▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『運動会は戦場です 』
ミハイル・エッカートjb0544)&クリス・クリスja2083)&伊藤 辺木ja9371
●朝
 読書の秋、食欲の秋、芸術の秋――そして、スポーツの秋。そろそろ秋が過労死してしまうのではないかと疑う程に、秋は楽しい行事に満ちたうっきうきの季節です。
 そんな今日は久遠ヶ原学園の初等部で運動会が開かれます。子ども達の喧噪が響く秋の空は何処までも澄んでいます。
 清々しい朝、文句なしの運動会日和です!
「なにこれすげえええ! でけええ! でっけートラックだ!」
「まじすっげーー!」
「おれのゲームの車よりかっけーー 戦隊モノみてええ!」
「すげーー、しかもキラキラしてるー! ピカピカしてるぜー! キレー」
「おれ、知ってるぜ! 父さん達とこーそくどーろってとこ走ってたらみたぜ!!」
 そんな初等部の敷地内駐車場に突入してきた大型トラック。しかも、デコトラ。小学生達は取り囲んでいはしゃいでいると、運転席の扉が開いて中から作業着にタオル姿の伊藤 辺木が出てきた。
「え、何々? 何かのギョーシャか?」
「業者じゃないよ、父兄だよ。父兄のお兄さんの方だよ」
 辺木はとりあえず取り囲んでいた小学生達に説明してみた。
「そうかー、にいちゃんなのかー」
「それにしてもにーちゃん、でっけートラックのってきたんだな!」
「とりあえず大は小を兼ねるっていうからレンタカーで10tトラック借りてきた」
 さむずっぷする辺木。というか、レンタカーを早速デコっている辺り、気合の入りようがよく見えます。
「心配無い、俺はプロだ」
 何が心配ないというのだろうか。けど、単純な男子小学生達は大きなトラックを眺めて目をきらきらとさせていた。
 小学生達を適当に相手をしながら周囲を見渡していると赤ハチマキに半袖ブルマ体操着姿のクリス・クリスが目に入る。
「おーーーい! クリスー!」
「あ!」
 辺木の呼びかけにクリスは手を振り返す。
「あのね、ボク、パパ探してるんだ! みなかった?」
 クリスの故郷は遥か遠く離れた異国の地。来られない家族に変わり部活仲間である彼らが応援しにきてくれたというらしい。あ、ちなみにクリスの両親は健在です。
 厳密に言うと親子でも親戚でも何でもなく曰く『……うん。まあ、そうねぇ☆ 二人ともクリスの大事な大事な日本でのお友達ですよー』とのことらしいのだが、細かいことはまぁ気にしてはいけない。
「うむ! 今日は頑張るんだぞ妹よー!」
 大きく手を振る辺木に再び振り替えしたクリスはぐっと両手を握る。
「パパ、どこかなあ? 朝の挨拶しないと」
 きょろきょろとクリスは辺りを見渡し『パパ♪』を探す。勿論、此方も血縁関係などありはしないのですが。

 小学校4年生の運動会は今回限りなのだ。可愛い可愛いリトルプリンセス・クリスのありのままの姿を見逃す等言う失態はエージェントにあってたまるものか。
 エリートサラリーマン――ミハイル・エッカートは運動会という任務においても全力を尽くす。
 まず、手始めに拠点の設営だ。ホームセンターで購入した『サンキュッパ』程度のテントを効率良く組み立てた。
 そして、位置取りも重要なのだ。だから、ミハイルは前日の日没後から行動を開始していた。
 そして、場所取りが済めば一度本部(という名の自宅)に戻り、補給物資(お弁当)の作成。
 色々と準備して結局は殆ど寝ていないのだが、まぁそれくらいは些細な問題だ。
 そして、かなり本気度を示す武器は大砲のような外見のデジタル一眼レフ。かなりの高画質でビデオ撮影も出来るというスグレモノだ!
「あ、あら……運動会、ここであってるわよね?」
 血気迫りスナイパーライフルを構えるようにカメラを持ち張り込むミハイルの様子を眺めた主婦が不安げに手元のパンフレットと周囲を交互に眺める。
「……容疑者かヤクザのドンでもいるのかしら?」
 どうみてもマフィアか刑事の張り込みにしか見えない。
 何度も言いますが、ここは初等部のグラウンドです。


「えーーー、今時ブルマとかだっせーーー!」
「はみぱんーはみぱんー!!」
 実際、パンツをはみ出してなどいないのですが、男子は無駄に女子を取り囲んでからかいたくなる生き物。
 ミハイルが気付き其方に目を向ける。
『うちの娘に何かしたら殺すぞ』
 瞬間、サングラスの奧の瞳が鋭く燦めき、そう言っているように見えた。
「げっ!? なんかあのおっちゃんおっかねえ」
「お、お前のとーちゃん、やっくざーーーー!!」
 よく解らない捨て台詞を吐いて、男子小学生は逃走した。

