▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『モノノケナイト冬の陣 』
百目鬼 揺籠jb8361)&尼ケ辻 夏藍jb4509)&錣羽 廸jb8766)&八鳥 羽釦jb8767

 某日、久遠ヶ原島某所、静御前――そこは妖怪達が集う旅館。しんしんと冷え込む雪の夜の出来事だった。
 ぱたぱた、廊下に足音が響く。妖怪にだって脚はある。
「やあ寒い寒い」
 とある部屋の襖が開ききる前に、仕事帰りで鼻を赤くした百目鬼 揺籠(jb8361)が顔を出した。
「おや随分にぎやかですねぇ」
 襟巻きを外しながらの視線の先、暖房が効いた畳の上の大きな炬燵。そこには尼ケ辻 夏藍(jb4509)と錣羽 廸(jb8766)と、この部屋の主である八鳥 羽釦(jb8767)が集まっていた。いずれも、同年代に生まれた妖怪仲間である。
「また騒がしいのが来やがった……」
 ノートパソコンの前で眉間を揉んだ羽釦の一方、揺籠は我が物顔でコタツに入り込みながら、
「だって俺の部屋寒ぃですもん」
「うるせぇ、終わらせるから黙ってろ」
「はぼたん先生お疲れ様です」
 オンライン占い師はハンドルネームでの呼びかけに溜息を吐く。その向かい側にはだらりと寝転んだ夏藍が、座布団を枕代わりに顎を置いてスマートホンを見つめていた。
「尼サン、何してるんで?」
「ネサフだよ」
 問うて返事が来たは良いが揺籠は首を傾げた。
「……寝坐布? なんだいそれ」
「あ、百目鬼君は触らないでおくれよ? どうせわからないだろう?」
 現代機器に強い妖怪は目もくれないでそう言った。揺籠は確かに、円盤状自動お掃除ロボに餌をやる程度には現代機器に弱い。しかし、しかし、だ。喧嘩仲間でもある夏藍になんだか上から目線されたのが気に喰わなかった。
「……」
 無言のまま。炬燵の中で夏藍の脚をゲシッと蹴る。すると夏藍も揺籠の脚をガッと蹴ってきた。第一次炬燵内足蹴戦争勃発。上半身だけ見れば凄い平然としているのだが、炬燵の中がガッタンゴットンやかましい。

「ああーうるせぇ!!」

 一喝、同時に羽釦の鉄拳制裁――正しくは鉄蹴制裁が下された。炬燵の中で縺れて絡まっている揺籠の脚をベシッと蹴る。
「あいてぇ!」
 第一次炬燵内足蹴戦争収束。蹴られたのは揺籠だけだが、揺籠と羽釦は江戸時代以降たびたび同棲してた腐れ縁、今もこうして勝手に部屋に入り浸るし、こうしてベシられるのも良くある事で。
「……うん。相変わらず、仲良いよな」
 それらを眺めつつ、廸はみかんをモグモグ中。彼等が居るから、廸はこの部屋に来たようなものだ。いつもの光景、平和なものだ。
「そうそう。俺、手土産持ってきたんだ」
 と言って廸は炬燵の上に酒瓶を三つ並べた。何れも三者が好むものばかりだ。
「やった、いつもありがとう」
「あー……じゃあ俺はツマミでも作るわ」
 夏藍は遠慮なくと手を伸ばし、「仕事になりゃしねぇ」と羽釦は仕事を早仕舞いして立ち上がる。
「グラスとかは適当に出しとけ、遊んで割るんじゃねぇぞ」
 割烹着を着ながら台所に消えた羽釦の声に揺籠は「はいはーい」と返事をした。そうだならば自分も酒を持って来ようか。ちょうど部屋に良い酒があった事を揺籠は思い出しては徐に立ち上がろうとした。
 と、その時である。

