▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『陽だまりのくすり 』
紫ノ宮 蓮(ic0470)&メイプル(ic0783)


 晩秋の朝、開けた窓から入る風は冷たくぞくりと背筋が震えた。
 火を入れた竈の前で紫ノ宮 蓮は薪を手にぼんやりと座り込んでいる。
 パチリ、炎の爆ぜる音にはっと我に返り、何事もなかったかのように薪を竈に。
 朝起きてからずっと続く鈍い頭の痛み。そういえば背中や関節も……。
「昨日遅くまで本を読みすぎたかな」
 だがぼんやりするのも、頭が痛いのも寝不足せいだ、ということにした。そう、昔から病は気からというではないか。

 軽やかな足取りでメイプルは蓮のいる厨房へと向かう。途中寝癖はないかと、鏡で確認も忘れない。
「おはよ、蓮」
 いつもならメイプルの足音にいち早く気付く彼が野菜を持ったまま遠くを眺めていた。何か考え事だろうか。
「……蓮?」
 もう一度呼ぶ。
「おはよう、紅葉」
 今度は声が届いたようで、振り返り広げてくれた両手にメイプルは飛び込んだ。
「おはよ」
 猫のように額を彼の胸に押し付け懐く。彼の腕の中はいつも温かい。あたた……。
「……?」
 違和感にメイプルは顔をあげる。少し潤んでいる蓮の綺麗な赤い瞳。踵を上げメイプルは額を蓮の額に押し当てた。
(やっぱり……)
 とても熱い彼の額。
「風邪だわ」
「少し夜更かししただけ……」
「風邪よ!」
 言い訳をする蓮にもう一度きっぱりと告げる。
「だって様子がいつもと違うもの」
「大丈夫だよ、これくらい……」
「蓮……」
 眉間に皺を寄せてメイプルが蓮を覗き込む。重なる視線。
「わかった、今日は休ませてもらおうかな」
 蓮が降参した。

 実際かなり無理をしていたのだろう。メイプルが敷いてくれた布団に入った途端、身体が鉛のように重たくなる。
「食欲はある?」
「少しなら……」
「じゃあおかゆを作ってくるわ。薬を飲む前に何かお腹に入れないと……」
「ごめん……」
 謝罪の言葉に彼女の顔が複雑そうに歪んだのがぼやけた視界でもわかった。
「蓮程じゃないけど一応料理できるんだから」
「怪我しないように……ね」
「私より自分の心配をするべきだわ」
 蓮の肩がしっかり隠れるようにメイプルが布団を掛けなおす。
「今日くらい甘えて休んでいればいいの」
 額を撫でる手とともに降って来る声に「あぁ、そうか。甘えていいんだ」とどこかぼんやりした頭で思った。
 しばらくして厨房から聞こえてくる調理の音。それが唐突に止む。
(怪我でもしたの、かな?)
 思わず起きかけた。
(火加減は大丈夫だろうか……いやそれよりも火傷していないだろうか)
(やはり様子を見に行こうか? でも怒られる、か)
 心配のあまり布団の中でじっと澄ます耳。
(それにしても、優しい……音だ、な)
 厨房の音は自分が一人ではないと教えてくれているようで、少しくすぐったい。熱で寒気のする身体に小さな温もりが灯った。

「…れ…ん、蓮?」
 遠慮がちな声が聞こえる。いつの間にか寝ていたらしい。
「ん……」
 起しちゃったかしら、と心配そうなメイプルに蓮は小さく首を振った。
「お粥できたわ。食べれそう?」
「頂くよ」
 肘をついて起き上がろうとする蓮をメイプルが支える。冷えるといけないから、と羽織が肩にかけられた。
「熱いから気をつけてちょうだい」
 湯気の立つ椀とレンゲが差し出された。だがそれらに手を伸ばさずに口を開ける。
「……えっと、その……それって」
 メイプルが戸惑ったように視線を泳がせてから、ぎゅっと音を立ててレンゲを握る。
 ふぅ、ふぅとメイプルが唇を尖らせるたびに踊る湯気。
「はい、あーん……」
 赤い頬に挑むような真剣な視線。緊張のためにレンゲを握る手が僅かに震えている。
 粥はとても甘かった。甘味とは違う甘さだ。その原因は……。
 視線に気付いたメイプルが「美味しくない、かしら?」と不安そうに尋ねる。
「いや、とても美味しいよ」
「良かった……」
 ふわりと笑うメイプルにさらにお粥が甘くなったように感じられた。

