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『真夜中猫の見る夢は 』
加倉 一臣ja5823)&小野友真ja6901


 雨が降ってるでもない。
 風が強いでもない。
 カラリと晴れた秋空に、ただただ不釣り合いに生気の薄い男が路傍に立っている。
 俺を、見下ろしている。
 知っとるで! あれ、『サラリーマン』やろ!
 冷たい雨が降る日には、その手にあるビニール傘という必殺武器で戦うねんで!!
 ……今日は、雨、降ってへんな?
「?」
 沈黙ののち、『サラリーマン』はフイと踵を返して去ってゆく。
 なんやねん、ここは――
『お前も…… 捨てられたのか。フッ、俺と同じだな。……一緒に来るか?』
というのが『お約束』と違うん!?
 ニンゲンというのはわからへんなー。
 わからへんから、おもろいんよな。


 トットコトットコ、サラリーマンのあとを一匹の猫が付いてくる。
 ソマリ似の長毛種、ふんわり茶色の柔らかな毛並みは、野良猫とは思えない。
 顔の部分だけが白で、いわゆるハチワレという柄だ。まだ大人になりきってないあたりだろうか、愛嬌の良い顔つきをしている。
 古びたアパートの前で、サラリーマンは足を止めて振り向いた。
 盛大なため息とともに、ふんわり猫を抱き上げた。




 ぽかぽか陽だまりのソファがお気に入り。
 丸くなって顔を埋める一臣に、てぇいと友真が折り重なる。
 穏やかな午前中。飼い主は仕事で外出。
 猫にしては大きめの体つき、しなやかな短毛種の一臣が、ぱしんぱしんと長い尾を揺らす。友真の柔らかな毛がくすぐったくて、無意識の反射行動。
『んー…… んー…… ……あかん、寝とった!!』
『!? 朝か』
『朝メシもろて、お見送りしてそのままやったな……』
『すまん、俺、途中から意識が無い』
 ビクリと、猫二匹が飛び上がる。グイと体を伸ばしてから周囲を見渡す。いつの間にか慣れ親しんだ、アパートの一室。
 古びた外観に反し、室内は綺麗に整頓されている。家主の性格が現れていた。
 最初に拾われたのは友真。
 居心地が良かったので、相方かつ伴侶の一臣を誘い、数日後に素知らぬ顔で二匹並んで玄関前で待ってみたら、呆れた顔で一臣も受け入れてくれた。
『さて。今日は一丁、どんな悪戯をしてやりますかねえ』
 一臣自慢のブラウンの毛皮は、先端が明るく色が抜けていてちょっとオシャレだ。
『かずおみーー こっちやーーー』
 いつの間にか姿が見えないと思ったら、友真が飼い主の掛布団を引きずっている。
『羽毛をかきだしてフワッフワ作戦か?』
『ええな、それ。……ちゃうわ! 本日の日当たりスポットに干しといたるん! 手伝うてー』
 几帳面に畳まれていたそれは、既に爪と牙とでぎったぎたである。
『貸せよ、おまえ力ないんだからさー』
 グイ、と一臣が進行方向を咥え、友真が布団の下に潜り込んで支えを担う。
『あっ、コレめっちゃええ。眠れる』
『まじか』

(少々お待ちください)




 布団の下で眠りこけ、何とか太陽が中天へ昇りきる前にソファに掛けて干した上で眠りこけ、元の位置に戻してからはフカフカ感触を楽しんで眠りこけ。
 猫の仕事は眠ることだと言ったのは、誰であったか。

『今日のんは、びっくりすると思うでー!』
『見事に毛まみれにしたからな……。あとは何する?』
『あの高いところの紙束、崩す? 崩す? いっつも、うんうん唸っとるから、俺らが退治したら喜ぶん違うかな』
『ほほう……。これはまた、登り甲斐のある』
 後ろ脚に力を込め、一臣は軽やかにワークデスクへと飛び乗る。
『こんな感じかー?』
 猫パンチ乱れ打ちで書類を床へ落せば、友真がしっぽを膨らませて飛びかかった。
『わはー! めっちゃ楽しい!』
『俺もまぜろ!!』
 
(少々お待ちください)

 数多の紙片をやっつけて、腹が減ったら器用に窓を開けて食料調達へ。
 実は猫たちが窓の開閉自由であることを、飼い主は知らない。
 飼い主の前で、そんな技術を披露するのは知能の低い猫のすることだ。
 見られたが最後、警戒されて窓のタイプを替えられてしまう。
 あ、トイレのドアノブは交換されましたよね。そこから学びました。
 鍵を開けるのは、パワーのある一臣の役割。
 窓を開けるのは、器用な友真の仕事。
 二匹は野生の顔つきに戻り、本日の狩りへと出かける。
『ほんまはなー。獲物もお届けしたいん。喜ぶと思うんやけどなー』
『色んな意味で一発退場だから、それ』
 そんな会話も、いつもの事。




 壁掛け時計が、11回音を立てる。
 それが、飼い主帰宅の目安。帰らないこともある。
『よっしゃ、今日はここ!』
『えっ。じゃあ、俺は逆の方はいるぅー!』
 お出迎えサプライズは、玄関にて。本日はinシューズ。
 几帳面な飼い主は、ビジネスシューズを長く使うために数足を使い回して手入れを怠らない。
 どうやら、その日のスーツにも合わせているのだとは一臣談。
 がちゃり、ぐるり、鍵が差し込まれドアノブが回される。