 にゃあ。

 猫。
 揺籠の着物の裾から這い出してきた小さな、猫。
「!」
 廸の動きが固まった。猫がにゃーにゃー寄ってくる。けれど廸はじりじりと、寄られた分だけ後退する。
「帰りに付いてきちゃったんですよ、こう寒いと可哀想でしょ、雀サンヨロシクネ!」
 真顔で凍りついた廸に、ニヤニヤが抑え切れない揺籠は裏声で猫をけしかける。やれやれまだ猫が苦手とは、可愛い奴だ。
「大丈夫だよ。大人しいものじゃないか。取って喰われなどしないよ」
 四人分の杯を持ってきた夏藍はその様子にくすくすと笑みが抑えきれないようだ。持参したブレットと鮭とばとスルメを卓上に広げつつ、揺籠と共に楽しげに目を細めている。
 が、当の廸本人こと妖怪『夜雀』はたまったもんじゃない。蛇に睨まれた蛙の如く(正式には猫に迫られる雀だが)、じりじりと間合いを保つ。だが羽釦の部屋は無限ではない、下がり続けていればいつしか壁に背がついた。
「お! 見て御覧、壁ドンだよ壁ドン!」
「カベドン? 怪獣みたいな名前ですねぇ」
 妖怪『ミテルダケ』×2。その間にも子猫が廸に迫る。いよいよ廸の顔から血の気が引いてきた。真顔だが彼を良く知る妖怪達にはその切羽詰った心境が手に取る様に良く分かる。
 爆笑しそうな揺籠は肩を震わせながら今一度猫の背をそっと押そうと手を伸ばした。
「そら行けにゃんにゃん!」
「てめぇは何をやってんだ!」
 瞬間の出来事であった。
 台所から戻ってきた羽釦は流れるようにツマミ(スライストマトのモッツァレラチーズ乗せバジルソースを添えて)を炬燵に置くと、下から抉り込む様に揺籠へと腹パンをブチ込んだ。
「ぐバフ」というくぐもった悲鳴と共に白目を剥いた揺籠が畳に転がる。そして羽釦が猫を抱き上げたところで、ようやっと廸は長い安堵の息を吐きつつへたり込んだ。
「助けられなかったら揺籠殴る所だった……」
「結局殴られたから結果オーライじゃないかな」
 にぱっと笑う夏藍だが、ミテルダケだったので同罪っちゃ同罪だ。だが何処吹く風と、羽釦が作ってきたツマミを一口食べては「美味しいね〜」とはぐらかすのであった。
 その間にヨロヨロ立ち上がった揺籠は回復がてら自分の部屋へ酒を取りに行き、羽釦が別室の静かな暖かい場所へ猫を連れて行き、夏藍は酒を進め、そして羽釦が焼きソーセージを作って持ってきたところで揺籠がたんまりと缶ビン様々な酒を持ってきた。
「羽振りがいいねぇ百目鬼君」
「何言ってんです尼サン、割り勘に決まってまさぁ、結構高ぇんですぜ。てめぇが一番酒飲むんだから多めに出してもいいんですよ?」
「へぇ〜」
 なんて言いながら夏藍は遠慮なく一番高そうな酒瓶の蓋を開け遠慮なく一口。アッという顔をした揺籠には「だって百目鬼君の奢りだし?」としれっと応えた。
「じゃあコレは俺が貰いますからね!」
 仕返しに夏藍の目の前にある酒瓶を持てる限りひったくる揺籠。またドタバタと始まる喧嘩。それを酒代わりに、廸は羽釦作のフライドポテトをもぐもぐ食べる。酒には弱いが彼は大食らいだ。
「だぁーもううるっせぇ! うるさい奴にはツマミやらんぞ!」
 そしてドタバタする二人に羽釦が一喝し、ようやっと割烹着を脱いで炬燵へと着席する。全く、と一息吐きつつ、羽釦は向かいの廸へと酒瓶を開けつつ問うた。
「塩加減どうだ?」
「うん、丁度良い」
「舌火傷すんなよ」
「分かった。羽釦、それも良い?」
「おお、食え食え。足りなくなったらまた作るしよ。……じゃ、乾杯」

