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『Trick or Disguise? 』
シグリッド=リンドベリjb5318)&矢野 胡桃ja2617)&矢野 古代jb1679)&華桜りりかjb6883)&ゼロ=シュバイツァーjb7501



 久遠ヶ原の人工島に、新しく遊園地が出来た。
 その名も久遠ヶ原ドリームランド。
 センスのないネーミングだが、そこは突っ込まずにそっとしておくのが武士の情……と、それはともかく。
 水族館に続く新たなレジャースポットは今、オープン記念とハロウィンのイベントで大いに盛り上がっていた。

「はろうぃん、です? 楽しみなの…」
 入口前の広場に立って、華桜りりか(jb6883)は上を見上げた。
 透明な巨大ドームの中にコンパクトに纏められた遊園地は、ハロウィンシーズンの今、全てがオレンジ色に染まっている。
 正面には、巨大なカボチャのランタンが「どうぞお通り下さい」とばかりに口を開けていた。
 その中に、思い思いの仮装をした人々が吸い込まれて行く。
「ここが入口なのです?」
 シグリッド=リンドベリ(jb5318)は、恐る恐る中を覗き込んでみた。
 笑った形に切り取られた口は、大人でも楽に通り抜けられる程に広く、高い。
 上を見ると、蝋燭の様な灯りの漏れる両目の部分からは、門を守護する怪物ガーゴイルがちらりちらりと姿を現しては、その下を潜ろうとする人々に目を光らせていた。
「なんだか、あの番人さん達に気に入ってもらえなかったら、カボチャに食べられてしまいそうなのです…!」
 シグリッドは隣を歩く門木章治(jz0029)の腕に、ぎゅっとしがみつく。
 反対側では、りりかがしっかりと袖を握っていた。
 と、そこに雷の様な効果音と共に、恐ろしげな声が降って来る。

『Trick or Disguise?』

 びくぅっ!
 門木の両側を固めた二人が、ますます身を固くしてぴったりと貼り付いた。
「え、と、とりっく、おあ…?」
 なに? トリートじゃないの?
 シグリッドは助けを求める様に辺りをきょろきょろ。
「ディスガイズ、仮装って意味だな」
 答えたのは矢野 古代(jb1679)だった。
「仮装しないなら悪戯するぞ、つまり入場には仮装が必要って事だろう」
 流石は年の功、博識かつクールな言動がビシッと決まっている。
 お誘いを受けた時、「ん? ハロウィンだから遊ぼうって? 行くいくー!」というノリだった事は、他の人には言わなきゃバレない、と思う。
 身内には何も言わなくても、とっくに把握されまくっているだろうけれど。
「え、父さんどうしよう。仮装とか何も準備してないよ?」
 古代にひっついた矢野 胡桃(ja2617)が涙目になる。
 せっかく来たのに!
 すごーく楽しみにしてたのに!
 門前払いとか、泣くよ!?
「大丈夫や、胡桃ちゃん」
 その頭をゼロ=シュバイツァー(jb7501)がぽふぽふと叩く。
「そんな客の為に、貸衣装もあるらしいで?」
 しかも無料だ。

 では早速、変身!

