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『剣を振り返る 』
リューリャ・ドラッケン(ia8037)

●瞬間

 その時が近づいている。それは開拓者達が皆感じ取っていることだったかもしれない。
 大きな戦いがあると見越している竜哉(ia8037)もその一人だ。
 駆鎧の修復の為、メンテナンスを頼んでいるいつもの機械ギルドに持ち込む事になったその日、竜哉は駆鎧と共に戦う今後を見据え、担当者に相談を持ち掛けようと考えていた。
「強化を頼めるか?」
 破損部を見せ、操作時の不具合も伝えた後に尋ねる。急務なのは修復だ。しかし“その時”に間に合うようならば、より強く戦えるようになりたいと考えていた。
「それじゃわからないな、どうしてだ」
 難しい、との一言を掘り下げる。いくらなんでも納得のいく説明は必要だ。竜哉の問いに対する答えは少しばかり長くなった。

●記録

 駆鎧のような自律行動をしない相棒は大量生産を前提に企画・設計されるのが前提だが、外観は所持する開拓者の好みに合わせる事も多い。そのためか、一見して同種とわからない駆鎧も存在する。逆に言えば基本的な内部構造は同じ系統の駆鎧であれば大差ないはずで、新たな強化手段が開発・公開された今であればどのギルドに持ち込んでも成果を得られる、それが一般的な状況であった。
(全くの別のものを、人狼型の枠に無理矢理押し込めているような歪さ、ね)
 ギルドで言われた言葉を声に出さずに繰り返す。
(そのうえ奇跡的なバランスで“人狼”型として成り立っている‥‥)
 多様な種類のある外装はともかくとして、一見するだけであれば内部構造も人狼型として扱えたということだ。これまでもメンテナンスや修復で同じギルドに依頼をしてきていたが、今までは特に問題が起きることもなかった。
 その強固性ゆえに破損は外装までに留められていたからこそ、修復に不便はなかったし、メンテナンスも他の人狼型と同じ工程で問題がなかったと聞いた。
 今の改良型に強化する際も、ただ能力の上限を解放するだけのものであり、外装を交換する程度だったからこそこの事実が意味を持つことはなかった。
 だが今回の強化は違う。外装だけではなく内部にもその改修の手を入れる程の規格なのだ。だからこそ改修に耐えうるかどうかの確認も兼ねて、改めて細部に視野を広げた結果‥‥壁が存在していた。
(安易な強化は却ってこの駆鎧を破損させる、だってさ)
 竜哉の意識も捉えられない部分、過去の記憶が竜哉自身の口元を微かに歪めた。
 この駆鎧を作り上げた彼女に届くだろうか。
 今は居ない彼女に。

 駆鎧の歴史は深いと呼べるほどではない。ジルべリアにおける研究は今も続けられており、駆鎧そのものの世代交代も行われている。今回竜哉が強化を見据える一体は、その中でも最新と呼べる第四世代、人狼に属しているとされていた。
(実際は違う)
 1006年の時点でほぼ完成していた、竜哉のための特別な一体だ。人狼そのものの普及は1012年だから、自身の駆鎧、その成り立ちを知る身としてはそれが誇らしくさえもあった。
 最先端の技術の粋が集まっているはずの開発集団よりも前に、ただ一人のアーマー技師‥‥彼女は、この人狼に似た非なる駆鎧を完成させていたという事実を示しているからだ。
「もしこれ以上の強さを求めて、強化を必要とするのなら‥‥駆鎧の製作者に頼る以外手段はない、か」
 自分に言い聞かせるために、ゆっくりと呟く。乗り越えたはずの記憶が、竜哉の闇を抉ろうと鎌首を擡げた。

