▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『三角洋館の恐怖〜探偵倶楽部の休日〜 』
久遠 栄ja2400)&真田菜摘ja0431)&九神こよりja0478)&木南平弥ja2513

●探偵倶楽部出動
 街のあちらこちらでオレンジ色のカボチャが笑っている、ある日のことだった。
「なんかこう、いかにもハロウィンって感じするよな!」
 部室に集まった面々に久遠 栄はそう切り出し、笑顔でチラシを見せる。
 木南平弥が覗きこんでぱっと目を輝かせた。
「へー『ホラーハウス・ハロウィンバージョン』か、なんやおもしろそうやな!」
「まさかそんな所に行こうとか思ってないよね」
 いつも以上に固い声の九神こよりに、眉をひそめた真田菜摘がぴったりとくっついている。
「でもなんかそそるだろ、この外観! ほら、いかにも事件が起きそうなカンジだろ?」
 ぴくり。
 こよりが器用に片眉を上げた。
 彼らの部活は『探偵倶楽部』である。だが日頃は珈琲を飲みつつ本を読み、平弥が作るたこ焼きに舌鼓を打つという、至って平和な部活だ。
 しかし部長のこよりとしては、やはりそれらしい活動もしたいという思惑もある訳で。謎の洋館、探偵募集というチラシを見れば、ゲームと分かっていても心は動く。
「えーと……」
 ちょっと困った顔で親友の菜摘の様子を窺う。確かあまりこういう方面は得意ではなかったはずだ。
 きゅっと机の下でこよりの袖を握り締めながらも、菜摘は穏やかに微笑んで見せた。
「皆さんと一緒なら楽しいと思います」
「そう? じゃあ……」
「やったー! 大丈夫、俺達四人が揃っていれば無敵だぜ!」
「ワイら探偵倶楽部、久々の出動やでえ!」
 栄と平弥がハイタッチで喜んだ。

 後に栄はこの時のことを述懐する。
 ……この時、俺達は気が付いてなかったんだ。まさかあんな事件に巻き込まれるなんて……。


●ハロウィン・ホラーハウス
 遊園地はオレンジ色と黒の飾りに彩られ、思い思いの仮装をした人であふれていた。
 洋館のイメージに相応しく、ゴシック風ドレスでおめかししたこよりの姿も、周囲に溶け込んでいる。
「それにしても、賑わっとるなあ……」
 平弥が口をあんぐりと開けた。
 この遊園地の人気アトラクション、三角洋館ホラーハウスも大いに賑わっていた。
「大人な男、栄とは俺のことだー! みんな俺から離れるなよ?」
 栄がいかにも頼もしげに言い、入口の扉を開いた。

 そこは古い洋館のホールだった。
 暗い中に蝋燭を模した明かりが揺れ、おぼろげに中の様子がわかる。順路は正面階段からまず二階を巡り、また階段を下りて来て一階を探索するようになっていた。
 かなり広い空間に思えるが、空調や鏡を上手く使っているらしい。目の端で白いカーテンがふわりと揺れ、栄も思わず身を固くする。
「わ、びっくりした!」
 他の入館者の姿は見えず、効果音なのか入館者なのか、時折遠くから叫び声だけが聞こえてきた。
「結構良く出来ているね」
「案外、ハリボテ感はありませんね」
 何か話していないと落ちつかなくて、階段を上がるこよりと菜摘が、手すりを辿りながら囁き合う。
「お約束で、階段を上がった所が危険なんだよなー」
 それでも栄はとても楽しそうだ。程良い緊張に、テンションが上がっていく。
「よっしゃー、ほな俺が一番貰うでえ!!」
 跳ねるように平弥が階段を上がっていった。
「あっ、なんぺーずるい!!」
 だが平弥は廊下に出た瞬間……。
「うぎゃああああああ!!!!」
「きゃああああああ!?」
「ひゃああああああ!!」
 寧ろ平弥の声に驚いて、他の三人も物凄い悲鳴を上げてしまった。

