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『暮れる陽と昇る月 』
華表(ib3045)

 陽が陰り、短かった影が長く伸びる夕暮れ。
 神楽の都の子供たちの元気な声と、早く帰れと上がる大人たちの声を耳に、華表(ib3045)は憧れの人と歩いていた。
「秋は陽が短いですね」
 そう言って上げた視線。
 腕に抱えた僅かな荷物の重さより、いつの間にか自分よりも遥かに高くなってしまった背を気にして目を細める。と、その視線に気付いたのだろうか。
 天元 征四郎(iz0001)が微かに視線を落としてきた。
「昔、秋の陽が短いのは、冬籠りの準備の為だと兄上が言っていた」
「冬籠りの準備で、秋が短いのですか?」
 突然の言葉に驚いて目を瞬く。
 すると征四郎は神妙な面持ちで頷きを返してきた。
「ああ……冬眠をする為にはそれ相応の訓練が必要だと言っていた。眠る時間を少しずつ長くし、長時間寝れるように体を変えて行くのだとか……」
 真面目な顔で語る彼にもう1度目を瞬く。
 確か、少し前まではもう少しゆっくりとした話し方をしていた気がする。だが今の彼は如何だろう。
 スラスラとまるで別人の様に言葉を連ねる。
「変わられましたね」
 思わず零した声にハッとする。
 慌てて口を押えて足を止め、自分の言葉をなかった事にしようと口を開いた。けれど何かを言うよりも早く、征四郎の方が言葉を紡いだ。
「そうだな。自分でも、変わったと思う」
 微かに浮かんだ笑みにドキリとする。
 はにかんだ様な、少し照れたような笑い方は、今まで見たことがないかもしれない。
 だから思わず口を突いた。
「……それは、婚約されたから、でしょうか?」
 彼の門下生たちが話をしているのを聞いた。
 時期は道場の主になった直後で、彼は開拓者の女性と婚約をしたと言う。
 それ自体は喜ばしい事だ。
 けれど胸に引っ掛かる物もある。
「それもあるだろう。だが一番大きいのは、父が死に、自身が道場を継いだその事にあると思う」
 道場を継ぐと選択したその事が、征四郎を大きく変えたのだ。と彼は言う。
 その言葉を聞いて華表は自身の姿を見下ろした。
「わたくしは、何も変わっていません……身長も伸びていませんし、剣の腕も……」
 今日だって、彼の道場に足を運んだにも拘わらず前回の稽古と何も変わっていない。寧ろ、自分では退化しているとすら思う。
 そしてそんな華表を心配したのだろう。征四郎の妹が、一緒にお遣いに行けるよう取り計らってくれたのだ。
「わたくしは変われるのでしょうか……」
 考えれば考える程、胸に引っ掛かった何かが大きくなる。それを抑えるように胸に手を添えると、先程まで遠くにあった青の瞳が目の前に落ちてきた。
「思い詰める必要はない。背は必ず伸びる。二十歳を過ぎても伸びている俺が言うのだから、間違いない」
 膝を屈め、目線の高さを同じくして言われる言葉に目を見開く。まさか心配して慰めてくれるとは思わなかった。
「征四郎様、それは、その……」
「剣の腕もそうだ。それこそ昨日今日で強くなる物ではない。剣の腕こそ時間を掛けて伸ばして行くもの……焦る必要はない」
 確かにそうなのだが、そうでは無くて。と、思わず出掛った言葉に息を呑んだ。
(そう、か……そうなんだ……)
 先程まで気になっていた何か。それが何なのか分かって頬が熱くなる。
 そしてそれを隠すように俯くと、征四郎の手が華表の頭に触れた。
「……無理に変わる必要はない。人は必要な時に、必要な方向へと変わる。無理をして変化した結果、望まぬ方向に進む事もあり得る。変わるのなら自分の為に変われ」
 自分の為に。
 その言葉に胸に添えていた手を握り締める。そして伺うように顔を上げると、真っ直ぐな眼差しと目が合った。
「前にも似たような事を言ったな。『他の何者でもない、自分自身の力で振り下ろす』と」
「! は、はい。征四郎様の刀で剣の稽古を付けてもらった時に、教えてもらった言葉です」
 桜が見事に咲き誇る季節に、彼の道場で貰った言葉だ。
