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『幕間の想い 』
シェリル・マイヤーズka0509

 ラジオから響いてくるジングルベルの音色。その音を耳に、幼い頃のシェリル・マイヤーズ(ka0509)は、大きな瞳を輝かせていた。
「おかーさん、すごいりょうりねー!」
 目の前に並べられた料理の数々。それを見詰める彼女の足は尻尾のようにパタパタと揺れている。
「そんなにすごくないわよ。でも……お母さん、頑張っちゃった……♪」
 ふふっ、と笑ってガッツポーズをする母は可愛らしい人だ。
 シェリルのために朝早くから準備をしていたのだから頑張っていないはずはない。そのことがわかっているのだろう。シェリルは「うんうん」と頷きながら、母と同じように両手をギュッと握った。
「おかぁーさん、すごいねぇー……がんばったねぇー……!」
 そう言いながら頬を紅潮させる。と、そこに大きな手が伸びて来た。
「お父さんも頑張ってるんだぞー! 褒めてくれ、シェリー!」
「きゃー♪」
 引き寄せるようにして抱き締めたのは父だ。
 父はシェリルの体を抱き上げると、先ほどまで自分が作業をしていたツリーに彼女を連れて行った。
「見てごらん! お父さん渾身の作品だ! シェリーのためにこんなにプレゼントを用意したんだぞ!」
「すごぉーい!」
 色とりどりに飾り付けられたツリーの下には、ツリーと同じくらい色とりどりの箱が置いてある。
 シェリルの家は裕福と言うほど裕福でもない、ごく一般的な家庭だ。
 テーブルの上に並べられたご馳走は全て彼女の母が手作りした物だし、ツリーの飾りつけも、用意されたプレゼントも、実は父のお手製が殆どだったりする。
「2人とも、おまたせ……。ケーキも用意できたわ……」
「はぁーい!」
 穏やかに微笑む母に、シェリルが元気に返事をする。そうして父と共に食卓に戻ると、テーブルに母お手製のブッシュ・ド・ノエルが置かれるところだった。
「きれぇー♪」
「さぁて、ここでシェリーに質問だ。今日は何の日かな? 聖なる夜に生まれたのは誰だ?」
 シェリルを椅子に座らせながら、父がオーバーリアクションで顔を覗き込んでくる。そのついでにと言わんばかりに頬擦りをする父に笑いながら、シェリルは言った。
「きょうは、シェリーが、うまれた日ー!」
「そう! 今日はうちの娘シェリーの生まれた日さ!」
 ぎゅうっと抱き締める腕に、歓喜の声が上がる。それに笑みを零しながら、母もシェリルに手を伸ばした。
「シェリー。お誕生日は……ありがとうの日よ」
「ありがとうの、日?」
 父の熱烈な抱擁とは違い、母の抱擁は優しく包み込むような感じだ。2人の温もりを感じながら、シェリルの頬が蕩けんばかりに赤くなる。
「ありがとー、おかぁーさん、おとぉーさん♪」
「私たちの方こそ、ありがとう。産まれてきてくれた貴女に……感謝……」
 頬に触れる優しいキスは母がくれる愛情。
 少し痛い頬擦りは父の溢れんばかりの愛情。
 どれもが毎年訪れる優しい温もりで、シェリルはこの日が特に大好きだった。
「よし、今年も盛大に祝うぞぉ! シェリー、どのプレゼントが欲しいんだい? お父さんが取ってあげよう!」
 シェリルから離れた父が、やはりオーバーリアクションでプレゼントを指差す。
 その仕草に目を向けると、シェリルの瞳がゆらゆらと揺れ始めた。どれにするかすごく迷っているのだ。
 そして迷った挙句に彼女が出した答えは――
「シェリー、いい子だから……おたんじょうびもクリスマスぷれぜんとも、いーっぱいもらうーっ」
「おお、全部だな! よぉーし!」
「え、貴方、まさか……」
 置かれたプレゼントの殆どを抱き上げた父に、母の声が上がる。
「お、おとーさん……だいじょうぶ?」
「大丈夫だとも! さあ、どうぞ――うお!?」
「ふぁ?」

