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『或る元旦の或る場所の話 』
安瀬地 治翠jb5992


 年明け一番の神社は中々の盛況振りだった。
 安瀬地 治翠(jb5992)は人混みの合間を縫って歩きながら、昨年購入した縁起物の数々を納めるべく進む。
 本来であれば普段面倒を見ている宗家当主である彼と共に歩む筈の砂利道だったが、敢え無く引き籠り捕獲任務失敗。理由は勿論、炬燵の吸引力。ヤツは魔物である。あったかほこほこ、人々を捕獲して放さない、冬を牛耳るモンスターなのだ。
 治翠は長蛇の列に並びお焚き上げを済ませ、続いては今年の分(勿論当主の分と自身の分の二人前だ)を購入すべく列を選んだ――所で、見知った顔に足を止めた。
 見紛うことは早々無いだろう、はっきりとグラデーションのかかった長いピンクブロンド。いつもであればダウンスタイルで背に流すそのロングヘアも、今日はサイドポニーで高めに結って弛く巻き、根元は大きな蝶のバレッタで留めている。藍を基調とした振袖を纏った姿は普段とは違った雰囲気に見えて、治翠は一瞬目を細める。その彼女のブルーの眸は辺りを興味深げに見渡し爛々と輝き、新年の醸し出す雰囲気への期待に満ち溢れているようにも窺えた。――斡旋所で度々顔を合わせている、キョウコ(jz0239)だ。
「あ、安瀬地くん!」
 声を掛けるより先に、気付いたキョウコが目を瞬かせて駆け寄って来た。着物姿でも中身はいつも通り、お転婆な所は変わらない。
「明けましておめでとう御座います、キョウコさん」
「あっけおめ! んでもってこっとよろー!」
 丁寧な治翠の挨拶とは正反対のキョウコに、彼は本当に普段通りだなと内心で笑う。そして、ふと思いついた疑問をやんわりと投げ掛ける。
「ウヅキさんはどうされたんですか?」
 以前、二人は共に初詣に出掛けると言っていた。そうであるなら、彼女がここに一人でいるのは不思議な話だ。
「んっとね、さっき依頼の件で急用が出来て一足先に帰っちゃった。私はもう用事は済ませたんだけど、なーんか帰るのも勿体無くて。まだお昼だし、ぶらぶらしてたんだよ」
 不服そうなキョウコに対しそれなら、と治翠は言った。
「お暇でしたら、お付き合い頂けませんか? 実は私も一人で」
「あれっ。もしかして、当主くんはお家の中だったり?」
「ええ、そうなんです。炬燵に負けてしまいました」
 容易に想像がつく姿を思い浮かべたキョウコがくすくすと笑うと、治翠もまたつられたように小さく笑う。それからキョウコは治翠の手をそっと取って軽く引き、人混みの中でも聴こえる程度――けれど囁くように言う。
「それじゃ、デート第二弾ってヤツだね!」
 彼女らしく冗談めかしたそれに目許を綻ばせつつ承諾への礼を言った治翠は、頷きながらふと思い出したかのように、さらりと告げた。
「振袖姿も素敵ですね。やはり華やかな服装がとても似合います」
「ふぁっ」
 正に不意打ち。恥ずかしげも、厭味もなくそう言った治翠に対しキョウコは一瞬言葉を失くし、思わずバッグを取り落とす。珍しくも恥じらう姿を微笑ましげに眺めた治翠はそれを拾ってやりつつ、照れ隠しか否か人混みをかき分けぐいぐいと手を引いていく彼女に身を任せた。



 はけることのない人混みの中。
 破魔矢、御札、それぞれ購入した後、二人は本堂へお参りに向かった。
 本日二度目になるキョウコを気遣い大丈夫かと問う治翠に彼女は豪快に笑い、「だいじょーぶ! 二重に効果が出るってもんよ!」と言う。
 その後は勿論御神籤タイム。御神籤についても二度目になる彼女だったが、それも然して気にしないようで、うきうきと御神籤の箱を振っていた。
 ――結果は、二人とも揃って吉。
 悪くは無く、けれど最上でも無い。伸びしろがあり、精進する為の努力も必要である。そういった内容の記された御神籤を確り胸に留めつつ、二人は隣接している御守りの売り場に足を運んだ。
 治翠が購入する御守りは二つ。自身の分と、当主の分。自分では無難なものしか選べない故に当主の分を選んで欲しいと言った治翠に対し、キョウコは腕捲りして頷いた。
「おっけ! あの子だね? んー……」
 冗談交じりかと思いきや、意外に真剣。一年を通して所持する物だと思えば当然か。
 キョウコが選んだ御守りは、黄味の濃い黄昏色に白銀の刺繍が施された、小さなもの。紐の部分は綺麗な朱色で、どことなく彼の人を思い起こさせるデザインだった。派手過ぎず、しかし地味過ぎることもない。
「有難う御座いま……っとと」
「ささ、次次ーっ」
 無事二つの御守りを購入し、礼を述べる治翠がみなまで言い終えるより先に、キョウコは楽しげに手を引いて足早に駆け出した。進むは露店の並びへと向かう砂利道。
 治翠は以前の買い物道中を思い出しながら、頬を綻ばせて彼女に従う。



