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『■Their Sense of Distance 』
エアルドフリスka1856)&ジュード・エアハートka0410


●例えば一つの単純な交流

 容赦のない夏の日差しが、ジリジリと身を焦がす。
 いつもどこか眠たげな目を細め、エアルドフリスは青い水平線と寄せる波、そして白い砂浜を見渡した。
「これぞ、紛う事なき夏の海だな」
 だが感慨に浸っている暇など、今はない。
 波と戯れ、水遊びに興じる人々に紛れ、『彼』は潜んでいる筈だった。
「やれやれ……せっかく、海でのんびりできると思ったが」
 ぼやきながらも表情に油断はなく、賑わう浜辺を窺う。
 ひと回りほども年下の相手、適当にはぐらかす事も出来たが。
「エアさんはマギステルだから、俺とは勝負にならないかぁ」
 キャスケットの下より、「仕方ない」と緑の瞳で斜に見上げられたからには。
 ――そう、挑まれたのは『勝負』だ。
 年下の友人とはいえ……いや、年下であっても『彼』だからこそ――。
 足元を洗う波を感じながら散策を装い、それとなくエアルドフリスはワンドを確かめる。

 グリップから伝わる質感は、軽く安っぽい。
 それでも銃としての体裁は成しており、彼の手にすっぽりと納まっていた。
 問題は、極端な射程距離の短さだ。
 確実に命中させるには、かなり接近しなくてはならない。
「仕掛けた勝負、乗ってくれたからには……だよな」
 乾いた唇を、ちらと舌で舐める。
 そもそも一方的な優位は卑怯だし、望むべくは対等の条件だ。
「どういう手で仕掛けてくるかな、エアさん」
 緩やかな海風を受けて歩く相手の出方を予想するだけで、何故か楽くなってくる。
 少し腰を落とした体勢で、ジュード・エアハートは行動を開始した。

 視界の隅で、見覚えのある影が過ぎた。
 何も持たない手の内で、大気に混ざる水の気配が急速にまとまり始める。
 動く影の先を目で追えば、彼を狙う銃口が視界に入り。
 そこへ、球状の水を放つ。
 飛来する魔術を確かめるより早く、横っ飛びでジュードは人の波へ逃れた。
 足を止めて『見せた』のは、あくまでもブラフ。
 向こうは射程距離の不利に気付いていないと予想し、先手を取らせた。
(『ウォーターシュート』か。それなら……!)
 砂を蹴り、一気に距離を縮める。
 接近に気づいた相手へジュードは銃を構え、射程ギリギリでトリガーを引き。

 ぴゅ〜〜〜。

 内部シリンダーに詰められていた水が、放射線を描いた。
「……ほぉ?」
「え!? えーっと……」
 僅かな沈黙に、波の音と周囲の弾む声だけが漂い。
 形容し難い複雑な感情が、両者の間で交錯する。
 いつもの感覚なら、確実に『標的』へ当たっていた。
 しかしジュードが握っているのは、プラスチック製の水鉄砲――リアルブルーでは一般的な子供向け玩具――だった。
 弾速は言うに及ばず。発射された水の『弾道』も直線的に飛ぶのはごく短い距離で、水はエアルドフリスのブーツを濡らすのみ。
「まっ、まだ、勝敗はついてないからなっ!」
 銃に癖があるのなら、腕でカバーすればいい。
「ああ、そうだな」
 負けん気を顕わにした視線に、「全くだ」とエアルドフリスも意味有りげな笑みを返す。
 ジュードがエアルドフリスにふっかけた『勝負』、ルールは『互いが羽織っている上着を、先に濡らした方が勝ち』というシンプルなものだ。その為の手段は問わず、魔術であろうと水鉄砲であろうと問題ない。
 水鉄砲のシリンダーには、まだ水は残っていた。
 エアルドフリスの手が再び動く前に、ジュードがトリガーへ指を掛ける。
 銃口は心持ち上方へ修正、水量に減少による威力の減衰も計算に入れ。
 ――ふと耳に引っかかったのは、波の音だろうか。それとも……?
 気を取られたのは、一瞬。
 より近い位置で、曲げた人さし指を一気に絞る。

