、くしゃくしゃと髪をかきまわす。
「なあさっきのコンビニって、地図のこれだよな。……おい友真、聞いてんのか?」
「……明日を示す地図など要らない。お決まりのルールを笑ってやれよ……」
 小野友真は半ば虚ろな目で、『月光ピエロ』の歌詞を呟いた。伝説のミュージシャン”SOHEY”こと、米倉創平のデビュー間もない頃のヒットナンバーである。
「いい加減に学習しろ」
 ゴツッ。
「痛いっ!?」
 愁也の肘が友真の頭を小突いた。
「いきなり殴らんといてくれる!? アホになったらどうするん!!」
「それ以上ならねえよ!! また徹夜したのかよ、体調整えるのも仕事の内だぜ?」
 友真はまた、創平のPVを夜通し見ていたに違いない。
「大丈夫。いや寧ろ、素面では恐れ多くてなんかやらかしそうで……」
 そう言う友真は、まだ酒に酔える年齢にはなっていない。
「その分、音楽に酔って来たん。あ、このフレーズ、なんかちょっとカッコ良いですよね!」
 目を輝かせて振り向く友真だったが、愁也は聞いていない。
「あーここだ。何だ、さっき通り過ぎてたんじゃねえの」
「愁也さん……さらっと流してくれてありがとな……」
「行くぞ、ほら早く!」
 大荷物を提げたふたりが建物に入って行く。

●憧れの人
 先に立って歩く愁也が、ぎくしゃくと手足を動かす友真を振り向いた。 
「……俺、今までどうやって歩いてたっけ……」
 さっき玄関ホールでインターフォン越しの声を耳にして、友真は完全に挙動不審になってしまった。
(大丈夫かよ……)
 そう思いつつも愁也は躊躇なく、目的の部屋の呼び鈴を押す。
「あっ待って愁也さん、心の準備が……!」
 友真の目の前で扉が開いていった。
「時間通り……だな」
 顔を覗かせたのは他ならぬ、米倉創平その人だった。

 創平の自宅兼スタジオは、無造作でシンプルだが、決して無機質ではない。彼の曲のイメージそのままだった。
 友真は自分の鼓動を感じながらも、プロとして最高のスマイルで玄関に立つ。
「今日はお忙しい所、お時間とっていただいて有難うございます!」
 創平が少し口元を緩めた。その表情だけで、魂が抜けて行きそうだ。
「とりあえず上がるといい」
「お邪魔しまーす!」
 愁也はいつも通りの調子で上がり込んだ。

 リビングにはもう一人の人物がいた。
「本当に来たのかヒヨッコ共」
 憎まれ口を叩くのは、長い髪を束ねた蘆夜葦輝だった。
 愁也はヒヨコ呼ばわりに満面の笑みで答える。
「あっしーの唐揚げ! 約束だから!」
「誰があっしーだ」
「うおっ!?」
 葦輝が突然愁也の脛を蹴る。だが愁也は反対の足に重心を移し、膝を高く上げてぴたりと停止する。
 葦輝が鼻で笑った。
「鍛練は続けているようだな」
 指導の厳しい彼にしては、最大級の褒め言葉だった。
 ここまで頑張った甲斐があって、一方的に約束した『手作り唐揚げ』にありつけるのである。タマゴからヒヨコになっただけでも大したものだ。
「ったりめーじゃん! あ、そだ」
 愁也と友真は持参した手土産を、控え目にリビングテーブルの隅に置いた。
「これ社長からです。俺らにカバーさせてもらって、ほんとに有難うございました!」
 ふたり揃って頭を下げる。

●いざ聖域へ
 創平が玄関脇の一角を指さす。
「こっちだ」
 そこには地下へと続く階段があった。
「なるほど〜こうなってるんだ」
 階段を降りた所で、愁也が溜息のような声を漏らした。
 そこはスタジオだった。様々な機材が整然と並び、中央には大きなグランドピアノが鎮座している。
「ふわ……すご……」
 この部屋で紡ぎ出される創平の音が、ディスクになって自分を魅了したのだと思うと、友真は吸った空気を吐くのすら惜しかった。
「写真撮らせて頂いていいですか?」
 愁也は物怖じすることなく用件を切り出す。
 今日は愁也と友真のユニット『SHOOT⇒YOU』のファンクラブ会報に載せる企画のための取材なのだ。
 見出しの『突撃! SOHEY宅の晩ごはん』は多少見直しが入るかもしれないが。
「構わないよ。ああ……小野君、ここへ」
 創平がピアノの前に腰掛け、自分の脇を指さした。
「えっ」
「……そうだな、軽く歌ってみようか」
「ええっ」
 実はそこから後の友真の記憶は曖昧だ。
 心地よい音色に合わせ、この上なく幸せな心地で歌ったことは微かに覚えている。
 自分の身体が楽器になって、創平のピアノと一緒に何かを作り出している。クリエイターとしての幸福に、友真は包まれていたのだ。

 その後、愁也は別の聖域へ。
「あっしー、こういうの好き? 俺、一生懸命選んで来たんだぜ!」
 日本酒の瓶を手に、ひょいとキッチンを覗き込んだ。
「案外気が利くな。取材は終わったのか?」
 葦輝はちらりと視線を投げただけで、すぐに作業に戻る。
 包丁の動きの鮮やかさに、愁也は暫し見とれた。
「すげー……」
「包丁以外は自分の物ではないからな。今一つ勝手が分からん」
 葦輝は真剣な表情で手を動かす。
 ふと見ると、すぐ傍に黄金色に輝く出汁巻き卵があった。
 葦輝がこちらを見ていないのを確認して、愁也はそうっと手を伸ばし……
「甘いわ!」
 べしべしべしっ。
「あだだっだ!!」
 愁也の手の甲に、フライ返し三連撃の赤い跡がくっきりと残っていた。
「お前だけ飯を抜くぞ!」
「ごめん! ごめんってば!」
 流石にこれ以上は危険と判断し、愁也は後じさりながらキッチンを離れた。

