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『蒼の宙、赤の宙 』
ティーア・ズィルバーンka0122

――リアルブルー歴2013年10月。
 高層ビル群に響き渡るクラクションの音。そこかしこから昇る排気ガスに目を細めながら、ビルの屋上でティーア・ズィルバーン(ka0122)は抜け殻のような瞳を空に向けた。
 薄ら雲が掛かったかのように濁った空に、星なんて見えやしない。あるのは永遠に続く闇、闇、闇……月も星も見えない空に彼の口から溜息が漏れる。
「ったく、本物の宙ってのはもっとこうキラキラしてんのな……汚ねぇ空」
 半分投げやりに零した言葉に嘘はない。
 彼が知っている宙は星が瞬き、何処までも澄んだ蒼が広がっている。月も、他の惑星も輝いて見えるのが彼の知っている宙だ。
(こんな黒くねぇんだよ)
 胸の内で悪態を吐いて地上に目を落とすと、そこには彼が思い描く宙に近い光景がある。
 これが今のリアルブルー、自分の故郷だ。
 宙にはない宇宙が地上に広がる世界。
 地上に星を得たが為に宙に星を抱かなくなったのが彼の故郷なのだ。
「……つまんねぇ」
 呟き、寄り掛かっていたフェンスから手を放す。いつまでもこうして暗い宙を見ていても気分が滅入るだけだ。
 それでなくても今のリアルブルーには、彼を滅入らせる情報しかないのだから。
 億劫な気持ちで離れようとした屋上だったが、不意に聞こえてきた声に足が止まる。
『――いよいよ明日、地球連合宙軍が建造した世界初の惑星間航行用戦略宇宙戦艦「サルヴァトーレ・ロッソ」が宇宙へと旅立ちます』
 目を向けた先にあるのは大型の液晶ディスプレイ。無駄に電力を垂れ流すそこに映し出されたのは敵性体「ヴォイド」との決戦の為に製造された大型戦艦の姿だ。
 勇ましく巨大な姿を晒す戦艦は、これから地球圏内のコロニーに取り残された人々の保護、回収に向かう。
「サルヴァトーレ・ロッソ、か。あん時軍を除隊させられてなけりゃ、あれに乗ってたのかもな〜」
 脳裏を過る記憶に一瞬だけ眉が寄る。
「あンのクソ上官、死んでねぇかな〜」
 思わず零したボヤキに「ねぇな」と自己完結して肩を竦める。
 そもそもキレて上級士官を殴ったのは自分の責任だ。自分の意思で行った結果に除隊が付いて来たのなら仕方がない。
「つっても暇だな」
 そう零して携帯に目を落とす。と、覚えのない着信が飛び込んで来た。
 通常携帯の画面には、着信相手と数行のメッセージが入る筈だが、見た感じ何も書いていないようだ。
「何だコレ?」
 消去消去、と携帯を操作する。そうしてメールを開いた直後、彼の目にたった一文だけ飛び込んで来る。
『退屈とした日常から抜け出したいか?』
 わざわざ開かないと見えないように細工された文字に眉が寄る。だがそれ以上に書かれている文章に興味が湧いた。
「退屈とした日常から抜け出したいか、か」
 フッと笑みが零れた。
 阿保みたいに汚い宙と退屈な日々。もしこんな状況から抜け出す方法があるのなら教えて欲しい物だ。
「本当にな、抜け出せるもんなら抜け出したいさ」
 そう口にした瞬間、足元が光った。
 眩いなんてものではない。それこそ目を開けてられない程の光が襲い掛かってくる。そしてそれを追い払うように腕を振るった直後、ティーアは光に呑まれるようにして忽然と姿を消した。

