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『剣の誇り 』
リューリャ・ドラッケン(ia8037)

●力量

 竜哉(ia8037)の纏う駆鎧は彼女が設計したもの。立ちはだかる駆鎧は彼女の根源とも呼ぶべき父親が作り、そして操るもの。作り手であり操縦者であるマイスターは己の技術も駆鎧も熟知しており、だからこそ意のままに操ることができる。
(おそらく‥‥だが)
 その駆鎧は第一世代よりも前、第零世代とも呼ぶべき唯一の存在なのだろうと思う。人型にもなりきらず、かといって火竜のように四足歩行に近い構造でもない。安定性を重視した多足であるにも関わらずその動きは素早いもので、それはマイスターがこの駆鎧をそれだけ作りこんでいるという証のほんの一部でしかない。
(それが技術と、性能の差)
 そして製作者だからこその整備の差。マイスターが万全の整備をしているのは明白だ。対して通り一辺倒の整備しか施されていない竜哉の駆鎧は彼女の意図した性能の全てを出し切ることはできていないのだろう。それまでも小さな違和感は感じていた。しかしそれだって改修を依頼したギルドでこの駆鎧の異常性を指摘されたその時、はじめて確信し納得したことなのだ。
 二人の差はそれだけではない。
「この程度か竜哉? お前はあいつの機体でその程度しか戦えないというのか!」
 マイスターの叫びが攻撃に更なる鋭さを足して竜哉を揺さぶる。ただ彼女を示す言葉それだけで、竜哉の意思に波紋が広がる。
 マイスターが竜哉の名を、目的を、そして抱えている闇を知っているという事実は、竜哉の不利を誘うものでしかなかった。それだけマイスターがこの戦いの勝利を切望しており、それだけ竜哉が目の前に突き付けられる事実と過去に負い目を感じている証拠。それは意志の強さとして二人の差を決定的なものとしており、何度も竜哉の手元を鈍らせ足を止めさせようとする。それでもまだ倒れずマイスターと戦えているのは生存本能によるものだ。
 死そのものを恐れているわけではない。ただ悔いを残すわけにはいかないという本能だ。
(その時を迎えるのはここじゃない)
 だからこそ抗う。

 差は一向に縮まらない。それどころか竜哉は少しずつ追い込まれていた。
 退路を断たれ、手も足も出せなくなったその時にマイスターは駆鎧の心臓部、竜哉の中心さえも貫こうとその一撃を振りかぶる。
(あの時と同じ、時間が手に取るように移ろっていく)
 かつてジルベルトとして過ごした生、その時感じた死の感覚が蘇ろうとしていた。亡霊達が取り囲む中、亡き彼女の遺した駆鎧を纏い、死の記憶を思い出しながら、自身の死を予感する。
 切欠が何だったのかははっきりしない。符号が揃ったその瞬間、竜哉は抗う為の力にその手を届かせた。

●志体

 すぐに消えると思っていた亡霊達は消えていない。
 かつての彼らは一時的に現れただけだった。それは龍脈が活性していたその短い間だけのことだった。
(俺が終わろうとしているのに、見守られている)
 竜哉の記憶から呼び出されているはずで、それは竜哉の存在と共に薄れて行ってもいいはずだ。
(‥‥まさか)
 それはこの場所がより強く龍脈の影響を受けている証拠。そして竜哉の記憶とは別の何かを拠り所にしている証拠。
 マイスターはあの爆発の時、その場にいたはずがない。
(だとすれば‥‥彼女しか)
 今は居ないはずの彼女、その想いが残っているとするならば‥‥可能性は一つだけ。

