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『憧れと恋の境界線 』
矢野 胡桃ja2617

 恋と憧れの境界線とは何だろうと考えて見たが、はっきりとした答えは出なかった。
 グランドにひく白線のように、くっきりと境界線を作れたのならばいつの時代の哲学者も馬鹿みたいに考えて、後の時代に言葉を残さなかったのだろう。
 人間の感情とは其程に厄介で、面倒臭くて、でも捨てられないものなのだ。

 彼程賑やかに輝いていた陽光も、少し季節が巡れば一気に寂しさを誘うものになる。
 日が傾けば、空は切ないほどの赤色に染まる。郷愁を沸き立たせるような茜。
 その日さえ沈んでしまえば、聞こえてくるのは虫の声だけ。鈴虫の甲高い声が静か過ぎる秋の夜を慰めるように懸命になり響くのだろう。
 別に何かがあったというわけではない。今日はいつも通りだった。そんないつも通りの今日。繰り返してきた日常の一頁。
 だけれど、何となくしんみりとしてしまう。
 西日が強く射し込む窓辺から外を眺めれば、遠い空には2羽のカラスが飛んでいるのが見えた。あの鳥たちは何処へ向かうのだろう?
 大切な者同士なんだろうか。例えば、ともに家に帰るとすれば幸せで暖かな気持ちになれるのだろうか――そう、考えて矢野 胡桃が思い返せば自分にも帰る家が出来たことを改めて思い出す。
「本当に色々なことがあったよねぇ」
 しろちゃんという名のたぬきの抱き枕を抱きしめながら、呟いてみる。
 久遠ヶ原学園にきてから、本当に様々なことがあった。まず家族が出来て、別れて、彼氏も出来た。そうして――血の繋がりがなくとも同じ矢野の性を名乗る父が出来た。
「それは、嬉しいこと……なんだよね」
 少し顔を伏せた胡桃。ぴょこぴょこと、少女を気遣うようにやってきたうさぎのアーサーが胡桃の視線の先できょとりと首を傾げていた。
「大丈夫だよ。アーサーは本当にいつも可愛いねえ」
 呟きながら胡桃はアーサーの背中をゆっくりと撫でてあげた。うさぎは気持ち良さそうに身を委ねているようだった。
「ねぇ、アーサー。私、恋をしたんだよ。多分、きっとあれはそう呼んでもよかったんじゃないかな」
 アーサーは首をあげて、胡桃の翡翠色の眼差しを真っ直ぐと眺めていた。
「でも、えへへ……叶わなかったなあ。恋はレモンパイみたいに甘酸っぱいなんて、誰かが言ってたけど――そんなの、嘘だよ」
 そうして、学園に来て経験したのは二度の失恋。
 まず思い出すのは、一度目の失恋。もしかしたら、恋とも呼べなかったのかもしれない。
「だって、恋は……特に、初恋は叶わないって言うから。例えるなら、エスプレッソのコーヒーかなあ」
 芽吹くことすら許されなかった一度目の失恋。
「あれは、きっと憧れだったのかな……でも、憧れと恋の境界線って何なんだろうね」
 アーサーに問いかけてみても、秋の夕空に投げかけても答えなどは返ってこない。
「そう、だよねぇ。解んないや……でもいいんだ。二度目も抱くことを許されなかった恋だから」
 そうして、二度目の恋も人知れず終わっていく。

 茜色の均衡を保っていた夕空はそれを崩して、いつしか藍色へとじっくりと変化の様子を見せていた。
 こうして、夜が訪れて、また朝がきて。何度か繰り返して月が変わって、季節が変わって、年が変わって、変わらないような日常の中でまた少しずつ変わっていってしまうのだろう。
 そうして、いつしか幼さを削ぎ落として、色んなものを捨てて、喪って大人になるその時も――また、笑っていられるのだろうか?
 一度目の失恋。恋と憧れの微妙なトコロ。恋とも呼べないきっとただの憧れだったのかもしれない。
 そうして、二度目の失恋。これは、きっと――。
「おかえりなさーい」
 窓から見えた彼。やがて、帰ってきた“家族”に、胡桃は微笑みながら手を振った。

 ずっと秘めて隠そう。自らの中に閉じ込めて、蓋をして。切なく痛む胸も知らんぷり。
 大人になるということは、きっとこういうこと。
 だから、私はこうして大人になっていくのだ。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ja2617/ 矢野 胡桃 / 女 /インフィルトレイター 】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 大変お待たせしてしまい、申し訳ありませんでした。
 しっとりしんみり系ということで、改めて恋と憧れの境界線は何だろうと考えてみました。
 昔、憧れた幼馴染みが居ました。でも、それが恋だったのかは未だに解りません。
 だから、初恋はいつだったのか覚えていませんが恋の終わりがいつも苦いことは確かです。
 真の恋の道は茨の道であるとシェイクスピアの言葉通り、いつになっても難しいことなのかも知れませんね。
 ご発注ありがとうございました。
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エリュシオン
2014年11月19日

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