「ど、どうしたんだよ、なんぺー!?」
 足をもつれさせ、栄が這うように階段を上がってくる。そのシャツの裾をしっかり握るこより、こよりの腕に掴まる菜摘。進みたくはないが、置いて行かれるのはもっと嫌だと、蒼白な顔にはっきり書いてある。
「い、いきなり……あんなんが……」
「え? って……ひええええええええ!!!!」
 平弥が指差す先を見て、またもや全員が絶叫。
 真っ暗な空間にポッと明かりが灯り、項垂れる老人が車椅子に座っているのが浮かび上がる。大きなナイフが首の後ろに刺さったままで、ギラギラ光っていた。
「な、なるほど、三角洋館というわけか……」
 推理小説に詳しいこよりが、何とか冷静になろうとして記憶を辿る。
「ここ、思ったよりやばいわー!!」
 平弥は両手で顔を挟み、廊下だけを見て、なるべく周囲を見ないことに決めた。じゃあ一体何しに来たんだという気はしないでもない。
 遅れて続く栄は、膝をついて俯き、荒い息を吐いていた。
「なんぺー、ちょっと、待って……」
「あれ栄、大丈夫か」
 戻ってきた平弥が屈みこみ、栄の肩に手を掛ける。次の瞬間。
「大丈夫じゃないぞー、お前がな!!」
「うぎゃあーーーー!?」
 隠し持っていたホッケーマスクを被った栄が顔を上げた。
「な、な、な、何すんねん!!」
 腰を抜かす平弥を、満足そうに見下ろした栄が高笑い。
「置いて行こうとするからだ! これで反省して……ひゃあーーー!?」
 ひとり立っている栄には見えてしまったのだ。
 飾り窓の外側から、長い髪の女が怨みがましい目でこちらを見ているところが……。

 栄は声も立てずに、転びそうになりながら駆け出した。何とか一時休息できる場所を見つけ、周囲を見回す。
「あれ? 真田は……?」
「えっ?」
 もう何が何だかわからないという状態で、壁に縋りついていたこよりが我に帰った。
 しっかり腕にしがみついていたはずの菜摘がいない。
「なっつんが迷子になるのは何時もの事だけど」
 流石に場所が場所だけに、当人の心理状態が心配だ。いつも冷静沈着なこよりも、内心かなり動揺していた。
(なっつん、大丈夫かな。無理に連れてこなければよかったかも……)
 その肩に暖かい手が労わるように添えられた。
「皆で探すんだ。大丈夫、俺達は『探偵倶楽部』だぜ?」
 栄の笑顔が頼もしく見えた。
「うん、そうだね。すぐに見つけてあげなきゃ」
 こよりも力強く頷いて立ちあがる。大丈夫、皆で探せばすぐに見つかるはず。


●洋館に蠢く思惑
 菜摘はギュッと閉じていた目を、恐る恐る開いた。
 仲間の叫び声に驚いて思わず飛び出した先でぶつかったのは、ガラス張りの隠し扉だったらしい。
 勢い余って突っ込んで何か柔らかく暖かい物にぶつかり、また驚いてぺたりと座りこんでしまったのだ。
 どうやら関係者用のスペースらしい。蛍光灯の明かりがやけに白く輝いてみえた。
 ぶつかったのは、スーツの男性の背中だった。相手もびっくりした顔で菜摘を見ている。
「あ、申し訳ありません、少し慌てていましたので……」
 そう言いかけて、奥にもう一人作業服の男がいるのに気づく。更に二人の男の間で、小さな女の子がぐったりと横たわっているのを……。
 明らかに様子がおかしい。
 そう思って身構えた菜摘の口を、最初の男が大きな手で塞ぐ。
「騒ぐな。痛い目見るぞ」
 相手は華奢な少女だと見て、脅せば大人しくなると思ったようだ。ハンカチでさるぐつわを噛まされながらも、菜摘はひとまず、考えを纏めるために男達に従うことにした。
(どう見ても、本当の事件ですね……)
 女の子は幼稚園児ぐらいか。ハロウィンの仮装なのだろう、妖精のような翅のついた淡いピンク色のドレスを纏っている。
「どうするんだよ、おい」
「どうって、とりあえずこの娘は縛りあげておくしかないだろう」
 小声で交わされる会話に耳を傾けながら、菜摘は部屋の中を素早く観察する。
 そして足に力を籠めると目の前の男のふくらはぎを力一杯蹴りつけ、そのままジャンプすると壁際にある大きなレバーを思い切り引いた。