 額に触れる優しい手の心地良さに、導かれるように蓮の意識が浮上する。
「……み、じ」
 おぼろげな視界に映る柔らかい栗色の髪。蜂蜜のようにとろりとした金色の目が自分を見つめていた。
「おはよ、蓮……」
 そっと額に触れる指先にあの手は彼女のものだったのだ、と気付く。返事代わりにその手を握る。
「あ……とぅ」
 寝起きで上手く言葉を紡げなかったがメイプルが頷いてくれる。
 寝ている間たっぷりかいた汗で寝巻きが張り付いて気持ち悪かった。
「着替える……」
 メイプルから渡される新しい寝巻きと汗を拭くための手拭。
「ちゃんと汗を拭いてから着替えてちょうだい」
 何かあったら呼んで、と部屋を出て行こうとするメイプルを呼び止めた。
「脱がして?」
 幼子のように両手を彼女に向かってあげてみせた。襖に手をかけたままメイプルが目を丸くする。
「甘えていいのだろう?」
 目を瞠るメイプルに手を差し出したまま笑顔で首を傾げた。
 メイプルの頬が一気に赤くなった。

(脱がして?)
 メイプルは頭の中で蓮の言葉を繰返した。聞き間違いじゃなければ今彼はそう言ったはずだ。
(え……それって?)
 唐突な申し出に止まる思考。自分に向けて両手を伸ばしている恋人。

 彼の着替えを手伝う……!

 蓮の着替えを手伝うのだ!!

 ……ということは。ちらり、と蓮に視線を向ける。
(その……あの……ということ、よね?)
 途端、頬どころか首まで一気に熱くなった。浮かんだことを消すように頭の上で手をパタパタと払う。
(滅多に風邪をひかない蓮が寝込むくらいだもの……。きっと一人で着替えるのだって大変なんだから)
 手に残る彼の熱、とても熱くて辛そうだった。
(だから着替え……させてあげるべき、よね……? うん……)
 意を決して一歩踏み出す。でも彼を正面から見ることができない。視線は彼の背後に固定だ。
(私は風邪の蓮のお手伝いをしているの)
 自分に言い聞かせて彼の寝巻きに手をかけた。襟元から覗く肌は熱のせいで仄かに上気しうっすら汗をかいている。慌てて視線を上にずらした。
「背中、拭いてくれる?」
「……なっ」
 流石に声を上げてしまう。
 二度、三度躊躇したが、このままでは蓮の風邪がひどくなってしまうと覚悟を決めた。
 蓮の背後にかしこまって正座をし深呼吸。
 汗を拭いている最中、ほんの少し指先が彼の背中に触れる。
「……っ!」
 ドキリ、と心臓が跳ね、反射的に背から手を離す。触れた指先を強く握る。
(広い……背中)
 背筋が綺麗……と見惚れた。
(な……に、を思っているの、私ってば……)
 今のは忘れなさい、と手を額に押し当てて念じる。指先が熱いのは強く握っていたから、だ。決して……。
「……紅葉?」
「あ、ごめんなさい。もう汗は大丈夫、よ」
 蓮の声に慌てて新しい寝巻きを手に取った。
「はい、右手上げてちょうだい」
 動揺を悟られないように少しお姉さんぶった口調。でも彼が布団に入るまでまともにみることはできなかった。

 するり、と袖に腕が通される。
「次は左手ね」
「ん……」
 素直に頷き蓮は素直に左手を上げる。
 メイプルの声を聞いていると、心の中がふわりとしてこのまま彼女に寄りかかってしまいたくなる。
(なんだか子供みたい、だな)
 ぼんやりした頭でそう思って苦笑を零す。
「薬の時間になったら起すから、ゆっくり寝てて欲しいの」
 子供を寝かしつけるように蓮の髪をメイプルが撫でる。優しい仕草に目を細めた。おやすみなさい、夢現で聞こえた言葉。髪を撫でる手が止まった。
 咄嗟に彼女の手を掴んでいた。
「どうしたの? お布団増やす?」
 そばにいて欲しい、請うよりも先に彼女の温もりを求めて掴んだ手を自分へと引き寄せていた。
「れ……んっ?!」
 驚く声にも構わずにメイプルの細い体を腕の中に閉じ込める。
 それでも足りない。もっと、もっと近付きたい、沢山彼女を感じていたい。首元に顔を埋め、互いの足を絡め合う。布団の下、触れ合う素肌にメイプルの肩が一瞬だけ強張った。
 だがすぐさま冷たい爪先を温めるように挟んでくれる。
 頬を擽るふわふわの髪から香る日向の匂い。
 吸い込むたびにじんわりと柔らかい陽だまりの温かさが自分の体の中に浸み込んでくるようだ。
(一番の……薬は……)
 自分が抱く温もりに眼を閉じる。 
「……みじ  だ、よ……」
 背を優しく撫でる手、ゆっくりと意識が沈んでいく。意識の向こう、優しい声が名を呼んでいた。

