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『手渡す思い、受け取る思い 』
三島 奏jb5830)&九 四郎jb4076

●有名な赤緑兄弟
 雲ひとつない空は青く澄み渡り、暖かい日差しがグラウンドを明るく照らす。
「ついに来たンだねェ、この日が」
 赤い帽子に赤いオーバーオールで三島 奏は仁王立ちしていた。
 口を開いたときに豊かなつけ髭がズレそうになり、片手で慌てて押さえる。
「先輩、気合入ってっるッすね!」
 緑の帽子に緑のオーバーオールの九 四郎が、奏の隣で腕を組む。

 今日は体育祭。ハロウィンと重なったとあって、参加メンバーは皆それぞれ工夫を凝らした仮装で参加している訳だが。
 女子学生にしては長身の奏と、飛びぬけて長身の四郎が、この目立つ格好で並び立っていると、ひと際目立つ。というより、ラスボス臭が漂っている。
 髭の具合を何度か確かめ、奏が不敵な笑いを浮かべた。
「あったり前だよ、シロー。やるからには全力で紅組勝たせなきゃ納まンないよ」
 見つめる先には、敵軍・白組の応援席。間に広がるグラウンドには、闘志が陽炎となって揺れているようだ。
 勿論、立ち塞がる敵は薙ぎ倒すのが本旨である。
 だが別の事情も絡み、奏のヤル気を一層掻きたてていた。
 ちらりと隣に目をやると、いつもの通りにそこに居る四郎の姿。
 スキンヘッドにちょこんと乗っかった緑の帽子が妙に似合っている。
 今年の夏、それまで先輩と後輩だったふたりの関係は、大きな転換点を迎えた。
 傍から見れば良くある出来事。でも当人たちにとっては大事な出来事。
 晴れてカップルとなったふたりが、共に臨む最初のイベントなのである。

 アナウンスが響き、砲丸投げの選手に呼び出しがかかった。
「んじゃちょっと行って来るかねェ」
 ぐるぐると腕を回す赤い兄貴(の扮装の奏)を、緑の弟(の扮装の四郎)が笑顔で見送る。
「自分はここで応援してるッすよ!」
 大柄な四郎が見せる笑顔は、どこか人懐こい大型犬を思わせた。
 帽子を取ってスキンヘッドを撫でまわしてやりたいような気持ちになる程だ。
 ふにゃりと崩れそうになる顔を闘志で引き締め、奏は戦場へと向かう。

●砲丸の行方
 しかし、時に気合は空回りしがちだ。
「あ〜……、あたしとしたことが」
 二投目を終えた奏ががっくりと座り込む。
 砲丸は放物線を描いて空に上がり……上がり過ぎて、かなり手前に落ちてしまったのだ。
 一投目もこんな感じで、奏としては甚だ不本意である。
「こうなったら、自分の投げ方でやらせて貰うよォ」
 三投目のスタートラインの前で奏は勢いよく足を踏み出し、砲丸を下から受けていた掌を上に突き上げ……ず、腕を振り抜いた。所謂野球で言うところのオーバースローである。
『こらーっ、危ないだろうが!!』
 放送席の教師がハレーションを起こすような声でマイク越しに怒鳴り、場内にどっと笑いが湧きおこる。
「……あれ?」
 ドスン。
 砲丸はほとんど奏の真横と言っていい地面に落ちていた。
 笑い声がさっきよりも大きくなる。
 結局、奏は最下位となってしまった。

 戻ってきて、軽く肩をすくめげ見せる奏を、少し心配そうに見る四郎はやっぱり大型犬のようだ。
「先輩、怪我はなかったッすか?」
「あはは、ちょっと失敗しちゃったかもねェ」
 奏の笑顔に曇りはない。
 みんなが笑顔でいるなら、それはそれでいいかと思えるのだ。

●一緒にお弁当
 太陽が天頂に昇った頃、昼休憩となる。
 あちらこちらにレジャーシートが広げられ、それぞれが持ち込んだお弁当を囲む光景は、何とも平和で楽しいものだ。
 奏もいそいそと包みを広げる。
「さてと、午後に備えてしっかり腹ごしらえもしないとねェ」
 何気ない素振りだが、四郎の様子を窺わずにはいられない。
 何と言っても前日から仕込み、朝早くから腕によりをかけて作ったザンギ弁当なのだ。
 蓋を開くと、レタスの緑とミニトマトの赤、ピックの彩りも可愛らしく、大量の唐揚げが顔を出す。