●ヒヨコ達の夢
 テーブルにはハジカミ一本の位置まで計算された料理が整然と並んでいた。
 愁也と友真は思わず正座している。
「……なんだかんだで、気合が入っているようだな」
「何か言ったか」
 葦輝が追加の料理を運んで来て、創平は軽く肩をすくめる。
「先に食べていろ。唐揚げは出来立てを出すから」
「あ、何か手伝いましょーか?」
 腰を浮かせた友真に、葦輝がちらりと横目を向けた。
「座っておけ。俺の弟子には十年早い」
 笑いをこらえつつ、愁也が手を合わせる。
「じゃあ遠慮なく。いただきますっ!」
 さっき取り損ねた出汁巻き卵に早速箸をつける。
「なに、これ……」
「うま……っ」
 出汁は上品でありながらしっかり味がする。焼き具合も完璧だ。
「あっしー、ほんともったいないなあ……」
 葦輝は料理人だったが、やむを得ぬ事情により今はその道を諦めている。
「でも振付も一流やもんな……俺らも本業ぐらい頑張らんとな」
 友真が気真面目に呟いた。

「ほら、できたぞ」
「待ってましたぁー!!」
 愁也が拍手する。待望の鶏の唐揚げの登場だ。
「では早速……」
 アツアツにかぶりついたところで、愁也が妙な表情になる。
「かひゃい(固い)」
 葦輝が面白そうにその様子を見ていた。
「しっかり噛め。歯は自前だろうに。そうすればちゃんと味が分かる」
 葦輝の言う通りだった。
 最初こそ戸惑ったが、しっかり噛みしめると、浸けダレの醤油の旨味、香味野菜の香り、鶏の旨味が口一杯に広がって行く。
「あっしー……今まで俺が食った唐揚げって、何だったんだ……?」
 愁也が肉を噛みしめながら呟いた。友真も忙しく箸を動かしながら頷く。
「ほんまや……これだけでご飯いくらでも食べられるん……」
 葦輝の唇が僅かに笑みを形作った。
「それが本物の鶏だ。ヒヨッコ共、ブロイラーになるなよ。俺達が教えてやれることもあるかもしれないが、其れに従ってるだけでは所詮本物にはなれんぞ」
 愁也はまじまじと葦輝の顔を見つめた。
 そして意を決したように箸を置く。
「厚かましいと思うんですけど、お願いがあるんです」
 改まった調子で切り出す愁也に、葦輝と、そして創平も意外そうな目を向けた。
「冬にライブやるんです。そこで振付、お願いしたいんです」

 訪問の目的にはこれもあったのだ。
 仕事の依頼なのだから、当然会社から正式な依頼はある。
 だが本人にきちんと頼んで、こちらの本気を知って欲しかった。
 葦輝は暫く無言でふたりを見据えていた。
「途中で音を上げるなよ。それから、生活態度も見直してもらうぞ」
「宜しくお願いしますっ」
 友真が葦輝の眼力を受け止めるようにしっかりと顔を上げる。
 体力づくり、筋力トレーニング。自分に足りない物があることは良く分かっている。
「やったー!!」
 両手を上げて喜ぶ愁也。その隣で友真は。
「よかったあ……」
 ふにゃんと崩れ落ちて行った。

 * * *

 友真の目に、覗き込む愁也の顔が見えた。
 がばっと跳ね起き、辺りを見回す。
「あ、起きた」
 愁也の呆れ顔の向こうに、創平がグラスを手にこちらを見ていた。そんな仕草も、とても絵になる。
(こういうのも、いつか身につくといいなあ……)
 夢を見ているような気持から、はっと我に返る。
「あの、俺、もっと色々勉強して行きたいと思ってます。創平さんが俺に夢をくれたみたいに、皆に夢を届けられるような、そんな俺になりたいんです……!」
 創平はその言葉を最後まで聞き終えて、静かな微笑を浮かべた。
「表現者は時に孤独だ。与えるだけでは満足できなくなることもあるだろうな」
 その言葉が友真の胸を貫いた。この人は何でもお見通しなのだろうか。
「だから自分を強く持って頑張ると良い。弱さを否定するのではなく、弱さを認めて強くなることだ」
 言葉が沁み渡る。
「はい……俺、精一杯やります……!!」
 そこで緊張の糸が限界に達し、友真は再び寝床に沈んだ。

「睡眠時間の管理からとはな。先が思いやられる」
「すいません、コレ、置いて帰っていいですかー?」
「お前はその前に鍋洗いだ。こっちへ来い」
「えええ〜!?」
 愁也と葦輝の掛け合い、創平の横顔。
 夢現の心地で友真は深い眠りに落ちて行った。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja6837 / 月居 愁也 / 男 / 24 / アイドル】
【ja6901 / 小野友真 / 男 / 19 / アイドル】

同行NPC
【jz0092 / 米倉創平 / 男 / 35 / 伝説のミュージシャン”SOHEY”】
【jz0283 / 蘆夜葦輝 / 男 / 24 / 元料理人の振付師】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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唐揚げ、ゲットだぜ!
また少しバージョンアップ(予定)のユニットです。
この度のご依頼、誠に有難うございました!
■WTアナザーストーリーノベル(特別編)■ -
樹シロカ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2014年10月28日

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