 ドサドサッ☆

「「シェリーっ!!」」
 母と父の呼ぶ声が重なった。
 当のシェリルはプレゼントに埋もれて目を瞬いている状態だ。けれど次の瞬間には、彼女の目は大きく輝き出した。
「すごーい! クマさんに、カエルさんに、こっちにはリボンもー!」
 プレゼントの落下は痛かったがこんな光景は見たことがない。
 右を見ても左を見てもプレゼントばかり。しかもどれもがシェリルが欲しいと思っていた物だ。
「ふたりとも、だーぃすきー!」
 ぎゅうっと抱き締めたぬいぐるみたち。
 シェリルは与えられる幸せを噛み締めるように笑顔を零すと、父と母の頬にキスを落とした。

   ***

 楽しげな声に瞼が揺れた。
 歓喜だったり笑い声だったり叫び声だったり、なんだかとても賑やかな音がする。
 シェリルはぼんやり瞼を上げると、瞳に映る景色に息を呑んだ。
「……夢……?」
 ほんわかと胸に灯った明かりが少しずつ小さくなってゆくのを感じる。
 目に映るのはリアルブルーのコロニーじゃない。まだ見慣れない、異世界の地――クリムゾンウェストの景色だ。
(……いつのだった…かな……)
 ふぅ、っと息を吐いて頬に触れた。
 少し濡れているのは懐かしさのせいかもしれない。
 シェリルが住んでいた農業コロニーLH044がヴォイドに襲撃されたは、何度目かの誕生日の前のこと。
 楽しかった父も、優しかった母も、その時の襲撃が元で死に、シェリルはその時の記憶を抱えてこの地にいる。
(……お父さん……お母さん……)
 胸を締め付ける記憶は、あれから何度も繰り返し思い出している。
 本当は思い出さない方が楽なのだろう。けれど思い出さないでいられるほど彼女は強くない。
 シェリルは静かに唇を噛み締めると、頬を伝っていた涙を拭った。
「シェリル、何してるですか。こっちでみんなのローストチキンを食べるですよ!」
 不意に聞こえた声にハッとした。
 振り返った先にいたのはお世話になっている帝国ユニオンのリーダーだ。
「早くしないと、みんながシェリルの分も食べて――ああ! それは私のケーキなのですよ! ごぉらあ、返せ! って、戻すんじゃねえッ!」
(また…遊ばれてる……。面白い…人……)
 クスッと笑って立ち上がった。
 クリムゾンウェストにもクリスマスの風習はあるらしい。今もこうしてユニオンリーダーを弄ろうという名目で多くの人が集まっている。
「……っ……」
 一瞬、小さな痛みが胸を突いた。
(……楽しい…雰囲気……思い…出す、な……)
 夢に引き摺られているのだろうか。
 未だに痛む胸に息を吐く。
 それでもみんなに迷惑を掛ける訳にはいかなかった。
 流れ込んできてハンターになった自分を受け入れてくれた場所。そこにいる人に心配はかけたくない。
「シェリル、急ぐですよ!」
「……うん……いま…行くよ……」
 ニコッと少しだけ笑って歩き出す。
(……大丈夫……誕生日に…産まれたのは……私じゃ…ない……)
 窓の外では夜の帳が完全に下り、星が次のステージを開くために輝き始めている。
 シェリルも次のステージへ向かわなければいけない。けれどもう少しだけ。あと少しだけ立ち止まらせて欲しい。
 そう、今だけは、楽しげに笑う仲間に紛れて過ごそう。過去を、思い出さないために……。

―――END...


登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ka0509 / シェリル・マイヤーズ / 女 / 14 / 人間(リアルブルー)・疾影士 】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ファナティックブラッド
2014年12月25日

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