「わっ、旨そう!」
 四郎がぱっと顔を輝かせた。
「たっくさんあるからねェ、いっぱい食べてよ」
 取り皿やお箸をすすめながら、奏は満足そうに微笑む。
 美味しい食物で胃袋ごとハートを掴むのは、姉さん女房(未満)の面目躍如というところか。
「うん、美味いッす!」
 見ていると気持ちいい程に旺盛な食欲で、四郎が箸を動かす。
 が、その手が突然止まり、少し気遣わしそうな目が奏の方を見た。
「? どうしたのさ、何か変な物でも入ってたのかい?」
「先輩、こんなに料理して……疲れてないッすか? もしかして砲丸投げ上手くいかなかったの、寝不足だったんじゃ……」
 一瞬、奏は目を丸くする。
 なんだこの面白い、カワイイ、不思議な生き物は。
「ンもゥ、シローってば余計なこと気にすんじゃないよォ。さ、それよりしっかり食べとくれよ」
「……ごふっ!!」
 奏は照れ隠しのように、四郎の大きな背中をバンと叩いた。

●バトンの距離
 紅白互いに譲らず競技は進み、決戦は体育祭の華、男女混合リレーにまでもつれ込んだ。
 リレーで勝った方が優勝とあって、場内の盛り上がりは異様な程である。
 男女が交互にバトンを繋ぎ、トラックを周回する。
「シロー、頑張っとくれよォ」
 奏はアンカーという大役を任された四郎に口ではそう言うが、絶対に負けることはないと確信していた。
「先輩も、宜しくお願いするッす! じゃあ自分はあっちで待ってるッす」
 頭一つどころか、肩から上が他のメンバーより出ているような四郎の姿が、トラックの向こう側へと向かう。

 スタートと共に、両軍の応援席から大歓声が上がった。
 白と赤のバトンを握り締め、必死の形相で選手が走りぬけていく。
 インコーナーからスタートした紅組が若干有利と見えたが、白組二番手の男子選手の俊足が素晴らしく、距離を開けられる。
 そのままバトンは継がれ、白い鉢巻きの女子とトラックに並んだ奏の前に、白組の男子が先に飛び込んできた。
 少し遅れて走ってきた紅組の後輩がバトンを突き出す。
「頼む!」
 短い言葉と共に渡されたバトンを掴み、奏は猛然と駆け出した。
 前を行く背中をひたすら追う。
 一歩でも、二歩でも。縮めれば、四郎が何とかしてくれる!
 奏の長い足が大きなストライドで地面を捉える。
 少しずつ、少しずつ、前を行く背中が近付いて来る。
 コーナーを回りながら寄せた所で、最後の直線。その先には四郎の姿が見える。
 体一つ分まで白組の女子に追いつき、そこからは真っ直ぐ四郎目がけて突っ込んで行く。

 奏が走って来る。
 沢山の人が奏を見ている。
 その頭越しに、四郎も祈るように奏を見つめていた。
 コーナーを回って自分を見た奏の表情が、ぱっと光がさしたように見えたのは気のせいか。
 いつでも一生懸命で、サービス精神が旺盛で、誰かの笑顔を見る為になら、時には無茶もする奏。
 そんな奏が自然に笑顔になれるように。
 他の誰でもない、彼女自身の為に心から笑えるように。
 自分ができることは何だろう……?
 熱い息が自分の名を呼ぶ。
「頼ンだよ、シロー!」
 後ろに伸ばした手に、固いプラスチックが叩きつけられる。
 それ自体に熱はないはずだが、奏の言葉と共に思いが、信頼が、掌に熱く感じられた。
 信頼に応えたい。何よりも、自分は全力を尽くして頑張ったのだと、そう奏に胸を張って言える自分でありたい。
 まるで推進ジェットを受け取ったように、四郎の巨躯が弾丸のように飛び出した。
「行けェー!!」
 奏の声が更に背中を押す。
 頭の分の空気抵抗がないからという訳でもないだろうが、四郎は速かった。
 身体一つ分の差はあっという間になくなり、勢い余って相手をぐんぐん引き離していった。

 当然、結果は紅組の勝利である。
「すごいねェ、流石はシローだよォ!」
 他の誰の賞賛よりも、四郎を笑顔にする声。
「先輩のおかげッすよ!」
「あはは、じゃああたし達は最強のコンビかもしれないねェ」
 奏の笑顔が、四郎には優勝トロフィーなんかよりもずっとキラキラ輝いて見えた。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb5830 / 三島 奏 / 女 / 20 / 阿修羅】
【jb4076 / 九 四郎 / 男 / 18 / ルインズブレイド】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お待たせしました、アグレッシブな体育祭の一日のお届けです。
ご依頼時には色々とお気遣いいただきまして、有難うございました。
お二人の思い出の一ページを綴らせて頂けて大変光栄です。
最強のコンビがこれからもずっと、笑顔で居られますように。
この度のご依頼、誠に有難うございました!
HC仮装パーティノベル -
樹シロカ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2014年11月21日

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