 バシン。
 そんな音が響いた気がした。
 すると館内を妖しく照らしていた蝋燭風の照明が一斉に消え、暗闇が訪れる。
 楽しさや興奮の混じった物ではない、本物の悲鳴が館内のあちこちから響き渡った。
「なんや!?」
 平弥が身を屈めて辺りを警戒する。
 だが暫くすると、薄緑色の非常灯がぱちぱち瞬きするように、順に灯って行った。
「何だろう、停電かな?」
 栄は嫌な予感を感じつつも、わざと常識的な表現を使う。
 その気遣いは有難いと思うが、こよりは自分の判断を言葉にした。
「なっつんに何かあったんじゃないかな」
 栄も正直なところ、それに同意せざるを得ない。
「……そんなに遠くに行っているはずはないな、何か手掛かりがないか探そう!」
「よっしゃ、ほな見落としのないように、手分けしようや」
 最後に一緒にいた階段を上がった所まで戻り、辺りの壁を丹念に探り始める。


 真っ暗になった瞬間、菜摘はすぐに女の子の方へ向かった。
 だがあと少しという所で、小さな体は手をすり抜けてしまう。
「大人しくしろと言っただろうが!」
 非常灯の不気味な明かりの元、凄みのある声が低く響く。
「この娘を放っとくと何するか判らんな、連れてくか」
「面倒なことになったな……」
 縛られた腕を乱暴に掴まれ、菜摘は立たされた。
 正直なところ、縛り方は甘いし、菜摘から見れば二人ともど素人だ。その気になれば一瞬で叩きのめせる。
 だが女の子を巻き込みたくない。こいつらの目的も分からないし、他に仲間がいないとも限らない。もう暫く相手の出方を見る必要があるだろう。
(……皆さんなら気づいてくださいますよね……!)
 菜摘は身を捩る振りをしてポケットを探り、ティッシュを手の中に隠し持つ。
「こっちだ、早くしろ」
 部屋の奥の殺風景な扉を開けると、男達は菜摘の背中を押した。


●残された手がかり
 壁に耳を当て、軽く拳でこつこつと叩く。
「ここ、中が空間みたいだ」
 栄が二人を呼び集めた。良く見ると、大きな肖像画の額縁の一部が僅かに摩耗しているのがわかる。
 そこを押すと、かちり、と小さな音が鳴った。だが壁には何の変化も起こらない。
「ここは俺に任せろー!」
 嬉々としてスキル『開錠』を使う栄。今度は力を掛けると、そのまま壁が奥へと開いて行った。
 一同がそこで目にした物は……。
「もがー! もがー!」
「大丈夫ですか!?」
 どうやら物置らしい部屋の中で、作業服姿の男がひとり手足を縛られ、さるぐつわを噛まされて唸っていたのだ。
 急いで戒めを解いてやると、男が必死で何事かを訴えてきた。
 余りに慌てていてわかりにくい内容を、なんとか宥めすかして事情を確認する。
「つまり、この遊園地のオーナーのお孫さんが、ハロウィンパーティーのどさくさにまぎれて誘拐された、ということだな」
 こよりの言葉に男が大きく何度も頷く。
「しかも、関係者に協力者がおる、と。面倒なこっちゃなあ」
 平弥が頭を掻いた。
 どうやら本当に事件に巻き込まれたようだ。そして恐らくは、連絡の取れない菜摘も……。
「とりあえず、警察に連絡してください。俺達は仲間を探さなきゃ!」
 栄がそう言って腰をあげると、男が縋りつく。
「待ってくれ! 事が大げさになると、お嬢さんが危ない!!」
「じゃあ私達に協力してくれないか。私の大事な親友が、多分一緒にいるようなんだ」
「分かりました、こちらへ」
 男が先に立って廊下の端へと皆を案内する。何処までも続くように見えた廊下は、鏡張りの行き止まりだった。
 慣れた手つきである場所を押すと、鏡がくるりと回転し、明るい部屋が見える。
「うわ、なんだこりゃ!」
 男が声を上げた。乱雑にいろんなものが転がっている事務所のような部屋である。
「電話線も切られてる、電源が落ちたのはここの主電源か……」
 男はぶつぶつ言いながら、めちゃくちゃに散乱している物を掻き分けていく。
 その時、しゃがみ込んでいた平弥がこよりを呼んだ。
「これ、みてみ?」
 床に落ちていたのは、ティッシュで作った紙縒りだった。
「もしかしたら……なっつんのメッセージ……?」
 目の前には鉄の扉がある。
「おっちゃん、この先どうなってるん?」
 平弥が尋ねると、地下の倉庫に続いていて、目立たない裏口もあるらしい。
「俺は外に回るよ! 二人とも気をつけて!」
 栄は裏口の場所を確認すると、即座に駆け出して行った。
「急ごう」
 こよりは唇を噛みしめ、ドアの向こうへと身を躍らせる。


