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『姫巫女の白き深淵 −The another choice− 』
イアル・ミラール7523)&モリガン(NPCA047)

1.
 アンティークショップ・レンからの依頼はいつも決まっていわく付だ。
 イアル・ミラールは受け取った依頼の品を居候させてもらっているマンションへと持ち帰った。
「呪いの‥‥ゲーム‥‥」
 CDのラベルはピンク一色で中に何が入っているかはわからない。
 パソコンを立ち上げてCDをセットする。
 立ち上がったのは『白銀の姫 −寵愛巫女編−』というタイトルのゲーム。
 『邪龍に攫われ、封印された女神を助ける』中世を舞台としたファンタジーアドベンチャーゲームのようだ。
 4人の女神の選択肢。初心者向けの選択肢は‥‥特になさそうだ。適当に選ぼうと思ったが、ある女神でしかキーが反応しない。
 『モリガン』
 その名の女神しか選択できないようだ。しょうがないのでこの女神を選択する。
 これでおそらくは‥‥そう思った矢先、くらっとしためまいのような感覚に襲われた。
 ‥‥けれど、この感覚。前にも同じことがあったような‥‥?

 気が付けば、イアルは女神・モリガンの傍に控えていた。青い衣に薄いヴェールを纏ったイアルは、裸足でモリガンの前に跪いていた。
「巫女・イアルよ。最大の礼を持って私に尽くし、その身を私のために捧げるのです」
「はい、モリガン様」
 そう答えてから、イアルはハッと我に返った。どこかの城の中のようだ。
「これが呪いなのね‥‥」
 依頼で聞いていた通りだった。
 呪いのゲーム『白銀の姫』のプログラムを流用して作られたという『白銀の姫 −寵愛巫女編−』。
 流用されたプログラムで呪いまでもがコピーされた。この呪いですでに何人もの人間がゲームに取り込まれているそうだ。
 けれど、流通数は絶対的に少なく、ゲーム自体の存在も稀少、その解呪を進めることも困難。
「レアものだから、できれば売りたいんだよ。頼めるかい?」
 故にアンティークショップレンからイアルに解呪の依頼が来た、という訳だった。
「この呪いを解くのがわたしの役目」
 巫女イアルはモリガンに忠誠をまず誓う。
 この世界の呪いを解くために。


2.
 巫女の仕事は女神に尽くす。ただそれだけ。
 美しき女神モリガンから離れず、モリガンのすることをサポートする。
 すべてはモリガンのために。
「沐浴をするわ」
 モリガンがそう言えば、イアルはそれを補助する。
 身にまとう薄衣と露出の高いアーマーをに脱ぎ去る。透明さのある白い肌と、銀色の髪が水しぶきに触れるとまるで春が来たかのように肌に赤みがさして得も言われぬ色香が漂う。
 イアルの心がドキンと跳ねた。
 同じ女性であるのに、こんなにも美しく神々しい姿。その体に‥‥触れたいと思った。
 柔らかそうな胸、締まった腰つき、ふくよかな臀部。清らかなその体を汚すことができるのなら、女神への冒涜と言われようとどれほど幸せなことなのだろう。
「? どうかしたの、イアル」
 モリガンの声すらも誘うようにイアルの頭の中に響く。痺れるような甘い囁き。
 イアルの心に湧き上がる劣情は、普段のイアルからでは想像もできないほど激しく狂っている。
 逆らえぬ感情にイアルは心も体も支配されていく。
 あぁ、あなたをこの手で‥‥わたしの物に‥‥!
 それすらもゲームの呪いであることを理解できないまま沐浴するモリガンの体に触れようとした時、沐浴場の天井が崩れた。
「きゃっ!?」
 ガラガラと崩れ落ちる瓦礫に戸惑うモリガン。そんなモリガンを助けようと、イアルはその身を挺してモリガンを抱きしめて地を蹴った。
 瓦礫の直撃からは逃れられたものの、お湯の中に叩きつけられるように身を投じたイアルとモリガンは前後不覚に陥った。
『女神を‥‥封印する!』
 かろうじて目を開けたイアルが見たのは、巨大な龍の姿だった。黒い炎のような魔力を覆う、邪悪を形にしたような姿。
「モリガン様‥‥!」
「イアル!!」
 逃げ出さねばならない! 本能がそう告げた。
 モリガンの手を取り、逃げ出そうとしたイアルだったが先手を既に打たれていた。漆黒の闇が足元から這いより、イアルとモリガンの体を拘束する。
「イ‥‥アル!!」
「モ‥‥リガ‥‥ン‥‥」
 おぞましい感触が全身を包み込んでいく。蝕まれていくのは体だけ? まるで心までも漆黒に染まっていくように、苦痛と絶望が心を満たしていく。
「イアル、あなただけは‥‥」
 そんな声を聞いた気がしたけれど、イアルの思考はすぐに停止した。
 そして、イアルとモリガンはその身をチョコレートの像に変えられたのだった。