   ***

 月明かりに照らされて落ちるステンドグラスの光。色とりどりの光をその身に受け、シェリア・プラティーン(ka1801)は捧げていた祈りを納めるように顔を上げた。
「――全ての精霊に、世界に感謝致します」
 囁き、上げた瞼に光が差す。
 シェリアは緑の瞳を瞬かせると、教会内に漂う清浄な空気を吸い込むよう息を吸った。
 昨日と同じ穏やかな時間、けれど昨日とは違う時間。胸の奥に仄かに宿った光は、昼間行った精霊との契約が理由だろう。
「新しい命を得たような気分だわ」
 そう零して息を吐き出す。
 彼女は昼間、精霊との契約を交わして覚醒者となった。
 明日からは覚醒者として、マテリアルを使いながらハンター業務に励む事になるだろう。
「白金の名に恥じぬ一流の聖導士になれる様、精進致しますわよ!」
 声を上げ、気合を入れて立ち上がる。
 そうして後ろを振り返った所で、シェリアの顔が赤くなった。
「し、司教様! いらっしゃったのですか?!」
 まさか今のが全部聞かれてた? そう思うと顔が赤くなってしまう。
 変な事を口走った自覚はないが、恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。
 けれど司教様は気にした様子なく微笑むと、ゆっくりとした足取りでシェリアに近付いて来た。
「気にされますな。それよりも精霊の加護を受け大きくなられたようですな」
 幼い頃から幾度となく足を運んだ教会の司教様の言葉だ。嬉しくないはずがない。
「ありがとうございます」
 シェリアは素直に礼を口にすると、自然な動作で頭を下げた。
 これに司教様の優しい顔に深い笑みが刻まれる。そうして少しだけ言葉を交わすと、彼女は教会の外に視線を投げた。
 ステンドグラスから透ける月の光が濃くなっている。この分だと外は完全に暗くなっているだろう。
「司教様、そろそろ屋敷へ戻りますわ。明日の事もありますし、早目に休もうかと」
「おお、そうですな。今日は儀式もありましたし疲れたでしょう。ゆっくりと休んで明日からに備えると良いでしょう」
「はい、ありがとうございます」
 シェリアはそう言葉を添えると、悠然とした足取りで外に出た。
 やはり外は完全な夜を迎え、月と空がお互いの色を消すかのように主張し合い、星もそれに負けまいと色を濃くして輝いている。
「綺麗……」
 キラキラと輝く空は、まるで宝石の様だと思う。何処までも続く空に広がる宝石の海。
 この海の中に世界を恐怖に陥れる存在がいるのだ。
「……頑張らないと、ですね」
 シェリアは表情を引き締めると、家路を辿るように足を動かした。
 彼女の家は代々王国に仕えてきた格式のある名家だ。この街で一番大きな屋敷が彼女の家なのだが、彼女自身にそれを威張る様子は微塵もない。
「おや、シェリア様。今帰りかい?」
「ええ。おば様はお買い物の帰りですか?」
 大きな荷物を抱えた女性にシェリアの足が止まる。そうして歩み寄ろうとした所で、女性の豪快な笑い声がそれを遮った。
「手伝いは良いよ! プラティーンのお嬢様に手伝ってもらうにはもっとおっきな荷物でないとないとね! それよりこれを持ってお行きな!」
 アハハ。と笑いながら投げられた林檎に目を瞬く。そして投げられた林檎を受け取ると、彼女の顔にふわっとした笑みが浮かんだ。
「お気遣いありがとうございます。ではお手伝いは次の機会に取っておきますわね」
 シェリアはそう言って女性の元を離れた。
 そうして屋敷に到着した彼女がまず向かったのは湯殿だ。昼間流した汗を洗おうと言うのだろう。
「この林檎は後で頂きましょう」
 言って、脱衣所の隅に林檎を置く。その上で自らの服に手を掛けると、ゆっくりとした動作でそれを脱ぎ始めた。
「明日は朝からハンターズソサエティに行ってみましょう。どんな仲間と出会えるか楽しみですわ」
 ハンターになれば多くの同業者と行動を共にするだろう。そうなれば必然的に出会いも増える筈だ。
 考えるだけでわくわくする状況に思わず笑みが零れてしまう。
 シェリアは全ての服を脱ぎ終えると、タオル一枚を持って浴場へ入った――と、その時だ。
「!」
 眩い光が彼女を襲った。
 しかも光は小さな物から徐々に大きくなり、ついには目を開けていられない程に拡大してゆく。
(駄目、目が……っ)
 ここで目を瞑れば緊急事態に対処できなくなる。けれど限界だった。
「――ッ」
 あまりの眩しさに負けたシェリアは、自らの意思とは関係なく、目を閉じてしまったのだった。