「――……」

 明らかに、靴に収まりきらない猫二匹。
 決まり悪そうな双眸が飼い主を見上げていた。




「雀やネズミも悪かないけど、猫缶やササミも悪かないけど、この姿が落ち着くな……」
 真夜中。
 飼い主が掛布団から猫の毛除去と格闘の末眠りに就いたころ、月の光に照らされて二匹の猫は角を持つ悪魔へと変化する――真の姿へと戻る。
 山羊のような角、長い爪、尖った耳。互いの髪の色だけが、どことなく猫の影を残している。
「んー。今日も、賭けはどっちつかずやなぁ?」
 人間の寝顔を覗きこみ、笑いを押し殺しながら友真は一臣の『折れた左角』を手の中で弄ぶ。
「生真面目な人間の生活を堕落させる――、猫の姿なら楽勝だと思ったのにな。ブレないねえ……」
「俺の愛くるしさをガン無視しよったからな、初見」
「掛布団と書類を見て、怒るどころか呆れて黙々と片付けに入る奴だぜ、簡単に『堕ち』ちゃあくれないだろうな」
 そこが、面白い。一臣が言う。
「『堕ちた先に何があるのか』……ってヤツやんな? 本日のお出迎えは、イケとったと思うで。目が笑っとった」
「そのあと、部屋に入って一気に氷点下になってたの、気づいてたか?」
「まじでか」
 明日は、何をやったろか。笑うかな。怒るかな。
 人間相手に長期戦、久しぶりで楽しいな。
 ――今や、掛けの内容は『どちらが先に笑わせられるか』へ変わっている。
「偶に会社をサボってみたらいいんだよな。出勤前のコートを毛まみれにしてみるか?」
 今日の様子なら、きっとまた真顔で格闘して、大幅に遅刻するのではないだろうか。出勤するのをあきらめるくらいに。
「とりあえずそやな、目覚まし時計止めたろ」
 目覚ましの前に、猫ぽふで起こして驚かせる。
 キリリと表情を作る相棒へ、一臣が肩を揺らす。
「随分、『猫』が気に入ったみたいだな」
「思った以上に狭いところ入れるし高いところ登れるし、正直ここまで愉快な体やと思わんかった。あと昼寝すごく気持ちいい」
「それ、わかる」
 寝心地良い場所センサーは、かなりの精度を誇る。
 悪魔の視点では気づかなかった小さな発見が、日々楽しくもあり。
 せっかくだから、この無気力無表情の人間にも教えてやりたくもあり。
 猫缶やササミの礼に、何か一つくらい。
「明日は、二人で何か拾ってこようか? キラキラしたやつとか」
 密やかな笑い声と共に、夜は更けていく。




 ホットカーペットに横たわる加倉 一臣の腹に、小野友真が頭を乗せて口を開けて眠っている。
「――ん、変な夢を見たもんd 友真さん、そこで俺の腹筋を試すのはおやめください。ほら、風邪ひくぞ」
 一臣が、軽く柔らかな頬へ触れる。
 笑いによる振動で、小さく唸り声を上げて友真が目を覚ます。
「あれ、いつの間に……。帰って来たら一臣さんが気持ちよさそうに寝とったから、つい乗っかっちゃいましたよね」
「そのせいかな、猫になって重なる夢見たわ」
 軽く寝癖の付いた髪をかき上げ、一臣があくびを一つ。
「……一臣さんも? 俺、猫で悪魔な夢見た」
「すげぇザックリ感だけど、なんとなくわかるな。猫の跳躍力はハンパない」
「あと、どこでも入れる……」
「入り込んで、出られなくなってなかったか、お前」
「言わないで……! あー、なんか猫触りたいなー。この辺、野良猫おらんかなー」
「夜だしな……。『猫の集会』してるかもな」
 話には聞けど、見たことはない。ふむ、と考える一臣へ、友真が目を輝かせて身を乗り出す。
「ええな! 御邪魔したらあかんやろうけど、ちょっと見てみたい」
「変な時間に寝落ちしてたし……。月夜の散歩と行きますか?」
「行くー! あれな、公園着いたらココア買うて、帰りはコンビニで豚まんな!」
「おでんもなー。……人間が一番、楽しいな」
 恋人たちは顔を見合わせ笑い合い、幸せを共有して散歩の支度を始めた。




 にゃあ。
 紫瞳の黒猫が、一声鳴いては闇の中へと消えてゆく。

 ――夢を見たのは、見せられたのは、どちらだろう?



【真夜中猫の見る夢は 了】


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja5823/ 加倉 一臣 / 男 /27歳/ 大型短毛種にゃん】
【ja6901/ 小野友真  / 男 /19歳/ ソマリ似長毛種にゃん】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご依頼、ありがとうございました。
猫に変身→悪魔に変化
二段階変身からの夢落ちノベル、お届けいたします。
猫の愛くるしさとコノヤロウはイコールで結ばれると固く信じるものであります。
お楽しみいただけましたら幸いです。
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佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2014年11月21日

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