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『Just place of heart 』
常木 黎ja0718


 冬から春へ、秋から冬へ。
 夕暮れ時の身を切る風の冷たさは似ているようで、傾く季節が違えばより冷たく感じる。
 ただ、不確かだったあの時より、『今』は少しだけ……もしくは大きく、『変化』が生じていて。
 缶コーヒーで指先を温める間も、落ち着かない気持ちは同じようで、少しだけ違う。

「黎?」

 名を呼ぶ声は、驚いたように。それから、嬉しそうに。
「……あ、えっと………お帰り? 今日あたり、戻るって…… その筋から耳にして」
「筒抜けだなーあ」
 駐車場へバイクを停めて戻って来た筧 鷹政は、マンションの前で待つ常木 黎へ、そうやって笑った。
 何かにつけて学園へ顔を出すものだから、卒業生し独立しているというのに関係者各位からそれとなく情報は流れてくる。
「飯、食べてく?」
「うん、ただ頂くのもアレだから、少しは買ってきた、材料的なの」
「おー。肉? 魚?」
「どっちが良いかわかんなかったから、両方」
「あはは」




「鷹政さんって、粉もの好きなの?」
「あー、好きかも。というか、米を炊かなくてもパンが無くても何とかなるっていう」
 男の一人暮らしに、微妙に浮いた存在・小麦粉。
 お好み焼きだったり、気分次第で作るのだという。
「じゃ、ムニエルとかピカタとか、肉も魚もフライパンで一気にできるかな」
「……できるものなの?」
「難しいものじゃないよ」
 洒落た横文字に鷹政が慄く、対して黎が薄く笑う。
「そりゃ、自負するほど得意なわけじゃないけど……一般レベルには、作れるし」
「食べたいものを作れるのが大事ー。だったら俺は…… とりあえず米を炊くか」
 広いキッチンではないが、手分けして動くには問題ない。
 それぞれにやることを分担して、時おり笑いが零れながら夕飯準備。


 下味をつけた豚肉を、ガーリックや粉チーズたっぷりの卵にくぐらせつつ残った卵液も一緒にじっくりふんわり焼いたポークピカタ。
 白身魚は丁寧に骨を取ってから表面に小麦粉をまぶしてバターで香ばしく焼き上げる。
「これに白米と味噌汁で、一気に定食感だよな」
「いいんじゃない、らしくて」
 肩ひじ張るような食事より、余程いい。
 残っていた野菜を投入した味噌汁は優しい味がするだろう。
「黎もビールで良かった?」
「なんでも……。あ、だったらご飯はナシかな」
「フツウそうですよねー。仕事終わって腹減ってんだもん、俺は両方ー」
 冷蔵庫から缶ビールと冷えたグラスを取り出して、鷹政もローテーブルに着いた。




 最近、学園で起きたこととか。
 仕事中のちょっとした珍事とか。
 酒の肴に、とりとめもなく話す。食事が終わって、片付けも済んで、それからも。
「……鷹政さん、ビールおかわりする?」
「ん、もうちょい飲むかな」
 空のグラスに気づいた黎が腰を上げる、何とはなしにその後姿を見遣って、ふとした疑問が鷹政の中に浮上した。
「黎、今日って…… バイク?」
「…………あー、 ……、『飲んだら乗るな』だよね」
「…………」
「…………」
 沈黙。
「ごめん、ビールやっぱストップ。ちょっとコンビニ行ってくる」
「え、どう……」
「明日返却のDVD、溜まってんの。付き合ってくれる?」
 菓子類、買い込んでくるから。あ、シャワー使ってていいからね。
(……怒った? 迷惑、だった?)
 静かに閉められた玄関のドア。
 黎の胸は、ざわざわと厭な音を立てる。泊まっていいだろうかと遠回しの考えは、容易く見透かされたようで。
(どうしよう)
 とりあえず。
(……頭、ちょっと、冷やそう…………)
 ずるずると立ち上がり、シャワールームへ向かった。
 言うからには、きっと彼の帰りもそれなりに遅いのだろう。