   ***

 光に包まれた直後、ティーアは得体の知れない浮遊感に襲われていた。
 水の中に居るような、けれど陸にいるような不思議な感覚。それこそ宇宙の中にいるような、そんな感覚だった。
(……死ぬの、か……?)
 微睡みそうになる意識の中、辛うじて開いた瞼に映ったのは黒の闇に浮かぶ光。
 淡くどこか温かさを纏う光は、ティーアを誘うように揺らいでいる。
(来い、ってのか? けど、行った所でどうせ……)
『退屈とした日常から抜け出したいか?』
 不意に何か響いた。
 この言葉はあの時の言葉だ。
 光に包まれる直前に目にした携帯のメッセージ。そんなに自分はつまらなそうだっただろうか?
 そこまで思って「ああ」と言う声が自分の中から返ってきた。そして気付いた時には、ティーアは光目掛けて走り出していた。
(どこのどいつか知らねぇが、そこまで言うなら行ってやろうじゃねえかっ……ただし、つまらなかったら承知しねぇ!!)
 ティーアは心の中で叫ぶと、目を閉じて光の中に飛び込んだ。

 そして次に目を開けた時、彼は思わぬ場所に出ていた。
 闇ではない宙。汚くない宙がある場所。
 煌々と輝く月が綺麗で、黒ではない蒼が広がる夜空には、眩しいばかりの星々が広大な世界を埋めている。
「本物の、宙だ……」
 思わず零してハッとする。
「な、なんだ!?」
 慌てて立ち上がって自身を見下ろした。
 どう見ても風呂だ。しかも露天風呂。でもって視線を上げると――
「えっと……誰、君? てか、ここ何処――」
「っ、い、いやああああああああ!!!」
 スッパーンッ☆ と弾かれた頬に、凄まじい勢いで吹き飛んで行く。
 そして露店風呂の岩場に体を打ち付けると、ティーアは若干うつろう瞳で自分を吹き飛ばした人物を見た。
 金色の濡れた髪を月に這わす女性。
 入浴中だったのだろう。タオル一枚で体を覆う彼女の顔は真っ赤だ。
「な、なななな、何なんですか、貴方はっ!!!」
 そう言いながら近くにあった桶を振り上げた女性に目を見開く。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 話をすればわか――ってぇ、思いっきり振り降ろすなっ!!」
 聞く耳持たず。そんな勢いで振り降ろされた桶に手を伸ばす。だがこれがいけなかった。
「?!?!」
「あ、柔らか」
「きゃあああああああッ!!!」
 手に豊満な何かを受け止めた。そう思った直後、ティーアは渾身の力を籠めて振り下ろされた桶に張り倒された。
 そうして再び吹き飛びながら、女性と宙を見る。
『退屈とした日常から抜け出したいか?』
 本物の宙と見た事もない色を持つ女性。もうこれだけでも日常とは違う。
「……ハハッ……上等」
 ティーアはそう零して口角を上げると、静かに湯船の中へ落ちて行った。

―――END...


登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ka0122 / ティーア・ズィルバーン / 男 / 22 / 人間(リアルブルー)・疾影士 】
【 ka1801 / シェリア・プラティーン / 女 / 19 / 人間(クリムゾンウェスト)・聖導士 】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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こんにちは、朝臣あむです。
このたびはご発注、有難うございました。
かなり自由に書かせて頂きましたが如何でしたでしょうか。
もし何か不備等ありましたら、遠慮なく仰ってください。

この度は、ご発注ありがとうございました!
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2014年11月21日

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