「仮装か…特に思い浮かばんな」
 ずらりと並んだ衣装を物色していたゼロは、腰までありそうな黒髪ロングストレートのウィグに目を留める。
「せやな、こいつで昔の俺になるか」
 黒を基調にした金モールの豪華な貴族服に袖を通せば、魔界の貴公子の出来上がりだ。
「おにーさん、かっこいいのです」
「そうかそうか、もっと褒めてもええんやで?」
 ゼロに羽交い締めされて頭をぐりぐりされたシグリッドは、白の猫耳猫尻尾で可愛い化け猫に。
「化け猫なので、尻尾は二本です。せんせーとリュールさんもねこみみにします?」
 門木は黒猫、その母親リュールは灰色のロシアンブルー。
「ん? シグ坊、その美人誰や?」
「あ、おにーさんは知らなかったです? せんせーのお母さんなのですよー?」
 リュール・オウレアル、門木の育ての親だ。
 見た目は若いが、中身は九百歳を超えているらしい。
「つい先頃、堕天したばかりなのです」
「なら遊園地も初めてやろ? 今日は一日、俺がエスコートしたろか」
 ゼロはシグリッドの手から猫耳を取り上げると、リュールの頭にカポンと乗せる。
 スリムなパンツとジャケットの辛口コーデに、ひょっこり生えた耳と尻尾のミスマッチぶりが良い感じ?
「おお、似合ぅとるやないか、お嬢さん」
「お嬢さん…?」
 その声にリュールの眉がピクリと上がり、アイスブルーの瞳が冷たい光を放つが、ゼロは気にせず続けた。
「天魔に実年齢なんか関係ないやろ?」
 見た目が若くて美しければ、それで何も問題はない。
 それに相手の年齢を気にするのは、女性は皆等しく愛でるべしというナンパ道の精神に反するし。
 そんなわけで、ゼロにとってリュールは立派に攻略対象、らしいが――
「悪いな、リュールさん。気にしないでくれ、こいつのナンパはただの挨拶代わりだから」
 割って入った古代がゼロの肩を引いた。
「矢野古代だ、よろしくな。これは悪友のゼロ、いつ見ても酒呑んでるか女の子に声かけてるかのどっちかだが、悪い奴じゃない」
「なんやその紹介」
「間違ってはいないだろう?」
「それ以外にもあるやろ、料理とかハリセンとか!」
 悪戯とか悪巧みとか、ボケとかツッコミとか……年甲斐もなく、わりと碌な事してない気がするけど気にしない。
「おにーさんと矢野おとーさんは、仲良し」
「仲良しなの、です」
 そのやりとりを生温かく見守りつつ、シグリッドが保護者の如き慈愛の笑みを浮かべる。
 背中に黒マント、口元には小さな牙を付け、ゴスロリ吸血鬼に変身したりりかも、こくこくと頷いた。
 いつものかつぎの代わりに、頭にちょこんと乗せたミニハットに付けられたヴェールがふわりと揺れる。
 ところで、矢野親子はまだ着替えていない様だが――
「胡桃さんはどんな格好をする、です?」
「んー、何が良いかな……父さんとお揃いで、何か……」
 洋風ダークなイメージは、りりかやゼロと被るし。
「ももんがの着ぐるみなんて、ないよね」
「なら、これはどうや?」
 ゼロが差し出したのは、キラキラの魔法少女コス。
「ステッキやら胸パッドやら全部セットで、しかも男女兼用フリーサイズや。古代さんには黒ストッキングもあるで!」
「だから! 私は! 魔法少女にはならぬと! あーれーほーどー!」
 がぶぅ!
「……ぇっ!?」
 囓られたのは、何故か門木だった。
「……ちょ、待て、俺はまだ何も…!」
「ま、だ……?」
 もぐもぐもぐ。
 この小動物、危険すぎる。
「モモ、お前には丁度良い衣装があるぞ」
 首根っこを掴んで引っぺがされた胡桃の目の前に現れた、真っ赤な顔。
「これだ」
 かっぽん。
 大きな口が、胡桃を頭から呑み込んだ。
「え、獅子頭……?」
 そう、正月に見る事が多い獅子舞のアレ。
「何でも噛み付きたがるところがそっくりだろ」
「何でもじゃないもん、格好いいおじさんだけだもん!」
 って言うかそれ、うら若き乙女の衣装としては、あんまりじゃありませんか?
「だったら何が良いんだ」
 あ、魔法少女は却下ね。
 女装系はもう、あまりインパクトがないって言うか、過去のアレコレがインパクト強すぎたって言うか、うん。
「他に父さんに似合いそうなの……やっぱり和服?」
「じゃあ獅子繋がりでこれにするか、親子だし」
 古代が手に取ったのは、歌舞伎の連獅子衣装フルセット――と言っても動き易い様に軽量化されているし、カツラの色も赤白だけでなくピンクや黄色などカラフルな色が揃っている。
 胡桃は桃獅子、古代は白獅子、化粧と隈取りはお好みで。