 布団の中に引き込まれた時、何が起きたのかわからなかった。
「……あの、ね。蓮……ど……っ」
 どうしたの、尋ねる言葉は足を絡め取られ飲み込んでしまう。擦れ合う太股、耳の近くで聞こえる呼気。首筋に感じる熱。
「……っ!」
 体が硬直してしまい動かない。全部心臓になってしまったかのように心音が響いてる。
 恐る恐る足を伸ばすとひやりとした蓮の爪先に触れた。
(こんなに冷たい……)
 きゅっと彼の足を挟む。
 熱を孕んだ呼気がメイプルの肌をやんわりと湿らせる。深呼吸も、より強く彼の匂いが感じられて逆効果だった。

 落ち着かない。

 吐息に耳がぴるると揺れる。

 どうしよう……。

 俯けばすぐそばに彼の顔。

(心臓の音……うるさく、ないかしら?)
 少し的外れな心配。
 視線を下げれば、髪の合間から覗く彼の顔が見えた。頬は髪の色よりも濃い桜色。時折苦しそうな吐息が聞こえる。
「蓮……蓮……」
 子守唄のように名を繰返し、背を撫でる。起さないようにゆっくりと。熱を少しでも自分が貰い受けることができないか、と彼の額に頬を押し当てた。
 そのうち聞こえてくる穏やかな寝息。
「……み、じ」
 ほっとしたのも束の間、腰を引き寄せられた。互いの間は紙一枚入る隙間もない。寝巻きの襟元は肌蹴、触れる胸板は固くてメイプルとはだいぶ違う。
「……っ!」
 心臓はいよいよもって早鐘だ。
「でも……」
 何か楽しい夢でもみてるのだろうか。蓮の寝顔はとても穏やかで優しい。
 すりっと頬を髪に寄せた。彼の呼吸に自分も合わせる。
(蓮の隣は……)
 日向の縁側みたいにポカポカしてて気持ちいいの……。

 二人抱き合ったまま……気付けば寝ていた。

 うすく開けた視界に感じる障子を通した柔らかい朝日。昨日が嘘のように今朝は身体が軽い。
 何かとても温かい夢をみていた気がする。腕の中の心地良い温もり。
 蓮は起き上がり自分の手をみつめる。この腕に彼女を抱きしめていたような……。
 名を呼ぶメイプルの声は耳に残っているが、全てが定かではない。あれは夢の中だったのだろうか。
「起きたの、蓮。調子はどうかしら?」
「おはよう、紅葉」
 襖を開けメイプルがやって来た。熱は、と額に手を伸ばしかけ止めた。手が膝に下ろされる。メイプルの視線は蓮をみていない。
「どうかした?」
「何でもないの……っ」
 反らした視線の先に体を入れると逆を向かれた。見える横顔、目元が名前の通り真っ赤に染まり、膝の上で手が震えている。
(あぁ……)
 と、納得した。昨日のことは夢じゃない、と。自分は彼女を抱きしめて寝たのだ、と。
 とりあえずメイプルの様子には気付かない振りで、羽織を取ってくれないかな、と頼む。
 彼女が腰を浮かせたところを狙って左右の二の腕を捉えた。
「……っ!!」
 今日初めてメイプルと視線が合う。首まで真っ赤な彼女の蜂蜜色の双眸が揺れている。
 そっと自分へと引き寄せ、そして……
「おや? 紅葉に熱が…」
 こつん、と合わせる額。
「……!」
 何か言いたげにメイプルの唇が戦慄く。
「……ありがとう、紅葉」
 吐息が交じり合う、瞳に映る互いの姿が分かる距離。
 真っ赤なままメイプルはこくりと頷く。拍子に鼻の頭が軽く触れ合った。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【整理番号 / PC名   / 性別 / 年齢 / 職業】
【ic0470  / 紫ノ宮 蓮 / 男  / 21  / 武僧 】
【ic0783  / メイプル  / 女  / 18  / ジプシー】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
この度は発注頂きまことにありがとうございます。桐崎ふみおです。

お二人とも恋人同士になられたということ、おめでとうございます。
お二人はどんな甘い時間をお過ごしになられているのでしょうか?
そんな一時をそっとお手伝いできたならば幸いです。
イメージ、話し方等気になる点がございましたらお気軽にリテイクを申し付け下さい。

それでは失礼させて頂きます(礼)。
■WTアナザーストーリーノベル(特別編)■ -
桐崎ふみお クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2014年11月20日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.