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『何処かの探偵から情報を得たその後の話。 』
黒・冥月2778)&エヴァ・ペルマネント(NPCA017)

 さて。

 情報を揃えた――と言っていいのか疑問だが、まぁこれで何処ぞの探偵経由でそれなりの情報を得られた事には変わりない。あの量産型霊鬼兵――『だった』男の現状。結局のところ色々はっきりしない状況にはなるのだろうが――それでも現状は現状だ。私の方で直接裏付け確認が取れるような事でも無い以上、現時点で『依頼人』の方に伝えるだけ伝えてみてもいい情報ではある。

 黒冥月としては当然の帰結としてそう思った、のだが。

 実のところ、そもそも当の『依頼人』ことあの小娘――エヴァ・ペルマネントへの連絡手段が無い。
 さすがに闇の世界に通じている私でも虚無の境界と連絡を取る…などとはこれまで考えた事が無かった。当然の成り行きとして手段も持ち合わせていない。そもそも通常ならば興味も無い組織である。
 今回に限り、虚無の構成員であるエヴァと連絡を取る必要が出来てしまっただけの事。…以後また似たような事が起きる可能性もあるかもしれないな、とはふと思う。…そうなると、業務上、虚無への伝手の一つや二つは考えておいた方がいいのかどうか。
 …いや、むしろ今回の件でその伝手の一つを作っているところとでも考えればいいか。何にしろ、いざ情報を伝えるにしても今の時点ではその為の手段がすぐに思い付かない。そもそもが「あれ」で「エヴァからの依頼」として成立したと言って良いのやら微妙に謎でもある。考えてみれば自分自身がこの依頼とも言えない依頼の為に真っ当に動いている事の方が不思議な気さえするかもしれない。
 …そんな状況なのだから、依頼人との連絡手段を考えていなかった、などと言う間抜けな話にもなってしまう訳だ。

 元を辿れば依頼と言っても殆ど御節介で生じた依頼――残りは自分の心残り、か?――だし、エヴァの方でも素直に連絡先を寄越しては来なかった。現実的な依頼遂行と言う面を考える限りはそこできちんと突付かなかった私も私、と言う事になるのだが――どうも、強がるエヴァの様子を見ていたらその気が失せてしまったのだろう。…案外愛い性格だ、と。

 まぁ、それで済ませて問題無かろうと思えたのも他ならない私自身ではある。…いや、この場合はそもそも、あれこれ考えて私の方から伝手を付けようと企む事も無いかもしれない、と判断していたのか。話の流れからして向こうの方が私の動向に網を張っていて然るべきだろう――と言うか、あの流れからすると表には出さんだろうがエヴァの方でもじりじりと待ち侘びているのでは無かろうかと思う。なら、適当に私が会いたがってるとでも情報を裏に流してやれば、すぐに向こうから何らかのアクションを起こして来るだろう。…そんな推測は多分、この依頼を持ち出した――そしてエヴァ当人の反応を見た当初から私の頭の中に出来ていた。

 なら、連絡手段はさて置き次は「場所」を考えておこうか。…待ち合わせる場所も事前に考えておいた方が良い。その方が向こうも私を捉まえ易いだろうし――…だからと言って何処がいいか。
 軽く思案してみた結果、思い付いた場所は一つ。

 ここは…そうだな、『面倒な依頼を受ける発端となった責任』を取って貰う事にしようか。



 そんな訳で私は月刊アトラス編集部に赴き、余人を交えず話が出来そうな応接室をエヴァとの待ち合わせ場所として少々強引ながら借りる事にした。のだが――その時に、裏に情報を流すまでも無く意外な方向からエヴァとの伝手があっさり付いた。
 あの『面倒な依頼』の時にもアトラスで居合わせた、見た目だけは無駄に美形なあの男が――やけに息が合って見えた例のライターと共に何故かまた居たのである。顔を合わせた時点で雑談がてら自然の成り行きでエヴァの話となり、ついでにあの時の感触からして――この男も虚無と関わりがありそうな奴だと見て取れていた為、駄目元でエヴァと連絡が取れるか振ってみたらあっさり肯定された、と言う次第。
 曰く、どうせユーはアトラスにはよく行ってるんだろうから、とか何とか当のエヴァからこっそり頼まれてもいたらしい。…今回はこの男も別にエヴァを避けている節は無い。こないだのあの依頼がエヴァにとって本当に憂さ晴らしの役に立った…と言う事なのかどうか知らんが。取り敢えず、誰彼構わず腫れもの扱いされる状態からは脱する事が出来たようではある。
 まぁ、相変わらず何故虚無と繋がっているような輩がアトラスに平然と居るのか謎ではあるが、私としてはそこはどうでもいい。今は色々手っ取り早く事が済んで都合が良かったと言うだけの事。

 実際、エヴァも意外なくらいすぐに来た。姿を見せた時点で、瞬間的にぴりっと編集部室の空気が張り詰めた気もしたが長続きはしない――と言うか、させない。こっちだとエヴァをすぐに応接室へと呼び付け、何やら獲物を狙う飢えたスカベンジャー的な性質の悪い気配になりつつあった編集部員たちの鼻っ面を遮る形で扉を閉める。…今回のエヴァなら、取材をしても大丈夫そうかもと編集部員たちの嗅覚は感知したらしい。