 パシュッ、と。

 勢いよく飛び出した水はターゲットに当たり、飛沫が散った。
「今度こ、そ……?」
 勝利を確信したジュードだが、波打ち際に佇むエアルドフリスは余裕の笑みを浮かべたまま。
 ところどころ跳ねた短い金髪からは、水の雫が垂れている。
 無防備に全身が濡れた姿は、まるでにわか雨に降られたようで――。
「覚醒とか、ずるい!」
 トリックに気付いたジュードが濡らした筈の上着を指差し、糾弾する。
「先に、俺が濡らしたのにっ」
「濡らした? どこを?」
 今ごろ気付いたといった感で、エアルドフリスは水を含んだ上着をつまみ。
「覚醒効果はノーカウントだろ」
 余裕の源は、エアルドフリスが覚醒した際に起きる現象だった。雨音と共に雨の精霊が降臨し、頭のてっぺんから足の先まで雨に打たれたように水気を帯びる。
 こうなると覚醒が先か水鉄砲が先か、判定がつけられず。
「エアさん、大人げなーいっ」
 すっかり失念していたジュードが、頬を膨らませた。
「大人げない? 今更だろう」
 否定はしない。大人は得てして、ズルいものだ。
 ただジュードに対しては別種の感情がある事も否定しないが、今は胸の内に仕舞う……未だ整理も説明もつかない不可解な揺らぎは誰に明かすものでもなく、彼自身もまたズルい大人だった。
 それよりも、今は。
「まだ終わっていないよな、勝負は」
 どことなく楽しげな魔術師の言葉に、ハッと我に返るジュード。
 慌てて距離を取ろうとした足が波と砂の流れにもつれ、とっさに手を伸ばし……。

 バシャーーーンッ!!

 人々が遊ぶ海辺に、また水飛沫が一つ上がった。
「あはは、転んじゃった」
「転んだってレベルじゃないだろ。人を豪快に巻き込んで」
 濡れた帽子をジュードが被り直し、ペッペとエアルドフリスは塩辛い水を吐く。
「おまけに、決着がつけられなくなった」
 どうしてくれると、ずぶ濡れの上着をつまんで憤慨する様子に、慌ててジュードが身を起こした。
「ごめん、エアさん! 薬とか薬草とか、無事?」
 尻餅をついた格好の彼へ、手を差し伸べる。
 仮にも相手は薬師、薬や薬草がダメになったらと心配して覗き込むジュードの手を、がっしと小麦色の手が握り返し。

 ドッパーーーン!

「ぶわぷーっ!?」
「お返しだ」
 言い置き、一人で立ち上がろうとしたところへ容赦なく飛ぶ水飛沫。
 お返しのつもりか、水に浸かったままジュードが両手で海水をすくっては飛ばす。
「そっちがその気なら……」
 手で遮っていたエアルドフリスも、受けて立つとばかりに腕をまくり。
 ポルトワールの砂浜で、意地の張り合いと化した水の掛け合いが始まった。


