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『雪のように 』
ジュード・エアハートka0410

 自由都市同盟に存在する港湾都市ポルトワールは都市同盟の中でも特に大きな港町だ。普段から色々な人の往来が多いこの都市だが、年の瀬が迫る今は特に人の数が多い。
 ジュード・エアハート(ka0410)はそんな街の中を、のんびりとした足取りで歩いていた。
「当たり前だけど、何にも変わってないな」
 彼の出身はポルトワールだ。
 海港都市の海商の家に生まれた彼は、現在縁のある商会に身を寄せている。そこでは商会参加で菓子店を営んでいるのだが、売れ行きとかの話はまたいずれ……。
「っと、ここだ」
 足を止めたのはポルトワールの中でも大きいと思われる屋敷の前。そう、ここがジュードの実家だ。
「父様母様、兄様、ただいま戻――っ!?」
 屋敷に踏み入れた途端に飛び出してきた黒猫に面食らう。思わず足を止めて受け止めたの束の間、黒猫はジュードの腕を擦り抜けるようにして外に飛び出してしまった。
「な、んだった、んだ?」
「ああ、ジュードか。おかえり」
「あ、父様。今猫が家から……って、何でそんなにボロボロなんだ」
 猫を追って来たのだろう。あちこちに傷を作った父が、照れ笑いと共にジュードを出迎えた。その後ろからは同じく怪我をした母と兄の姿もある。
「いや、外で寂しそうにしていたんで食事に招待しようと思ったんだが、お気に召さなかったらしくてね」
「無理矢理押さえつけるのがいけないんですよ。優しく招待すればあんなに暴れることは無かったはずです」
「いや、それは……」
 母の指摘にタジタジになる父を見て思わず笑みがこぼれる。
「そ、それよりも、折角帰って来たんだ。あがりなさい」
(話を切り替えに掛かったな……でも、玄関で立ちっぱなしって言うのもアレだな……)
「それじゃ遠慮なく。あ、兄様、お土産」
 屋敷の中に入りながら差し出したのは、ジュードが店で扱っている菓子だ。
「あら、美味しそうなお菓子ね。さっそく皆でお茶にしましょう♪」
 母はそう言うと、いそいそとキッチンに向かった。

   ***

「年末年始も家に帰ってらっしゃいね」
「待ってるぞ」
 笑顔で見送る両親、そして兄の言葉にジュードの中である人物の顔が過る。とは言え、大切な家族の言葉を無下にする訳にもいかない。
「わかった。戻ってくるようにするよ」
 そう言って笑顔を返す。
(本当は一緒に過ごしたい人がいるんだけど、仕方ないか……)
 彼ならきっとわかってくれる。そう心の中で呟いて歩き出す。
 外は今にも雪が降りそうなほどに寒い。空を見上げれば分厚い雲が、ポルトワール全体を包み込んでいるのが見えた。
「そう言えばさっきの猫どこに行ったんだろう。もし雪が降ってきたら大変――」
「おや、ジュード君じゃないか」
「!」
 聞こえた声に体が跳ね上がった。
 ドクドクと心臓が嫌な形に脈打って耳に残る。けれど今の声はそんな音さえも凌駕するほど、ジュードの耳に深く残った。
(まさか、この声……)
 振り返るのさえ躊躇われる声。けれどここは実家の前だ。もし声の主が思っている人物なら無視するわけにはいかない。
「久しぶりだね。体調はどうかな?」
 意を決して振り返った先にいたのはジュードが思った人物だった。
 母方の親戚であり、彼の主治医である男。長身のナイスミドルと言う言葉が良く似合う男はジュードの顔を見ると、穏やかな笑みを浮かべて近付いて来た。
 一歩、また一歩と近付く姿に、知らずの内に片足が下がる。
「顔色は悪くないね。でもどうかな」
 伸ばされた手に体が震えた。
『ヤダっ! 先生ヤダよ! 止めてッ!!』
「っ……」
 不意に脳裏を過った幼い頃の自分の声。
 その声に嫌な記憶が一気に蘇る。
 誰も助けてくれない室内で、先生と呼ばれる男は自分に耐えがたい苦痛を与えた。
 医者だからと、治療だからと、研究だからと、全てを優しい言葉に包んで魔術の実験を施した。
 何度も、何度も。
 それこそジュードの心が壊れるくらい、この男は実験を繰り返した。
「ジュード君は寒くなるとすぐに熱を出すから心配だよ」
 伸びた手が頬を撫で、冷たい記憶が張られた氷を割るように崩れてゆく。
(……気持ち悪い……)
 頬に触れた手は優しい。
 壊れ物を扱うように、丁寧に、じっくりと撫でてくる。けれどジュードは知っている。
 この手の動きと優しい声は、彼の本性を隠す仮面だ。
 自分がこの男から与えられた苦痛から逃げる為に被った仮面と同じ――いや、こんな男の仮面と自分が被る仮面を一緒にして欲しくない。
(俺は、俺を守るために仮面を被った。けどこの男は……っ)
 憎しみ、嫌悪、負の感情が湧き上がってくる。それを瞳に映しかけた時、男の手が頬から離れた。
「さあ、先生が温めてあげよう」
 そう言って伸ばされた手に、一気に悪寒が駆け上がった。
「止めろッ!!」
 叫びながら突き飛ばした男が目を見開いている。けれどそんなことは知ったことではない。
「ジュード君、待つんだ!」
 制止の声を聞くつもりはない。
 ジュードは狼狽える男を残し、ポルトワールの港に向かって走り出した。
(アイツ、また……また俺を……)
 伸ばされた手はジュードの背を抱こうとしていた。
 魔術の実験だけじゃない。あの男はジュードにもっと酷いことをした。
 幼い子供に性的興奮を覚える彼は、ジュードでそれを満たそうとした。結果、彼には今でもその時の苦痛が残っている。
(どんなに足掻いても、大人になっても……どうして……!)
 苛立ちと、焦り、嫌悪が体の中を占めてゆく。
「何でだよッ!!」
 思わず叫んで空を仰ぐ。
 その様子に道行く人が足を止めたが、それこそ知ったことではない。
 今はこの身を占める負の感情が憎い。
(誰か、誰かここから――……)
 そう思った時「シャラッ」と首から下げていたペンダントが揺れた。
「……これは」
 目を落とした先にあったのは半分のコインを吊るしたペンダントだ。
(絆の、証)
 心の中で呟いて手を伸ばす。と不思議なことに胸の奥で渦巻いていた感情が止まった。
 ペンダントに触れている指がじんわりと温かくなって、同じように胸の奥に炎のような温かさが灯る。
(そうだ……俺は……俺には……)
 このペンダントは大切な人との絆の証だ。
 彼はジュードのことを大切に包み込んでくれる。それこそ嫌な記憶を覆い隠してくれる雪のように。
(会いたい)
 そう思った時には再び駆け出していた。
 彼が目指すのは大切な人のいるリゼリオだ。
 そこは今の自分がいるべき場所で、帰るべき場所。
 ジュードはまるで翼を得たようにポルトワールの中を駆けてゆく。そんな彼の横を黒猫が通り過ぎた。
 黒猫はジュードの姿が街の外に消えると、何かを考えるように足を止めた。そうして空を見上げると、白い雪が大地を埋めるように降ってくるのが見えた。

―――END...


登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ka0410 / ジュード・エアハート / 男 / 18 / 人間(クリムゾンウェスト)・猟撃士 】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ファナティックブラッド
2014年12月22日

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