 まさかあの時のことを覚えていて下さったとは。そう思うと胸がじんわりと熱くなる。
「『下すのは自らの意思』、ですね?」
「ああ。下すのは自らの意思だ。それは剣も生き様も同じ。決めるのは自分だ」
 ふんわり笑って首を傾げると、征四郎も笑い返してくれた。
 そんな彼を見て思う。
 自分がこの人に抱く憧れは、力の強さもそうだが、こうした心の強さもなのだろう。
 そしてこの心の強い人に、先程思い至った感情を伝えたら如何なるだろう。伝えて不機嫌だったり、嫌いになったりするだろうか。
(……いいえ……あるとすれば、困る……でしょうか?)
 くすり。
 口を突いた笑みに征四郎の首が微かに動いた。それを見止めて華表の目元が和らぐ。
「征四郎様。わたくしは、少し寂しいです」
「寂しい?」
 如何いう事だろう。
 そう首を更に傾げる彼に頷きを返す。
「征四郎様が結婚されたら、こうして会えなくなるのかな、と。そう思ったら、少し寂しく思いました」
 先程思い至った感情は「寂しさ」。
 憧れていた人が遠くへ行ってしまうのではないかと言う「恐れ」。
 元々遠くにあった憧れの人が近くになったと思っていたのに、また遠くへ行ってしまうと言う思いが胸に引っ掛かりを生んだのだ。
「でも、違うんですね」
 征四郎の言葉が頭を過る。
 無理に変わる必要はないと。変わるのなら自分の為に変われと。そして下すのは自らの意思、と。
「わたくしが行動すれば、またこうしてお話をしてもらえる……一緒に歩いて貰える……そう言うこと、ですよね?」
 征四郎の庵に足を運び、彼の道場に足を運んだのは自分の意思だ。そして自分の意思が今の関係を作り上げた。
 これが変化でなければ何だと言うのだろう。
「そうだな。華表は友達だ。友達の誘いを断る理由が俺には無い」
 フッと笑んだ彼にふわりとした笑みが零れる。そうして視線を空に投げると、いつの間にか辺りが暗くなっている事に気付いた。
「もう、陽がなくなってます。急いで戻らないと……」
 浮かんだ月が薄らとした明かりを地面に落している。
 急がないと道場の皆が心配するかもしれない。
 そう思うのだけれど、何となく足が進まなかった。そしてそんな華表に気付いた征四郎が手を伸ばす。
「まあ、慌てなくても大丈夫だろう」
「征四郎様、あの……?」
 目の前で止められた手に目を瞬くと、その手が華表の手を取った。
「大事な弟弟子の話に付き合っているんだ。あいつ等も文句は言うまい」
「おとうと、弟子?」
「ん? ああ、友達に弟弟子は変か……道場にも通ってきてるし、弟に近い感覚もあるしな……いや、弟を持ったことがないんだがそこは関係が……」
 思案気に視線を動かして歩き出した彼に合せて歩き出す。そうしていつまでも考え続ける彼の顔を見上げると、華表は彼の背に在る月へ目を向けた。
 薄らとした柔らかな光から、煌々と輝く眩い光へ変化しようとしている月を目に想うのは「綺麗」だと言うこと。
「……征四郎、兄様……」
「!」
 考えるのを止めて顔を向けた彼に微笑みながら月を指差す。そして彼が月を見止めたのを見て、華表は綻ぶ笑みをそのままに語りかけた。
「月が綺麗ですね……征四郎兄様」
 弟弟子として何処まで成長できるかはわからない。それでも友として、弟弟子として、いつまでも傍に居られたら。
 華表はそんな願いを月に籠め、手に感じる憧れの人の温もりを握り締めた。

―――END...


登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ib3045 / 華表 / 男 / 10 / 巫女 】
【 iz0001 / 天元 征四郎 / 男 / 18 / 志士 】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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舵天照 -DTS-
2014年11月20日

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