●事件の結末
 薄暗い階段を駆け降りる。
 所々に、白く細い紙縒りが落ちているのが見える。
(間違いない。なっつんが、私を呼んでいる)
 こよりは胸のつぶれるような思いで、先を急ぐ。子供が辛い目に遭っていると知れば、菜摘は自分の命すら賭けるだろう。そんなことはさせたくない。
 階段の終点にある扉は僅かに開いていた。
 そっと中を覗くと、蛍光灯の明かりの下に色々な道具が並んでいる。
 音を立てないように慎重に進むと、また紙縒りが落ちていた。だがこれまで真っ直ぐだった紙縒りは、くの字に折れ曲がっている。
 こよりは平弥をつつき、それを見せた。平弥も頷く。大道具の隙間に、通路のような空間が横に伸びていたのだ。
<ココデ、マガレ>
 恐らくはそういうメッセージ。

 平弥が一歩踏み込んだ瞬間だった。
「ぐわっ!?」
 突然、傍の大道具の陰から、角材が振り下ろされたのだ。
 ぐしゃり。
 嫌な音がして、平弥が胸を押さえて壁に寄りかかる。その手の周囲、上半身一面が、真っ赤に染まっていた。
「な、何!? そんな力で殴っちゃいないぞ……!!」
 スーツ姿の男は明らかに狼狽している。
 すると平弥がカッと目を見開いて身を起こした。
「よくも、俺の渾身の作品『グロテスクたこ焼き』を……!」
 説明しよう。グロテスクたこ焼きとは、内部にケチャップを仕込んだ、ハロウィン用の試作品である。
 後でみんなで食べて楽しもうと思っていた物だ。旨いか不味いかの判断は……人による。
「たこ焼きの恨みや!」
 平弥の強烈なアッパーカットが、男の顎に炸裂。
 派手な音と共にひっくり返った男の後ろに、ピンクのドレスの女の子を抱え、菜摘の喉元にナイフを当てた男が露わになった。
「なっつん!!」
「近寄るな!」
 ひっくり返ったような声で叫ぶ男のナイフが、ギラリと光る。
 その時、別の方向の扉が勢い良く開かれる音がした。
「もう逃げられないぞ! 観念しろ!!」
 栄の声だった。
 追い詰められた男は、ナイフを菜摘の白い喉に押し当てた。
「それ以上近寄ると、本当に……ぐうぅッ!?」
 男が悲鳴を上げて倒れ込む。
 両腕を縛っていたはずの菜摘の手刀がナイフを叩き落とし、女の子をひったくり、目にもとまらぬ早業の膝が鳩尾を強打したのだ。
「なっつん、無事でよかった」
 悶絶する男を踏みつけて駆け寄るこよりに、菜摘が心底嬉しそうに微笑んだ。
「きっと来てくださると信じていました」
 駆けつけた栄も、その姿にホッとする。
「良かった、でもみんな大活躍だな!」
 全員の無事を確認した栄が見せる笑顔には、一同を心から安心させる不思議な暖かさがあった。

 見事誘拐犯から女の子を取り戻した一同に、女の子のおじいちゃんである遊園地のオーナーは何度も何度も礼を述べた。
 こよりは不敵に微笑んで、ただこう言ったという。
「ま、仮にも探偵倶楽部だからな」
 しかし平弥のにこにこ顔に一抹の不安を隠せない。
「食べてもうまいし、事件解決に役立つし。やっぱりたこ焼きは万能やな!」
 最終的に活躍したのは、やはりたこ焼き。
 いつか『探偵倶楽部』が勝手に『たこ焼き部』に改名されないかという恐れは、尚も深まるばかりであった。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【ja2400 / 久遠 栄 / 男 / 22 / 頼れるセンパイ】
【ja0431 / 真田菜摘 / 女 / 16 / 命を賭しても守る】
【ja0478 / 九神こより / 女 / 17 / 心優しき探偵】
【ja2513 / 木南平弥 / 男 / 16 / たこ焼き探偵】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
大変お待たせいたしました、ハロウィンの大事件のお届けです。
試験休みを利用して、ホラーハウスを楽しみに遊園地に来た俺達は……やっぱり事件に巻き込まれたようです。
それぞれの立場や役割がちゃんとはまっていて、素敵なお仲間だなあと思いつつ。
ちゃんと推理小説風になっていましたら幸いです。
この度のご依頼、誠に有難うございました!
HC仮装パーティノベル -
樹シロカ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2014年11月27日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.