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『魔女と悪魔 〜夢童話〜 』
ファウストjb8866

 一瞬、自分は物語の中の世界に迷い込んだのかと錯覚した。
 街中に溢れる仮装達。賑やかな声が其処ら中に響き渡っていた。
 友人に無理矢理誘われて参加したハロウィンパーティー。仮装なんて浮かれるような質ではないファウストは睨み付けるように会場で突っ立っていた。
 ファウストが身につけるのは適当に用意した白いシャツと適当に借りたマント。一応郷に入っては郷に従え、ヴァンパイアの仮装のつもりだった。
「お前も、そろそろ良い奴見つけろよなー。じゃ、俺は可愛い子に声をかけてくる!」
 すっごく適当なことをほざきよった友人は糸の切れた凧のように何処かへと消えて行った。
 こちらは全くそんなつもりはない。真に多大なる余計なお節介だ。だから、ファウストは突っ立って会場を睨み付けるように見渡していた。
「ハロウィンの日は死者や魔物が現世に現れる、と聞くが……」
 そんな中、人混みの向こうに、彼女の姿が見えた。
 金色の美しい髪と、鮮やかなローズレッドのドレス。宛らハートの女王のようで。
「……まさか」
 そんなはずがない。そんなわけがない。困惑を抱えながら、それでも足は正直なようで否定する頭とは裏腹に彼女の姿を追い掛けていた。



 一瞬で風景が変わる。周囲を見渡せばいかにもな背の高いブロック塀と、アスファルト。
「急ぐのであるー! であるー! 急いだら曲がり角でトースト咥えた年若き少女と運命の出会いをするやもしれぬからな!」
 聞き覚えのある声だった。というか、うん。間違いなく彼奴だ。
 とりあえず曲がり角へ飛び出してみると予想通りぶつかった。何という鉄板パターン。
「貴様は……!」
「ふむ! 我の名はロリコンあ――ではなかった。こほん。時計うさぎなのである! 愛すべきとしわk――でもなく、時空の迷い子に女王からの言付けを伝えにきたのだぞ!」
 きりぃ。いや、なんか色々間違いすぎでしょう。あえて誰とは名前呼ばないけどロリコンさん。
「……我輩に、何か」
「『勝負よ、ファウ。私を捕まえてみなさいな』とのことである! 確かに伝えたのであるぞー! では、我は理想の年若き少女を求めて先を急ぐのであるー!」
 ファウストが言葉を喋る前にロリコンうさぎは走り去っていった。
「掴まえてみろと言われてもな……」
 溜息を付きながらファウストが周囲を見渡すとやっと潜って通れる程のドアがあった。



 一面の草原に、ひたすら真っ直ぐ続く畦道。
 そんな自然満ちた風景に似付かわしくない『スタート』。
 気付けば自分はカメのような甲羅を背負っていた。
「来たわねファウ。悪魔の実力っての見せて貰おうじゃない」
 その声に振り向けば、うさぎの耳のようなものをつけたニーナの姿。
「ファウは、日本で毎日電車に飛び乗っているんでしょう? それなら足には地震あるんじゃないの?」
「いや、日常的に電車に乗るわけではないし飛び込み乗車は危険だからしてはいけない。常識だ」
「かったいわねぇファウ。その頭で瓦でも割れるんじゃないの?」
 意味が解らない。睨み付けるファウストの視線を軽く流し、ニーナは走り出した。
「そんなんじゃ、私に追いつけないわよ。あ、次は合い言葉が必要だからねー」
 ウサギとカメなのだろうか。あっと言う間に走り去ったウサギは何処かに消える。サボりもしないウサギというのもどうなのだろうか。




 ゴールから暫く歩くと三件の家が建っていた。自分はどうやら狼の姿らしい。
 藁の家。木の家。そして、煉瓦の家。
 そのうち、煉瓦の家の扉に手を掛けると鍵が掛かっていた。
 当然、息を吹き掛けても壊れるはずはない。進入出来るような煙突もない。
 合い言葉が必要よなんて言葉を想い出す。まさかな、と思いつつも呟いてみた。
「Ich liebe dich immer und ewig」
 がしゃりと、鍵が開いた音がした。



