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『むかしむかしのものがたり 』
百目鬼 揺籠jb8361)&キョウカjb8351)&秋野=桜蓮・紫苑jb8416)&ファウストjb8866



 久遠ヶ原学園の廃墟。
 そこには時折、不思議な物が落ちていたり、置かれていたりする事がある。
 その日も――

 ドアが落ちていた。

 それを見付けた紫苑(jb8416)とキョウカ(jb8351)は、興奮した様子で騒ぎ立てる。
 だが百目鬼 揺籠(jb8361)には、彼等がはしゃぐ理由が理解出来なかった。
「これが、どうかしたんですかぃ?」
 どう見ても、ただのドアだ。
 しかも一面ピンク色に塗られた、かなり安っぽい作りの。
 それが木枠と共に直立した状態で置かれていた。
「もう、兄さんテレビ見ないんですかぃ!」
 ピンクのドアと言ったらアレでしょ、未来の「ひみつ道具」!
「それくらいは知ってますけどね?」
 あれは作り話だと言いながら、揺籠はドアノブに手を掛けた。
「どうせ誰かの悪戯でしょうよ。こんなもん開けたって、ただ向こう側に出るだけですよ」
 何処か別の場所に行けるとか、そんな夢みたいな話――
「え?」
 ドアを開いた向こう側に、虹色に揺らぐ亜空間の様なエフェクトが見えた。
「やっぱり、これ本ものでさ!」
「いってみる、なのっ!」
 二人は揺籠の背中を押すと、続いて自分達もドアの向こう側へ飛び込む。
「おいこら、いきなり飛び込む奴があるか、まずは慎重に安全を確かめて――!」
 ファウスト(jb8866)が慌ててその後を追い、最後にダルドフ(jz0264)が飛び込もうとした。
 しかし――



●ドアの向こう

「お父さん!?」
 ドアが閉まる音に振り向いた紫苑は、ダルドフがいない事に気付いて駆け戻る。
 だが、ピンク色のドアは押しても引いても、叩いても蹴っ飛ばしても、開かなかった。
 その頭にファウストがそっと手を置く。
「案ずるな。このドアには人数制限でもあるのだろう」
 先程は気付かなかったが、よく見れば枠の上に赤いランプが点灯している。
「こいつは時間が来るか、何か条件みてぇなのを満たしゃ、また開くってことなんでしょうかね」
 揺籠が頷く。
 それにしても、ここは何処だろう。
 空は青く澄み渡って高く、地上には緑が溢れ、建物は白く輝いている。
 まるで南国リゾートの様だが――
「ここ、てんかい、なの」
 キョウカが怯えた様に、紫苑の背にしがみつく。
 言われてみれば、上空を飛ぶ鳥かと見えたものは全て人――天使だ。
 天界なら、キョウカにとってはつい最近まで母と共に暮らしていたところ。
「でも、キョーカがいたとこ、とは……ちょっとちがう、だよ?」
 それに、キョウカにとって「部屋の外」は安心できる場所ではなかった。
 外に出ると、他の天使達に馬鹿にされるから……
「大じょぶでさ、キョーカはおれがまもりやすぜ!」
 紫苑はその手をぎゅっと握って先へ進む。
 と、その耳に誰かの話し声が聞こえて来た。

「何度来ようが返事は同じだ、いい加減に諦めろ」
 大きな家の玄関先。
 豪華な花束を持った若い男が、プラチナブロンドの美女に軽くあしらわれている。
「俺は諦めないぞ。お前が首を縦に振るまでは、何度だって――」

 美女の方はダルドフの元妻リュールだ。
「するってぇと、あの細っこい兄さんは……」
「若い頃のダルドフ、だな」
 揺籠の呟きに、ファウストが頷く。
「本当に、変われば変わるものだ」
 目の前の男は髪の色こそ同じだが、若いのは勿論、色白で線が細く、吹けば飛びそうな華奢な体格、言葉遣いも全く違う。
「ここから俺らに会うまでの間に、一体何があったんでしょうかねぇ」
 揺籠がしみじみと呟いた、その声が聞こえたのだろうか。
 若ドフが振り向いた。