「これで漸く全員の衣装が揃ったな」
 古代は真っ白なフサフサ髪を風になびかせながら、園内に足を踏み入れる。
(あれ、そういえば俺、遊園地なんて何年振りだろう)
 思い出せないくらい昔の気がするが、心躍るワクワク感は変わらない――例え三十路になろうとも。
 目の前には、まさに夢の世界が広がっていた。
 外からは透明に見えたドームの天井はオレンジ色に染められ、それを通して降り注ぐ外の光が世界を夕暮れの様な雰囲気に包んでいる。
 ハロウィン仕様という事で観覧車のゴンドラがカボチャ型なのは勿論、街灯にはカボチャのランタンが下げられ、ゴミ箱やトイレの建物、移動販売の屋台に至るまで、全てがオレンジ色のカボチャ型。
 案内のスタッフも全てカボチャ頭という徹底ぶりだ。
 そして客はと言えば、オバケだったり吸血鬼だったり、棺桶を引きずって歩いていたり……かと思えば二次元キャラのレイヤーが撮影会をしていたり、ユルい着ぐるみがジェットコースターで雄叫びを上げていたり。
 園内のあちこちに立体ホログラムで投影された人魂やランタンが漂い、時折コウモリの群れが頭上を横切っていく。
 少し不気味だけれど、ダンスに誘う様な明るくコミカルな音楽が耳に心地良い。
 胡桃とりりかは物珍しそうに辺りをきょろきょろ、目を輝かせていた。
「これが、普通の遊園地? 前に行ったのは、ものすごーく独特な遊園地だったけど」
 胡桃が知っているのは、動物や恐竜がいたり黒子が出現したり、多分普通ではない何か――でも、ここもちょっと普通とは言い難い気がする。
「これが、はろうぃんの遊園地…何だか少し不思議な感じ、なの」
 りりかが頷くが、その不思議度は多分、少しなんてものではないだろう。
「まずは皆で記念撮影なのですよー!」
 シグリッドがカメラを取り出し、タイマーをセット。
 はいそこに並んでー、他でも撮りまくるけどね!

「さて、どこから回るかね」
 用意周到、園内の案内図とパンフレットを貰って来た古代が皆に尋ねる。
「甘いお菓子とか! 甘いお菓子とか! 格好いいおじさんをモグモグしt」
 っと、最後はお口チャックね。
「どんなアトラクションがあるのです?」
「シグ坊を投げて門木先生に当てるゲームとか、あったらええな!」
 案内図を覗き込んだシグリッドの頭を、ゼロがぐっちゃぐちゃに掻き混ぜた。
「ないです…!」
 あるのは絶叫系にファミリー系、普通の遊園地にあるものは一通り揃っている様だ。
 普通は見ない様なものも、いくつかある様だけれど。
「フライングボンバーって何でしょう?」
「ん? なんや…お客様が大砲の弾となってドカンと撃ち出され、その飛距離を競うアトラクションです…やて。面白そうやな、いっぺん撃ち出されてみるかシグ坊?」
「遠慮しておきます…!」
 似た様な事を、いつもゼロおにーさんにされてる気がするし。
「もっと皆で楽しめる様な、安全な乗り物が良いのですよ…!」
「ほな、やっぱりジェットコースターやな!」
 どうしてそうなる。
「ほう、シグ坊はゼロコースターの方がええんか?」
 ご希望とあらばブン回してあげるけど。
「ジェットの方で…!」


 というわけで。
「じぇっとこーすたー、も…カボチャ型、なのです?」
 りりかが見上げたレールの上には、いくつものカボチャが連なっていた。
 ファンシーな見た目に少し安心しつつ、乗り込んでみると――
 騙された。
 ファンシーなカボチャの列は撃退士さえ目眩を起こしそうな超スピードでレールを走り、行く手に待ち構えるギロチンや火の海、飛び出す針の山などを次々に超えていく。
 勿論、危険なギミックは全てホログラムで、例え死神の鎌で首をはねられたとしても実害はない。
 だが目も眩む超スピードで走行する中、現実と虚構の区別を付けろと言うのが無理な話だ。
 おまけに鎌が振り下ろされる瞬間に、絶妙なタイミングでゼロのヅラが飛び――
 べしゃっ!
 後ろに乗っていたシグリッドの顔に貼り付いた。
「うわあぁぁおにーさんの首があぁぁぁっ!!!」
 これは怖い。
 ジェット、いや、ゼロコースターにブン回されるよりも怖い。

