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『 Trick or Treat〜お菓子よりも甘く、悪戯よりも心を擽るひとときを〜 』
志塚 景文jb8652)&酒守 夜ヱ香jb6073

●Halloween Night
 濃紫の空に星屑を散らせば、南瓜のランタンに明かりが灯る。
 集まった人々の軽快な笑い声と、リズミカルにかきならされる弦楽器の調べに酒守 夜ヱ香は珍しそうに辺りを見渡していた。
 黒とオレンジを基調とした飾り付けの中で、少し落ち着かない様子の夜ヱ香を志塚 景文は微笑みながら見守っていた。
「Trick or Treat――お菓子をくれなきゃイタズラするぞ」
「……いたずら、するの?」
 投げかけられた景文の言葉に真剣に純粋に問い返す夜ヱ香に景文は思わず微笑ましい気持ちになる。
「ハロウィンの決まり文句で実際には悪戯はしないとは思う……で、お菓子を貰うんだ。確か、わざと人間が悪霊の格好をして本物の悪霊を遠ざけるとかなんとか」
「なるほど……じゃあ、お化けの格好をすることとか、今日の行列は……みんなを、守ること? うん、頑張る、よ」
 そんな大それたものではないと思うけれど。静かに気合を滾らせる様子の夜ヱ香は可愛らしい。
 ハロウィンと呼ばれる10月最後の夜。ハロウィンの仮装パレードと称したイベントにふたりで参加することになった。
 今ではすっかりと定着したハロウィンイベント。けれど、その独特の雰囲気が夜ヱ香にとっては物珍しいようで不思議そうにしつつも何処となく楽しんでいる様子だった。
「ハロウィンは初めて?」
「……うん、ハロウィン、初めて……。でも、オバケに変身するの、楽しい……ね」
 問いに答えた夜ヱ香の服装は白いチャイナドレスに、視界の邪魔にならなさそうな程度の大きさの黄色いお札。ツインテールを結うチャイナドレスと同じ色のリボンが静かに揺れている。
(……か、可愛い。他の人には見せたくないくらいだ)
 それに、いつもより体のラインや露出も多くて、艶やか。決して言葉には出来ない本心を現してしまうように、景文は思わず夜ヱ香の手を繋ぐ。手を握られた夜ヱ香はきょとんと首を傾げた。
 不思議そうにしている彼女に、景文は暫く悩んだ後口を開いた。
「その衣装、似合っているな」
「ありがとう。志塚さんも、似合ってて……格好いい。それは、何……?」
 景文の姿は白いシャツに黒色のズボン。夜風に揺れる夜空色のマントと同じ色の髪はオールバックに整っている。
「吸血鬼のつもりだったんだけど、どうだろうか?」
「知ってる……でも、うん、仮装。怖くない……ね」
 物語で知っている吸血鬼は恐ろしい姿をしているものが多かった。
 でも、彼の吸血鬼姿は何だか、とても優しい雰囲気。言ってしまってはいけないかもしれないけれど、そう言った意味では吸血鬼っぽくないのかもしれない。
「それは、ありがとうでいいんだろうか……っと、そろそろ始まるそうだ。行こうか」
「……うん」
 2人は視線を交わし合う。相手の体温で少し暖かい繋いだ手を引いて、行列の中に入っていく。

 ――さぁ、愉しい一夜の物語の始まりです。


●Parade
 遠くから眺めればオレンジ色の明かりが列を成して進んで往くように見えただろうか。
 集まったのはおおよそ30人程。それぞれが趣向を凝らした仮装は見ているだけで心を浮き立たせるよう。
 明るい声を撒き散らしながら、進む人々に明朗な音楽が絡み付き夜に似合わない軽快な雰囲気を醸し出していた。
「トリック……オア、トリート……こう?」
「うん、そうそう。良い感じ」
 きょとりと首を傾げ訊ねる夜ヱ香に景文は笑ってみせる。
 こんな小首を傾げる仕草とかも、とてつもなく可愛らしい。柔らかそうな体も抱きしめたくはなる衝動にも駆られる。
 そんな、景文がひとりで内心想いに浸っていると、彼女は唐突に腕を真っ直ぐ前方に伸ばし飛び跳ね始めた。
「トリック、オアトリート」
 キョンシーになりきる夜ヱ香に周囲の視線が集まる。勿論、男性の其れも含まれていて――考えるよりも先に、景文の体が動く。
 咄嗟にマントで覆い隠し、止めさせる。
「と、飛び跳ねなくていいっ! あ、歩こう」
「……うん……」
 唐突だったから驚いて景文の声は少し大きくなってしまった。そんな言葉に頷き静かに歩き始める夜ヱ香。
 景文は思わず大声を出し、彼女を覆い隠したなんて行動をとってしまったことを後悔した。
 謝ろう。けれど、行列は続いていき雰囲気も行列に流されていってしまった。