「誰だ!?」
 鋭い誰何と共に、大切な人を素早く背後に庇う――と、そこまでは良かったのだが。
「どけ小僧、邪魔だ」
 げしっ!
 リュールはその膝裏を思いきり蹴り飛ばした。
「でっ!?」
 つんのめって転がった若ドフは、不審者への警戒もそっちのけでリュールに詰め寄る。
「何をする、危ないだろうが!」
「私を庇おうなどと千年早いわ、このヒヨッコが」
「小僧でもヒヨッコでも、お前を想う気持ちは誰にも負けん!」
「鬱陶しい」
「今に見ていろ! 俺は必ず、お前を守れる強い男に――っ」

 うん、これは、あれだね。
 ただの痴話喧嘩?
「ずっと見てんのもアホらしいでさ、帰りやしょ」
「うん。どうぞおしあわせに、だよっ」
 一行は、そっと後ずさり。
 振り向いて見れば、ドアのランプは緑色に変わっていた。



 どうやらこのドアは、移動装置であると共にタイムマシンとしての機能も備えている様だ。
 そして恐らく、当事者は自分の過去に行く事は出来ないのだろう。

 そして、皆の過去を巡る小さな時間旅行が始まる――



●友の想い

 そこは、どんよりと薄暗い世界だった。
 天界とは正反対の――つまり、魔界の何処かだろう。
 どうやら森の中らしい。
 見上げた空は分厚い雲に覆われ、周囲の木々は捻れた枝を互いに絡ませ合っている。
 何とも不気味でおどろおどろしい雰囲気だが、キョウカは全く怖れる様子もなく、興味深そうにその光景を眺めていた。
「う? だるどふたま?」
 ふと気が付けば、ダルドフの姿がない。
「おとーさん、またドアくぐりそこねたんですかねぃ」
 案外どんくさいと、紫苑が小さく笑った。
 それとも大きすぎて通れなかったのだろうか。
「仕方ありませんね、三人だけで行きましょ」
 揺籠が先に立って歩き始める。

 と、その時。
 三人の目の前に巨大な紫色の火柱が上がった。
「止まれ、それ以上動くな」
 聞き覚えのある声。
「天界の者か。その子供らは戦闘員とは思えぬが」
 木陰から現れた影が、すぅっと腕を上げた。
 その指先に炎が灯る。
「答えろ。何の目的で、どうやってここまで来た。返答次第では――」
「待ってくだせぇ」
 揺籠が前に出る。
「俺らはただ、古い友人に会いに行こうとしてただけなんでさ」
 戦意も敵意もない証拠に両手を上げて見せた。
「ふむ……まあ、良かろう」
 影は腕を降ろし、魔法の代わりにランタンの火を灯す。
 その明かりに照らされた顔は、確かにファウストだった。
「ファウじーた、いまとぜんぜんかわらない、だよ?」
「どんくらい前なんですかねぃ?」
 揺籠の後ろで紫苑とキョウカがひそひそ話。
「それで、行き先は何処だ。道に迷ったなら、我輩が案内してやらんこともないが」
 偉そうな上から目線と尊大な態度は相変わらずだ。
「いや、もう用事は済んだんでさ。これから帰る段になって、どうも道に迷っちまったみたいで」
「そうか。ならば森の出口までは案内しよう」
 その代わり、とファウストは一行を見る。
「ひとつ頼みがある」
 怪我をした天使を、天界に連れ帰って欲しいと言うのだ。
「戦場で拾い、匿っていたのだがな」
 ファウストは三人を自宅の隠し部屋に通し、奥のベッドに灯りを向ける。
「とりあえず怪我の手当はしておいたが、意識が戻らぬのだ」
 その光に照らし出された、その姿は――
「おとーさん!?」
 先程会ったばかりの、若き日のダルドフだった。
 ベッドに駆け寄った紫苑の姿を目で追って、ファウストは安堵の息を吐いた。
「目が覚めたら伝えておけ、二度と戦いには出るなと」
 これまで何人も、こうして死にかけの天使を拾っては天に帰そうとしてきた。
 だが、きりがない。
「正直、もう疲れ果てているのだがな」
 それでも戦いは終わらない。
「さあ、もう行け。ここには滅多に人は来ないが、一人例外がいる。奴が来れば天使は殺される」
 奴とは、ファウストの悪友。
 知られる前に、早く。

