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『剣を研ぐ 』
リューリャ・ドラッケン(ia8037)

●道程

 成功の是非はともかくオリジナルアーマーの研究者というだけであれば数は多い。しかし竜哉(ia8037)が依頼を望むマイスターは居場所から一線を画した異例の存在だった。人の依頼を断るかのような場所に工房を構えているのだ。
(亡霊が出る山‥‥ね)
 つくづく霊的なものに縁が強い身の上だと口元をゆがめる。だがそれこそ今の自分に、この駆鎧の力を求める自分には似合いだと思う。
 山の麓でも研究者という以前に偏屈で通っているらしい。わざわざ会いに行くという竜哉に同情の視線を向ける者も居た。
(事情を知らないのに、決めつけられてもな)
 他人の視線を気にするわけではないが面倒は少ない方がいい。気付かないふりをして、竜哉はその場を後にした。見据えるのは山の中腹。

 それは本当に亡霊と呼んでいいものだろうか。
 苦い記憶に伴う、かつて見知っていた者達。アーマー技師である彼らが一人、また一人と竜哉の前に現れる。それと似た体験を思い出すが、しかしすぐに首を振る。
(あの時のように、龍脈が活性化する時期ではないはずだ)
 ただの幻に過ぎないはずだ、どうせすぐに消える。彼らは竜哉に何をするでもなく、ただ目の前に現れるだけだから。亡霊が出ることも知っていたのだから、何をいまさら驚くことがあるだろう。
 目的地を見据え、ただ足を進めていく。
 亡霊達は、そんな竜哉を見つめ、すれ違う際も視線で追って‥‥彼の後ろをゆっくりと、なぞるように歩んでいく。

●試練

「‥‥見えた」
 屋根と思しき人工物が竜哉の視界に入り、同時に聞こえたのは駆動音。
「っ!」
 すぐにその場を飛び退れば、つい先ほどまで竜哉が立って居た場所に一つの駆鎧が現れていた。近年特に見る機会が多いその外観は。
「人狼!?」
 オリジナルアーマーの第一人者とも呼ぶべきマイスターの工房、その場所で汎用型の駆鎧が存在している事実にほんの一瞬理解が遅れる。
(研究用‥‥にしては戦い慣れしている)
 構造の把握だけであれば、駆鎧は必ずしも実用に足るものである必要はない。しかし整備も施されており、いつでも動かせるようにしてあったのだろう、目の前の人狼は竜哉が知る以上に滑らかな動きを見せていた。
 そして何より、竜哉に対して正面から相対している。
「約束の無い者は排除する、とでもいうのかね」
 そうやって篩にかけているというのか? 手塩に掛けて育てたかわいい子供を差し出す相手の力量を見るために?
(ならば受けて立つまでだ)
 自分に残された道はこれしかないのだ。

 駆鎧はあくまでもつくられたモノ。それゆえ遠慮なく対峙できる。
 からくりの体のつくりも参考に造りこまれたその身体は、人の体のつくりにも近い。それは弱点も人に近いという事だ。
 駆鎧の全てを破壊する必要はない。自分が負けなければいいのだ。あらゆる手段を奪ってしまえばいい。
 人狼型の関節、特に人でいう肘と足の付け根部分を見据える。
 ガキィ‥‥ンッ!
 本来とは別の角度に強引に捻じ曲げる。それだけで制御不能になるのだ。一箇所が済めば、それが何ヵ所であろうと同じこと。
 剥き出しになった箇所を順に攻めていけば、四肢が操作不能になった駆鎧はただ倒れるしかなかった。
「‥‥からくりか」
 背部をこじ開け搭乗者を確認する。マイスターに弟子はなく、身の回りの世話をするからくりの従者がいるとは聞いていた。
 マイスターはどこだろうかと疑問が浮かぶが、工房まではまだ距離がある。辿り着けばそこに答えがあるはずだ。