 つまりはそれくらい、今のエヴァには危険を感じない。



 応接室。
 渋々ながらも入って来たエヴァを先に座らせ、私も対面の椅子に座る。そしてひとまず相手を観察。…エヴァの表情を見る。何処か嫌そうに、でも何か話す事があるなら特別に聞いてやるからさっさと話せとばかりに私を見返し睨んで来る。何やら酷く不本意そうな顔をし、苛立ちも混じっている――ように見せたいのだろう感触。恐らく実際は、すぐにも本題に切り込んで目的の情報を得たいのだと思われる。が、自分から切り込む事自体に躊躇っている節もある――「待っていた」のだと私に思われたくないのだろう。そんな意地と言うか強がりが、残念ながら私には完全に透けて見えている。
 まぁ、持参したのはその期待に応えられるか甚だ疑問な情報ではあるのだが。…伝えたとしてまず納得しないと思うが、否定しても事実は変わらない。
 さて、エヴァはどう出て来るのやら。…まずは少々茶々を入れてみたくなる。

「…待ち侘びたか?」
「…。…わたしは依頼するなんて言ってない。ユーが勝手に」
「ほう。ならばこの呼び出しが依頼の件だと良くすぐにわかったな」
「ッ――それはあいつがそう言ってたから、で――」
「ここに来るのも随分と早かった」
「…ひ、暇だったのよ。こないだと同じでね!」

 面白いくらいに動揺した反応が返って来た。どう見ても事前に装った通りに取り繕い切れていない。気になってしょうがないのだと態度が言っている。微笑ましい程にわかり易い。
 …まぁ、許せ。

「そうか。最近は虚無も動いてないようだものな。暇なのも頷けるか。…でだ」
 その、「私の勝手に請け負った」依頼の件だが。
「…ええ」
「入手した情報は渡そう。但し一つだけ条件がある」
 奴に会えたら、奴が「約束」をしたもう一人にも会わせる事。守れないなら無しだ。
「…。…そんなの」
「そんなの?」
「わたしが、決める事じゃないわ」
「…そうか」
 即ち、決めるのは奴自身――エヴァの方でもそういう事だと認識、覚悟はしているらしい。ひとまず、約束をしたもう一人――『姉』と会わせるのが嫌だとは言ってこない。

 ならばまぁ、上々か。



 エヴァの反応をひとまずは良しとして、何処ぞの探偵経由で得た情報を掻い摘んで披露する。…と言っても、掻い摘むと酷く乱暴な話にもなる気がするが、正直、私も探偵同様オカルトと科学が一緒くたになったような専門的な話はまともに説明出来る気がしないので――さすがにそこは仕方無い。ついでに言うなら私の元に来た時点でもう話が探偵からの又聞きでもあるし。
 何にしろ取り敢えず、入手した情報を私のした理解に基づいてエヴァに伝える事をした。

「――…と、言う事らしい」
「…」

 黙って聞いていたエヴァの方は、話が進むに連れ、だんだん眉間の皺が寄り始めている。一通り聞き終えた頃には、なにそれ。と小さな声でひとりごちるようにしてぽつり。
 そんな顔をするな。…まぁ、心情は理解出来るが。

「…言いたい事はまぁだいたいわかる。納得出来んだろう事もな」
「…。…それって結局、何処に居るかもわからないって事よね」
「…何処に居るか以前に、居てもわからないとの事でもあるようだが」
「…それじゃあ、会うも会わないもないじゃない」

 そんな事聞いたって、どうしたらいいのか全然わかんないわよ。とエヴァ。何やら苦虫を噛み潰したような顔になっている。
 まぁ、すぐには会えない、とだけは確定したような話ではある。ついでに言うなら、状況の方が色々とあやふや過ぎる。奴の行動として、宿るべき肉体を何処かで色々必死に探しまわっているのかもしれないし、ひょっとすると、私たちに認識出来ていないだけで実はすぐ側に居て何か打開策を考えている可能性すらある。
 そうなると、この情報を知ったとして取るべき選択肢はあまり無い。
 殆ど絶句に近いエヴァの暫しの沈黙を受けてから、私は取り敢えずその選択肢を挙げてみる。
 エヴァの立場で、出来そうな事。

「奴に任せて気長に待つのも手だが…虚無なら特殊な肉体を探すのも用意するのも、手段が無くもないんじゃないか」
「――!」
 言われて初めて気が付いた。…そんなエヴァの反応。軽く目を瞠ったかと思うと、口元に手を当て、再び黙り込む。今度は絶句に近い沈黙ではなく、考え込んでいるが故の沈黙のようで。
 そして考え込んでいるエヴァのその目を見る限り、どうも釘を刺しておいた方が良い気がした。…念の為。