3.
 イアルが気が付いたのは、暗い建物の中だった。
「‥‥?」
 段々と目が慣れてきて、手足も心も自由に動くようになってきた。
 微かに耳の奥に残るモリガンの声。あれは‥‥夢? いや、違う。あれは、現実。
 イアルは周囲に漂う甘ったるい匂いに気が付いた。
 これは、チョコレートの匂いだ。ここはどこなのだろうか? モリガンは‥‥?
 手のひらにわずかに残るモリガンの温もり。この手で守れなかった女神。
 最後の状況を思い出す限り、ここは女神の城ではない。おそらくはあの邪悪な龍に捕えられたのだろう。
 体を起こすと、真っ黒な塊が目の端で動いた。
「誰!?」
 イアルが叫ぶと黒い塊はゆっくりとその長い首をもたげる。
 龍だ。あの大きく真っ黒な巨大な龍だ。
 イアルは考えるよりも先に近くに飾ってあった剣を手に取る。するとモリガンの温もりが剣に甦り、剣が魔力の光を放つ。
 モリガンの力だ。モリガンが最後の力を振り絞ってイアルにその運命を託したのだ。
 湧き上がる勇気に力と思いをのせて、巨大な龍に剣を叩きつける。
 剣だけの力では切れない龍の鱗は、モリガンの魔力により割れ、その下の肉をも切り裂いた。
「モリガンを‥‥モリガンをどこにやったの!?」
 悲鳴を上げる龍に、イアルは容赦なく剣を切りつける。真っ赤に染まる剣はそれでも切れ味鋭く、龍を痛めつける。
 何度となく切りつけ、イアルが心臓があると思われる左の懐へと潜り込む。

 ずぶりと、硬い手ごたえと共に龍が断末魔をあげた。

 イアルはその剣をそのまま薙ぎ払う。ふたつになった巨体は倒れ、ぴくぴくとそのまま蠢いてやがて動かなくなった。
 荒い息を大きな深呼吸で整えて、イアルは微かに感じる剣の魔力に導かれるようにモリガンを探し建物の中をさまよい始める。
 どうやら、神殿のようだと歩いていて気が付いた。
 厳かな雰囲気とは似つかぬ暗い影がそこここにあふれている。ここも元々は神が祀られていた場所なのかもしれない。
 歩いていくと、やがて大きな庭園に出た。
 高く青い空と、緑の多い美しい庭。そこにチョコレートの噴水がある。
 この匂いだったのね‥‥イアルはそう思いながら、噴水へと近づく。すると‥‥
「モリガン!?」
 そこにはいまだ像と化し、動けぬままの女神・モリガンの姿があった。


4.
「どうして? 龍は‥‥倒したのに‥‥」
 チョコレートの像になったモリガンに駆け寄るイアル。けれどモリガンは抵抗した最後の姿のまま、反応することはない。
 ‥‥チョコレートには媚薬の効果がある。
 甘い香りがイアルを狂わせる。
 チョコレートになってもあなたの胸はとても柔らかそう。
 あなたの腰はとても美味しそう。
 あなたのお尻はとても気持ちよさそう。
「食べてもいいかしら?」
 返事はない。それは肯定の意味よね?
 唇でそっと肌を舐める。甘い。極上の甘さだ。
 それ以上にモリガンの肌であることがイアルの脳を痺れさせる。
 指でそっと触れて、手のひらですくいとり、体全体でチョコレートの味を堪能する。
 あなたを独り占めできる喜び、わたしがあなたを喜ばせる幸せの時。
 イアルの体温でチョコレートが溶け、噴水のチョコレートと混じりあったとしてもモリガンのチョコは格別の味だ。
 口に含め、もっともっともっと‥‥最後の最後まで食べてしまいたい衝動に駆られる。
 そのふっくらとした唇も味わってもいいかしら?
 チョコレートにまみれたイアルは、モリガンの唇にそっと触れた。
 するとその部分から、チョコレート色は元の色に戻り始める。
 吐息、心臓の鼓動、長いまつ毛が震えるようにモリガンは眠りの中から目覚めた‥‥。

 これはのちに知ることになる事実であるが『白銀の姫 −寵愛巫女編−』は同人ゲームとして大人向けに作られたものであった‥‥。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
三咲 都李 クリエイターズルームへ
東京怪談
2014年11月25日

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