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『おにおにぱにっく? 』
小野坂源太郎(gb6063)

 穏やかに流れる小川を視界に留め、小野坂源太郎(gb6063)はのんびりとした足取りで山を登っていた。
「ふぅ……ここまで来ると流石に寒いのう」
 見渡す限りの山に息を吐き、足を止める。
 ここはラスト・ホープからだいぶ離れた場所。薄らと色づき始めた山々が秋の訪れを教えるこの場所に、源太郎が到着したのはつい先程のこと。
「こんな場所に怪奇現象のう……のどかで良い場所だと思うんじゃが」
 そう口にして思い出すのはUPC本部に張り出されていた依頼のことだ。
 なんでもハロウィンを間近に控えて本物の鬼が現れたのだとか。
 バグアの脅威が去ってから、たまにこうした依頼が出る。その原因ははぐれバグアだったり、バグアに取り残されたキメラだったりするのだが、果たして今回は何が原因なのか。
「おお、あの村じゃな!」
 しばらく足を進めて見えて来たのは、依頼書に会った通りの小さな村だ。
 源太郎は筋肉質の腕を持ち上げると、遠くに見える村を眺めた。
 小川を臨む高台に建てられた村は、山に囲まれた自然豊かな土地の様で、段々に作られた畑には黄金色の美しい稲穂が見事なまでに実っている。
「こういう場所は酒も美味いんじゃ♪」
 じゅるり、と垂れてもいない涎を啜って手の甲で口を拭う。そうして再び歩き出すと、彼の目に鮮やかな赤が飛び込んで来た。
 見たところ村を護る神社か何かだろうか。
 赤い鳥居の向こうには長い階段が見えるのだが、源太郎はその階段を目にした瞬間、動き出したばかりの足を止めた。
(……米粒、かのう……?)
 良く見なければわからないほど小さな点が、階段の上へ向かって1つ、また1つと落ちている。
 まるで「こっちへ来い、こっちへ来い」と言っているようだ。
「明らかに怪しさ爆発じゃな。村の怪奇現象と米粒が同じものと考えるのはちと早計じゃが、疑問の種は確実に潰しておく方が良いじゃろう」
 源太郎はそう1人で頷くと、小さな点を追うように階段を上り始めた。