 ――こんな調子が、妖怪達のいつもの宴だ。

「炬燵いいね。私の部屋にも置こうかな」
 マイペースにのんびり飲みつつ、夏藍はぐっと伸びをする。
「いいだろ。やらんぞ」
「流石に持ってはいかないよ」
 酒を酌み交わしつつの羽釦の言葉に苦笑を一つ。そのまま夏藍はまた一杯、酒をあおった。
「……酒だけじゃなくて食えよ、夏藍」
 相変わらずツマミを黙々と食べ続ける廸がボソリと呟いた。夏藍が返事をしようとした瞬間、彼を押し退けにゅっと顔を出したのは顔を真っ赤にした千鳥足の揺籠である。
「釡サンちゃんと飲んでますかぃ〜〜ねーねーちゃんと飲んでます?」
 飲みまくって『妖怪ヘベレケ』になるのは毎度揺籠だ。そして彼は絡み酒だ。がっしと羽釦の肩に手を回す。
「耳元でうるせぇ……飲んでるっつの」
「うぇーい。雀サンも飲んでますー?」
 次に揺籠が絡み始めたのは廸。酒が並々と注がれた杯を押し付けつつ、その隣にどっかと座る。
「……」
 勢いに負けて杯を受け取ったは良いものの。廸は度数が高そうな透明な水面をじっと見つめる。その背を揺籠はバシバシ叩いてケラケラ笑う。
「まぁまぁ一杯だけなら大丈夫でさぁ〜ぐいっとぐいっと」
「……ん、まぁ、一杯ぐらいなら」
 そう思ったのが運の尽き。
 ぐいと一息に飲み干した廸は忽ち全身真っ赤になると、そのままばたりと畳の上に倒れてしまった。
「おやおや、本当に雀君はお酒に弱いね」
 仕方がないと夏藍は廸を膝枕。「はいポテトー」とフライドポテトを口元に垂らせば、廸は餌付けされた鯉の如くそれを無意識的に食む。そのまま額を撫でられていれば、酒と手を組んだ睡魔が超特急でやって来た。
(たぶん策士だ……窮地にもハハッと笑って流されそう……)
 ねんねんころりと寝かせにかかってきた夏藍を見上げ、廸は重たげに瞬きをした。
「えー俺にも膝枕〜〜〜」
 酒臭い息を吐く揺籠が夏藍の背中に頭突きをする。夏藍はそれを裏拳で払い除ける。「ぶふぇ」と転がった揺籠はそのまま羽釦の近くへ。
「ねぇひざまくらぁ〜」
「うるせぇ。……お前ら、炬燵で寝たら風邪引くぞ」
「ふえふえ〜」
 呂律の回らぬ曖昧な返事。揺籠は酒瓶を抱き締めたままいつの間にか寝息を立て始めていた。
(ああ見えてお人好しで素直な良い奴……騙されたりしないといいけれど)
 顔を横向けた廸は揺籠の幸せそうな寝顔を眺めていた。
 一方、「風邪引くぞ」と言った割に羽釦は寝ようとする者をスルーである。そんな彼もなかなか酒が回った様で、眠そうだ。
「俺寝るわ」
 酔い潰れる前にちゃんと寝る。それはいつもの羽釦スタイル。
(俺等の胃袋を掴む物理ストッパー……。面倒見がいいけどいつも厳しいな……。つよい)
 廸はそんな感想を抱きつつ、遂に目を閉ざしてしまった。

「やれ、みんな寝ちゃったか」
 夏藍はくすりと微笑んだ。さっきまでの喧騒が嘘のように静かである。
 酒を飲み干し、炬燵の中に潜り込む。うんと伸びを、一つして。

 そうして夜も更けてゆく。
 今夜も御後が宜しい様で。



『了』



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━…・・

>登場人物一覧

百目鬼 揺籠(jb8361)
尼ケ辻 夏藍(jb4509)
錣羽 廸(jb8766)
八鳥 羽釦(jb8767)
snowCパーティノベル -
ガンマ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2015年01月05日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.