 三人は追われる様にファウストの家を後にした。
 森の出口で別れ、ドアのあった場所を目指す。
 途中、揺籠の背に負われたダルドフが譫言を漏らした。
「……俺は、あいつを……」
「大丈夫、しっかり守りましたよ」
 揺籠がそっと答える。
 ずっと長い間……きっと、これからも。

 だが、彼等は気付いていなかった。
 その一部始終を、もうひとつの影がそっと見守っていた事に。
 それはファウストが「奴」と呼んだ、天使と見れば殺しに来る筈の、悪魔の姿だった。



●白い世界

 ドアを開けると、そこには真っ白な部屋があった。
「う? おきゃくたま、なの?」
 その真ん中にぽつりと座った少女が顔を上げる。
 キョウカだ。
 だが、今とは少し様子が違う。
 その髪は全て、母と同じ白銀に輝いていた。
「いまおでかけ、なの」
 母親の客だと思ったのだろう、キョウカは見知らぬ訪問者にそう告げた。
「もんだいねぇでさ、おれらキョーカに会いに来たんですぜ?」
 紫苑がニカッと笑う。
「おれ、しおんってゆーんでさ!」
 あのでっかいクマは、お父さん。
 でっかいけど怖くない。
「くま、おじたん?」
 キョウカは母親から、大天使以上の相手は敬いなさいと教えられていた。
 だから「様」を付けて呼ばなくてはいけない、とも。
 しかし、それは見ただけではわからないし、上級の天使達はキョウカに笑いかけたりはしない――だから、このおじさんは同じ天使階級に違いない。
 キョウカはそう判断した。
「こっちはファウのじーちゃ、こう見えて、もうわかくねぇんですぜ!」
 その紹介はどうなのか……いや、間違ってはいないけれど。
「目つきはこえぇですけど、わるいアクマじゃねぇでさ! 良いまほーつかいなんですぜ!」
「あくまの、じーた?」
 アクマという存在に会うのは初めてだが……クマとアクマ、名前も似ているし、おじさんの親戚か何かだろうか。
「ほう、これはすごいな」
 そのアの付くクマさんは、部屋を埋め尽くす大量の本に興味津々。
「見ても構わんだろうか」
「どうぞ、なの」
 キョウカはにっこり笑う。
「そんで、この兄さんがロリコンでさ!」
「ちょ、紫苑サン! 何ですかぃ、その適当な紹介は……って言うかロリコンじゃありませんから!」
 だが、その抗議をあっさり無視して、紫苑はキョウカの前にぺたりと座り込んだ。
「キョーカはここで何してんですかぃ?」
「う? いまはおるすばん、だよ?」
 大抵はこの部屋で母と二人きりで過ごしている。
 時折、母のサーバントと戦闘訓練という名のじゃれ合いをする事もあるが、基本的には引き籠もりだ。
「他には?」
 いつもは何をして遊んでいるのかと、揺籠が尋ねる。
「おはじきとか、お手玉とか、あやとり、折り紙……部屋の中で出来る遊びも沢山あるでしょう?」
 誰でも知っていそうなものを並べてみたが、キョウカはその全てに首を振った。
「じゃ、今日はそれぜんぶ、おれが教えてあげまさ! だから、いっしょにあそびやしょ!」
 道具を持ってない?
 大丈夫、あの便利なドアがあるくらいだから、便利なポケットだって――ほら!
 ポケットを探れば出て来る出て来る。
 いっぱい遊んで、真っ白な部屋を飾り付けて。
 天井から吊した折り紙の星は、ファウストが魔法をかけるとキラキラの金平糖になって降り注ぐ。
 真っ白な部屋に、たくさんの色と――笑顔が溢れた。
「この先、もしなんかつれぇことがあっても、ないちゃダメですぜ?」
 皆に会えるから。
 待ってるから。



