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『はじめての・2014末 』
加倉 一臣ja5823)&小野友真ja6901


 ――今後も沢山の初めてをあげるし貰うわ

 小野友真が、そう言ったのは一年前のこと。
「依頼で何度か京都には来たけど、大阪はお初だな……」
 ビルの空っ風にジャケットの襟をはためかせ、思いのほか寒くないなと感じながら加倉 一臣は呟いた。


 大阪。他に比べれば外国も同然と歌ったの何処の誰であったか。
「2014年も残りわずか、一臣さんのハジメテを攫いに来ました! さあ、張り切って行こうな!」
 今年の冬は、友真の地元・大阪でデート。
「ナビゲーション、期待してるぜぃ」
「梅田ダンジョン以外なら!!」
 ぽふり、一臣が頭を撫でてやれば、友真はそれを両手でつかんで抱きしめ返す。
 賑やかで、懐かしくて、楽しき故郷・大阪。
(ええとこ、たくさん教えたいな!!)




「すっかり、お世話になりまして……」
「いつもありがと、元気でね」
 早いうちが良いだろう、と真っ先に友真の実家へ向かい、久遠ヶ原名物の手土産を渡そうとしたら『あらあら、男前の息子が増えたじゃないの。ちょっと上がっておいきなさいよ』と友真母に誘われるがままお茶をおかわりすること三杯ほど、どうにか抜け出す機会を見つけて二人は玄関へと辿りつくことに成功した。
 パワフルだ。人見知りナシ、明るく元気で前向きに。
 小柄な女性だが、なるほど友真を圧縮するとあんな感じになるのかと納得の一臣。
(旦那さん……友真の親父さんは、病死で……今は一人暮らし、か)
 心細かろうと案じる側を跳ね除けるような。サンシャインの母は、グレートサンシャインか。
 それでも強いばかりではないことを、一臣も恋人の姿から知っている。
「お茶、美味かったです。また来ます」
「函館土産、持ってくるなー!!」
 思うところがあり深々と頭を下げる一臣に対し、友真は底抜けに明るく。
 クスクスと笑いながら、母は二人を見送った。
 本日の旅行に幸多かれと。




 地下鉄の最寄り駅から地上へと。
 強い風は――道頓堀の上を流れるでも、冬独特のものでも無く、人が生み出す熱気だった。
 人。人。人。
 関東のラッシュとも、どこか違う賑わい。それは、歩く人々の表情の違いもあるのだろうか。
「うわーー うおおお、すげー」
「グ●コスタートあるある。ベタやけど、ベタを堪能してこそのO-SAKA!」
「ベタベタ過ぎて規制食らうくらいでいんじゃね、行こうぜ行こうぜ!!」
 どんなベストショットも逃さない勢いで、一臣もスマホを片手に。
「逆や一臣さん、橋はアッチ!」
「……なん、だと」


 超有名な看板をバックに写メを撮り、動く蟹看板のお店へと。
「ほう。……蟹」
「蟹です」
 道産子・一臣が顎を撫でる。
「北海道の蟹にはかなわんけど、楽しいのがあるんや」
 すい、と道頓堀を渡る風が熱気を和らげ。巨大な蟹看板に目を奪われがちな、その下へと友真が案内する。
「屋台!?」
「やで♪ 他にも食べたいん色々あるし、お手軽でええやん? あ、二人分おねがいしますー」
 友真が注文すれば、程なくしてアツアツの蟹の足が、パックに入って手渡される。
 その身の、甘いこと!
「屋台は手軽でいいねぇ、俺の地元にも欲しいわ。……朝市以外で」
「うん……」
 遠い目をする一臣へ、友真もそっと頷く。
 朝市、美味しいけれどお財布的に優しくない。
 そういう意味では、価格競争に日々挑む大阪は対照的な都市だろう。
「蟹で道楽の後は、たこ焼きで道楽やでー!!」
「待ってました!」
 駅方面へと戻る道は別のルートで、人波に揉まれて目指すは行列のできるたこ焼き屋さん!!


「特製ソースだけでも幸せやけど……個人的には、色んなトッピングが楽しめる『おおいり』オススメな!」
「本場で食べ比べだなんて贅沢な」
 ホワホワの湯気が、食欲を掻き立てる。踊る鰹節に胸を弾ませ、頂きます♪
 カリッと焼き上げた表面、内側はアツアツとろり。弾力のあるタコを噛みしめるほどに味わいが広がってゆく。
「熱ー!! はふはふ、れも、こえが、しああせ」
「ん、ちがいない」
 焼きたて超熱に涙目になりながら、二人の表情は幸せそのもの。
「と、お手本のように美味いたこ焼きを食べました」
「美味かったねぇ……。まだ胸が熱い」
「次は実践編、行ってみよか! お好みと一緒にたこ焼きも焼ける店が、キタにあってな」
「マジか」
「焼いて焼かれて我が腕&店の味をみよ!」
「ふっ。心ゆくまでたこ焼きを堪能しようじゃないですか」




 年季の入った引き戸を開ければ、見慣れた赤毛の姿があった。
 二人は三回ほど目をこすり、
「どうしたの、寒いから閉めなよ」
「「筧さん」」
 サラリと声を掛けられたものだから、勢いよく戸を締められておやっさんに怒られた。
「この時期に、ここで会うとはねぇ。お兄さんが奢ってあげるよとは言わないけど、良ければ相席でも?」
 そういえば、活動場所は東海・関西と言っていたフリーランス撃退士の筧 鷹政である。
 ここに居ても不思議ではなかった。たぶん。

