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『すてきなおくりもの 』
ウェスペル・ハーツka1065)&ルーキフェル・ハーツka1064


 冷たい空気は、キン、と高い音がするようだった。
「さむいですの……」
 雪道で立ち止まり、ウェスペル・ハーツは真っ赤になった鼻をごしごしとこすった。
「もうすぐだお! るーとうーと行ったら、きっとセストがびっくりするお!」
 兄のルーキフェル・ハーツが弟を励ました。
 二人は髪と眼の色以外はそっくりな双子の兄弟である。
「喜んでくれるといいですなの」
 ウェスペルはこくこくと頷く。
 二人が引くロープに繋がれたそりには、大きな袋が幾つか載っていた。

 事の始まりは、少し前のウェスペルの提案だった。
「るー、もうすぐクリスマスなの!!」
 テーブルについて、大好きなお肉のローストを頬張っていたルーキフェルは、もぐもぐと口を動かしながら目で『で?』と尋ねた。
「クリスマスはサンタさんがプレゼントを配る日なの、うーたちもサンタさんするの!」
 ルーキフェルは以前の依頼で、困っている母子と知り合った。その時に見たのがセストの父が実験的に作ったという珍しいトウモロコシだった。
 ルーキフェルは冒険の一部始終と、緑色のキラキラした粒の話を一生懸命にウェスペルに語ったのだ。
「セストにも一緒に行ってもらって、そのお母さんたちにクリスマスプレゼントを届けるなの!」
 ウェスペルがそう言うと、ルーキフェルはお肉をごくんと飲みこんで頷いた。
「うーってば、とってもいい事を思いついたのだお! さすがうーなんだお!!」
 ウェスペルはちょっと得意そうな顔になったが、すぐに顔をくっつけるように近付いて来た。
「……つぶつぶ、そんなにすごいなの?」
「すおいですお。うーにも見せてもらえるように、一緒にお願いするお!」

 二人は急いで準備に取り掛かり、(ほとんどは家人の手により)必要な物が揃えられた。
 それがそりの上の荷物である。
「ついたお! セストのお家だお!」
 ルーキフェルの指さす先に、ようやく領主の館が見えた。



 呼び鈴を押すと、顔なじみの使用人頭が出迎えてくれた。
「こんにちは。セストはいますかお?」
 二人揃ってぺこりを頭を下げ、ウェスペルが補足する。
「今日はお願いがあってきましたなの。でも忙しかったらえんりょしますなの」
「大丈夫ですよ。さあどうぞ」
 応接室で暖かいミルクをすすっていると、セストが現れた。
「ルーキフェル君、ウェスペル君、こんにちは。こんな寒い中どうかしましたか」
 セストはいつも通りの丁寧な話しぶりだ。
 少し固いようだが、若くして領主を務めるセストは、色々と気を遣うことも多いのだろう。
 が、そんなことには双子は頓着しないので、早速用件を切り出す。
「セスト、一緒にサンタさんするなの!」
「プレゼント配りに行くなの!!」
 ぴかぴか光る真っ赤なほっぺを並べて、二人が口々に説明する。

 セストは辛抱強く耳を傾けた。
「つまり、皆で領内の子供達にプレゼントを配る、ということですね」
「そうですなの! セストはこれを被るですの!!」
 ウェスペルが赤い三角帽子を差し出した。
「それで、うーたちはこれを被るなの!」
 取り出したのは、綿入りのフェルトでできたトナカイの帽子だった。立派な角もついている。
「上手に作ってありますね」
 セストが感心するので、ウェスペルは自分が褒められたように嬉しくなった。家人が頑張って作ってくれたものなのだ。

「あと、プレゼントも用意してきたお!」
 ルーキフェルが別の袋を開くと、赤や金や緑のリボンで飾られた、大量の焼き菓子が入っていた。
「こんなに沢山、良く用意できましたね」
 ウェスペルが胸をそらす。
「うーと包むの頑張ったのですお。とってもうまーですお!」
 これまた焼いてくれたのは家人だが、二人が心を籠めてリボンを掛けたのは本当だ。
「セスト、お馬さん借りていいですかお? そりに乗ったらほんもののサンタさんみたいですお!」
「ああ、荷馬車用の馬ならそりを引くぐらいなら軽々でしょう」
「かっこいいですお! お馬にも色々いるですお!」
 余り表情を変えないセストが目を細めて笑ったので、双子は顔を見合わせて微笑んだ。



 馬小屋には二頭の馬が待っていた。
「すごく強そうですなの……!」
「お顔が大きいですお……!」
 セストがくれたニンジンをあげて鼻先を撫でる。
「では行ってきます」
「どうぞお気をつけて」
「行ってきますなのー!」 
「セストはしっかり守りますお!」
 鈴を鳴らして、即席サンタの一行は雪道を行く。

 セストは馬を上手に操り、快調に雪道を進む。トナカイの癖にそりに乗っちゃってる二人は、大喜びだ。
「すっごく早いですお!」
「お馬さんすごいですなの!」
 集落の広場に入ると、大人達が赤い帽子を被った人物に気付く。
「領主様、こんな日にどうなされました!」
 セストは少し考えてから、小さく咳ばらいをした。
「今日の僕はサンタです。この二人がプレゼントを用意してくれましたので、村の子供達を集めてもらえますか」
 やがて建物の陰、植え込みの向こうから、小さな顔が覗く。
「メリークリスマスですお!」
 自分達と年の変わらない双子の姿に、おずおずと数人が近づいてきた。
「うまーなお菓子ですなの! クリスマスプレゼントですなの!」
 思わぬプレゼントに、歓声が上がる。
 子供達はお礼に、手を繋いでお祭りのときのお祝いの歌を歌ってくれた。
 ルーキフェルもウェスペルも手袋の手で力一杯拍手する。