「言っておくが、今生きてる誰かを殺して、は止めておけ。お前が動けばIO2にバレて回り回って私たちが責任を取らされる。面倒事は御免だ。それに何より…――」

 奴が受け入れる筈が無い、とはエヴァには言うまでもないか。
 実際、私が言い掛けた時点で、少々危険な色を帯び掛けていたエヴァの目の色も戻っている。…虚無の中で使えそうな肉体を持つ輩は居ると言う事か。但し、その心当たりを使う事を考えては奴の心にそぐわないだろうとも。
 そもそも、この件で下手に動いてはIO2にバレる――だけじゃない。虚無に再び利用されると言う心配が出ても来るだろう。…そういった柵からは外れられそうな上手い逃げ道は無いか。

「まぁ、そっち方面は門外漢だが手伝える事があれば手伝おう。探偵の伝手も使えるかもな」
「…どうしてユーがそこまで」
「初めから私が勝手に引き受けた依頼なんだろうが」
「だからって…」
「正直、仕事した気がしていないんだ」

 こんな裏付けの取りようが無いあやふやな情報だけではな。そう返すと、エヴァは沈黙。何やら酷く途惑っているような気配。…私がそんな事を言い出すのはそれ程に意外だったか。

「…」
「用があれば呼ぶと良い」

 そう言って、私は応接室備え付けで置いてあるメモを一枚破き――メモが置いてある事自体は応接室に入った時点で当然気付いていた――、手持ちの携帯番号の一つを書き止める。書き止めたそれを、受け取れとばかりにエヴァの目の前に置く事をした。

「…テロリストにこんな真似していいの」
「今更だな。興味が無いと言わなかったか」

 虚無の境界にもIO2にも。…それにこの件は、テロとは直接関係が無い事だろうに。
 エヴァは少し躊躇っていたようだが、結局素直に携帯番号のメモを受け取る。そして見るともなくその並んだ数字を眺めつつ、思案げにぽつりと口を開いた。

「使えそうな特殊な肉体…ね」
「柵の有無を考えると難しいか」
「…柵、か。柵無く好き勝手やってる――って言うか『好き勝手やるのが可能な奴』って言うと限られる気がするわね」

 他から見て好き勝手やってるように見えても、それなりの柵持ってる奴が殆どだし。エヴァはそう呟くと、例えば、と続けてくる。

「あの呪物使いは好き勝手やってられる方になるわね。気が付くとここに居座ったりしてるくらいだし」
「…それは今回私がお前への連絡を頼んだあの男の事か?」

 ここに居座ってる、となると。
 …あの、無駄に美形な――妙な男。

「そう。色々底が知れない奴だから…『虚無の仕事』してない時のあいつには触れないようにしてるのが虚無の基本的な姿勢なのよね。薄々アトラスに居るみたいだとかわかってはいても、それ以上突付かない――突付けないって言った方が正しいかしら。…そうよ、あいつ本当に底が知れないのよね。能力的には本来の意味での呪物使いみたいだからただでさえ戦り難そうだって想像も出来るし…ううんそれは今は良いんだった。でも…頭も回るし、性能的にもひょっとしたら…あいつを上手く巻き込めば何とか出来るかも…?」
「…そうなのか?」

 だとしたらこの応接室の扉の向こうすぐそこに居る以上、色々と手っ取り早いかもしれないが。
 思いつつエヴァに問い返すと、エヴァは、ううん、と否定するように唸る――と言っても、私に答えたと言うより、自問自答した結果、思い直したような言い方になっている。

「…でも、あいつだとどんな反応してくるかわからないのよね。どうしたら上手く巻き込めるか…」
「取り敢えず。私が見る限りは無駄に気さくな奴である気はしたが」
「ここではね」
「虚無内部では違うと言う事か」
「そう。全然違うの。…だから怖いのよ」

 話を持ち掛けた結果、どう出て来るかが全然読めない。

「なら、力を借りたいと頼むにしても準備と覚悟が居ると言う事か」
「…それで正解かどうかも言い切れない」
「むしろ止めた方が良い可能性もある、と?」

 確かめた時点で、エヴァはまた黙り込む。

「…。…やっぱり今の話は忘れて。彼が今無事で何処かに居る事だけは確かなんでしょ。それだけで充分。すぐ会えなくたってどうせこれまでと同じだし。…これまでの何もわからなかった時よりずっとマシじゃない?」

 だから、気長に待ってる事にするわ。と言ってのけるエヴァ。但し、言葉の上でだけ――のような気配も幾分ある。…諦めて、強がって。本当は、出来る事なら自分が何とかしたい。でも難しそうだから――自分の思い付く手段では却って、彼の為にもならなくなりそうだから、我慢するべき。…そうとでも思っているような。
 事実、エヴァは私の携帯番号のメモを持ったままではある。奴の言う通り待つつもり…となればまずその携帯番号は不要な筈。ならば置いて行くだろうに、そうしない。

 言葉の上でと態度でのそんな異なる反応を見ていると、さて、どうしたものかと軽く悩ましくもなる。
 まぁ、今の時点でこちらが気を利かせてやれそうな事は限られている気もするのだが。

【何処かの探偵から情報を得たその後の話。エヴァへの情報の伝達は完了】
PCシチュエーションノベル(シングル) -
深海残月 クリエイターズルームへ
東京怪談
2014年12月29日

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