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『戸惑いの戦闘訓練? 』
焔・楓ja7214
●戦闘訓練だって言ってましたよね?
 外で銀杏の葉が舞い散るようになり始めた頃、そんな中で日中に戦闘訓練に勤しむ一団の姿があった。一団の構成といえば小等部の者から大学部の者まで年齢は幅広く、また種族も人間のみならず天使や悪魔、あるいはそれらのハーフなど、これまた幅広いものであった。その中には小等部6年である人間の焔・楓や、中等部1年である天使の影山・狐雀らの姿も見られる。いずれの者たちも、1人で、2人で、はたまた複数人でと、様々な形態で自らの鍛錬に熱心であった――そう、最初のうちは。
 戦闘訓練の間でも、適宜休憩を挟むのはまあ普通のことだ。全員が一斉に休まなくとも、個人個人が頃合だと思ったら休憩を行ったりする訳だ。休憩中にすることといえば、汗を拭ったり着替えたり、自身や他の者の鍛錬の様子を振り返ったり、給水や栄養補給辺りが一般的な事柄であろうか。もちろんこの一団においてもその通りであって、給水なんかも小等部や中等部の者だったりすると、水や茶ではなくてジュースを飲んでいたりもする。しかし一方大学部、それも成人した大人組だけに眼を転じてみると……。
「「「「「かんぱーーーーーい!!!」」」」」
「あんたら成人してるとはいえ、訓練中に何を宴会始めちゃってるのーーーーー!?」
 ……とまあ、日中ながら成人した大人組が宴会を始めて早々に出来上がっていたりするのは、たぶん普通ではない。
 それでもそういった一部のダメ大人以外の者たちは、ちゃんと真面目に戦闘訓練を続けていたのだけれども、酔っ払いの勢いと強引さというものは恐ろしいもので。
「よし、あれやるぞ、あれ! 野球拳! 全員参加ーっ!!」
「「「「おーーーーーっ!!!」」」」
 などど言い出して、歌い踊り振り付きで何故か唐突に野球拳を始めてしまったのだ……他の者たちを巻き込んで。
 巻き込まれた方の反応としては、いくつかに分かれていた。そんな状況を楽しもうとする者たちと、逆にそんなこととんでもないと思って拒絶する者たち、はたまた別にどうでもいいと思ってる者たちや、気配を消して嵐が過ぎ去るのをひっそり待つつもりの者たち……という具合に。ちなみに楓はその中なら一番最初の部類で、野球拳が始まった途端に輪の方へ駆け寄っていて、狐雀なんかは一番最後の部類で、隅っこの方で両手で持ったジュースを静かにこくこくと飲んでいたりした。
「あや、でもこれも楽しいからよしなのだー♪」
 戦闘訓練から妙な方向に走り出してしまったが、楓はそんなことを言いながら楽しんでいる。一方狐雀の方には魔の手、もとい酔っ払いたちの手が迫っていた。
「ほらー、そんな隅っこでひっそりしていなくていいんだよ〜?」
「君も仲間だ、一戦やろうじゃないか!」
「わふっ!? 僕もですかっ、やるのですー!?」
 哀れ、狐雀は酔っ払いたちの手によって、ずるずると野球拳の輪へと引っ張られていったのである。
「この子の相手はー……よーしっ、君に決めたっ!」
 酔っ払いの1人がきょろきょろ周囲を見回した後、びしっと楓を指差した。
「あやっ!? あたしなのだっ!?」
 自分を指差しつつ、楓もまたきょろきょろ左右を見回して確認する。どうやら自分で間違いないらしい。
「うふふ……やるなら負けないのだ♪」
 一瞬戸惑ったものの、すぐさま乗り気になる楓。そんな楓や周囲の熱気にあてられた狐雀としては、断る訳にもいかなくなってしまった。
「え……えっと、あの……よろしくお願いします……」
「本気で勝負いくよー♪」
 かくして、楓と狐雀の野球拳が始まることとなった――。

●勝負の果てにある結末
 何故野球拳なのかという疑問があるが、酔っ払いたち曰く、何を出すかによって勝負の駆け引きが学べるということらしい。もっともらしく聞こえるけれども、それが本当に正しいのかは誰も知らない、分からない。
 さて、そもそも本来の野球拳には脱衣要素なんてものは一切ない。が、恐らく世に広く知られているのは脱衣要素がある方のルールであろう。当然ながらこの場での野球拳も後者の方のルールであって、負けた方が1枚ずつ脱いでいくというものである。
 けれどもさすがに限度というものがある訳で、ここでのルールとしては中に着込んだ上下体操服の状態が最終ラインで、そこで負けたら勝負ありということになっていた。
「よーし、あたしはグー出すのだ、グー!」
 時折自分の出すものをあえて口にして、狐雀の考えを翻弄しようとする楓。
「ぼっ、僕もじゃあ……グーを出そうかなって……」
 狐雀もまたそこに言葉を重ねることによって、逆に楓の思考を混乱させようと試みる。
 その結果、意外と言ってしまうと失礼だが、勝負は互いに一進一退の非常によいものになっていた。どちらも1枚脱がされたら1枚脱がし返すという状態で、差がほぼつかないまま進んでいたのだ。結果、勝負は大詰め、2人とも上下体操服の状態となり、最後の1回で全てが決まるという状況になっていた。
「孤雀おにーさんもなかなかやるのだ!」
 両手を腰に当て、楓が胸を張りながら狐雀に向けて言い放つ。
「え、ええと、すごく恥ずかしいのですけどー……」
 一方の狐雀はといえば、もじもじと身をよじりながら恥ずかしそうに少し頬を赤らめている。まあそれはそうだろう、脱ぐ一挙手一投足を四方八方から大勢の目で見られるなんて体験は、そうそうありはしないのだから、恥ずかしくなっても当然であろう。
「これで最後の勝負!」
 楓のその言葉を合図に、最後の1回が始まる。そして楓が出したのはグー。対する狐雀が出したのは――パー。
「あれ、負けちゃったのだ」
「か……勝ててよかったです……!」
 きょとんとして自分の出したグーを見つめる楓と、大きく息を吐き出して緊張から解き放たれる狐雀。この勝負、狐雀の勝利である。
「え、もう脱がなくていいのだ? でも何かすっきりしないから、最後靴下脱いで終わるのだー!」
 負けたのに脱ぐという行為もなく終わるというのが自分の中でしっくりこなかったのか、だったらということで楓が靴下を脱ごうとした。
「それじゃあ脱ぐよー……おっとっと、わきゅ!?」
 片足立ちの状態になり、もう片方の足から靴下を脱ごうとして……ぐらりと楓の身体が前に向かって倒れ始めた。うっかりバランスを崩してしまったのである。
 こういった倒れてしまう時の人の心理というものは面白いもので、咄嗟に目の前にある何かにつかまって自分の身を支えようとしてしまう。例えば柱があれば柱に、ロープがあればロープに、といった具合に。そしてこの時、楓の前には狐雀が居て、視界には狐雀の体操服のスパッツが見えていて――。
「えっ……わふ?」
 その時一瞬、狐雀には何が起きたのか分からなかった。それから数秒ほど間があって。
「わふーーーーーーーーーーっ!?」
 瞬く間に真っ赤になった狐雀は非常に慌てて身なりを直すと、ざわめく周囲の者たちをよそに、その場から脱兎のごとく駆け出していった。
「あやー……可愛かったのだー……」
 楓はそんなことをぼそりとつぶやきながら、小さくなっていく狐雀の後姿を見つめていた。

【了】

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エリュシオン
2014年12月26日

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