「ところでクリス、そんな格好で大丈夫か……お父さん心配だぞ」
「北国生まれだから寒くないもん! 大丈夫だよ。パパ♪」
 にこぱぁと笑うクリスにミハイルの顔は一瞬にして蕩けた。何か謎のピンクとハートのエフェクトを漂わせてもう、メロメロです。

 そんな親子(?)の様子を眺めていた奥様方は円陣を組み、井戸端会議を展開されていた。
「あら、あの方まだ若いのに、もう。ワケありかしら?」
「奥様は……?」
「きっと、ご苦労なさっているのよ。間もなく思春期を迎える娘をひとりで抱えて」
 奥様の同情と関心を集めることに成功。後程、これが大変なことになるのだと、彼らはつゆ知らず。
 スピーカーから聞こえてきた

 ――いよいよ、運動会のはじまりだ!

●親バカも過ぎれば?
 運動会定番の曲が流れ「あかぐみがんばれーしろぐみがんばれー」などという棒読みの応援がスピーカー越しに聞こえてくる。
 きゃーきゃーと子ども達の喧噪の中で行われているのは騎馬戦だ。
 男子三人の騎馬に騎乗したクリスはお姫様よろしくぶんぶんと手を振って馬たちに指示していた。
「ほら、あっち、あっちだよ。違う、そっちだよ! しゅばーっとハチマキを取るんだよ! で、あっちの将軍を狙い討ち――違う、そっちのを襲うと見せかけて将軍を狙い討とう!」
 わりと我が侭気味な注文であるが、男子児童達は聞いている。わりと連携は取れている様子だ。
「おぉ……あの歳であのカリスマ性――我が娘は将来大物になるな!」
 周りのドン引きやら冷たい視線など全く気にすることなく親バカミハイルはスナイパーライフル(のように見える一眼レフ)の引き金を引きまくっていた。
「きゃっ!?」
 そんな順調にいっている中、相手チームがクリスの馬になっていた児童の足をひっかけて転ばせた。あからさまだが、さり気なく。
 クリスチームをずっと眺めていなければ気付けなかったであろう。
「あーら、大丈夫かしらクリスさん」
 高飛車お嬢様とその取り巻きといった雰囲気だろうか。相手チームのボスが上から転んだクリスを見おろしていた。
「がんばれー! がんば……んあ?! あれ、妨害じゃねぇのか?! 物言いを――」
「成敗を――ジャスティス・ジャッジメントだ!」
「ミハさん抜くな! 学舎にござる!」
 突如モノホンのスナイパーライフルを取り出したミハイルを慌てて辺木は取り押さえた。
 しかし、騒ぐ二人に周囲の視線は集まり、ざわめきたつ。
 高飛車少女も騒ぎに気付きミハイルの方を向くと彼はマジで殺すという視線をしていた。サングラスでもっと意味深なのがマジ怖い。マジほんと顔が青ざめた。


「えへへー、パパのお弁当、朝から楽しみにしてたのー」
「おお……クリス、なんてお前は良い子なのだ」
「あ、あの……ミハイルさん、とりあえず、拭いてください」
 よよよと泣いていたおもしろヤクザ。恐る恐る辺木が差し出した会社名入りフェイスタオルをミハイルは奪取し、がっしがっしと顔を拭い、
「不器用ながらも全力を尽くしてきた。出来る男たるもの、家事も。最近はアレだろう? オトメンとやらが流行っているのだろう?」
「なんか懐かしいなそれ……」
 なんか、最近めっきり聞かなくなった単語のような――。ミハイルはお弁当を開けていく。
「焼きそばのピーマン抜きだ」
「おう」
「チャーハンのピーマン抜きだ」
「炭水化物同士の組み合わせみたいだけど、まぁ良しとしよう」
「で、肉詰めピーマンのピーマン抜きだ」
「ちょっと待て! 肉詰めピーマンのピーマンはどこにやった!?」
「だから抜いた。運動会は楽しい行事だろう? そんな時に苦行となるものを態々を持ってきてどうする」
 眼鏡というかサングラスをくいっとあげるミハイル。雰囲気だけなら格好いい。
「最早、ピーマン無し肉詰めピーマンは何か解らねぇが……ミハイルさん、そこまでリトルプリンセスのことを思っていたんだな!!」
 がしっと彼の手を掴み、感動の余り号泣する辺木さん。絵面は非常に暑苦しく何だか随分と間違えた友情ドラマのようなものだ。