●赤子の夢


 昼間だというのに、薄暗い四畳半。
 北向きの窓から差し込む光は余りにも弱々しく、頼りない。
 毛羽立った畳の上にはスーパーのレジ袋や弁当の空き容器やペットボトルが散乱し、鴨居に渡されたロープには洗濯物が掛けっぱなしになっていた。
 ゴミを押し退ける様にして敷かれた薄い布団には、まだ若い女性が潜り込んでいる。
 頬の肉は落ち、目の周囲には深い窪みが出来ていた。
「よっぽど疲れてンですねェ」
 生乾きの洗濯物を掻き分ける様にして入って来た揺籠が、ずれた布団をかけ直してやる。
 女の腕の中には、赤ん坊がいた。
 薄紫の、ふわふわ髪。
 頭の右側には、小さな赤い角がちょこんと生えている。
「おぉ、紫苑……っ!」
 枕元にダイビング正座したダルドフが名を呼ぶと、赤ん坊は「んく、くぅ」と言葉にならない声を上げ、うっすらと目を開いた。
 上から覆い被さる様に覗き込んだ髭面を、金色の瞳がじっと見つめる。
 泣かれるかと思ったが、赤ん坊はにこぉーっと笑い、その小さな手を伸ばして来た。
「しーた、かぁいぃ……なのっ」
 抱っこしても良いだろうかとキョウカが尋ねるが、大人達から返事が来る前にもう手を伸ばしていた。
「あっ、気を付けなせぇよ、落とさないように、立ち上がったら危ねぇですからね……!」
 揺籠が慌てて手を添えようとするが、大丈夫。
「うしゃぎたんと、いっしょ、なの」
 抱き方は案外しっかりしている……が、安定感は心許ない。
 と言うか、抱かれている本人が居心地悪そうにモゾモゾしている。
「どれ、某が代わろう」
 どっかりと胡座を掻いたダルドフが腕を差し出す。
「ダルドフたま、あかちゃんだっこしたことある、なの?」
「ない」
 キョウカの答えにきっぱりと首を振る。
「なに、壊れ物と思ぅて大切に扱えば良いのであろう?」
 脚の窪みに身体を入れ、左腕で頭を支える。
「ほーら、どうだ、布団よりも居心地が良いであろう、のぅ? ん?」
 そう言いながら目を細め、ぶっとい指で鼻の頭をくすぐる姿は、どこからどう見てもお父さん……いや、孫を可愛がるお爺ちゃんか。
「ファウじーたは、だっこしない、なの?」
「いや、我輩は遠慮しておこう」
 別にめっちゃ抱っこしたいとか思ってないからね。
 扱いがわからんとか、抱いたら泣かれそうとか思って心中密かに涙している、なんて事もないんだからね。
「それよりも、この部屋を少し片付けさせて貰っても良いだろうか」
 ゴミを捨てて、新しいミルクを作っておく位なら怪しまれる事もないだろう。
 いや、もしかしたら片付けられている事にも気付かないかもしれない。
 それほどに、若い母親は疲れ果てている様に見えた。
「こんくらいの頃に、俺らが手ぇ貸してやれりゃ良かったんですがねぇ」
 揺籠が呟く。
 だが、それは言っても詮ないことだ。
「だいじょぶ、キョーカやみんながまってる、なの」
 早く大きくなって会いにおいで。
 そう言いながら、キョウカはポケットに入っていた金平糖をひとつ、赤ん坊の手に握らせた。



●百の瞳に映るもの

 乾いた風が、足元の砂を巻き上げていく。
 人や牛馬に踏まれ、デコボコのままに固められた土が剥き出しの道。
 その両脇に並ぶ家々は、現代の感覚からすれば物置小屋とも呼べない様な、粗末な作りだった。
 壁は薄い木の板が張り合わされ、屋根にも板が乗せられている。
 そんな、当時の基準から見ても裕福とは言えそうもない小さな集落の一角に、少年がひとりぽつんと立っていた。
 何年も着古し、煮染めた様な色になった着物は、少年の長く伸びた腕や脚を隠しきれていない。
 勿論、そこに在る無数の目も。
 その目は今、生気を失った様に虚ろな視線を宙に彷徨わせている。
 そのひとつが見知らぬ旅人達に気付き、ぎょろりと動いた。
 が、すぐにまた生気を失い、ただの模様に戻る。
「……どーめ……、ゆりかごの、兄さん?」
 紫苑が思いきって声をかけてみる。
 顔を上げた揺籠は、自分を見つめる者達の姿を見ても驚かなかった。
 この時代なら、ファウストやダルドフの様な西洋人は、その見た目だけで妖怪変化の類と思われてもおかしくない。
 だが、妖怪なら――仲間だ。
 それに何故だろう、初めて会うのに懐かしい感じがした。
 少年は人間が好きではない。
 妖と呼ばれる者達も、信じてはいなかった。
 自分はそのどちらとも異なる、全く異質の存在だと感じていた。