 聞けば、夜からの仕事に備えてブラリとしているのだそうだ。
「俺たちは終電で帰る予定でしたけど、大変ですねぇ」
「経費で依頼者から落ちる分は問題ない、ビバ大企業相手」
「旅行も楽しめてまうわけですか……」
「コレは自費だけどね?」
 焼きそば定食を指し、鷹政は喉を鳴らす友真へ笑った。
「たこ焼きが上手く焼けないから鉄板で丸く焼けばイイジャナイとか、理屈が違うよねぇ」
 道具が準備されていくのを眺め、鷹政がしみじみ頷く。
「店員さんが、手とり足とり指導してくれますしね! 普段は生地も作れなくたって、お店なら!!」
「なるほど、それであの時の生地は俺が作ることに……」
「愛が籠ってんなと思ったら、あれ、加倉の愛だったか……」
 いつぞやの秋の祭りを思い出し、三人は笑い合う。
「粉モン好きー。せっかくだから、お好み焼きとたこ焼きの食べ比べしてみません?」
 一臣が、悪だくみをするようにメニューを取り出す。色々とバリエーションを楽しめそうで。
「乗った。ここでのドリンクは、やはりコーラだろう。飲み物くらいは奢るよ。三人いれば、結構食べられるよな」
「待って。筧さん、さっき定食たべきってませんでしたか。待って」
 コーラ飲み放題に釣られそうになりつつ、友真が我に返る。
「粉モノは別腹だって、偉い人が言ってた」
「いや、完全にメイン腹ですし!」
 戦闘態勢に入っている卒業生へ、鋭くツッコミを入れて。
「粉モノも良いですけど、焼き肉も良いですよね。筧さん、新年も既に仕事ギッシリです?」
「え。何かあるの? 今のところは―― そうだな、派手な戦闘系は入ってないね」
 一臣が話の流れをサラリと変えていることに気づかぬまま、鷹政はスケジュール帳を取り出す。
 今のご時世、スマホがあればなんでも済むように思えるが、大事なものはアナログに留めておく癖があった。
「多少、傷を負って参加しても回復してもらえる顔ぶれなんじゃない? 期待して、予定を空けておくぜ?」
「塩をすり込まれても知りませんよ、ヤダー」
「酢で〆られないだけ、ましかなって★」
「どうして、海産物的な展開になるんです……?」




 お土産の冷凍たこ焼きも買って。
 鷹政へも別れと再会の約束を告げて。
 二人は、梅田のランドマークタワーへと向かう。
 地上40階建ての、超超高層ビル。
「空中庭園?」
「もうな、名前そのまんまでな、めっちゃくちゃ景色がええんやで! 俺、空中庭園行くまでの長いエスカレーターすげえ好き」
「へえ、良いね」
 良いね、と一臣は思う。
 のびのびと、好きなものを語る友真の表情が。
 喜怒哀楽がはっきりしていて裏表がなく、わかりやすいのが彼の魅力だと思っているけれど、やはり地元という安心感は久遠ヶ原では覗かせない、さらに奥にある物を見せてくれるようで。
(それは、俺も同じか)
 一臣だって、やはり地元だと気が緩む。
 修学旅行で戻る機会も有り、友真を連れて行ったこともあり。
 だから、今回は友真が里帰りをする番。そうは、思っていたけれど……
(思ったより)
 ずっと楽しい。嬉しい。
 活き活きとしている友真を見ているのが。
「とうちゃーく!! お手をどうぞ、王子様 ほら一臣さん、エスカレーターつっかえる!!」
「色気ねぇなあ!?」
 どたばたエスコート、それもまた楽しんで。
 最上階へ到達すれば、暮れはじめた空色に、空間が染まっていた。
「……う、わ」
「なー!! 360度、見渡せます。こっから真っ直ぐが京都でー。こっち、一臣さん、学園こっち!!」
 一臣の手を引き、友真が進む。
 大好きな人と、大好きな場所に居て、思い出の場所を探し回る歓び。
「あと少しで、今年も終わりかー……」
「濃かったねえ、2014……」 
 あれ、去年もこんな会話をしていた気がする。
 北へ南へ、西へ東へ、空中庭園からじゃ見渡せないあちらこちらに、足跡をつけて来た。

「2014年最後を飾る、俺プレゼンツ『海外旅行』どないやった?」

「コレか!!!?」
 にひ、と後ろからギュッとしてくる友真へ、一臣がヤラレタと声を出す。
「友真、お前、ホント……」
 ピンポイントで男前な?
「惚れ直した?」
「惚れ直した」
 嗚呼、本当に敵わない。


 約束は、過去から現在へ、現在から未来へ、繋がっている。結ばれている。
 二人で過ごす、三回目の冬。
 『同じ相手と過ごすのは』一臣にとっても新記録。
 沢山の初めてを、捧げつつ貰いつつ。


 それはきっと、これからも。



【はじめての・2014末 了】


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja5823/ 加倉 一臣 / 男 /27歳/ 道産子】
【ja6901/ 小野友真  / 男 /19歳/ 浪花っ子】
【jz0077/ 筧 鷹政  / 男 /27歳/ 出張中】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご依頼、ありがとうございました!
大阪デート、お届けいたします。
お楽しみいただけましたら幸いです。
snowCパーティノベル -
佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2014年12月29日

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