●抱闇

 第四世代人狼に似た駆鎧を完成させていた彼女は、第三世代遠雷の開発実験中に事故死している。
 その記憶はこれまでに何度も竜哉の時間を奪い、時には居場所や理由も奪い定期的に目の前に形を成してきた。ある時は過去の繰り返し、ある時は自身の引き起こした残留思念、またある時は頬を伝う滴、己を鍛える剣の動きにさえ。
 彼女の死に竜哉でありリューリャと言う存在は全く関与していない。だから気に病む必要も、業を背負う理由も存在していない。それは竜哉自身が知っているし、理解できている。けれど、いやだからこそ、何もできなかった、関われなかったそのことが悔やまれるのだ。
 自分の為にあの駆鎧を生み出した彼女は、竜哉にとって憧れの、追いかけるべき背を持つ存在だった。師として姉として見守ってくれていた彼女だからこそ、何もできなかったことがいつになっても悔やまれる。

「いいや、動いたさ‥‥動いたが」
 言葉が勝手にこぼれ出る。それでも、助けることは出来なかった。
 縋り付く思いで飛んだ過去、幼かった自分とは違う成長した自分に気付いてくれた彼女。自らに降りかかる危険を予測していたけれど、その運命を受け入れた彼女。
 過去に戻った竜哉が得たものは、今も元気に笑う彼女ではなく、彼女の生き様、その覚悟だった。
 自分が居ても助けられなかった。大人として手を差し出せる身になってなお突きつけられたその事実は別の角度から竜哉の闇を育てようとした。けれど先達としての彼女はそこまで見越していたらしい。今の自分はあの時の彼女より時間も経験も重ねているはずだったのに‥‥越えられない、そう自覚してしまった。
 生者と死者と言う差が、視点を変えてしまっているのだろうか? 死へと足を踏み入れれば、自分も彼女のようになれるというのか?
(今は世界が違うから‥‥いいや、俺らしくないな)
 彼女からも釘を刺されているから、自分は今この場所で、前を向かなければならない。

●糸口

「なんで技師になったの?」
 かつての自分はそう聞いたはずだ。年頃のはずの彼女が日がな駆鎧と向き合っている生活。リューリャの知っている女性と言う概念と違っていた彼女は竜哉にとって都合のいい目標として目の前を歩いていた。あまりにイメージ通り過ぎていたから、彼女が女性であるという事実は奇異に映らず、ただ純粋に理由が知りたかったのだ。その理由もきっと倣うべき素敵なものに違いないと思ったから。
「父の背を見て育ったからだろうな」
 彼女の父もアーマーの研究をしていた。一時的にではあるが、試作一号機に関わった程の一線の学者だったと聞いたことがある。だからこそ彼女はその地位に憧れて、いつか自作の駆鎧を手に開発チームに掛け合うことになるのだろうとまだ未熟な想像を膨らませたものだ。
「いいや、ただ駆鎧が好きで、駆鎧に関われる仕事なら何でもよかったよ」
 駆鎧に真剣に向き合う父親の姿勢に感化された可能性はあるだろうなと笑った彼女の笑顔を思いだす。

(マイスターなら‥‥)
 彼女が作り上げたのは人狼型ではなく、オリジナルアーマーと呼べる代物。その技術の基盤は父親に手ほどきを受けたと聞いている。彼女が一人で作り上げることを可能にした、その理由は才能もあるのだろう。しかし知識の源であり制作環境であり潤沢な素材であり‥‥条件を整えたのは他でもない彼女の父親、かつてマイスターと呼ばれた男。汎用性の高い駆鎧ではなく、一人ひとりに合わせたオリジナルアーマーを生み出す道を貫きたいのだと言って若くして一線を退いた男。
 彼女は既に独り立ちしていて‥‥父とは離れて暮らしていると言っていた。
 希望が、見えた。
 記憶を頼りに情報をかき集める。その道で知らぬ者は居ない存在だからこそ、居場所はすぐに見つかった。
(厄介な相手ではある、か)
 我道を進み過ぎた結果、滅多に人の依頼を受けないという、確かな評判と共に。
■WTアナザーストーリーノベル(特別編)■ -
石田まきば クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2014年11月04日

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