 ――私の願いは、貴方の力となって、その道を助けること。

 空耳かと思った。
 確かに彼女の声だ。聞きたかった、言われたかった言葉。

 ――私の思いは、私が手掛けたこの駆鎧がきっと、届けてくれる。

 理解の後に言葉が染み込んでいく。
 彼女の想いはここにあった。

 ――だから、リューリャ。
 ――貴方はただ、心を開いて‥‥

 自分はただ身を委ねればいい。
 彼女の想いが、答えをくれる。

●真相

 竜哉の駆鎧に手紙を残した彼女は、実験前の最後の整備にと試作機の元に戻っていた。
 そこで彼女は内部に潜むアヤカシの存在に気付いてしまう。

 ――怖くなかったなんて言わない。逃げたいとも思った。

 試作機とはいえ駆鎧は兵器、しかも実験が可能なほどの完成度。
 そこにアヤカシの力が合わされば? ‥‥どれだけの惨劇を生んだだろうか。

 ――責任感なんてものじゃないの。

 あくまで可能性の話ではある、しかし今の竜哉はヴァイツァウの乱を体験している。

 ――すぐに決めなければいけなかった、それも理由の一つだけれど。

 彼女はひとりで決意し、その芽を摘むことを選んだ。
 宝珠機関をオーバーロードさせることで、中のアヤカシごと自爆する道を。

 ――他の、大事な誰かに背負わせるよりは、後悔しないと思ったから。

(越えられないことには変わりない)
 ぼやけそうになる視界で、滴がにじんでいたことを知る。
 駆鎧に流れる映像は終わっている。脳裏に刻むように今一度強く目を閉じて、再び開いた。
(乗り越えるしかない)
 自分は勿論、目の前の男も同じだ。
(でなければ、前になんて進めるわけがない)
 彼女は前を見ろと言った。忘れるなとも言った。けれど囚われろとは言っていない。
 マイスターも自分も、彼女の死に囚われている。
(‥‥いいや)
 囚われていた、とするために。
 今、彼女の思いが竜哉を包んでいた。駆鎧を、本来あるべき姿に‥‥彼女が本当に届けたかった姿に変えて。

●現在

 願いや思いをかなえる志体の力と、物理現象にさえも干渉できる龍脈の力。あわさった二つの力に乗せられたのはただひとつ、彼女の思い。
 過去を乗り越えると決めたからこそ、抑え込まれていた竜哉本来の力が解放される。
「姿が変わったところで、使い手が同じであれば意味はない!」
 一度引いた得物を再び構えるマイスター。その余裕は崩されてなどいない。
「いいや、俺も変わってる」
 相手に聞こえているかは問題ではなく、ただ自分に言い聞かせるように呟く竜哉。
 駆鎧の右手に意識を集中させる。次第に集まる光と、そこに現れた愛剣。その手応えに笑みが浮かぶ。
 後悔を振り切り、迷いを捨て、心意気を示し、純粋な力と燃え盛る熱意と誠意を込めた本気と心の底からの願い。
 竜哉の全力は、徐々にマイスターを押し返す。
 そして遂に駆鎧の体勢を崩させ、その膝をつかせることに成功したのだ。

「こいつを通して、彼女の記憶を、思いを知りました」
 駆鎧に対する情熱と、この機体に込められた設計思想。最後の仕上げは竜哉の将来に賭けて、彼女自身は自ら犠牲になった事。
(この人に伝わるだろうか)
 自分と同じようにとまではいかなくとも。乗り越えてほしいと思う。
 彼女だってそれを望んでいるはずだ。父親の事は多く語らなかったけれど。それでも話すときはいつも目を細めていた。あの頃はわからなかったが今ならわかる。親への、特にマイスターへの思慕は強かったはずだ。
「だからこそ‥‥彼女が遺した幻を、形にしてくれないだろうか」
 お願いします。
 幻と共に纏っていた駆鎧から離れ、座り込んだままのマイスターに頭を下げる。
「‥‥あいつがお前にそう、言ったのか」
「はい。彼女の最後の願いだと思ってます」
 正面から見据えられ、受け止める。しばしの沈黙。
「「‥‥」」
 特別な何かをしたわけではない。ただひたすらに視線をぶつけ続ける。
 不意に立ち上がる男。
「ついて来い」
 その一言だけを告げ、竜哉に背を向けたマイスターは工房へと戻っていった。
■WTアナザーストーリーノベル(特別編)■ -
石田まきば クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2014年12月10日

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