「今度は‥‥容赦しなくて済みそうだ」
 遠雷は人狼ほど動きが早いわけではない。だからこそ余裕をもてる。搭乗者を確認してからでも遅くない、一瞬その思考が頭を掠めたがすぐに無意味と打ち消した。
(まだ距離があるからな?)
 工房がすぐ目の前の場所だというならまだしも。今はやっと壁が見えてきた位の場所だ。目の前の遠雷を倒してもまだ次がある。竜哉はそう推測していた。自身の体力を温存するためにも手数は少なく、そして時間をかけずに前へ進まなければならないだろう。
(こじ開けるのも面倒だがな)
 胸部装甲を開ける手は闇に葬る。搭乗者がからくりならば余計に不利だ。武装しているとはいえ、こちらは生身で相対しているというのに。
「それでも、これを耐えきれるとは言わせないがね」
 特に正面から向かっていては埒があかない。駆鎧が武器を振りぬいたその瞬間を利用して、懐に入り込む。関節部分も装甲で守られているからこそ、ダメージは与えられない。それでも力任せに、間髪入れずに続けて攻撃を加えていく。一撃だけではだめなのだ。角度を変えて、法則性をなくして、押しきる重い攻撃を続けなければならない。
(どうだ……!)
 傷はつかなくたっていい。ただ竜哉の攻撃が駆鎧を揺らがせるそのことこそが肝心だ。前後に、左右に、上下に。瞬間的な力はその速度もあわさり本来の力を何倍にも膨らませる。
 駆鎧の動きが揺らいだ。
 見逃さず、追うように加えた一撃が留めになる。丈夫なはずの遠雷が倒れていく様子は竜哉の目にひどくゆっくりと映った。

 既に生産が終了している第二世代型は稼働している数も少ない。それでも見覚えがあったからこそ鈍重さは記憶に残っている。まだ竜哉が少年で、遠雷が開発途上だった頃。街で見かける駆鎧は第二世代型が多かった。当時はまだ今ほど広まっていなかった駆鎧ではあるけれど、彼女の勤める工房に出入りしていた竜哉はそれこそ毎日のように駆鎧を目にしていた。
(その屈強さに憧れもあったものだが)
 伸びきる前の目線から見上げた駆鎧は力強さの象徴のようだったと思う。まずはこれを乗りこなし己の技量を鍛えて、新たな駆鎧で実際に戦果をあげて、そして彼女が整備を手掛けてくれて‥‥叶わない想像の物語を打ち消す。
「こんな形で、過去とはいえ俺の夢を打ち砕いてくれるなんてね」
 そのお礼に最速で倒して見せる。

 流石に予想はついていた。駆鎧の辿った進化の歴史を逆にたどるように布陣され、竜哉を待ち受けている駆鎧達。第二世代型が以降の進化を見定めるためのデータ収集を目的としたテストタイプなら、この第一世代型はそれよりももっと前、駆鎧の基盤を担うプロトタイプ。その画期的性能は人々の関心を集めたが、今と比べると随分と難解な操縦方法、そして量産体制確立の遅れのせいで、その名を世間に広めた重要な機体ではあったけれど、今はもう退役の決まった古き駆鎧。
 駆ける鎧。その名にみあいその装甲は厚いものではない。後継機達の丈夫さに比べれば並び立つことも不可能だろう。
「‥‥お疲れ」
 ただ敬意を表して。手抜きの無い一撃で終わらせた。

●遭遇

 現れるのならば、竜哉が見たこともない、想像もつかないような機体‥‥それに乗る者こそ目的の人物だ。そう思っていた。
 目の前の工房、その大きな扉がゆっくりと開く。姿を現した駆鎧は臨戦態勢を崩さぬまま、竜哉に相対する。
「お前も駆鎧を纏え、竜哉」
 名を知られている。待ち構えていたことも考えれば、マイスターが竜哉の来訪を知っていたことになる。しかし理由を尋ねることはできなかった。
「お前が見捨てたあいつの形見で、後悔を、迷いを、心意気を、力を熱意を本気を願いを! お前の全力を見せてみろ、竜哉ァぁぁあ!!!」
 亡霊達が取り囲み舞台を整える中、マイスターの叫びが戦いの始まりを告げた。
■WTアナザーストーリーノベル(特別編)■ -
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舵天照 -DTS-
2014年12月09日

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