 その頃、能力者の到着を待ちわびる村人は、ハロウィンならぬ豊穣祭のために用意した南瓜や稲などの作物を、広場に設置した祭壇に祀っている最中だった。
「早く能力さんさ来ねぇべか!」
「本部さんには豊穣祭のことは内緒にして貰ってるでな。能力者さんさ来たらビックリするで!」
 訛り全開で会話を繰り広げる村人たちの表情は明るい。彼等は1年で一番の祭りと言って良い豊穣祭に、世界を救ってくれた能力者を招待したのだ。
 しかも呼び出す理由を怪奇現象にして、実際にはお祝いのサプライズでしたと言うオチまで付けて。
 けれどそのサプライズがまさかあんなことになるとは……村人は愚か、招待された能力者たちも思っていなかった。
「おい、能力者さんさ来てくれたで!」
「おお! ようこそおいで下さった!」
 わらわらと山を登ってくる能力者たち。
 彼等は源太郎とは別の経由で招待された能力者だ。
「あ、あの怪奇現象は……?」
 困惑するのも当然である。
 何せ彼等は源太郎と同じく鬼の怪奇現象があると聞いてやって来たのだ。だが実際の所はどうだろう。
 怪奇現象どころか村は安泰で祭りの準備までしている。
「あの依頼書は少しばかり細工して貰ったんだべ♪ ささ、宴の準備さ出来てるで、能力者さんはこっちさね♪」
 紅い頬に紅をさした村娘たちが、我先にと能力者を案内してゆく。そしてようやく事態が呑み込めてきた能力者たちが動こうとした時、事件は起きた。
『きゃーっ! 鬼が出たーーーーっ!!!』
「「「「「!」」」」」
 誰もが驚いて声の方を振り返った。
 直後、目に飛び込んで来たのは素晴らしい筋肉を持つ赤鬼だ。しかも腰には鬼のシンボルたる虎柄の腰巻までしているではないか。
「な、なななななっ」
 村長らしき老人は、驚いた様子でその場に座り込んでしまった。
「村長、確か怪奇現象は作り話だったのでは?」
 筋肉隆々の鬼は明らかにヤバい。
 冷や汗を垂らしながら問う能力者に頷きを返す村長をチラリと見て、彼等は各々の武器を取った。
 そして村から少しでも離れようと地面を蹴る。
「挟み撃ちで行くぞ!」
「ああ!」
 鬼を囲うように飛び出した能力者。それを目にした鬼が両の手を上げて叫ぶ。
『待て! 待てぇいッ!』
「待てと言われて誰が待つか!」
 覚醒した能力者の1人が、紫電の鞭を振るう。それに合わせて腕を振り上げると、鬼は雷撃を物ともせずに地面を踏み付けた。
「きゃああああっ!」
「うあわわわ!」
 地面をひと踏みした瞬間、大地が捲れ上がり、凄まじい勢いで木々が倒れた。
 能力者の内数名は吹き飛ばされたが、この程度で参る者達ではない。
「これならどうだァッ!」
『だから待てと――』
 問答無用でAU−KV『アスタロト』をアーマー形態に変化させて装着した能力者が凄まじい勢いで殴り掛かってくる。
 この姿に鬼の方から何かが『ブチッ!』と切れる音がした。
『ぬおおおおおお! よってたかって人の話を無視しおって! こうなればお前さんら全員まとめて倒してくれるッ!!!』
「いっ!?」
 能力者たちは目を剥いた。
 だってそうだろう? 目の前の鬼は、叫ぶや否や周囲の木よりも大きくなってしまったのだから。
「第2形態になるなんて聞いてないぞ!」
「卑怯だぁ!!」
 次々と上がる声だったが、鬼に聞く気はない。
『うるさい、うるさい、うるさいぞーッ!』
 ぶんぶんと腕を振り回しては木を薙ぎ倒し、地団太を踏んでは畑を壊してゆく。
 こうなっては能力者など赤子のようなもの。
 千切っては投げ、千切っては投げ返される彼等は、ボロボロになりながら通信機を取り出した。
「せ、せめてKVを……」
「ま、待て。本部に連絡が先――うわあああっ!?」
 そうはさせるか! そんな勢いで能力者たちが宙を舞った。
 それを目にした村長が、避難場所の神社であることに気付く。
「はて?」
 首を傾げて近付くのは神社のお社だ。
 それに気付いた村人が問う。
「村長、如何したんだべ?」
「お社様に備えておったパンテーがないんじゃ」
「パンテー?」
「うむ。虎柄の腰巻のようなパンテーでな? 隣村のかわいこちゃんから貰ったんじゃ♪」
 そう頬を赤らめた村長の背後で、鬼が最後の仕上げと言わんばかりに腕を振り上げた。
 そして、
『わしは鬼ではなーーーーいッ!!!』
 大きな叫び声に村長が振り返る。
 そうして目を見開くと、彼は鬼が履いているパンツに釘付けになった。
「おお! かわいこちゃんのパンテーじゃ!」
 村長の叫びと鬼の雄叫び。
 その双方が混じり合うと、最後の能力者を吹き飛ばした鬼が、マッチョポーズを取ってニンマリ笑った。


「つまり……この神社に置いてあったパンツを履いたら鬼になった、と……」
 ボロボロになった能力者の1人が、地面に転がったパンツと、申し訳なさそうに土下座する源次郎を見比べて問い掛けた。
 これに地面に頭を擦りつけながら、源次郎は冷や汗を流して頷く。
「す、すまん! ほんの出来心だったんじゃ!」
 出来心で村を半壊させられては堪った物ではない。そもそも何故落ちていたパンツを履こうと思ったのか。
「そ、それこそ出来心でのう……」
 源次郎が言うには、神社に足を踏み入れた途端、お社に飾られている虎側の腰巻に気付いたのだと言う。
 そして何かに誘われる様にそれを履いた瞬間、彼は赤鬼と相違ない姿なってしまったと言うのだ。
「このパンツは本部に提出だな。で、このおっさんの処遇は……」
「お主の気持ちわかるのじゃ」
 源次郎の肩を叩きながら同情を覗かせる村長に息を吐く。
「村の復興を手伝えば良いって言ってるし、良いんじゃない?」
「村長が懐いてるべ」
 そう。
 村長のお気に入りのパンツを履いた源次郎に、村長が妙な親近感を持ったのだ。
 そして彼は言った。
「パンテーを履くおっさんに悪い奴はいないんじゃ!」と。
 だが能力者や他の村人からすれば、それだけで犯罪なんだと言いたい。とは言え、源次郎が履いたパンツはどう見ても女物ではない。
「おっさん……もう、落ちてるパンツ履くなよ……」
 ボロボロの能力者はそう言うと、村長の言い分に打ちひしがれる源次郎の肩を叩いた。

―――END...


登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 gb6063 / 小野坂源太郎 / 男 / 73 / ファイター 】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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こんにちは、朝臣あむです。
このたびはご発注、有難うございました。
如何でしたでしょうか。
久々にUPC本部や能力者、AU−KVの名前を出してわくわくしてしまいました。
もし何か不備等ありましたら、遠慮なく仰ってください。

この度は、ご発注ありがとうございました!
HC仮装パーティノベル -
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CATCH THE SKY 地球SOS
2014年11月14日

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