●一番近い場所

「全く。約束を果たしてもらえると思ったら、酷い目にあわされたもんだ」
「え〜っ。でもエアさん、脱いだら意外と凄い……」
「何が凄いんだ、何が」
「えへへ。あ、エアさんこっちこっち!」
 ころころと笑ったジュードはエアルドフリスの手を引き、慣れた足取りで先を歩く。
 それもそのはず、ポルトワールは彼の故郷で、今日は約束通りエアルドフリスの案内役だ。
「海で遊ぶなんて、何年ぶりだろうかね」
 絞ってもまだ湿り気を帯びた上着を、エアルドフリスは指先で引っ張る。
 そこへ潮風が吹き……行く先を辿れば、何本ものマストが並木の様に整列していた。
「壮観だな」
「海軍の船だよ。あまり近くには行けないけど」
 さすが海軍本部の所在地だけあって、港に停泊する船も大型帆船が多い。
 そこから更に歩けば、無骨な船や優美な船首像を飾る船など、様々な様式の大型船が波に揺られていた。
「こっちは商船。同盟各地だけじゃなく、王国や帝国からも来た船も入港するんだ」
「確か海商の力も、強いんだったか」
「うん。交易品も遠い国の品物とか食べ物とか、色々で。どこから来た船だろう、海の向こうに何があるんだろうって、わくわくしてたよ」
 懐かしげなポルトワールっ子の説明にエアルドフリスは目を細め、興味深げに耳を傾ける。
 活気ある市場の喧騒を抜けると、やがて貿易商たちの屋敷が見えてきた。
「エアさん、あれ!」
 声のトーンが一段跳ね上がり、ジュードが屋敷群の一角を指差す。
「大きな屋敷だな」
「あれ、俺の実家なんだ」
「故郷の、実家……か」
 それぞれの複雑な胸中を示すように、そこで二人の足が止まった。遠目に眺める屋敷から住人と思しき人影が現れた途端、「あ」とジュードが小さく声を上げ、握ったままの手を引く。
「母さんだ。気付かれる前に離れよ?」
「顔を出さないのか?」
「いいの。今日は里帰りじゃなくて、エアさんとの思い出作りに来たんだから」
 笑いながら屋敷へ背を向ける案内役に、エアルドフリスも深く問わず。
「大好きなエアさんに、この街で一番綺麗な夜の海が見れる場所。特別に教えてあげる♪」
「じゃあ、楽しみにしていよう。ジュードが薦めるなら、期待できるだろうからな」
 屈託のない笑顔と不意の言葉に面食らうのを隠し、行く先を友人に任せ。
 委ねられたジュードは、嬉しそうに頷いた。

 遅い夕暮れに幾重にもたなびく薄雲は茜色に焼け、光をはじく海も紅く輝く。
 寛いだ雰囲気の料理店――その海に面した席で、最初は豊富な魚貝の料理に舌鼓を打ち、調理方法などに放談を重ねていた二人も次第に言葉少なになり、ただ空を眺め。
 陽が水平線の向こうへ沈むと迫る宵闇の色も混じって紫へと変貌し、やがて色を失った空は闇へ沈んでいった。
「……いい店だな」
 グラスの水で口を湿らせ、感慨深げにエアルドフリスが呟く。
「でしょ。このお店は、家族も知らないから」
 舌平目の香草焼きを口へ運ぶジュードは、得意げな笑みを返した。
「ああ。料理は旨いし、最高の夜だな。感謝してるよ」
 テラスから見える夜のポルトワールはあちこちで明かりが灯り、星空にも負けていない。
「それに今日は、いい一日だった」
 ――その街を愛する人が語る景色は、格別魅力的だ。ましてそれがジュードなら……。
 どんな過去があっても、愛しげに故郷を語る姿。
 胸の奥にくすぶる熱は、昼間の暑さの名残りだろうか。
 北の辺境たる故郷、家族のない身、捨てた憧れ……いつか必ず、再び旅に出る自分。
 ――誰にでも、別れは訪れるからこそ。
 感謝を込め、華奢な白い指の上へ手を重ねる。
 軽く握る手に、再びジュードがにっこりと微笑み。
「エアさんが好きになってくれて、よかった」
「礼に、せめて御馳走くらいさせてくれ」
「奢り? じゃあ、デザートは何にしようかな」
「何でもいいが……値段はこっそり、気にしてくれよ」
 ころころと屈託なく笑う声は、耳に心地よく響き。
 友人お勧めのデザートを聞きながらエアルドフリスはグラスの水を静かに揺らし、ポルトワールの夜景に掲げた。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【ka1856/エアルドフリス/男性/外見年齢26歳/魔術師(マギステル)】
【ka0410/ジュード・エアハート/男性/外見年齢18歳/猟撃士(イェーガー)】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 大変長らく、お待たせしてしまいました。もう季節は冬となりましたが、「アクアPCパーティノベル」が完成いたしましたので、お届けします。
 もしキャラクターの描写を含め、思っていたイメージと違うようでしたら、申し訳ありません。その際にはお手数をかけますが、遠慮なくリテイクをお願いします。
 このたびはノベルの発注、誠にありがとうございました。
 またお届けが大変遅くなってしまい、本当に申し訳ありませんでした。
(担当ライター:風華弓弦)
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2014年12月15日

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