「あらあら、炭水化物ばかり食べていたら成長に悪いわよー。これも食べなさいな」
 その時だった。隣の隣くらいに陣取っていた奥様がタッパーに入ったゴボウサラダを差し入れてきた。
「でも、ボク、パパの作ったお弁当があるからいいもん」
「クリスちゃんが大きくなった方がお父さんも喜ぶわよー」
「だったら、ボク、食べる! ありがとう!」
 えへへと嬉しそうに受け取るクリスに持ってきた奥様もご機嫌だ。
 続け様に、紙皿に南瓜コロッケをのせた奥様もやってきた。
「ええ、うちも作りすぎてしまったの。ほら、クリスちゃん。食べると良いわ」
「わーーーい」
 そんな調子で、お裾分けという名目でぞくぞくと集まってくるお弁当達。
 正直、ミハイルの弁当と合わせると大層ボリューミーな光景になったのだけれど、おおよそ辺木も居たし見事完食した。
「でも、パパのお弁当が一番おいしいよ!」
「うむうむ、お父さんの愛情がいーーーーっっぱい入っているからな!」
 娘(?)の笑顔に破顔するミハイルはもうメロメロの様子でクリスをなでこなでこ。
 辺木はそんな様子を眺めながら、微笑ましく思っていた。
「あ、そろそろ午後の競技だ! ボク、いっぱいがんばってくるね!」
 ぴょこっとクリスは立ち上がり、ミハイル達に大きく手を振って自分の席へと走り抜けていった。

「ああ……さっきのピーマン無しの理由だが」
 クリスが立ち去ったのを見計らい、ミハイルが話し掛ける。
「俺が嫌いだっただけだ」
 きり。無駄に渋くキメてみるミハイル。

●午後の部
「こういった兵法があるんだよ」
「ん?」
 クリスは近くにいた女子児童に話し掛けた。午後の競技第一は玉入れ、競技が始まる直前。クリスはさりげなく玉が沢山落ちている一角に陣取っている。
「下手な鉄砲、数打ちゃ当たるって!」
「兵法なのそれー!?」
 開幕のピストルと同時、足元に落ちている玉を一気に拾い上げてマシンガンのように投げ入れる。足りない身長はぴょこぴょこ飛びながら大量に投げてカバー。
 そんな折り、クリスが投げた玉が偶然にも先程足をひっかけて転ばせてきた女子児童の顔面に当たった。
 それを眺めていたミハイルは満足げに頷いた。

 クライマックスが近付けば父兄競技の父兄リレー。
「父兄リレーは任せろ! 俺は運送屋だー!」
「格の違いというものを見せてやろう」
 いかにも運動は久しぶりですと言わんばかりの保護者達の中で一際異彩を放っていたのが現役撃退士の辺木とミハイル。
 彼らは同じ色のハチマキをつけて気合を滾らせている。
「がーんばれー! ふれー! ふれー!」
 そうして、降り掛かるのは愛娘(?)クリスの声援。ふたりが其方に目を向けてみれば、彼女は学ランを身に羽織り懸命にふたりを応援していた。かわいい。
 そうして、スタートと同時走り出した最初の一般父兄の方々。順調に選手交代しつつも、しかし、普段の運動不足が祟ったのか一般人の誰かのお父さんは転び足を捻ってしまいました。
 それでも子どもにいいところを見せたかった彼らはふらつきながらも辺木にバトンを渡す。
「す、すまない……」
「気にするな! 骨は俺が拾う!」
 そうして前を向く辺木。目はマジ。
「どおおりゃぁぁぁああ!!! 爆走じゃぁぁあ!」
 なお、撃退士は素でオリンピック選手並の身体能力を発揮します。
 先を走っていた選手を悠々と追い抜き大差を付けてミハイルにバトンタッチ。
「最後は華麗に決める……!」
 一切手を抜くことなくミハイルもあっと言う間に追い抜く、既に何周か差は付いてしまっている。
「……わー」
 圧倒される周囲。また、繰り返しますが撃退士はチート性能なのです。
 当然そんな彼らが全く手加減することなくガチで勝負に挑んだのですから、勝負は言うまでもなく、彼らがいるチームが圧勝したのでした。
 周囲の視線を気にすることもなく、彼らは勝利の快感に暫し酔っていたのでした。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【 jb0544/ ミハイル・エッカート / 男 /インフィルトレイター 】
【 ja2083 / クリス・クリス / 女 / ダアト  】
【 ja9371 / 伊藤 辺木 / 男 / インフィルトレイター 】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
 親バカとバカ親は違うとの昔の友人の言葉が今でも忘れられない水綺ゆらです。
 大変お待たせしてしまい申し訳ありませんでした。
 ノベルを書きながら小学生の頃の運動会を思い出し父兄競技で『お父さんはいや!』と言って結局母親に出て貰ったことを思い出しました。
 張り切ってジャージを出していたので、結構酷いことを言ってしまったのかなと今更ながらに思います。
 この度は、ご発注ありがとうございました!
HC仮装パーティノベル -
水綺ゆら クリエイターズルームへ
エリュシオン
2014年11月12日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.