 ポップコーン、ポテトチップス、ビスケット、チョコレート、炭酸飲料。
 ジャンクなものがこれでもかとローテーブルに広げられていた。
「え」
「髪、ちゃんと乾かした? オーケーオーケー、ではこちらへ」
「え」
 クッションを敷いて簡素なソファ化した場所に胡坐をかいていた鷹政が、膝の上を叩く。
「鑑賞会するよーって言ったじゃん。あ、俺は上の事務所のシャワー使ってるから心配無用」
「……いつの間に」
 二部屋を借りるということはそういう使い方が出来るわけで、ああなるほどと頭の片隅で納得するものの、黎の思考は追いつかない。
「アクション、ホラー、スプラッタ、懐かしの怪獣映画に―― どれから攻めるか」
 リモコン一つで数時間耐久できるように、セッティング完了。
 どれも、聞き覚えのないタイトルばかり。どうやって見つけて来るのだか。
「低予算映画ならではのチャチさとか制作のこだわりとか、結構好きでさー」
「仕方ないなあ」
 口ではそう言いながら、そんな口から心臓が飛び出そうな緊張を抑えて、黎は鷹政の膝の上に収まった。
(……あったかい)
 後ろから、抱きかかえられる感じ。幼子のような安心感と、幸福感に包まれる。
 こうして過ごすことが、涙腺が緩むくらいに好きなのだと気付いたのは最近の事だった。
 夏の薄着とはまた違う。同じシャンプーの匂いがくすぐったい。
 質の低い映像はホラーを越えたコメディで、鷹政は笑っているようだったがこちらとしては全く頭に入ってこない。
「食べる?」
 つい、と口元へ差しだされたのはキャラメルがけのポップコーン。
「ん、 ……あ、ごめん……つい」
 条件反射のように舌を伸ばし、その指先ごと甘く噛む。猫のような仕草で。
 後ろの身体が強張るのを感じ取って、謝るけれども…… 互いの体温が上がってゆくのは、隠しようがなかった。
 黎は膝に掛けていたブランケットを鼻先まで上げて、顔を隠す。
「……泊まって行っても、いいかな」
「そのつもり…… だったん、だけど」
 非常に非常にぎこちなく、今更ながらの確認を。




(鷹政さんの匂い……)
 日差しを感じて目を覚ましたのは、ベッドの上だった。いつの間にか運ばれていたらしい。
 映画を観ながら寝落ち掛けた時に、少しばかりゴネてみた記憶はあるけれど…… こういうところで、彼は固い。
 きっと、事務所のソファベッドで寝て――

 寝息が、耳元で。

「!?」
 驚いて振り向く。それから気づく、自分が鷹政の腕枕で寝入っていたことに。

『だって…… 寒いじゃない?』
『えーーー』

 笑ってやりとりを、した記憶はある。
『じゃ、黎ちゃんが寝付くまでなー?』
 わざとらしい子供扱いで、枕もとをポンポンと叩いて。
(……あのまま)
 どうやら、その腕を独占してしまったようだった。
(して、もらってばっかり、だな)
 与えられてばかり。甘やかしてもらってばっかり。嬉しい気持ちも、ぬくもりも。
(少しくらい、分けられないかな)
 穏やかな寝顔の首元に顔を埋め、熱を分け与えるように、背中へ腕を回した。


 休みの朝。たまにはこうして、二人でのんびりしていたって神様も怒らない。




【Just place of heart 了】


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja0718/ 常木 黎 / 女 / 25歳 / インフィルトレイター】
【jz0077/ 筧 鷹政 / 男 / 27歳 / 阿修羅】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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秋から冬にかけて、一肌恋しい季節のエピソードお届けいたします。
楽しんで頂けましたら幸いです。
■WTアナザーストーリーノベル(特別編)■ -
佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2014年12月10日

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