 屋台に並ぶ品は縁起に因む物であったり、唯の縁日の定番の物であったり。
 幾つかの店を巡り終え用意されているテーブルに陣取り、一パックに山盛りに積まれたたこ焼きをつつき合いつつ、二人は新年早々依頼の話に花を咲かせていた。
 幾つもの戦地に出る学園生を憂うキョウコの懸念。
 それを拭う為、今後も頑張ろうと気を引き締める治翠の意志。
 気の利いた話が出来ずに申し訳ないと苦笑する彼に対し、キョウコは問題無いと笑って言う。
 デートと銘打っても、結局巡り巡って辿り着くのは依頼について。
 彼ららしいと言えば、らしいのだろう。
「そう言えば、最近体調を崩された様ですが大丈夫ですか?」
「ん、今はもうだいじょーぶ。ちょっーっとだけ、詰め過ぎちゃったみたい」
「私を含め心配される方は多いですし、無理のし過ぎは注意ですよ」
 治翠はあくまで押し付けにならないよう、厭味にもならないよう気を付けながら、彼女を労わるべく言った。
 彼はキョウコの根を知る数少ない人間の内ひとりだ。
 明るいと共に真面目で繊細、そして優しい――なんて、本人に言えば照れて誤魔化してしまうだろう認識。
「さんきゅ、安瀬地くん。――あ、それから」
 キョウコは若干照れたように表情を崩し、たこ焼きのパックを治翠に押し付ける。
 そうしていそいそとバッグから小さなストラップを取り出した。翠の石を基調として朱色の糸で編み込みが施された、シンプルなそれ。
「クリスマスプレゼントも凄く嬉しかった。……だから、これお返しね」
「これは……いつの間に?」
「ウヅキと一緒の時だよ。お年賀と一緒に贈ろうかとも思ったけど、丁度逢えたから」
 嫌じゃないかな? なんて上目で尋ねるキョウコは普段よりどこか大人しく、そわそわとしている。治翠の反応を探っているようだ。それを見て目許を和ませた彼は、たこ焼きをテーブルに置き両手で受け取ると同時に小さく頭を下げた。
「有難う御座います、とても嬉しいですよ。でも、先を越されてしまいましたね」
「へ? 何が?」
「露店のものですが、良い細工でしたので」
 言いながら治翠が取り出したのは、紅色の絹に包まれた大振りの簪。先程キョウコが化粧直しに席を外した際に手早く購入しておいたものだ。サイドアップの髪に合うようサイズは大き目で、ピンクブロンドに映える赤の菊花と薄桃の珠飾りがあしらわれた台座とそれから伸びる銀の鈴生り。
 振袖と髪型に丁度合うよう治翠が選んだ、華のあるそれ。
 喜びと動揺の綯い交ぜになった表情で簪と治翠を見比べたキョウコは、おずおずと口を開く。
「い、良いの? マジで? こんな可愛いのを?」
「はい。受け取って頂ければこちらとしても嬉しく思います」
「じゃあ……」
 蝶のバレッタを外してそっと手を伸ばし掛けたキョウコは、じっと簪を見詰めた。
「どうかされましたか?」
「付けて貰ってもいい?」
 手持ちの鏡が小さいから、と理由付けて視線を上げたキョウコはちらと治翠を見た。その目には悪戯っぽい光が宿っていて、どこか憎めない。
 彼は小さく笑いながら快諾すると、簪をそっと、まるで壊れ物を扱うように丁寧に彼女の髪に留めた。



 ある元旦の、ある場所で。
 二人が楽しむ束の間の休日。

 ――今年も良い年に成りますように。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb5992 /  安瀬地 治翠 / 男 / 23歳 /  アカシックレコーダー:タイプA】
【jz0239 / キョウコ / 女 / 18歳 / インフィルトレイター】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 いつもお世話になっております、相沢です!
 今回もキョウコに振り回されていただき有難う御座います。安瀬地さんの優しさ、包容力に今回も助けられたなあと感じる今日この頃。この度は綺麗なおべべまで着せてくださり感涙です。
 今後ともどうぞ宜しくお願い致します。PLさま、PCさまに素敵な2015年が訪れますよう心から祈らせていただきます!
 では、ご依頼有難う御座いました!
snowCパーティノベル -
相沢 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2014年12月29日

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