 扉を開けると、其処は絢爛豪華な舞踏会場。
 自分は白を基調とした王子風の服装に身を纏っていた。
「待っていたわ。遅すぎて、もう12時になっちゃうじゃないの――でも、また言ってくれたわね。其処だけは礼を言っておくわ」
 空色のドレスに身に纏ったニーナの姿。
「改めて、私と踊って頂けるかしら? 王子様」
「足を踏むなよ」
「うるさいわね。ファウこそ、その仏頂面で彼女の一人も出来ないんでしょう。ちゃんとエスコート出来るの?」
「そんな我輩を踊りに誘ったのは貴様であろうが」
 憎まれ口を叩き合いつつも踊り出したふたりの息は合っていた。

 そうして、やがて鳴り響いた鐘の音。駆け下りるニーナ。
 ころんと彼女が残したガラスの靴を拾い上げると風景が変わる。



 片田舎。村はずれの小さな家――間違いない、自分がかつて住んでいた家だ。自宅のはずなのに、まるで初めて訪れる他人の家のように緊張した手で扉を開く。
「今度は、貴方がノックしなかったわね。ファウ」
「ニーナ……」
 その扉の向こう。彼女が腰に手を当てて自信満々な顔で言い放つ。
「トリックオアトリート……って言うのよね? どうだったかしら? 私の悪戯は……あら、とても疲れた顔をしているじゃない? 悪魔なのにそれくらいで疲れるなんて情けないわね。ちゃんと運動してるの? ボケが始まったんじゃない?」
「貴様こそ、そのじゃじゃ馬っぷりを直したらどうだ」
 何だかこのやり取りも心地が良くてふたりの間に、思わず笑いが零れてしまう。
 少しだけ洋酒が混じった馴染んだ菓子の香り。キルシュトルテだ。
「まぁ、ちゃんと私の元に辿り着けたじゃない。ご褒美くらいはあげるわ」
「もう少し口の利き方をなんとか出来ないのか。ニーナ、何故、このようなことをした」
「……たかったからよ」
 ニーナには似合わない程の小声で何かを言っている。よく聞こえないという顔をファウストがしていると叩き着けるように彼女が大きな声を出した。
「一緒に居たかったからよ! 私が貴方の夢に出られるのは……そう、長くないから」
 だから、話したかったけど色んな貴方の姿も見てみたくて。でも、時間が足りなくて。
「ファウが今住んでる国にはリンネテンセイって考えがあるみたいね。生まれ変われたのなら、また貴方に本物のキルシュトルテを作ってあげられるかしら?」
「どうだろうな」
 長い年月をかけて、様々なキルシュトルテを口にしてきたが、どれもあのキルシュトルテとは味が違ったのだ。
 それは、ファウストだけを思って作り続けてきたニーナの努力が詰め込まれている。
「それに、生まれ変わらずとも、ニーナ――我輩はいつも貴様と一緒に居る。貴様が我輩にそれを望んだことだろう」
「……よく、恥ずかしげもなく言えるわね」
 ニーナは頬を膨らませていじけた振りをしながらも何処か嬉しそうで。
「当たり前のことだ。恥じる必要はない」
「よく、そんなことを真顔で言えるわね……けど、私はそんな貴方が好きよ」
 言葉とは裏腹にニーナは照れを隠すようにファウストに切り分けたキルシュタルトを突き出した。
 久しぶりに口に含んだキルシュトルテは以前より更に甘く感じたが、不思議と変わらない味のような気がして。
「貴様も、恥ずかしげもなく言えたものだな……甘い」
 甘く感じたのは、珍しく素直な彼女の言葉だったからだろうか。




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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb8866 / ファウスト / 男 / ダアト】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ニーナに時間が足りないのであれば、私には字数が足りません水綺ゆらです。
後2つ童話を混ぜるつもりだったんですが、字数の壁に泣く泣く断念しました。
大変お待たせしてしまい申し訳ありませんでした。気に入って頂けると幸いです。
HC仮装パーティノベル -
水綺ゆら クリエイターズルームへ
エリュシオン
2014年12月04日

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