 シグリッドはコースターを降りてもまだ膝がガクガク、門木に抱き付いていないと立っていられない状態だった。
 え、別に役得とか、そんなんじゃナイデスヨ?
「しぐりっどさん、だいじょうぶ……なの」
 そこに、案外平気そうな様子のりりかが声をかける。
「かつらが飛んだだけなの、です」
「せや、俺の首はちゃーんとココに…おや?」
 振り向いたりりかの目に、首から先が消え失せた魔貴族の姿が!
「!!!!!」
 りりかは声も出ない程に驚き、反射的に門木に抱き付いた。
 絶叫マシンとホラー系の怖さは、また別だ。
「どや、りんりん? 驚いたか?」
 首がないのに、顔の辺りから声がする。
「種明かし、したろか」
 どうやら種も仕掛けもあるらしい。
「ホログラムを使った、ちょっとした悪戯や」
 ゼロがスマホを取り出して何やら画面を操作すると、消えていた首が元に戻った。
 スマホで位置情報を割り出し、ピンポイントに背景画像のホログラムを投射する事によって、まるで透明になった様に見えるらしい。
「ほう、そんなシステムもあるのか。どうやらここは、俺の知ってる遊園地とは随分違う様だ」
 ふわふわと空中に浮かんだ白いカツラが、しみじみと言った。
 って古代さんも使いこなしてるじゃないですか。
「これはモモが勝手にな?」
「きゅぃー?」
 その胡桃は、声はすれども姿は見えず……
「……ここだ」
 門木せんせー、囓られてます。
 もぐもぐ。
「……腹が減ってるんじゃないのか、この小動物は」
「まだ昼飯には早いが、そうだな」
 今の時間なら、まだ人も少ないだろう。
「んー、折角だしハロウィン限定のメニューとか俺食べたいな」
 見えない娘を器用につまみ上げ、連獅子の白いカツラがふわふわ歩き出す。
「ごはんよりお菓子! 甘いお菓子!」
「あたしも、お昼ご飯よりスイーツを…チョコはある、です?」
 成長期の女子ふたり、そんな食生活で大丈夫なのだろうか――と思ったら男子まで。
「ハロウィン限定のパンプキンプリンがすごくかわいいのです、ほら!」
 シグリッドがパンフレットのスイーツ特集ページを開いて見せる。
「このお店なら、スイーツと一緒にお食事も出来るのですよ。ほら、限定メニューもちゃんとあるのです」
 もう行くしかないよね! ね!


 そしてテーブルを占領した一行は、メニューを前に大はしゃぎ。
「どれも美味しそうで、迷うの…」
「いっそ甘い物全部! 一通り全部食べたい!」
「いや、それはいくら何でも食べ過ぎだろう」
 スイーツしか眼中にない様子の女の子達に、古代が頭を抱える。
「オジサンオアトリート!」
 お菓子くれなきゃ門木せんせーをモグモグしちゃうよ?
 くれてもするけど!
「モモ、せめて限定メニューだけにしないか?」
「限定なら全部食べて良いの!?」
 父の一言に、胡桃が目を輝かせた。
「矢野おとーさん、ここの限定メニュー、スイーツだけで30種類はあるのですよ…」
「えっ!?」
 シグリッドに言われ、古代は墓穴を掘ったかと後悔するがもう遅い。
「父さん言ったよね! 良いって言ったよね!」
 仕方ない、その代わりにちゃんと食事も摂ること……って、聞いてないね、多分。
「ぼくはもう決まってるのですよー」
 シグリッドは勿論、お目当てのプリンだ。
 カボチャ型のスポンジケーキをくりぬいた器に、トロトロのプリンがたっぷり入って、トッピングにはオレンジ色のカボチャクッキーと、ホワイトチョコのオバケが乗っている。
「はいせんせー、あーん?」
 クッキーのお裾分けを貰った門木は、お返しにパンプキンパイを一欠片。
 りりかはフォンダンショコラやガトーショコラ、チョコムース、ブラウニー、生チョコ、チュロスにクッキー、いずれもハロウィンらしいアクセントとしてオレンジソースが添えてあるものを。
 胡桃はチョコ系は勿論、一口サイズのプチケーキ各種、カボチャのタルトにマカロン、マフィン、エクレアにシュークリームから、カボチャ餡のどら焼き、饅頭、羊羹も。
「陛下はちゃんと飯も食わんと、大きくなれへんで?」
「食べてるもん!」
「甘いもんは食事とは言わん、栄養も偏りすぎや」
 がぽっ!
 ゼロはオレンジソースで煮込んだ鴨肉を胡桃の口に突っ込む。
 食事メニューはランタンの顔が型抜きされたオムライスや、真っ黒なソーセージ、真っ白いごはんのオバケが浮かんだ黒いカレー、丸ごとカボチャの器に入ったグラタン等々。
 いつの間にかテーブルを囲む人数が増えている気がするのは、きっと気のせい……ではない。
 目に付いた可愛い女の子に片っ端から声をかけまくったゼロの戦果だ。
「全部俺の奢りや、何でも好きなもん頼んでええで」
 その言葉にキャーキャー騒ぐ名も知らぬ女子軍団。
 しかし食事が終わった後、何人がこの場に残るのか……まあ、先の事は気にしないのが吉ですね。