 でも、この人達は……違うのかもしれない。

 少年は、自分よりも少し年下に見える鬼の子供に、ぽつりと漏らした。
「花、つんで帰ったけど、母ちゃん死んでて」
 その言葉の通り、少年の手には萎れかけた野の花がある。
 一行は戸板が開きっぱなしになった戸口から、部屋の様子を覗いてみた。
 家の中には畳もなく、土間に筵の様なものが敷いてあるだけ。
 その奥に敷かれたもう一枚の筵に、枯れた女性が横たわっていた。
 息がないのは遠目にもわかる。
「おれ、たぶんさいごまで、やくにたてなかったんだよ」
 こんな時、何と言葉を返せば良いのだろう。
 紫苑とキョウカは、互いに視線を交わし、頷く。
 そんな事はない、などと――軽々しく言ってはいけない気がした。
 だから、抱き締めた。
 精一杯の力で、ぎゅっと。

「このままにしてはおけんのぅ」
 枕元で手を合わせたダルドフが呟く。
「今は恐らく700年ほど前、鎌倉時代と呼ばれていた頃の末期だろう」
 博識なファウストが言った。
「この時代は土葬が一般的だった筈だ」
 ならば、穴を掘るのは大人の役目か。
「のう、ぬし……揺籠よ。ぬしの母御が好んでおった場所はあるかのぅ?」
 これから土に還るなら、そこには花も咲くだろう。
 出来れば明るい陽射しの降り注ぐ、風通しの良い場所で眠らせてやりたいものだ。
 多くの花や草木に囲まれて、永い眠りが少しでも快適なものとなる様に。
「あそこ」
 問われて、揺籠は遠くの丘を指差した。
「見はらし、よくて。母ちゃん、よくそこで……どっか遠く、見てた」
 何を見ていたのか、聞かせてはくれなかったけれど。
「あいわかった」
 ダルドフは大きな手で少年の頭を撫でた。
「紫苑、キョウカ、ぬしらは準備が済むまで――」
「花ぁもっとつんで来りゃ良いんですねぃ」
「あいわかった、なの!」
 言い終わるのも待たずに、二人は揺籠の手をとって駆け出して行く。
「おはな、いっぱいなれば、あとでもっといっぱい、おはなさく、だよっ?」
 揺籠は父を知らない。
 これからどう生きていけば良いのか、それも教わらなかった。
 人として生きるのか。それとも鬼として、妖として生きていくのか――

 けれど、鬼や妖が、こんなヒト達なら。
 そこに混じって生きて行くのも、悪くなさそうだ。

「おれらのせかいにゃ、アヤカシって呼ばれるモンがいっぱいすんでる、古〜いりょかんがあるんでさ」
 もしかしたら、この時代から続いているのではないかと思えるくらい、古い古い妖の巣。
「さがしてみるといい、だよっ」
 紫苑が、いつの間にか手の中にあった金平糖を、揺籠の口にぽいっと放り込む。
 口の中一杯に、甘い幸せが広がっていった。





 そして、彼等は出会った。
 皆それぞれに頑張って、頑張って――ここまで辿り着いた。

 ぽふ。
 揺籠は紫苑の頭を撫でた。
「いきなり何すんでさ?」
 怪訝そうに見上げる瞳に、何でもないと首を振る。

 そうだ、あの墓は……まだ、あの場所にあるだろうか。
 訪ねてみるのも悪くないと、そんな気がした。

■WTアナザーストーリーノベル(特別編)■ -
STANZA クリエイターズルームへ
エリュシオン
2014年11月26日

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