●my only treasure
 上弦の月は流れるように東から少し西へと位置を動かしていた。
 ハロウィンの愉しい一夜はパレードだけでは終わらない。街を練り歩き明るさを振りまいた一同はレストランで打ち上げとして立食パーティーを繰り広げていた。
 パーティーはとても楽しげだ。料理もおいしい。楽しい雰囲気は好きだ。それだけで、自分も楽しい気持ちになれるから。
 おいしいものも好きだ。けれど、ふたりは食事はそこそこにパーティーを抜け出した。
 レストランは洋館風の外観で、よく手入れされている庭園には間もなく冬が訪れようとしているこんな時期にも花々が光景を彩っている。
 庭園の一角に広がる池の水面に映る月が静かに揺れて、ハロウィンに浮きだった夜を静かに沈めるようだった。
「風……冷たい。けど、悪くない、ね」
「もうすぐ、冬だから」
 夜ヱ香の呟きに短く答えた景文。吹きつける風はもうすっかりと冷え切って季節の訪れを感じさせる。
 自然とふたりの間は狭まり、気付けば寄り添い合う格好になっている。
「……さっきは、ごめん」
 上弦の月を眺めながら。あの時、正直言ってしまうと夜ヱ香の姿を他の男性に見せたくなかったというか。でも、こんなことは正直――うまく言葉には出来ない。
 いや、最初からそれは思っていたのかもしれないけれど。考えれば考える程、頭の中がなんだかこんがらがりそうだ。
 落ち着くように息を吸って瞳を閉じる景文。そうして、心の中で3秒数えて瞳を再び開けば見えるのは夜ヱ香の姿。月光の柔らかな白い光に照らされた彼女の姿は何だかとても神秘的で。
「ううん……こっちこそ、ごめんね。……そして、ありがとう」
「ありがとう?」
 返ってきた言葉が全く予想もしなかったひとことで、景文は思わず訊ね返してしまった。
「普通に、歩くこと……志塚さんに教えて貰ったから……今日だけじゃない、ね」
 途切れながらも言葉を続ける夜ヱ香は思い出す。
 5月。子ども達に誘われ種子島で星を眺め出逢ったあの日から気付けば半年が経っている。
「登山の時は、落石から守ってくれた、夏期講習で教えてもらった勉強も、最近は釣りとか……色々、お世話になっているから、ありがとうってちゃんと言わなくちゃって」
 夏に向けて暖かくなりつつあった大気も、いつのまにか冬に向けて冷え始めてきている。
 それだけの時が過ぎて、それだけの時をともに過ごして。出来た想い出達。
 当然、いつだってその想い出達の中には少し背の高くて優しいお兄さんの姿があって、彼が自分を見つめる眼差しも好意が籠もっていることが充分に伝わってくるからきっと、妹みたいに思ってくれているのだろうか。
 だから、手を繋ぐと安心出来るし、時々抱きしめられそうになるのも嫌ではないのかもと思い始めてきていた。
「あの……ね。志塚さんと出逢ってから……楽しい思い出、いっぱいもらった……よ」
「俺もだ」
 一目見た時から、彼女に惚れて一緒に居られるだけでそれが楽しい思い出になる。
 短い言葉には、そんな全てを詰め込んだつもりだった。
「私と……友達になってくれて、ありがとう……」
「あ、いやっ……俺こそ、夜ヱ香さんと友達になれてよかった」
 少しだけ雰囲気を柔らげて告げる夜ヱ香に応えた景文の言葉は本心だ。
 けれど、友達。しかし、そんな友達という言葉の意味と、重み。少し残念だと思ってしまうのは何故だろう。
「俺も半年、楽しかったから……これからも」
 初めて会ってから半年。その時間の間で様々な彼女のことを知れたつもりではいるけれど全てを知っているわけではないし、これからもきっと知ることはないだろう。だから。
「その……また、知っていきたい。一緒にアウトドア行ったり、遊びに行ったりとか……夜ヱ香さんのことを、もっと――」
 わりと精一杯告げた言葉。口を開き初めてから、彼女の反応が少し怖くなってしまう。

 けれど。

 その時、鳴り響いたのは鐘の音。
 シンデレラに擬えて12時丁度にパーティーを終了させようだなんて誰かが計画を立てていたことを思い出した。
「……そっか、もうこんな時間なんだ、ね」
「もう、すっかり夜も更けていたんだな」
 雰囲気を見事に壊してくれた鐘の音にほっとした気持ちと、残念な気持ちが織り混ざって景文は非常な感情を抱く。
「遅いから送ってく。寮でいいか?」
「うん……ありがとう」
 そうして、夜道を歩き出す。
「あの、ね……志塚さん。これからも、仲良くしてくれると……嬉しい」
 口を開いたのは夜ヱ香だった。一瞬景文は驚いたような表情を見せたが、すぐに嬉しそうに微笑んだ。
「俺こそ」
「うん……これからも、よろしく……ね」
 11月になった夜のこと。約束を交わしたふたりの姿を上弦の月が優しく見守り続けていた。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb8652 / 志塚 景文 / 男 / 20 / 陰陽師】
【jb6073 / 酒守 夜ヱ香 / 女 / 16 / アカシックレコーダー:タイプB】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 大変お待たせしてしまい、申し訳ありません。
 半年というのはあっと言う間ですね。私は余りイベシナを出さないので、星の挿話は本当についこの間のように感じています。
 星の挿話で担当させていただいたお二人のシーンは「わぁ、この子達可愛いなー。こういう出会いってなんだか素敵だなー。なるほど運命の相手を……」みたいに妙にテンションが上がって書かせて頂いたことを今でも思い出せます。
 変わらずの可愛らしい微妙な距離感と言いますか、何と言いますかそのような関係を、今回もとても楽しく描かせて頂きました。
 ご発注と、それから再びのご縁に感謝して――ふたりの先に幸いがあることを。
HC仮装パーティノベル -
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エリュシオン
2014年11月25日

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