 集落を後にして街道に出ると、セストは馬を止めた。
「誰かを探していましたか?」
 プレゼントを配る双子が、子供の顔を順に見ていたのに気づいていたらしい。
「セスト、つぶつぶのおうちにいきたいですお」
「つぶつぶ、の、おうち???」
 ルーキフェルの説明に、ようやく以前に知り合った母子のことだと分かる。
「分かりました。では行きましょう」
 セストが馬を進ませる。



 領主の館の近くに、広い農場があった。
 セストや父の実験農場であり、ウェスペルが大好物のブロッコリーで埋め尽くすという野望を持っている農地である。
「あの家ですよ」
 セストが指さしたのはこぢんまりとした家だった。煙突からは白い煙があがっている。
 突然、ルーキフェルが真剣そのものの顔になった。
「どうしました、ルーキフェル君」
 セストが尋ねると、煙突をじっと見つめて呟く。
「サンタさんは煙突から入るんですお。丸焼きになりませんかお? サンタさん、すおいお……」
 セストは笑いもせずに真面目な顔で答えた。
「サンタは夜中に来ます。夜中は煙突の火が消えていますから、丸焼きにはならないでしょう」
「よかったなの! サンタさん、命が危ないと思ったなの!!」
 ウェスペルもホッとしたようだ。

 というわけで、本物ではないサンタ達は普通に玄関の扉をノック。
「だあれ?」
 顔を出したのは件の女だった。
「おや領主様。……珍しいお姿ねぇ?」
 セストが答える前に、ウェスペルがリボンで飾られた包みをぐっと差し出した。
「メリークリスマスですなの!」
「皆で食べるといいお!」
 ルーキフェルが胸を張った。
「あら。ちょっと待っとくれよ」
 女が呼ぶと、双子と同じぐらいの歳の男の子と、二人の小さな女の子が出て来た。
「こっちの金目の子は覚えてる? 今日はプレゼントをくれるんだってさ」
「……ありがとう」
 三人は緊張した面持ちで包みを受け取り、出てきたお菓子に歓声を上げた。
「よかったねえ。よーくお礼を言いなよ」
 子供達は以前のように、やせ細ってはいない。皆が円満に暮らしているようで、ルーキフェルは嬉しくなった。
「えっと、ちょっといいですかお」
「?」
 屈んだ母親にルーキフェルが何かを耳打ちする。やがて相手は笑いだした。
「ああそんなこと? 領主様がいいってなら、大丈夫だよ」
 母親が声を掛けると男の子が走って行き、すぐに手に何かを握って戻ってくる。
「これ。やる」
 男の子はウェスペルの掌に緑色にキラキラ光る粒を乗せた。
「すおいの、きれいなの! ぴかぴかなの!!」
 ウェスペルは珍しいトウモロコシの粒に大喜びだ。
「まあ確かに綺麗なんだけどねえ……」
 母親は苦笑いを浮かべていた。



 そりが街道を戻っていく。
「冷えたでしょう。館で休んで行って下さい」
 双子を気遣うセストに、ウェスペルが目を輝かせる。
「ありがとうございますなの。ちょっとだけでいいから、帰ったらセストとるーとうーと、あとみんなでクリスマスするなの!」
 ウェスペルは教会で聞いたことのあるクリスマスの歌を歌い始めた。
「これ、セストにプレゼントだお!」
「ですなの!」
 残しておいた包みがふたつ。
「おや、なんでしょう」
 馬を止め、セストが包みを開く。ルーキフェルがくれたのは、白いアイシングの雪だるまのクッキー。チョコレートでちょっと歪んだ目鼻が描いてある。
 ウェスペルのくれたのは帽子を被った人の顔が描かれたカップケーキだ。
「これは僕ですね。ルーキフェル君もウェスペル君もどうも有難うございます」
 セストは大事そうにプレゼントを上着のポケットにしまいこんだ。
「あいにく僕はプレゼントを用意していませんでした。少し遅くなりますけど、待っていてください」
「待ってるなの!! あ、でも無理はしないでほしいなの。あとね、困っていたらいつでもうーとるーがお助けしますなの!!」
 真剣な目がセストを見上げる。
「お友達のためなら、いつでも助けしますお! だからうーとるーを呼ぶと良いですお!!」
 セストは二人のトナカイ頭をぐりぐりと撫でた。
「期待していますよ。よろしくお願いしますね」

 見渡す限り雪に抱かれた平原に、雲間から顔を覗かせた太陽の光がさす。
 明るい歌声と鈴の音は、その光と一緒にキラキラと踊っているようだった。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka1065 / ウェスペル・ハーツ / 男 / 10 / はたけをねらう】
【ka1064 / ルーキフェル・ハーツ / 男 / 10 / おとうとおもい】

同行NPC
【kz0034 / セスト・ジェオルジ / 男 / 18 / ふたりのともだち】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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素敵なエピソードにNPCをお呼び頂いて光栄です。
お楽しみいただけましたら幸いです!
この度のご依頼、誠に有難うございました。
snowCパーティノベル -
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ファナティックブラッド
2014年12月26日

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