 お腹が一杯になったら、暫くは3Dシアターや観覧車などのゆったり系で腹ごなし。
 そして、いよいよ――
「お化け屋敷、なのです」
 ごくり。
 シグリッドとりりかは間に門木を挟んだ安定のポジショニング。
 二人とも入場前からぴったりと貼り付いている。
「こわくて得意じゃないけど、みなさんがいるなら…です」
 服の裾をしっかりと掴んで、恐る恐る足を踏み出す。
 胡桃は全く動じない様子で綿菓子を片手に古代と腕を組み、ゼロは――いつの間にかソロプレイになっていたのは、多分きっと想定内。
 そしてリュールは一人でさっさと奥へ進んで行った。
 天使が人間の霊魂を怖れてどうする、という事らしいが――
「あ、驚いても魔法は使っちゃいけないって、リュールさんに言うの忘れたのです」
 追いかけて伝えようとした、その矢先。
「きゃあぁぁぁっ!」
 どかーん!
 派手な悲鳴と爆発音が聞こえた。
「……手遅れ、だったな」

 ハロウィン仕様のお化け屋敷は、賑やかで楽しく、カラフルだった。
 陽気なお化けが歌い踊り、見た目は不気味な幽霊達も動作はどことなくコミカルで、正直なところ怖さはない。
 だが、奥に進むに従って辺りは暗くなり、聞こえていたBGMが遠ざかり……やがて全ての音と光が消えた。
「な、何も見えないのです…」
 自分の喉から出た筈の声が、何故か背後から聞こえる。
 振り向いても、そこには何も見えない。
 目の前にかざした自分の手さえ見えず、心臓の鼓動はハンマーの様に胸を叩く。
 暫くその場に立ち尽くすうち、自分の存在さえ不確かなものに思えて来た。
 その中で唯一感じる確かな手応え。
 シグリッドは門木の腕をしっかりと握り締めた。
 と、その姿が闇の中にぼんやりと浮かび上がる。
「せんせー、なんだか光って…」
「……ん?」
 その声に答えて振り向いた門木。
 しかし、その顔は――

 腐っていた。

 勿論それはホログラムによる特殊効果だが、恐怖と不安で爆発しそうになっていた所に撃ち込まれた不意の一撃は、理性の鎧を粉々に撃ち砕いた。
 身体の裏表が捻れてひっくり返った様な声が弾ける。
「え、しぐりっど、さん…どうしたの、で……、…………」
 そして、りりかも見てしまった。
 ゾンビと化した門木の姿を。

 あっちでも、こっちでも、カップルやグループの間に阿鼻叫喚の嵐が渦巻く。
 それは多分、史上最恐のお化け屋敷だった。

 ただし、お一人様には効果がなかった様だが――



 やがてオレンジ色の空が闇に染まり、ドームの天井に花火が踊る頃。
 どうにか落ち着きを取り戻した一行はショップを渡り歩いていた。
「お土産…章治せんせいとお揃いの物が、いいの…」
「……ん…これなんか、どうだ?」
 迷うりりかに門木が選んだのは、カボチャのランタンに猫耳が生えた様なぬいぐるみクッション。
 オレンジの地に、耳の中が黒いものと白いものがあった。
「リビングに置いても良さそう、なの」
「ぼくはこれにするのです」
 シグリッドは白猫のシルエットを象った魔女猫の写真立てを手に取った。
「皆で撮った写真を入れるのですよー」
 門木には黒、リュールにはグレーの色違いを。
「お土産はやっぱり、甘いお菓子が良いな」
「そう言うだろうと思って、ほら」
 古代はクッキーやキャンディ、チョコなどが詰まった大きな袋を胡桃の手に。
 流石、わかってらっしゃる。
 ゼロの土産はモノより思い出、だろうか?

 やがてメインストリートの方から賑やかな音楽が聞こえて来る。
「あっ、パレードが始まるのですよ!」
 キラキラ輝くハロウィンの仮装パレードは、誰でも飛び入りOKだ。
 見てるだけより、混ざった方が楽しいよね!

 夢の国の夜は更ける。
 魔法が解けてしまうまで、あと少しだけ、このままで――


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【jb5318/シグリッド=リンドベリ/男性/13歳/化け猫(白)】
【ja2617/矢野 胡桃/女性/15歳/連獅子(桃)】
【jb1679/矢野 古代/男性/35歳児/連獅子(白)】
【jb6883/華桜りりか/女性/13歳/ゴスロリ吸血鬼】
【jb7501/ゼロ=シュバイツァー/男性/29歳児/悪魔貴族】
【jz0029/門木章治/男性/41歳児/化け猫(黒)】
【未登録/リュール・オウレアル/女性/超若作り/化け猫(灰)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
いつもお世話になっております、この度はご依頼ありがとうございました。
魔法のハロウィンドリーム、お楽しみ頂けると幸いです。
HC仮装パーティノベル -
STANZA クリエイターズルームへ
エリュシオン
2014年11月10日

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